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■「中央調査報(No.768)」より

 ■ 「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)2020」と
「2020ウェブ特別調査」からわかるコロナ禍の生活・意識と離家(前編)



石田 浩(東京大学社会科学研究所)
石田 賢示(東京大学社会科学研究所)
大久保 将貴(東京大学社会科学研究所)
俣野 美咲(東京大学社会科学研究所)


要約
 東京大学社会科学研究所が実施する「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」と2020年に新たに実施したウェブ特別調査を用いて、(1)コロナ禍における不安および健康と生活意識、(2)コロナ禍における社会的孤立リスクの格差、(3)新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスク認知、(4)離家経験の世代間格差、の4点について分析した。
 第1のテーマでは、緊急事態宣言下の不安に着目し、どのような人に不安傾向が高いのかを分析すると、女性の方が男性より不安を感じやすく、年齢が高くなると不安は高くなる傾向にあった。高学歴層と単身者は、不安スコアが低い傾向があり、専門・管理職の場合には、ブルーカラー職と比較して不安スコアが平均的に低い。パネル調査であることの特性を活かして、健康と生活意識についてコロナ禍以前と以後の変化を分析すると、コロナ禍で健康と生活に関わる状況が大きく損なわれた人の比率が増えたと結論することはできなかった。
 第2のテーマでは、社会的孤立(他者との接触、交流機会がない状態)の経験がコロナ禍の前後でどのように変化したのかを分析した。直接会ったり、電話やビデオ通話で話をしたりする人間関係については、コロナ禍で孤立を経験する人の割合が高まった。一方、メールやテキストメッセージでやり取りする人間関係からの孤立には変化がみられなかった。また、コロナ禍で対面や通話のネットワークからの孤立をより経験しやすくなったのは、コロナ禍以前には相対的に孤立リスクの低かった人びとであり、リスクがもともと高い人びとは一貫して孤立経験割合が高いままであった。
 第3のテーマは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のリスク認知である。多くの人(約87%)が実効再生産数(COVID-19に対するリスク認知)を実際よりも高く見積もる傾向がある。実効再生産数の過大な認知は様々な属性に規定されている。具体的には、男性は女性に比べて、大卒者は非大卒者に比べて過大認知をしない傾向、年齢が高い人は低い人に比べて過大認知をしない傾向、販売・サービス職と生産現場等の職業は専門・管理・技術職に比べて実効再生産数を過大に認知する傾向がある。こうした実効再生産数を過大に見積もる人は、そうでない人に比べて、換気をしたり、外食を控える傾向がある。
 第4のテーマでは、継続サンプル・追加サンプルとリフレッシュサンプルの間で、離家経験に世代差がみられるかを分析した。出生コーホート別に離家イベントの発生率を比較すると、リフレッシュサンプルの世代(1986~1998年出生)では、女性において25歳以降での離家の発生率が低いことが示された。また、離家のきっかけを出生コーホート別に比較すると、リフレッシュサンプルの世代では、男女ともに結婚をきっかけとした離家が減少する傾向がみられた。未婚化・晩婚化などの社会状況の変化にともない、若者がいつどのように離家を経験するかにも変化が生じていることが示された。1
【注:当稿は10月号前編、11月号後編として2カ月に分けて紹介する】

1本稿は、東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクト・ディスカッションペーパーシリーズNo.128「コロナ禍にみる人々の生活と意識:「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査2020ウェブ特別調査」の結果から」(2021年2月)に加筆・修正したものである。本稿は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤研究(S)(18103003,22223005)、特別推進研究(25000001,18H05204)の助成を受けて行った研究成果の一部である。東京大学社会科学研究所パネル調査の実施にあたっては社会科学研究所研究資金、(株)アウトソーシングからの奨学寄付金を受けた。調査は一般社団法人中央調査社に委託して実施した。パネル調査データの使用にあたっては社会科学研究所パネル調査運営委員会の許可を受けた。

1.はじめに
 東京大学社会科学研究所では、2007年に若年者(20-34歳)と壮年者(35-40歳)を対象として総合的な社会調査である「働き方とライフスタイルの変化に関するパネル調査」(Japanese Life Course Panel Surveys: JLPS)を実施し、その後毎年対象者を追跡(若年・壮年継続サンプル)している。2011年には同年齢の対象者のサンプルを補充(若年・壮年追加サンプル)し、さらに2019年には調査対象者よりも若い20-31歳の若年者を新たに抽出(若年リフレッシュサンプル)し、毎年追跡している。
 2020年1月から3月に、「継続サンプル」の第14回、「追加サンプル」は第10回の調査、「リフレッシュサンプル」については第2回調査を実施した。「継続サンプル」Wave 14では、「若年調査」は1,728、「壮年調査」は873のケースを回収し、追跡することができているアタック数に対する回数率は、それぞれ82.4%と88.4%である。「追加サンプル」Wave 10については、425(若年)、176(壮年)のケースを回収し、回収率はそれぞれ68.0%と73.0%である。「リフレッシュサンプル」Wave 2では、1,706ケースを回収した(回収率83.3%)。継続サンプルとリフレッシュサンプルについては、郵送配布・訪問回収の方法を用い、追加サンプルは郵送配布・郵送回収の方法を用いているので、回収率に若干の差がでている。
 これらのJLPSの対象者に対して、2020年8月下旬より11月上旬にかけてウェブによる特別調査を実施した。対象者は調査協力依頼に関する書類を受け取ったあと、指定のウェブサイトにアクセスし、各人に固有に割り当てられたトークン(パスワード)を入力して回答画面にログインし、回答をおこなった。調査画面は、ウェブ調査プラットフォームのLime Surveyを用いて作成した。調査の経過については、9月上旬に督促、その後10月中旬に調査協力への再依頼、加えて10月下旬に再度の督促を行った。ウェブ調査の入力期間は、8月29日から11月9日までであった。
 ウェブ特別調査の回収率は対象者全体で63.9%(3740名)であった。サンプル種別ごとの内訳を示すと、若年、壮年継続サンプルでそれぞれ66.7%、62.2%であった。2011年より開始した補充調査については、若年、壮年追加サンプルでそれぞれ57.8%、59.4%であった。また、2019年より新たに加わった若年リフレッシュサンプルの回収率は64.2%であった。
 ウェブ特別調査の調査内容は、従来の調査で尋ねている事項に加え、コロナ禍、とりわけ第1回緊急事態宣言時とその後の生活経験に関する事項も含んでいる。新型コロナウイルス感染症に焦点を当てた社会調査はすでに散見されるものの、コロナ前の情報を活用できる調査データはまだ多くない。JLPSは、コロナ前の仕事や日常生活に関する状況が、コロナ禍の経験にどのような影響を与えたのかを検証するうえでも有力であるといえよう。

