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■「中央調査報(No.763)」より

 ■ 第7回「諸外国における対日メディア世論調査」結果の概要


 公益財団法人新聞通信調査会(理事長 西沢豊)は、2020年12月~ 2021年1月、アメリカ、フランス、中国、韓国、タイの5カ国を対象に「第7回諸外国における対日メディア世論調査」を実施しました。調査はアメリカ、フランス、韓国は電話法、中国、タイは面接法で行い、各国とも約1,000人から回答を得ました。回答者の性別・年代別構成は各国の人口構成に近い比率に割り当てられています。「対日メディア世論調査」は、昨年までは、2015年から年1回この5カ国に加えイギリスでも行っていましたが、今回は新型コロナウイルス感染拡大の影響でイギリスでの調査ができませんでした。コロナウイルスの世界的な蔓延が続く中でも5カ国では調査を実施し、データを収集できたという意味で非常に貴重なものになったと考えています。
 設問は各国共通の全18問で、調査を実施したすべての国で漏れなく回答を得ることができました。具体的な質問項目は大きく分けて、①各国新聞の信頼度評価、ニュース視聴の利用媒体、②報道の自由、③訪日意向および訪日経験、日本に関する報道、④日本および調査各国間の好感度と信頼度、⑤東京五輪・パラリンピックの開催、新型コロナウイルス感染症対策、⑥アメリカ大統領選後の世界と社会の分断―の全6分野です。いずれの質問もあらかじめ設定した選択肢から選んでもらいました。また、当調査で設定した質問のうちの幾つかは、当調査会が毎年日本全国で実施している「メディアに関する全国世論調査」でも聞いています。該当質問では直近調査(2020年11月実施)の結果を図表内に表記しているので適宜参照してください。ただし、「諸外国における対日メディア世論調査」と数値を比較する際には、調査手法や全体的な質問構成が異なることに留意する必要があります。調査結果の概要は以下の通りです。

1.各国新聞の信頼度評価、ニュース視聴の利用媒体
―新聞の情報信頼度、中、米、仏、韓で上昇

 まず各国の新聞情報信頼度の結果から見てみよう。新聞の情報を全面的に信頼している場合は100点、全く信頼していない場合は0点、普通の場合は50点として点数を付けてもらった。ただしアメリカは、現地調査機関の提言に従い0~ 10点で質問したので、集計時に回答数値を10倍した。この質問は第1回調査から続けて聞いており、結果の平均値の経年比較を示したのが図表1である。中国が71.8点で前回より4.9点の上昇、タイが61.4点で7.1点の低下、アメリカが57.9点で2.6点の上昇、フランスが56.9点で0.9点の上昇、韓国が56.0点で4.5点の上昇となっている。当質問は前述の国内で11月に実施した「メディアに関する全国世論調査」でも聞いており、その結果は69.2点となっている。中国と韓国での信頼度の上昇がやや目立つ。(第1回調査時の中国は現在と異なる調査機関で実施し、先方の判断により質問ができなかった。)

図表1 新聞の情報信頼度

 最近は「ニュース」に接触するための媒体として、インターネットの台頭が著しく、もはや従来型メディアの新聞・テレビ・ラジオをしのいでいると言っても過言ではない状況であろう。以下、SNSの利用実態なども含め、ニュースとの接触状況や意識を紹介する。まず、ニュース視聴の利用媒体では、アメリカ、フランス、韓国、タイはテレビが1位、中国はインターネットのニュースサイトがそれぞれ1位となっている。2位にはアメリカ、韓国はインターネットのニュースサイト、フランスは新聞、中国はテレビ、タイはSNS (facebook、twitterなど)が続いている。また、中国ではSNSが新聞を上回り3位となっている。
 新聞を紙面で読むか、電子版・オンラインで読むかについては2年前の調査から尋ねている。新聞を読む人のうち、5カ国とも「電子版・オンラインのみ」が「紙面のみ」や「両方」よりも多くなっている。特に中国とタイは50%を超えている。前回と比べると、「電子版・オンラインのみ」はタイの22.3ポイント増をはじめ、5カ国とも増加している(図表2)。ネットニュースやSNSを見るのに使用する機器は、前回と同様、5カ国とも「スマートフォン・携帯電話」が1位、「パソコン」が2位、「タブレット」が3位となっている。
図表2 新聞を紙、電子版のどちらで読むか

 次に、インターネットのニュースを見る時に、ニュースの出所を気にするか尋ねたところ、5カ国すべてで「気にする」(「いつも気にする」と「まあ気にする」の合計)が60%以上となり、「気にしない」(「全く気にしない」と「あまり気にしない」の合計)を大きく上回っている。「気にする」と答えた人は、タイが88.4%で最も多く、アメリカ、フランスでも80%台となっている。中国は76.7%、韓国は68.0%。そのうち、「いつも気にする」のはフランスが60.7%で最も高く、次いでアメリカが40.6%となっている。前回調査と比較すると、「気にする」の割合は韓国を除く4カ国で増加している。昨年11月に新聞通信調査会が実施した「メディアに関する全国世論調査」では、「気にする」と答えた人が42.4%、そのうち「いつも気にする」のは11.1%となっている(図表3)
図表3 ネットニュースの出所を気にするか


