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■「中央調査報(No.771)」より

 ■ 2022年の展望-日本の政治 -長期政権占う参院選、感染状況がカギ-


時事通信社 政治部デスク 松本 賢志


 岸田文雄首相は就任3カ月のいわゆる「ハネムーン期間」を終え、2022年は具体的な実績づくりに全力を挙げる。22年の国内政治は、夏の政治決戦となる参院選が最大の注目で、岸田政権の今後を占う。衆院を解散しない限り、25年夏の参院選まで大型国政選挙はないため首相が参院選を乗り切れば、長期政権の展望が開ける。一方、新型コロナウイルスの感染状況次第では、世論の不満が高まることも予想される。参院選で自民党に厳しい審判が下れば、政権基盤が不安定になる可能性もあり、与野党は総力戦で臨む。


◇7月10日投開票が有力
 「参院選の勝利は政策や外交を進める前提として、結果を出すために不可欠だ。日本の将来を決める戦いであるとの覚悟で挑んでいきたい」。1月5日に開かれた22年最初の自民党役員会で、首相は参院選勝利への決意をこう強調した。
 通常国会は1月17日に召集。会期延長がなければ会期末は6月15日となり、公職選挙法の規定で参院選は7月10日投開票の日程が有力だ。総定数は248議席で、改選されるのは半数の124。神奈川選挙区で実施される非改選議員の辞職に伴う合併選挙とあわせて125議席(選挙区75、比例代表50)をめぐり争われる。
 岸田政権は先の衆院選で絶対安定多数を得て勝利したが、政権発足直後だったこともあり、参院選は首相の政権運営などが問われる。参院選の争点について、首相は「新型コロナウイルス対策や『新しい資本主義』が争点になる」との見方を示している。通常国会で、こども家庭庁設置法案、経済安全保障推進法案などを成立させ、「岸田カラー」のアピールを狙う。新型コロナの変異株「オミクロン株」の感染拡大を抑制し、日本経済を立て直すことが急務だ。
 自民党内では、勝敗ラインについて、「与党で過半数を維持することが極めて重要」(茂木敏充幹事長)との意見が出ている。与党の非改選議席は自民54、公明14の計68。4月の石川選挙区補欠選挙の結果を考慮せずに計算すると、過半数確保には57議席が必要となる。与党の改選議席は自民55(無所属の藤末健三氏含む)、公明14の計69議席のため、数字だけ見ると、参院過半数維持は決して高いハードルとはいえない。
 低めの勝敗ラインの背景には、新型コロナの先行きが見通せず、首相も衆院選で絶対安定多数を確保したものの、参院選の情勢を楽観的には見ていないことがある。首相に近い党幹部は「首相は参院選を厳しく見ており、そんなに甘くないと思っている」と解説する。
 歴代政権にとって、参院選は「鬼門」となるケースもあった。07年の参院選で、第1次安倍政権は惨敗し、参院で与党が過半数割れする事態となり、安倍首相はその後退陣に追い込まれた。10年の参院選では菅直人首相率いる民主党が敗れ、自民党が12年の衆院選で政権復帰することにつながった。
 政権選択選挙である衆院選とは違い、参院選は「中間選挙」の意味合いもあり、有権者が思い切った投票行動をとりやすいといわれる。新型コロナの感染状況が悪化すれば、内閣支持率が下落する可能性も否定できず、首相はワクチンの3回目接種の加速や医療提供体制の確保などに全力を挙げる方針だ。


2022年の主な政治日程



◇野党共闘、進まぬ協議
 衆院選で惨敗した立憲民主党は立て直しを急いでおり、参院選は正念場となる。夏の政治決戦の行方を左右しそうなのが全国に32ある改選数1の1人区で、野党の選挙協力がどこまで実現するかが焦点だ。
 先の衆院選で、立民は共産党と「限定的な閣外協力」などで合意して臨んだ。しかし、立民内ではこの合意への評価が分かれ、支持団体の連合も共産との共闘に反発。立民の泉健太代表は同党が政権を担った場合の枠組みに関し、「共産党は想定にない」と明言した。
 これに対し、共産は合意の順守を求め、参院選でも共闘を継続するよう呼び掛けている。共闘をめぐり立民、共産両党間には温度差があり、選挙協力の協議は進んでいない。こうした状況に共産は業を煮やし、「立民の対応が遅い」として、1人区の鹿児島選挙区で公認候補の擁立を決定。1人区での野党乱立は共倒れの恐れがあり、立民をけん制した格好だ。1922年7月15日の創立から今年で100年となる共産党にとっても、勝負の年となる。
 衆院選で躍進した日本維新の会が、参院選で議席を増やすかどうかも注目だ。同党は文書通信交通滞在費(文通費)の見直しなど「身を切る改革」を訴え、独自色を強めている。関西圏を地盤とするが、「全国政党化」を目指しており、改選6議席から倍増となる12議席以上を目標にすえる。東京、神奈川選挙区などに独自候補を擁立するほか、京都選挙区(改選2)にも、自民、共産両党の新人と立民の福山哲郎前幹事長が立候補を予定するなか、勝機があるとみて擁立を探っている。
 維新は国会などで立民、共産などとは一線を画し、政権には是々非々の立場で向き合っている。与野党対決法案では賛成に回ることも少なくなく、自民党にとっては協力が見込める勢力だ。一方で、保守層を中心とした支持層が重なるため、自民党は参院選を前に、存在感を増す維新を警戒している。