(石田 浩・石田 賢示)


2.コロナ禍における不安と生活・意識の変化
(1)コロナ禍における不安

 2020年ウェブ特別調査の目的のひとつは、新型コロナウイルス感染症の拡大が人々にどのような影響を及ぼしているのかを検証することである。特に第1回の緊急事態宣言(2020年4月7日から5月25日)が発せられた時期の人々の生活がどのようなものであったのかについてきちんと把握しておく必要がある。特別調査では、「新型コロナウイルス感染症に関連して、以下の生活面で不安に感じることはありましたか」という質問を行い、11項目に関して「緊急事態宣言下(4月~ 5月)」と「現在」(調査回答時点なので、ほとんどの対象者が回答した2020年9月から10月)の2つの時期について「不安があった」か「不安はなかった」の2択で選択してもらった。
 「緊急事態宣言下(4月~ 5月)」の時期についての回答を見てみると、8割以上の人が「旅行・イベントへの参加」「感染の収束」「不況の長期化・深刻化」「予防物資の不足」「政府の対応」「正しい情報の欠如」について不安を抱いていたことがわかる。「8割以上」というのは、極めて高い数値であり、当時の人々の不安の大きさを物語っている。さらにほぼ半数の回答者は、「通院・入院」「子どもの学習への影響」「収入減への生活支援」「精神的安定」の項目について「不安があった」ことがわかる。「家のなかに居場所がないこと」については、ほどんどの回答者が不安と思っていなかった。
 それでは第1回緊急事態宣言が解除された後には、不安は改善したのであろうか。調査時点である2020年秋の時期でも、「不況の長期化・深刻化」「旅行・イベントへの参加」「感染の収束」「政府の対応」に関しては8割前後という大勢の人が不安を抱いていたことがわかる。「感染予防物資の不足」については、マスクやアルコール消毒液の入手が大きく改善され、大きな不安の要素とはなくなっていた。しかし、「通院・入院」「収入減に伴う生活支援」「子どもの学習への影響」については依然として半数弱の回答者が不安要素として挙げている。つまり2020年秋の段階でも、人々の生活面での不安要素はそれなりに高いレベルにあったことがこの結果から推察される。
 次に項目別ではなく、すべての項目を足し挙げて不安スコアを測定した。「休校による子どもの学習への影響」の項目は、回答者に子どもがいるか否で質問の意味が異なってくることから、この項目を除く残りの10項目について「不安があった」回答の合計を算出した。不安スコアは、ゼロ(不安がまったくない)から10(すべての項目で不安)の値をとる。不安スコアの分布を示したのが、図1(2020年春緊急事態宣言下の時期) と図2(2020年秋の時期)である。

図1 不安スコアの分布(2020年春緊急事態宣言下の時期)

図2 不安スコアの分布(2020年秋の時期)

 2020年春の緊急事態宣言下の時期における不安スコアの分布(図1)は、右に偏っており、8,9,10といった高いスコアを示す回答者が、47%と半分近くになる。ほとんどすべての項目について不安があった回答者が半数近くに上ったことになる。これに対して2020年秋の時点では、不安スコアの分布はより均一化し、8,9,10の高いスコアの回答者の割合は4分の1である。スコア0から3までの回答者も4分の1弱を占める。
 この不安スコアを用いて、どのような人が、不安スコアが高い傾向にあるのかを分析した。分析は、緊急事態宣言下の不安スコアを用いた。不安スコアを従属変数とする重回帰分析の結果を図3に示す。それぞれの独立変数の効果(係数を丸で表示)と95%の信頼区間(丸の左右のバー)を表示した。信頼区間がゼロを含む場合には、その独立変数の効果は統計的に有意ではなく、含まない場合には有意であることを表す。パネル調査であることの利点を活かして、個人属性(性別・年齢・学歴)とともに2020年1月から3月時点で回答者の置かれている状況(配偶関係、世帯構成、居住地)と雇用情報(初職、現職)を独立変数として導入している。
図3 不安スコアに関連する要因の分析

