■ 「多様化した家族」をとらえる困難と工夫 ― 全国家族調査の経験より
田中 慶子(慶應義塾大学)
1.「全国家族調査」の概要 また標準的・典型的な家族に限定されない、多様な家族の実態を質問紙調査でも積極的に捉えるため①離婚・ステップファミリー、②性自認、LGBT、③非典型的な家族に関する出来事の経験といった項目を新たに尋ねている。 ①については、離死別経験者の初婚時の配偶者情報や子どもの有無、自身の親や子どもの離死別経験の有無、養父母や継父母、異父母きょうだいの有無などを尋ね、回答者本人の経歴だけではなく、世代間の「連鎖」を捉えることも可能である。なお、これまでのNFRJでもこれらの情報を断片的には聴取している回もある。しかし本人の離婚歴を尋ねること自体が、住民基本台帳閲覧の際に自治体からNGが出ていた時代もあり、このように体系的に情報を確保できるのは今回が初めてである。離婚やステップファミリーの増加とともに、社会的・学術的関心が高まり、調査の意義も理解されるようになってきたと思われる。②についても、出生時に戸籍に登録された性別と、現在の性別が出生時と同じかという2つの質問で性自認を尋ねている。2つが不一致だったのは、全体で0.5%、無回答0.2%となっている。関連して人生の経験を複数回答で尋ねる質問において「同性の恋人ができた」に回答があった人は0.6%「身体的な性別と気持ちがかみ合わずに悩んだ」に回答があった人は0.3%であった(いずれも無回答3.2%)。今回の調査では該当する人は非常に少なかったが、今後の変化を調べる基点ができたと言えるだろう。③についても人生の経験を尋ねる項目で、結婚しないままの同棲、妊娠先行結婚、自分や親族の国際結婚の有無について尋ねている。また有配偶者に対して結婚時に婚姻届けをどのタイミングで提出したかも新たに尋ねた。年齢層別の結果をみると(図2)、高年や壮年では大多数が結婚とほぼ同時に婚姻届を出しているが、若年では結婚生活の開始から一定期間経過してから婚姻届を出しているという人が2割弱となっている。いわゆる事実婚という人は少数であった。同居などによる結婚生活の開始と婚姻届の提出時期の乖離は、同棲とは異なる形態であり、結婚のあり方の多様化を示す1つの例といえる。 4.新たな家族に関する「問題」を捉える項目 第4回調査では、近年の家族問題、具体的には①子育て、②介護、③家事の外部化、シングルの家事遂行、④結婚・出産への圧力、⑤家族以外の人びととの交流や満足度など、新たな調査項目を追加し、政策等への議論にも資するデータとなっている。たとえば②の介護については、過去/現在にケアラーとなった経験とその対象者、親・義親の介護についての考え(主たる介護者になる/主ではないが介護を手伝う/自分以外の家族が介護する/施設等にまかせると思う)を尋ねた。親・義親それぞれに対して、自分や家族が担うのか、施設を想定しているのかという軸で比較すると続柄別の違いがみられ、またダブルケアといわれる育児と介護が同時に、あるいは複数メンバーのケアが同時に発生しているケースなどを丁寧に追うことができる。③については、家事の外部サービスの利用や夫婦以外に家事をしてくれる人を尋ねる中に、ヘルパーや家事代行業者という選択肢を用意した。図3には、家事の外部サービスの利用状況の結果を示している。これをみると、衣類のクリーニングや平日の夕食をつくらない(外食・出前・市版の弁当・即席食品などですませる)ことは、よくあると時々あると合わせると、3~4割ほどになるが、清掃サービスの利用については非常に低率であった。ヘルパーや家事代行業者の利用者も、全体で2%弱であった。これらも今後の動向が注目される。 ④については若い頃に親や親族、あるいは親族以外(仕事関係の人や友人)から早く結婚するよう、子どもを持つように促されていると感じたことがあったかを尋ねた。図4には年齢層別の結果を示している。これをみると周囲の人からの結婚のプレッシャーを感じた経験があるのは、若年層や壮年層の方が多い。これは若年では未婚者が多いことなどが関連すると思われるが、子どもをもつことにおいては、年齢層が高いほど、周囲からのプレッシャーを感じたという人は少ない。未婚化・晩婚化が進み、若い世代ほど結婚や子どもを持つことへの圧力は弱まっていると思われるが、経験を尋ねると反対の結果であった。 ここでは単純集計を示すにとどまるが、このような社会的・政策的関心に対しても新たなアプローチから分析、研究成果が望まれる。 5.おわりに 第4回全国家族調査を素材として、多様な家族を質問紙調査でとらえることの困難と工夫について紹介してきた。ここでは新たな取り組みや変更点を主に見てきたが、NFRJの中心は、横断反復調査であり、この間、連続して尋ねてきた項目についても、時系列比較を通して日本の家族の変化を実証的に示すことも、大きな課題であることを強調しておきたい。質問紙調査も質的調査も、多くの研究者・大学院生が関与しており、今後さらに分析・研究を深め、成果として公表していく予定である。 ――――――――――― 【備考】 NFRJのHP:https://nfrj.org/ 【参考文献】 ○稲葉昭英,2011「NFRJ98/03/08から見た日本の家族の現状と変化」『家族社会学研究』23-1, 43-52. ○稲葉昭英・保田時男・田渕六郎・田中重人編,2016『日本の家族 1999-2009 ― 全国家族調査[NFRJ]による計量社会学』東京大学出版会. 【付記】 全国家族調査はJSPS科研費JP17H01006の助成を受けています。NFRJ18は日本家族社会学会NFRJ18研究会(研究代表:田渕六郎)が企画・実施した調査で、本稿ではver.2.0データを利用しています。 |