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■「中央調査報(No.760)」より

 ■ 「多様化した家族」をとらえる困難と工夫 ― 全国家族調査の経験より


田中 慶子(慶應義塾大学)


1.「全国家族調査」の概要
 「全国家族調査」(National Family Research of Japan: NFRJと略記)は、日本家族社会学会全国家族調査委員会が実施している、確率標本による全国規模の家族調査である。本プロジェクトは、1999年に第1回調査(NFRJ98)を実施し、それ以降、2004年(NFRJ03)、2009年(NFRJ08)と3回の調査を行ってきた。そして2019年1月に中央調査社に委託して第4回調査(NFRJ18)を実施した。本プロジェクトの主たる目的は、研究者が利用可能な無作為抽出に基づく全国確率標本データを定期的に構築すること、そうしたデータを多くの研究者の公共利用に供することの2点にある。NFRJは配偶者・子ども・父母・義父母・きょうだいという属性ごとに家族成員との関係を詳細に尋ねるダイアド集積型(稲葉ほか2016)の設計を特徴としており、家事や子育て、親子やきょうだい間の援助、家族観など、同一の質問で尋ね、日本の家族生活のあり方や家族に対する意識などについて時系列の変化を捕捉することも可能な調査である。

2.「家族」調査の困難
 これまでの3回、そして第4回調査までの間で、「家族」をいわゆる量的調査によって捉えること(NFRJでは訪問留め置き法による質問紙調査)はより困難を伴うようになってきている。すでに論じられているようにサンプリングの際に住民基本台帳の閲覧が実質的に不可となる自治体や、世帯類型を特定できない形式での開示によって「家族」のすがたを事前に把握することが難しくなっている自治体もあり、全国や無作為抽出という設定に一定の留保が必要となっている。NFRJでは28~77(72)歳までの男女を対象としているが、回収率に注目しても、第1回は66.5%、第2回63.0%、第3回55.4%と漸減傾向であったが、第4回調査では標本5,500に対し、回収数は3,044と55.4%となった。現時点での有効回答数は3,033で有効回収率55.1%となっている。
 単純な回収率では第3回と同水準にみえるが、第4回では昨今の厳しい調査環境をふまえて少しでも回収数を増やせるよう、第3回調査時から①謝礼の半額の前渡しの導入(以前は、完了時に一括渡し)、②会えない対象に対する郵送調査への切り替えという、2つの変更を行ったうえでの結果である。一般的に謝礼の前渡しは、回収率を向上させる効果があり、また郵送調査によるコンタクトによって調査員が接触できなかった対象からの回答を得られる。これらの上乗せがあって、ようやく第3回調査と同水準に到達している。①の謝礼前渡しの直接的な効果は測定できないが、当初の期待よりも効果は限定的であったと思われる。また②の郵送での返送は回収全体の3%分であった。従来ならば回収できなかった分であり、非常に大切な3%となった。このような回収率の低下傾向は、回答者の偏りの発生、すなわち在宅率が高い世帯や、(調査の内容から)家族生活が順調な人だけの回答者が多くなっていることに注意を必要とする。これまでのNFRJ98-08が明らかにしてきたことの1つは、初婚継続家族の「変わらなさ」(たとえば性別役割分業の維持など)であった(稲葉2011)。これは回答者が初婚継続家族に、その中でも順調な家族生活を送る者の回答が多い結果であることを単に反映している可能性とともに、非初婚継続家族、すなわち、ステップファミリーや、未婚単身者など、近年増加している非標準的とされる家族にある対象者を調査が十分に捕捉できていない可能性を意味する。1990年代以降、「家族の多様化」が進んでいると言われている中で、家族研究にとって多様な家族の実態をデータとして記録していくことは重要な課題であり、そのためにも、NFRJのような総合的な家族調査においては、まずは回収率を高める工夫が一層求められる。

3.多様化した家族を捉える工夫
 第4回調査では、従来の時系列で比較可能な調査項目を維持するだけでなく、家族の多様化という実態の変化に対応すべく、調査設計や調査内容についても新たな試みをいくつか行っている。新たな試みの1つは、質問紙調査からインタビュー調査への橋渡しを前提としたことである。これまでのNFRJでは、回顧調査やパネル調査などの手法を取り入れてきた。従来の量的調査では捉えきれなかった非初婚継続家族といわれる離死別や再婚経験者などの多様な家族を生きる人びとの家族生活や、初婚継続家族においても1時点の質問紙調査だけで把握しきれない生活史のようなアプローチ、ライフコース全体を視野に入れることや、家族に対する主観的な意味づけなどへの関心は高まっており、これまでは個別の研究者がテーマごとにインタビュー等を行っていることが多かった。第4回調査では質的調査を実施する研究者から成る研究班が形成され、量的調査の回答者から継続して協力いただける方にインタビュー調査や参与観察を実施する計画を立てた。そのため、調査票作成段階から、インタビュー調査の対象者の選定に必要な項目を盛り込むとともに、質問紙の最後で追加調査のお願いと協力の意向を尋ねた。図1に示すように、男女とも全体で約4割が前向きに追加調査を検討すると回答くださり、いくつかの過程を経て、2020年度末時点で約100件のインタビュー調査を実施している(質的調査の詳細については、NFRJのwebサイトなどを参照されたい)。