 結果をみていこう。男性の方が女性よりも不安スコアは低い傾向にある。女性の方が一般的に不安を感じやすいようである。年齢が高くなると不安は高くなる傾向にある。大学・大学院学歴の場合には、中学・高校学歴よりも不安スコアが低く、不安を感じにくい傾向がある。高学歴の方が情報収集のスキルが高く、在宅勤務など感染リスクを減らす働き方をしやすいので、不安を感じにくいのかもしれない。単身者は複数人の世帯と比較して、不安スコアが低い傾向がある。単身の場合には、家庭にウイルスを持ち込み、同居家族を感染させてしまうという不安は少ないかもしれない。専門・管理職の場合には、ブルーカラー職と比較して不安スコアが低い傾向にある。専門・管理職従事者は、通勤を回避しオンラインで働くなど、よりフレキシブルな働き方が可能である職種であることが関連しているのかもしれない。年代、配偶関係、都市規模、従業上の地位の違いは、不安の程度とは関連が見られなかった。
 最後に不安項目のなかで「収入の減少に伴う生活への支援」について取り上げ、どのような人が収入減による生活への支援に関して不安に感じているのかを分析した。分析は、緊急事態宣言下の不安状態を用いた。「収入の減少に伴う生活への支援」について不安がありか否かを従属変数とするロジスティックス回帰分析の結果を図4に示す。独立変数は上記の分析と同様である。収入減に伴う経済面に関する不安の場合には、不安全般とは異なり、男性の方が女性よりも不安を感じやすい傾向にある。学歴に関しては、高学歴層で経済不安は低いことがわかる。中学・高校学歴の低学歴層は、大学・大学院の高学歴層に比べて、1.7倍(1/e-0.544)経済不安を感じやすい。さらに雇用状況が経済不安と関連していることがわかる。現職(2020年1月から3月の時点)が「非正規(パート・派遣・請負)」「自営・家族従業者」である場合には、「経営者・正規社員」である場合に比べ、経済不安を感じやすい。現職が専門・管理職の場合にはブルーカラー職の場合と比較して、経済不安を感じにくい。特に「自営・家族従業者」は「経営者・正規社員」と比べ2.6倍(e0.939)経済不安を感じやすく、この差は顕著である。緊急事態宣言下の時短営業などの影響が直接的に現れているのかもしれない。低学歴層や非正規労働者を含め社会経済的に不利な状況にある人の方が、経済不安度が明らかに高いことがこの結果から読み取れる。
図4 「収入の減少に伴う生活への支援」に関する不安に関連する要因の分析


(2)コロナ禍における健康と生活意識の変化
 2020年ウェブ特別調査の対象者は、JLPS2007年からの継続サンプル、2011年からの追加サンプル、そして2019年からの若年リフレッシュサンプルの3種のサンプルの対象者である。いずれのサンプルについても2019年1月から3月の調査(継続調査のWave 13、追加調査のWave 9、リフレッシュサンプルのWave 1)と2020年1月から3月の調査(継続調査のWave 14、追加調査のWave 10、リフレッシュサンプルのWave 2)の回答を参照することができる。つまり特別調査の回答とそれ以前の調査の回答の比較が可能となり、同一の調査項目については、時点間の変化の軌跡を明らかにすることができる。
 そこでこのJLPSの特性を活かして、健康に関連する調査項目と生活意識に関する調査項目について時点間の変化を分析する。表1は、主観的な健康状態についての質問(「あなたは、自分の健康状態についてどのようにお感じですか」)の回答(5件法)の結果を、2020年1月から3月と2020年秋の2つの調査時点間でクロス集計(実数と行%)したものである。主対角線上の回答が、健康状態に変化のない回答者(全体の54%)、主対角線よりも上の回答は、健康状態が悪くなった回答者(17%)、主対角線よりも下の回答は、健康状態が良くなった回答者(29%)を表す。ほぼ半数の回答者は、自分の健康状態に変化がなかったが、健康状態が良くなった回答者が3割弱、逆に悪くなった回答者が2割弱いたことがわかる。
図5 健康関連項目と生活関連項目の2時点間の変化(2020年1月から3月の時点と2020年秋の時点)

 同様な形で2020年1月から3月と2020年秋の2つの調査時点間のクロス集計を下記の6つの健康関連項目と5つの生活関連項目について作成し、変化のない回答者、悪くなった回答者、良くなった回答者の割合を図として表示したのが、図5である。JLPSでは精神的健康についての5つの質問(図を参照)と健康上の理由で家事や仕事などの活動が制限されたこと(活動制限)について質問している。それぞれの質問は、「いつもあった」「ほとんどいつもあった」「ときどきあった」「まれにあった」「まったくなかった」の5段階の選択肢を用意した。生活関連項目では、「次のことについて、現在あなたはどのくらい満足していますか」の質問のうち「仕事」と「生活全般」の回答を取り上げた。回答は「満足している」「どちらかといえば満足している」「どちらともいえない」「どちらかといえば不満である」「不満である」の5件法選択肢を用意した。生活の将来展望については、「あなたは、将来の自分の仕事や生活に希望がありますか」の質問についての回答(「大いに希望がある」「希望がある」「どちらともいえない」「あまり希望がない」「まったく希望がない」)を示した。暮らし向きについては、現在の暮らし向き(「豊か」「やや豊か」「ふつう」「やや貧しい」「貧しい」の5件法選択肢)と10年後の暮らし向き(「良くなる」「少し良くなる」「変わらない」「少し悪くなる」「悪くなる」の5件法選択肢)を取り上げた。これらの質問について、回答が変わらないのかそれとも良い方向に回答が変化したのか、悪い方向に変化したのかという全体的な傾向を掴むために分析した。
図6 健康関連項目と生活関連項目の2 時点間の変化(2019年1月から3月の時点と2020年1月から3月の時点)