2.報道の自由
―「報道の自由は保障されるべき」は各国80%以上が支持

 「報道の自由」に関する調査各国の意識はどのようになっているだろうか。このテーマは第2回から継続的に取り上げているが、日本においても「メディアに関する全国世論調査」で同じ質問をしている。まず「報道の自由は常に保障されるべきだ」については、「そう思う」(「そう思う」と「どちらかと言えばそう思う」の合計)がフランスで最も多く92.8%、他の4カ国で80%台となっている。日本も79.4%で、「報道の自由は保障されるべき」に対しては各国共通して強い賛意が示されている。「国益を損なうという理由で政府がメディアに圧力をかけるのは当然だと思うか」については、タイと中国で70%台、アメリカと韓国で50%を超えるが、フランスで43.0%にとどまっている。日本では31.6%と他の国々と比べかなり少なくなっているが、過去の調査でも同様の結果であった。「報道の自由が侵害されていることがあると思うか」については、「そう思う」がタイで最も多く74.5%、アメリカ、中国で60%台となっているが、韓国とフランスで50%を下回っている。「報道によって、プライバシーが侵害されていると思うか」については、「そう思う」がアメリカ、フランス、タイで70%台、中国と韓国は50%台となっている(図表4)
図表4 報道の自由について(「そう思う」の回答比率)

3.訪日意向および訪日経験、日本に関する報道
―訪日意向にもコロナの影響か

 日本のメディアの認知状況に関しても過去6回と同様に聞いている。ここでは「NHK(ワールドTV、ラジオジャパンなど)、共同通信社、時事通信社、日本の新聞(朝日、毎日、読売、日経、産経など)」の中から知っているものをすべて挙げてもらったところ、日本のメディアの認知度は韓国が突出して高く、中国がそれに次いでいる。知っているメディアは、5カ国とも「NHK」が最も高く、「日本の新聞」がアメリカ、中国、韓国で、「共同通信」がフランス、タイでそれぞれ第2位となっている。アメリカ、フランス、タイでは「知らない」人が70%以上で、アメリカでは81.0%となっている。
 日本についての知識や情報の入手先(複数回答)は、中国以外の4カ国で「自国のテレビ、新聞、雑誌」が1位、「インターネット」が2位で、中国は両者が逆転している。この結果も前回と同様である。3位には5カ国とも「自分の家族や親戚、知人」が挙げられている。
 日本のことが報道されると関心を持って見聞きするか否かについては、関心層(「とても関心がある」と「やや関心がある」の合計)はタイで77.3%、韓国で71.0%となっている。以下、フランス67.6%、中国59.1%、アメリカ51.2%。アメリカは前回から7.0ポイント低下している(図表5)
図表5 日本のことが報道されると関心を持つか

 では、日本についてどのようなことを報道してもらいたいと思っているのか、メディアに期待する内容を複数回答で挙げてもらった。「科学技術」が上位である点は共通しているが、それ以外の項目は国によって差異が出ている。1位はタイを除く4カ国で「科学技術」が、タイでは「観光情報」が挙げられている。この点は第2回調査以降変わらない。2位には、アメリカは「国際協力や平和維持活動」、フランスは「歴史と文化」、中国と韓国は「政治、経済、外交政策」、タイは「科学技術」が続いている。前回調査と比較すると「観光情報」はアメリカで4→5位、フランスで5→6位と、ともに順位を1つ下げている。また、2年連続で2位だった中国でも今回は3位に順位を下げている。いずれもコロナ禍による移動制限の影響で順位を下げたと推察される。そのほか、目立った動きとしては、中国で「政治、経済、外交政策」が第5回調査から7→5→2位と上昇していることが挙げられる(図表6)
図表6 メディアに期待する報道内容-「報道してほしい」の回答比率

 東京五輪・パラリンピックへの海外客の受け入れについて、様々な角度から議論されてきたが、最終的に受け入れを断念することが決まった。新型コロナ感染症の収束が見えない現在、日本へ行ってみたいと思っている人はどれだけいるだろうか。
 訪日意向については第5回調査から尋ねているが、今回は、中国が前回より19.4ポイント減の40.3%、アメリカが6.5ポイント減の51.8%、タイが5.4ポイント減の77.8%となっている。この3カ国は2年連続で減少している。一方、韓国が前回より16.8ポイント増の51.0%、フランスが2.6ポイント増の60.2%となっている(図表7)
図表7 訪日意向

 訪日経験がある人は韓国で58.5%と5カ国で最も高い。中国、アメリカ(順に12.7 %、11.0%)は10%強、タイ、フランスは6%前後となっている。前回調査からの時系列変化を見ると、韓国とタイが低下し、他の3カ国は横ばいとなっている。