図1 男女別 追加調査の協力意向

 また標準的・典型的な家族に限定されない、多様な家族の実態を質問紙調査でも積極的に捉えるため①離婚・ステップファミリー、②性自認、LGBT、③非典型的な家族に関する出来事の経験といった項目を新たに尋ねている。
 ①については、離死別経験者の初婚時の配偶者情報や子どもの有無、自身の親や子どもの離死別経験の有無、養父母や継父母、異父母きょうだいの有無などを尋ね、回答者本人の経歴だけではなく、世代間の「連鎖」を捉えることも可能である。なお、これまでのNFRJでもこれらの情報を断片的には聴取している回もある。しかし本人の離婚歴を尋ねること自体が、住民基本台帳閲覧の際に自治体からNGが出ていた時代もあり、このように体系的に情報を確保できるのは今回が初めてである。離婚やステップファミリーの増加とともに、社会的・学術的関心が高まり、調査の意義も理解されるようになってきたと思われる。②についても、出生時に戸籍に登録された性別と、現在の性別が出生時と同じかという2つの質問で性自認を尋ねている。2つが不一致だったのは、全体で0.5%、無回答0.2%となっている。関連して人生の経験を複数回答で尋ねる質問において「同性の恋人ができた」に回答があった人は0.6%「身体的な性別と気持ちがかみ合わずに悩んだ」に回答があった人は0.3%であった(いずれも無回答3.2%)。今回の調査では該当する人は非常に少なかったが、今後の変化を調べる基点ができたと言えるだろう。③についても人生の経験を尋ねる項目で、結婚しないままの同棲、妊娠先行結婚、自分や親族の国際結婚の有無について尋ねている。また有配偶者に対して結婚時に婚姻届けをどのタイミングで提出したかも新たに尋ねた。年齢層別の結果をみると(図2)、高年や壮年では大多数が結婚とほぼ同時に婚姻届を出しているが、若年では結婚生活の開始から一定期間経過してから婚姻届を出しているという人が2割弱となっている。いわゆる事実婚という人は少数であった。同居などによる結婚生活の開始と婚姻届の提出時期の乖離は、同棲とは異なる形態であり、結婚のあり方の多様化を示す1つの例といえる。
図2 婚姻届を提出した時期


4.新たな家族に関する「問題」を捉える項目
 第4回調査では、近年の家族問題、具体的には①子育て、②介護、③家事の外部化、シングルの家事遂行、④結婚・出産への圧力、⑤家族以外の人びととの交流や満足度など、新たな調査項目を追加し、政策等への議論にも資するデータとなっている。たとえば②の介護については、過去/現在にケアラーとなった経験とその対象者、親・義親の介護についての考え(主たる介護者になる/主ではないが介護を手伝う/自分以外の家族が介護する/施設等にまかせると思う)を尋ねた。親・義親それぞれに対して、自分や家族が担うのか、施設を想定しているのかという軸で比較すると続柄別の違いがみられ、またダブルケアといわれる育児と介護が同時に、あるいは複数メンバーのケアが同時に発生しているケースなどを丁寧に追うことができる。③については、家事の外部サービスの利用や夫婦以外に家事をしてくれる人を尋ねる中に、ヘルパーや家事代行業者という選択肢を用意した。図3には、家事の外部サービスの利用状況の結果を示している。これをみると、衣類のクリーニングや平日の夕食をつくらない(外食・出前・市版の弁当・即席食品などですませる)ことは、よくあると時々あると合わせると、3~4割ほどになるが、清掃サービスの利用については非常に低率であった。ヘルパーや家事代行業者の利用者も、全体で2%弱であった。これらも今後の動向が注目される。
図3 家事の外部サービスの利用状況

 ④については若い頃に親や親族、あるいは親族以外(仕事関係の人や友人)から早く結婚するよう、子どもを持つように促されていると感じたことがあったかを尋ねた。図4には年齢層別の結果を示している。これをみると周囲の人からの結婚のプレッシャーを感じた経験があるのは、若年層や壮年層の方が多い。これは若年では未婚者が多いことなどが関連すると思われるが、子どもをもつことにおいては、年齢層が高いほど、周囲からのプレッシャーを感じたという人は少ない。未婚化・晩婚化が進み、若い世代ほど結婚や子どもを持つことへの圧力は弱まっていると思われるが、経験を尋ねると反対の結果であった。
 ここでは単純集計を示すにとどまるが、このような社会的・政策的関心に対しても新たなアプローチから分析、研究成果が望まれる。
図4 結婚や子どもを促された経験(「強く感じた」+「ある程度感じた」の合計)


5.おわりに
 第4回全国家族調査を素材として、多様な家族を質問紙調査でとらえることの困難と工夫について紹介してきた。ここでは新たな取り組みや変更点を主に見てきたが、NFRJの中心は、横断反復調査であり、この間、連続して尋ねてきた項目についても、時系列比較を通して日本の家族の変化を実証的に示すことも、大きな課題であることを強調しておきたい。質問紙調査も質的調査も、多くの研究者・大学院生が関与しており、今後さらに分析・研究を深め、成果として公表していく予定である。

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【備考】
NFRJのHP:https://nfrj.org/

【参考文献】
○稲葉昭英,2011「NFRJ98/03/08から見た日本の家族の現状と変化」『家族社会学研究』23-1, 43-52.
○稲葉昭英・保田時男・田渕六郎・田中重人編,2016『日本の家族 1999-2009 ― 全国家族調査[NFRJ]による計量社会学』東京大学出版会.

【付記】
全国家族調査はJSPS科研費JP17H01006の助成を受けています。NFRJ18は日本家族社会学会NFRJ18研究会(研究代表:田渕六郎)が企画・実施した調査で、本稿ではver.2.0データを利用しています。