 図5の結果を検討すると、どの項目についても最も大きなグループは「変化なし」である。2020年1月から3月の時点から2020年秋の時点までの半年ほどの間のことなので、変化しない人がほぼ半数かそれ以上であるのも不思議ではない。悪い方向で変化したのが良い方向で変化したのに比べ明らかに大きい項目は、「楽しい気分であった」「生活満足度」「将来の仕事や生活に希望」の3つである。それ以外の9項目は良い方向の比率の方が大きいか悪いと良いがほぼ同じ比率である。新型コロナウイルス感染症がこの間に大きく拡大していったことを受けて、健康や生活に関わる人々の置かれた状況が悪化したのではないか、という予想もあった。しかし結果をみると、必ずしも健康・生活の領域のすべてで悪化の方向に向いているというわけではなさそうである。
 この新型コロナウイルス感染症拡大の時期のインパクトがあったのかを確かめるために、2019年1月から3月の時点と2020年1月から3月の時点の間の変化についても同じように変化パターンの図を作成した。これはコロナ禍が到来する前の1年間の変化を表す。図6の結果をみると、変化パターンは驚くほど類似している。どの項目でも最も大きなグループは「変化なし」である。悪い方向で変化したのが良い方向で変化したのに比べ明らかに大きい項目は、「楽しい気分であった」と「10年後の暮らし向き」の2つである。
図6 学校経由率の推移(出生コーホート別)

 図7は、図5図6の「悪くなった比率」のみを取り出して、2つの時点間変化を比較したものである。薄い色の棒が「2019年初旬から2020年初旬」にかけての変化、濃い色の棒が「2020年初旬から2020年秋」のコロナ禍を経た時期の変化である。新型コロナウイルスの感染症が拡大する以前には、「10年後の暮らし向き」「仕事満足度」「健康により家事や仕事などが制限されたこと」の項目で、「悪くなった比率」が相対的に高い。コロナ禍を経験した後には、「生活満足度」と「かなり神経質であったこと」の項目が相対的に高い。しかし、全体的な傾向から言うとコロナ禍で健康と生活に関わる状況が大きく損なわれたと結論することはできない。少なくともこれらの調査項目に関しては言えば、変化は限られている。新型コロナウイルスの感染症が拡大する以前から、健康と生活に関連して悪い方向に変化している人々が2割程度存在していたことがわかる。コロナ禍を経た2020年秋頃にも、ほぼ同様の比率の人々が悪化を経験している。但し注意しなければならないのは、特別調査が実施されたのは、第1回の緊急事態宣言を経て、状況がある程度落ち着き小康状態であった2020年9月から10月にかけての時期であったことである。もしかすると緊急事態宣言下では、健康状態と生活環境が悪化した状況にあった人がより多く存在した可能性は否定できない。残念ながら本調査からはこの点については明らかにすることはできない。
図7 健康関連項目と生活関連項目で「悪くなった比率」の時点間比較

(石田 浩)


3.コロナ禍における社会的孤立
(1)社会的孤立がなぜ問題なのか

 社会的孤立とは、他者とのあいだに一切、あるいはほとんど社会的なつながりのない状態を指す(Wilson 1987)。社会的なつながりにはさまざまなものがある。個人的な友人関係、家族・親族といった血縁、近隣などとの地縁、仕事上の人間関係が典型例である。これらの多種多様な社会的なつながり全体のことを社会ネットワークと呼んでいるが、それが欠如した状態のことを社会的孤立と考えてよい。
 社会的孤立は、特に高齢者にとって問題であると考えられている。社会的なつながりがないということは他者との交流がないことにつながる。このことが、外出の少なさによる日常的な運動不足や、話し相手がいないことによるストレスなどを通じ、心身の健康悪化を引き起こす可能性があると考えられている(Fiori et al. 2008)。
 しかし、これらの問題が若年・壮年者に無関係とはいえない。若年・壮年者は、冒頭で述べたようなさまざまな社会的なつながりにもとづく役割を担っている。ライフステージを問わず、われわれは様々な人びととのあいだでの役割分担(分業)、協力にもとづき日々の社会生活を営んでいる。このことを、自分自身を中心に据えて言い換えると、つながっている人(他者)からの様々な助けがあることで、自分ひとりではこなしきれない多くのことに対応できているともいえる。孤立は他者から自分に向けての援助や情報の流れが途絶えている状態であると考えられ、つながりがあればそれを頼りにできたようなことを自分で対処しなければならない。ある程度は自分自身で解決できるかもしれないが、一定の限度を超えると対応が困難になり、心身へも大きなストレスが生じる。高齢者のなかで孤立の問題が顕在化しやすいのは身体的、認知的負担による「限度」が若年・壮年者よりも早く生じやすいからである。「限度」がある以上、より若いライフステージの人びとにとっても孤立は無視できない問題だと考えられるのである。
 また、われわれは社会的なつながりのなかで役割を担い、そのことを通じて周囲の人びとから認められ、受け入れられる。孤立状態は、役認識される機会も失っていることを示唆している。日常生活における個人の比重が大きくなる(個人化する)につれ、孤立は単につながりがないという状態だけにとどまらず、他者から選ばれないことを象徴している(石田 2018)。社会的なつながりが種々の支援や承認の源としてみなされるようになった社会状況下で、孤立は不安を引き起こす重要な要因として考えられるようになっている。