◇敵基地攻撃能力の議論本格化
 内政の課題に目を向けると、今年は敵基地攻撃能力の保有をめぐる議論が本格化する。首相は年内に安保政策の基本方針を示す「国家安全保障戦略」を見直す考え。迎撃困難なミサイルの開発を進める中国や北朝鮮への抑止力・対処力を強化するのが狙いだ。しかし、「平和の党」を看板に掲げる公明党内には「専守防衛」の観点などから根強い慎重論がある。同党は与党協議を参院選後に先送りさせたい考えなのに対し、自民党は5月に提言をまとめる日程を描いている。今後、与党協議は紆余曲折がありそうだ。
 首相は年頭所感で憲法改正を「本年の大きなテーマ」に挙げた。「いよいよ議論の主戦場が国会に移った」として、議論の活発化に期待を示した。自民党などの改憲勢力は、大規模災害時に国会議員の任期を特例で延長するといった緊急事態条項の創設を軸に、改憲論議の進展を図る構えだ。自民党は憲法改正に前向きな維新、国民民主両党が衆院選で議席を増やしたことから、追い風になるとみている。
 自民党内の調整が難航しそうなのが、衆院小選挙区の「1票の格差」是正に向け、定数を「10増10減」する区割り見直しだ。衆院議員選挙区画定審議会は6月までに、首相に新たな区割り案を勧告する予定。しかし、党内では減員対象地域の議員を中心に、「都市部選出の議員が増えて、地方の声が国会に届きにくくなる」などと、10増10減案に反発の声が出ている。たとえば、山口県は衆院選で自民党が小選挙区の議席を独占。山口3区は林芳正外相、同4区は安倍晋三元首相がいて、調整は容易ではない。党内からは、「3増3減」や衆院定数増といった代替案を唱える意見もある。
 4月には改正民法が施行され、成人年齢が20歳から18歳に引き下げられる。大人の定義が約140年ぶりに変わる。成人年齢引き下げによって、18、19歳でもクレジットカードなどの契約が親の同意がなくても可能となる。民法は、未成年者が親の同意なくして結んだ契約は取り消すことができると定めている。このため、若者の消費者被害が増えることが懸念されている。政府めの消費者教育の充実などに取り組む方針だ。

◇公明、秋に代表人事
 公明党は秋にも2年に一度の党大会を開く。9月に任期満了を迎える山口那津男代表の去就が焦点だ。山口氏の代表在任は12年を超え、20年9月には無投票で7選をした。同党では世代交代が喫緊の課題で、代表が交代する場合、後任には石井啓一幹事長が有力視されている。
 山口氏は09年に太田昭宏代表(当時)が衆院選で落選したことを受けて就任。当初は「ピンチヒッター」との見方もあったが、支持母体の創価学会では婦人部を中心に人気が高い。「なっちゃん」の愛称で知られ、「選挙の顔」としてフル稼働してきた。自民党の歴代政権と渡り合い、自公連立政権をこれまで継続させてきた手腕についても、学会サイドからは評価する声が出ている。一方、「ポスト山口」として取りざたされる石井氏は旧建設省出身。温厚な人柄で知られるが、存在感は決して高いとはいえない。幹事長就任は「次の代表」含みとの見方が大勢ではあるものの、その指導力は未知数だ。
 年内には敵基地攻撃能力の保有をめぐる与党協議が控え、代表には難しいかじ取りが迫られる場面も予想される。憲法改正では維新が具体化に向けた進展を求めて自民党への接近を図っており、公明党は神経を尖らせている。

◇沖縄は選挙イヤー
 22年は沖縄が1972年5月15日に日本本土へ復帰してから50年となる節目の年だ。米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設をめぐり、国と沖縄県が激しく対立する中、今年は沖縄では普天間飛行場のある宜野湾市やその移設先である名護市、沖縄市などの首長選挙が相次ぐ。そして、最大の決戦が9月29日に任期満了を迎える県知事選だ。
 玉城デニー知事は移設反対を訴え、徹底抗戦を続けている。これに対し、国側は普天間飛行場の危険性除去のためには、辺野古移設が「唯一の解決」との立場。岸田政権は知事選で勝利し、辺野古移設を推し進めたい考えだ。

◇日中国交正常化50年
 22年の日本外交は、国交正常化50年を迎える日中関係の行方が課題だ。沖縄県・尖閣諸島周辺海域で中国公船による領海侵入が相次ぎ、東シナ海や南シナ海で軍事的圧力を強めている。香港や新疆ウイグル自治区の人権問題は国際社会から批判され、日本国内では保守派を中心に中国への反発が根強い。このため、政府は2月4日開幕の北京冬季五輪への政府関係者派遣を見送った。習近平国家主席の国賓来日は新型コロナ禍のため延期されたまま。国交正常化50年の祝賀ムードは感じられず、首相は「本来ならお祝い気分かもしれないが、現状を見ると緊張感を持つ。日本外交のしたたかさが問われる年になる」と語る。
 1月7日には、日米外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)が岸田政権下では初めて開催。中国を念頭に抑止力を強化することを確認した。日本、米国、オーストラリア、インドの日米豪印4カ国(クアッド)の連携も強化する考えで、クアッド首脳会議を年内に日本で開催することを検討している。
 日韓関係は、元徴用工問題などをめぐり双方の主張は平行線で、「国交正常化以来、最悪の状態」といわれる。文在寅大統領の下では日韓関係の改善は期待できないと見て、日本政府は3月に予定される韓国大統領選の行方を注目している。
 23年の先進7カ国首脳会議(G7サミット)は日本で開催される。名古屋、広島、福岡の3都市が誘致しており、首相は今年のサミットがドイツで開かれる6月までに決定する方針。首相は年頭所感で普遍的価値の重視などを柱とする「新時代リアリズム外交」を推進すると強調した。新型コロナの感染拡大で、対面外交はままならないが首脳外交を本格化させることを目指す。(了)