4.日本および調査各国間の好感度と信頼度
―中国への好感度は4カ国すべてで低下

 当調査では、日本および調査各国間の好感度と信頼度についても質問している。
 まず日本に対する好感度(「とても好感が持てる」と「やや好感が持てる」の合計)については、タイで最も高く89.6%、以下、アメリカで79.6%、フランスで77.8%となっている。前回と比べると、フランスは2.9ポイント上昇し、アメリカは3.2ポイント、タイは6.1ポイント低下している。中国、韓国は39.7%、31.3%と低いが、ともに前回より(中国6.2ポイント、韓国8.6ポイント)上昇している。日本を除いた5カ国間の相互好感度について見ると、中国はアメリカ、フランス、タイの3カ国とは相互に好感度が低下している。また、中国はイギリスに対しても27.3ポイントと大幅に低下している。タイは対象5カ国すべてに対して低下している。一方、韓国に対してフランスと中国、タイに対してフランスでは好感度が上昇している(図表8)
図表8 各国間の好感度-「好感が持てる」の回答比率

 次に日本に対する信頼度(「とても信頼できる」と「やや信頼できる」の合計)は、タイで最も高く86.7%、次いで、フランスで79.1%、アメリカで77.3%となっている。昨年度からの変化では、タイが8.9ポイント低下している。中国は38.8%、韓国は19.7%と低いが、時系列変化を見ると、前回6.7ポイント低下した中国は今回13.1ポイントの上昇となっている。前回5.1ポイント低下した韓国は6.7ポイントの上昇となっている(図表9)。日本を除いた5カ国間の相互信頼度について見ると、中国はアメリカ、フランス、タイの3カ国とは相互に10ポイント以上の低下となっている。また、中国はイギリスに対しても24.7ポイントと大幅に低下している。タイは対象5カ国すべてに対して低下している。一方、アメリカに対して韓国、韓国に対してフランスでは信頼度が上昇している。
図表9 日本の信頼度-「信頼できる」の回答比率


5 .東京五輪・パラリンピックの開催、新型コロナウイルス感染症対策
―東京五輪・パラ、海外でも「中止・延期すべき」が7割超

 東京五輪・パラリンピックは、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大により、延期され、今年の7~8月に開催される予定である。新型コロナウイルス感染症が世界的に収束していない中での東京五輪・パラリンピック開催について尋ねたところ、「中止すべきだ」と「さらに延期すべきだ」の合計はタイ(95.6%)、韓国(94. 7%)、中国(82. 1%)、アメリカ(74. 4%)、フランス(70.6%)でいずれも7割を超えている。昨年11月に当調査会が実施した「メディアに関する全国世論調査」で、日本でも同じ質問をしたが、「中止・延期」が71. 9%だった(図表10)。新型コロナウイルス感染拡大に対する危機感が、東京五輪・パラリンピック開催への消極的な姿勢に表れているようだ。
図表10 東京五輪・パラリンピック開催の是非

 さらに、自国政府の新型コロナウイルス感染症対策を評価する際、感染症対策と経済対策のどちらを重視したか尋ねたところ、「感染症対策」(「感染症対策」と「どちらかと言えば感染症対策」の合計)が中国で85.6%と最も多く、次いで韓国が57.7%、アメリカが57.1%、タイは41.3%となっている。フランスは「感染症対策」と「経済対策」(「経済対策」と「どちらかと言えば経済対策」の合計)がともに20%台にとどまり、「どちらとも言えない」が43.3%と多くなっている(図表11)
図表11 感染症対策と経済対策のどちらを重視したか

 自国政府の新型コロナウイルス感染症に対する評価を尋ねるため、新型コロナウイルス感染症に対する自国政府の対応を、大変評価している場合は100点、全く評価していない場合は0点、どちらとも言えない場合を50点として点数をつけてもらった。結果の平均点で比較すると、中国が88.8点と最も高く、次いで韓国が65.0点、タイが63.4点、アメリカが56.3点、フランスが49.4点となっている。昨年11月に当調査会が実施した「メディアに関する全国世論調査」では、日本政府に対する評価は53.6点だった。

6 .アメリカ大統領選後の世界と社会の分断
―米、韓、仏は「社会の分断を感じる」が7割超

 2020年は4年に一度のアメリカ大統領選挙が実施される年だった。選挙後もトランプ前大統領は選挙に不正があったとして、長い間、敗北を認めなかった。さらにアメリカ連邦議会議事堂への襲撃事件が起こるなど、アメリカ社会の分断が浮かび上がっている。
 アメリカ大統領選後の世界はどうなっていくと思うか尋ねたところ、「よくなる」と答えた人が韓国で47.6%と最も多く、次いでフランスが43.5%となっている。タイ、アメリカ、中国は30%台となっている。タイと中国では「変わらない」が50%を超えている。アメリカは「悪くなる」が他の国より多く26.5%となっている。
 自国で社会の分断を感じるか尋ねたところ、「感じる」(「感じる」と「どちらかと言えば感じる」の合計)がアメリカで最も多く77.3%となっている。次いで、韓国で73.1%、フランスで70.4%と、いずれも7割を超えている。一方、タイでは66.6%、中国では44.3%となっている。調査各国で、国内の事情を背景に、多かれ少なかれ社会の分断を抱えていることがうかがえる(図表12)
図表12 社会の分断を感じるか



図表13 調査の概要