(2)新型コロナウイルス感染症と社会的孤立
 社会的孤立のリスクは、2020年3月11日にWHOが世界的な流行を宣言した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)によって深刻化している可能性がある。この感染症が人びとの身体的接触により広がることから、世界中の都市でロックダウンがおこなわれ、人びとの社会的、経済的活動が大きく制限されることとなった。日本でも2020年4月7日に埼玉県、千葉県、東京都神奈川県、大阪府、兵庫県および福岡県を対象として1度目の緊急事態宣言が発令され、4月16日には全国に広がった。また、感染の再拡大により2021年1月7日には2度目の緊急事態宣言が発出された。
 海外のロックダウンとは異なり強制的な行動制限は日本ではおこなわれていない。しかし、外出自粛が強く呼びかけられ、全国的に多くの人々が要請を積極的に受け入れた。その結果、人びとが対面でコミュニケーションをとることが激減し、社会的孤立のリスクが広く生じている可能性がある。COVID-19と社会的孤立の関係について、イギリスの研究では社会的な交流の減少が報告されている(Williams et al. 2020)。また、アメリカでおこなわれた定量的な研究では、年齢層を問わず社会的孤立の認識が高まっているということが指摘されている(Teater et al. 2021)。日本ででも、1度目の緊急事態宣言が最初に発令された7都府県に住むオンラインモニターを対象とするオンライン調査を通じて、社会的孤立の背景と社会的心理的側面への影響について分析がなされている(Sugaya et al. 2021)。
 これらの研究は、COVID -19に関して様々な情報が行き交い、社会的な混乱も生じているなかでおこなわれたもので、非常時のスナップショットとして非常に興味深い知見を提供している。一方、上記の研究を含めほとんどの調査研究はCOVID-19が生じてから実施されたものである。このことには、社会的孤立の問題がCOVID-19の影響によるものなのか、それともCOVID-19以前の状況によるものなのかを区別しづらいという問題がある。もともと社会的孤立状態にある、あるいはそのリスクが高い人びとがいるという状況を踏まえれば、COVID-19以前の孤立問題を反映しているに過ぎない可能性がある。このような懸念を含めて社会的孤立について検証を試みるためには、コロナ前後の状況を把握できるパネル調査データの分析が望ましい。ここでは、社会ネットワークサイズのコロナ禍前後での推移を分析し、孤立リスクの変化についてどのような格差が存在するのかを検証する。

(3)JLPSでの社会ネットワークサイズの把握の仕方
 JLPSでは、社会ネットワークサイズに関する質問を2009年にはじめて尋ねた。その質問では、毎日平均して「直接会ってあいさつや会話をする人」(対面)、「電話・携帯により会話をする人」(通話)、「携帯・パソコン等によりメールをする人」(テキスト)の3種類の人数を尋ねている。
 その後、2018年に再度同じ質問を設けたが、この間のスマートフォンやインスタント・メッセージアプリの普及などを踏まえ、テキストメッセージのネットワークサイズの文言は「携帯・パソコン等によりメール(LINE等を含む)をする人」に変更している。また、今回のWEB特別調査では、通話のネットワークサイズの文言を「電話・携帯(ビデオ通話を含む)により会話をする人」に変更した。これは、コロナ禍においてZoomなどのビデオ通話アプリケーションが急速に普及したことによる。
 以上の文言変更は、メール・メッセージあるいは通話のネットワークの範囲を広げる内容であるため、測定される人数は変更前よりも多くなるはずであることをあらかじめ断っておく(逆に言えば、質問設計上は通話、あるいはメール・メッセージのネットワークに関する孤立が生じにくくなっているはずである)。以下では、特にコロナ禍に相当するWEB特別調査(2020年9-10月)とそれ以前(2009年、2019年、2020年1-3月)の違いに焦点をあてて、コロナ禍の前後で社会的孤立のリスクが日本の若年・壮年者のなかでどのように推移したのかを検証する。
 本研究では、この3種のネットワークサイズ(接触人数)に関して、0人と回答した場合に孤立であるとみなしている。すなわち、対面、通話、テキストのネットワークそれぞれについて、0人である場合に「対面孤立」「通話孤立」「テキスト孤立」と名付けて以降の分析と議論を進める。また、いずれかのネットワークに関して0人である場合を「いずれか孤立」として分析をおこなった2

(4)社会的孤立指標の推移
 それでは、上述の通り定義した4種の孤立について、各調査年での割合をみてゆこう。図8は孤立割合の推移を示したものである。なお、追加サンプルは2011年(Wave 5)、リフレッシュサンプルは2019年(Wave 13)から調査が始まっているため、この折れ線グラフはあくまで各年の孤立割合を意味していることに留意されたい。図8集計結果は、継続サンプル、追加サンプル、リフレッシュサンプルのそれぞれについて、初回調査(2007年、2011年、2019年)の基本属性の分布と一致するように補正を施したものである。

図8 各種のネットワークサイズが0人(孤立)であった者の割合の推移

 ネットワークサイズについてはじめて尋ねた2009年(W3)では、対面孤立は1.6%、通話孤立は15.4%、テキスト孤立は17.9%、「いずれか孤立」は25.7%という結果であった。対面で誰とも接触しないという状況が稀であることがわかる。通話やテキストメッセージをやり取りする相手がいないという状況は対面の場合よりも生じやすいが、それでも多くの人にあてはまるわけではない。これら3種の孤立のうち、いずれかにあてはまるのは約4分の1となっている。
 その後、孤立の状況はどのように推移してゆくだろうか。2020年1-3月(Wave 14)までにかけて、対面孤立の割合は概ね平坦に推移している。一方、通話孤立の割合は増加、テキスト孤立の割合は減少傾向にあることが折れ線グラフから読み取れる。両者の反対の傾向は、2000年代以降のスマートフォンとSNSの普及を反映したものと思われる。通話が相手の時間を拘束する一方、テキストメッセージのやり取りは時間帯を問わず可能である。利便性の違いにより通話からテキストへとコミュニケーションの仕方が移ったことが理由の一つと考えられる。「いずれか孤立」の割合がゆるやかな上昇傾向にあるのは、最もパーセンテージの大きな通話孤立の推移を反映していることが主要な理由である。
 それでは、コロナ禍の前後で孤立状態はどのように変化したのだろうか。図8なかで注目すべきはWave 14とWEB特別調査のあいだの変化である。WEB特別調査が実施された2020年9月から10月は緊急事態宣言の発令下にはなかったが、引き続き外出自粛が推奨されていた期間ではある。外出自粛の影響が生じているとすれば、孤立割合はWave 14から上昇していると予想できる。
 対面孤立 の割合は2.9%となっており、Wave 14からは1%ポイントの上昇である。この差は、孤立割合の水準を考慮すると無視できない。Wave 14とWEB特別調査のあいだでの1%ポイントの差は有意水準5%で統計的に有意である。孤立割合の比をとると、Wave 14からWEB特別調査にかけて孤立割合は1.5倍に増加している。対面での接触機会が失われたことが、JLPSのデータからも確認できたといえる。
 割合の差という点で最も顕著なのは通話孤立についてである。Wave 14からWEB特別調査にかけて、通話孤立の割合は26.8%から32.9%という6ポイントの上昇がみられる。この差は有意水準5%で統計的に有意である。また、割合の比をとると1.2倍になっている。WEB特別調査では質問の文言にビデオ通話を加えており、オンライン通話のサービスが人びとの接触機会を維持していたのであれば、孤立割合の変化はより小さかったはずであろう。しかし、集計結果はそのような想定に反したものとなっている。通話孤立の割合の上昇理由についてはさらなる検討が必要だが、外出の機会が持ちづらい生活状況が背景として考えられるのかもしれない。電話やビデオ通話は何らかの用件があって生じることが多いはずである。誰かと話す、話題を共有するような用件がなければ、通話の道具があったとしてもコミュニケーションは生じようがない。この点は、生活行動の変化との関わりで検証を進めることができるだろう。
 メール・テキストメッセージのやり取りをする相手に関しては、Wave 14からWEB特別調査にかけて孤立割合が減少しているが、統計的には有意な差ではなく誤差の範疇だといえる。「いずれか孤立」の割合は5.4%ポイント上昇しているが、これは主に通話孤立の割合の変化によるものといえる。
 以上の結果は、対面、あるいは通話といった、他者と一定の時間を共有しながらコミュニケーションをとるようなネットワークに関して、コロナ禍で孤立を経験する者が増加した可能性を示唆している。それでは、コロナ禍での孤立の増加は人びとのあいだで共通に生じた現象なのだろうか。それとも、孤立を経験しやすくなった人とそうではない人がいるのだろうか。以下では社会的孤立の経験に関する異質性を検証するが、それに先立ちどのような人びとが孤立を経験しやすいのかを確認しておこう。

(5)孤立リスクの背景
 ここでは、Wave 3からWave 14までのデータを用いて、どのような人が孤立を経験しやすいのかを検討する。WEB特別調査データを含めなかったのは、人びとのより定常的な孤立リスクの要因を検討したいためである。特別調査データを含めることで、コロナ禍という特殊な状況の影響が少なからず反映される。後述の分析では元々孤立しやすかった人とそうでない人のあいだで孤立経験のしやすさの推移を比較する。この、「元々孤立しやすいか」という側面について、コロナ禍の影響が混ざってしまうことを避けるため、特別調査データは分析に含めなかった。
 分析では、性別、出生年、働き方、学歴、調査時の居住都市規模、配偶状態、単身世帯か否か、仕事以外でのインターネットの利用頻度、健康状態、メンタルヘルスの悪さ、および調査Waveの情報を用いて、対面、通話、テキスト、「いずれか」の4種について孤立しているか否かを説明するランダム効果ロジスティック回帰分析を用いた3。その結果は表2の通りである。
表2 各種の孤立に関するロジスティック回帰分析の結果

 対面孤立と関連しているのは、働き方、配偶状態、単身世帯か否か、性別、そしてメンタルヘルスの悪さである。働き方については、正社員・正職員以外の状態すべてでプラスに有意な回帰係数が得られており、対面ネットワークからの孤立が生じやすいことを意味している。配偶状態については未婚者、離別者は有配偶者と比べて孤立が生じやすく、単身世帯でも孤立が生じやすい。JLPSでのネットワークサイズの質問では家族も含めた接触人数を尋ねているため、同居家族がいる状況で孤立が生じにくいことは不自然ではない。性別については、女性の方が孤立は生じにくい。そのメカニズムはさまざまであろうが、同じJLPSを用いて友人不在リスクを分析した研究では女性の方が友人のいない状態にはなりにくく(石田 2020)、海外の研究でも女性の方がネットワークを維持しやすいことが報告されている(Kalmijn 2012)。メンタルヘルスについては、悪い状態であると孤立が生じやすい。因果の向きの問題は残るが、メンタルヘルスと孤立の関連を検討する先行研究と整合的な結果である。
 通話孤立と関連しているのは、インターネット使用頻度、働き方、配偶状態、性別、居住都市規模、そしてメンタルヘルスである。インターネット使用頻度が多いほど孤立が生じやすいという結果は、そのような人は通話よりもSNSを活用していることを反映していると思われる(テキスト孤立の結果から)。働き方については非正規雇用、無業、学生で孤立が生じやすい。配偶状態については対面孤立の分析と同様の結果となっている。性別については、女性の方がより孤立しやすいという結果であった。居住都市規模については、より小規模の都市で孤立が生じやすく、メンタルヘルスについては対面孤立と同様に悪い状態であると孤立が生じやすい。
 テキスト孤立と関連するのは、インターネット使用頻度、働き方、配偶状態、最終学歴、性別、出生年、居住都市規模、主観的健康状態、そしてメンタルヘルスの悪さである。インターネット使用頻度については、通話孤立とは逆にSNSの利用頻度の多さを反映したものと思われる。働き方については、非正規雇用と無業で孤立が生じやすい。配偶状態については先の2つと同じ結果である。最終学歴については、学歴が高いほど孤立が生じにくいという結果である。性別については女性の方が孤立しづらい。出生年については、より若い世代ほど孤立が生じにくい。学歴の結果と合わせて解釈すると、いわゆる「デジタル・ネイティブ」と呼ばれる世代が全体的な高学歴化を同時に経験しており、SNSでのネットワークを維持しやすいことを反映しているものと思われる。主観的健康状態とメンタルヘルスについては、悪い状態であるほど孤立を経験しやすいという結果である。
 さいごの「いずれか孤立」と関連するのは、ここまでみた3種の孤立に関する結果のうち、共通する要因が統計的に有意な結果として表れているように見える。働き方、配偶状態、居住地域、健康状態によって孤立の生じやすさが異なるという結果である。フルタイムの仕事をしていないこと、未婚者であること、小規模の地域に居住していること、そして健康状態が芳しくないことは、社会ネットワークを維持しづらいことと関連している。

(6)社会的孤立に対するコロナ禍の影響の異質性
 ここまでみた、コロナ禍以前に孤立リスクが相対的に高かった層とそうではない層のあいだで、孤立経験のしやすさはどのように推移するのだろうか。ここでは、先程のロジスティック回帰分析からそれぞれの孤立経験の予測確率と、その個人内の平均を計算し、上位25%に含まれる人を孤立リスク上位層とみなした4。以下では、孤立リスク上位層と中低位層のあいだで各種の孤立割合の推移を比較する。
 まず、図8さらに孤立リスクの高さで2群に描き分けた図9結果を検討しよう5。対面孤立についてみると、コロナ禍以前と比べて孤立割合が上昇しているのは、元々は孤立リスクが高くなかった中低位層においてである。孤立リスク上位層の孤立割合は中低位層より一貫して高いが、コロナ禍前後で変化は生じていない。
図9 孤立リスクの高さ別の各種孤立割合の推移(エラーバーは95%信頼区間)

 通話孤立についても、対面孤立の結果と同様に孤立割合が上昇しているのは元々孤立リスクが高くはない層においてである。孤立リスク上位層においても孤立割合は若干増加しているように見えるが、エラーバーの重なりからは有意な変化であるとはいえない。テキスト孤立については、2群のあいだで変化の仕方に明確な違いは認められない。「いずれか孤立」いついては、おそらく対面、通話孤立の結果を反映して、孤立リスク中低位層における孤立割合がコロナ禍で上昇している。
 以上の結果がコロナ禍において生じたものであるとより強く主張するためには、この間同時に変化する別の要因の影響もコントロールできることが望ましい。そこで、(線形の)固定効果モデルと呼ばれるパネルデータ分析の手法を用いる。パネル調査期間で変わらない個人間の異質性や、個人内で変わりうる観察可能な要因の影響を除いたうえで、なお孤立リスクの上位層と中低位層のあいだで孤立割合の変化の仕方に違いが存在するのかを検証する。その結果が図10である。図8では全体的な調査Wave間での孤立割合の変化を見ていたが、固定効果モデルでは調査Waveとコロナ禍以前の平均的な孤立リスクの高低の交互作用効果を考慮することで、調査Wave間での変化が2群のあいだで異なるのかを検証できる6
図10 パネルデータ分析(固定効果モデル)の結果(エラーバーは95%信頼区間)

 固定効果モデルでは、個人間の平均の差異は統制されるため、基準の時点となっているWave 3における孤立割合は2群のあいだで等しくなる。そのため、注目すべきは孤立割合そのものというより、その変化の仕方である。
 対面、通話孤立については、図9同様にリスク中低位層においてコロナ禍で孤立割合が有意に上昇している。リスク上位層についても割合が上昇しているようにみえるが、エラーバーの重なりを考慮すると統計的に有意な変化だとはいえない。テキスト孤立については、種々の要因をコントロールした後ではリスク中低位層、上位層のあいだで孤立経験の変化の仕方に統計的に有意な違いはみられない。さいごに、「いずれか孤立」については対面、通話孤立と同様にリスク中低位層でコロナ禍にかけて孤立経験割合が有意に上昇しているという結果となった。

(7)小括
 本節では、日本でCOVID-19による外出自粛の影響で人びとの接触、交流機会が減るなかで、社会的孤立のリスクがコロナ禍以前と比較してどのような人びとのあいだで、どのように変化したのかを検証した。対面、あるいは通話によって接触する人間関係からの孤立は、コロナ禍でより生じやすくなっていることが明らかとなった。一方、テキストメッセージのやり取りによるネットワークからの孤立に対して、コロナ禍の影響は確認されなかった。
 このような傾向がどのような人びとにより顕著に現れているのかを探るため、本研究ではコロナ禍以前に孤立リスクが高かった上位層と、リスクの低い中低位層のあいだで孤立経験割合の推移を比較した。もともと孤立リスクが高いのは、総じて正社員・正職員(いわゆる正規雇用)以外の人びとや未婚者、比較的小さな規模の都市に住んでいる人びと、そして健康状態の悪い人びとであった。一方、コロナ禍にかけての孤立経験割合の変化をみると、孤立がより生じやすかったのは孤立リスクがもともと低い中低位層においてであった。上位層についてはコロナ禍前後でほぼ一定に孤立経験割合が高く推移し、中低位層の孤立経験割合が上位層の水準に近づいたという結果であった。
 以上をまとめると、コロナ禍以前と比べて、社会的孤立の経験がもともとリスクの相対的に低い層でも生じやすくなったということになる。言い換えれば、日本の若年・壮年者全体で孤立リスクが高まったともいえる。孤立が平均的には人びとのウェルビーイングに悪影響を及ぼすことを踏まえると、多数派である孤立リスクの低い層で社会的孤立が生じやすくなったことは、社会全体のウェルビーイングの悪化につながる。JLPSは今後も調査を継続するが、孤立の状況が今後改善するのか、また他の生活の側面とどのように関連してゆくのかを検証することで、コロナ禍における社会的孤立の問題の理解を深めることができるようになるだろう。

2このような定義の場合、あるネットワークについては孤立していても、別のネットワークでは孤立していないという状況も生じうる。したがって、本研究でみているのは最も深刻な社会的孤立ではなく、そこに至る可能性が一定程度存在する状態としての孤立だということになる。
3同一対象者について最大4時点の情報が入れ子状になったデータ構造であるため、通常のロジスティック回帰分析では誤差の独立性を満たさない。また、分析では調査時居住都道府県のダミー変数も含めているが、解釈をおこなわないため結果は割愛している。
4対面孤立のリスク上位層、中低位層の予測確率はそれぞれ5.6%、5.4%。通話孤立については37.3%、21.1%、テキスト孤立については23.1%、8.9%、「いずれか孤立」については42.3%、26.7%であった。すべての種類の孤立について、上位層、中低位層のあいだの予測確率は有意水準5%で有意な差を示している。
5ここでも、対象者のパネルからの脱落を補正するウェイトを用いた集計結果を示している。
6このほか、固定効果モデルには時間経過に伴い変化する要因として、働き方、配偶状態、単身世帯か否か、居住とし規模、健康状態、メンタルヘルス、インターネット使?頻度、居住都道府県ダミーの諸変数を含めている。


文献
○ Fiori, Katherine L., Toni C. Antonucci, and Hiroko Akiyama, 2008, “Profiles of Social Relations among Older Adults: A Cross-Cultural Approach,” Ageing and Society, 28(2): 203.31.
○石田賢示, 2020,「社会的孤立を生み出す2 段階の格差――友人関係の獲得と喪失の課程に着目して」石田浩・ 有田伸・ 藤原翔編『人生の歩みを追跡する――東大社研パネル調査でみる現代日本社会』勁草書房, 129-148.
○石田光規, 2018,『孤立不安社会――つながりの格差、承認の追求、ぼっちの恐怖』勁草書房.
○ Kalmijn, Matthijs, 2012, “Longitudinal Analyses of the Effects of Age, Marriage, and Parenthood on Social Contacts and Support,” Advances in Life Course Research, 17(4): 177.90.
○ Sugaya, Nagisa, Tetsuya Yamamoto, Naho Suzuki, and Chigusa Uchiumi, 2021, “Social Isolation and Its Psychosocial Factors in Mild Lockdown for the COVID-19 Pandemic: A Cross-Sectional Survey of the Japanese Population.” BMJ Open,11(7):1.11.
○ Teater, Barbra, Jill M. Chonody, and Katrina Hannan, 2021, “Meeting Social Needs and Loneliness in a Time of Social Distancing under COVID-19: A Comparison among Young, Middle, and Older Adults.” Journal of Human Behavior in the Social Environment 00(00):1.17.
○ Williams, Simon N., Christopher J. Armitage, Tova Tampe, and Kimberly Dienes. 2020. “Public Perceptions and Experiences of Social Distancing and Social Isolation during the COVID-19 Pandemic: A UK-Based Focus Group Study.” BMJ Open 10(7):1.8.
○ Wilson, William J., 1987, The Truly Disadvantaged: The Inner City, the Underclass, and Public Policy (2nd edition), Chicago: University of Chicago Press.

(石田 賢示)