■「中央調査報(No.776)」より
■ 人々にとって“東京五輪・パラ”とは何だったのか~NHK放送文化研究所「東京オリンピック・ パラリンピックに関する世論調査」より~
NHK放送文化研究所 世論調査部 斉藤 孝信
はじめに ![]() 第1回から第7回までの調査結果については、 NHK文研のホームページに掲載している各調査 の単純集計結果をご参照いただきたい。 ○NHK文研ホームページ https://www.nhk.or.jp/bunken/research/yoron/index.html 第1章 人々は、今回の東京五輪・パラをどのように楽しんだのか ①東京五輪・パラ『楽しめた』が約7割 大会後の第7回調査で、大会をどのくらい楽 しめたか尋ねたところ、『楽しめた(「とても」+ 「まあ」)』が72%と多数を占め、開催4か月前の 第6回調査で、大会が『楽しみ』(63%)と回答し た人を上回った(図1)。 ![]() こうしてみると、終わってみれば多くの人が『楽 しめた』ようだが、当初の開幕1年前の19年夏に 行った第5回調査では、『楽しみ』が79%だった ので、コロナ禍になる前に『楽しみ』にしていた 人の多さには及ばなかったという見方もできる。 『楽しめた』(第6回は『楽しみ』)と答えた人の 割合を、男女年層別と東京都民か都民以外かで 詳しくみてみる。 男女ともに、どの年代も『楽しめた』が7割前 後から8割近くで多数を占めている。 女性の20代と30代は、第6回では『楽しみ』は 5割程度だったが(20代50%、30代49%)、第7 回では『楽しめた』が7割以上にのぼった(20代 73%、30代71%)。ただし、第5回では、この 年代の女性も8割近く(20代76%、30代79%) が『楽しみ』にしていた。すなわち、第6回では コロナ禍の影響もあり一時的に『楽しみ』にして いる人が減ったものの、もともと『楽しみ』にし ていた人が多く、第7回でも多くの人が『楽しめ た』とみるべきであろう。 都民は『楽しめた』が64%で、第6回の『楽し み』(58%)を上回ったが、都民以外(『楽しめた』 73%)よりは低かった。都民のほうが『楽しみ』の 割合が低いのは第6回も同じだが、コロナ禍前 の第5回では、これとは逆に、都民のほうが都 民以外よりも高かった。この逆転の背景にはコ ロナ禍の影響があると推察されるが、その要因 については第2章で詳しく述べることにする。 ②多くの人がメディア視聴で楽しむ 東京五輪・パラを具体的にどのように楽しん だのか、楽しみ方に関する12の項目を示して複 数回答で尋ねたところ、「テレビやインターネッ トなどで競技や式典を見ること」が80%と最も多 かった。また「テレビやインターネットなどで聖 火リレーを見ること」を挙げた人も13%おり、テ レビやインターネットでの視聴が楽しみ方の中 心となっていた。 一方で、「会場に行って直接、競技や式典を見 ること」(1%)、「関連イベントに参加すること」 (1%)など、直接参加の楽しみを味わえた人はほ とんどいなかった。 ③印象に残った日本勢メダル獲得と若い選手の活躍 表2は、第7回で尋ねた、東京五輪で「印象に残っ た競技・式典」と、大会前の第6回の「見たい競技・ 式典」のトップ10を比較したものである。いず れも複数回答で尋ね、第6回では「陸上競技」「体 操競技」「開会式」「競泳」が上位を占めた。なお、 第2回~第5回もこの上位4つは変わらなかった。 しかし大会後の第7回では、「卓球」(64%)が 最も多く、以下、「柔道」(51%)、「ソフトボール」 (47%)、「体操競技」(43%)、「野球」(43%)、 「開会式」(42%)の順となった。これら回答が4 割を超えた競技は、すべて日本が金メダルを獲 得したものである。 ![]() 「スケートボード」は、第6回では13%だったが、 第7回では37%と飛躍的に増え、「陸上競技」を 抑えて8位にランクインした。「スケートボード」 は、特に女性の中年層(40代46%、50代45%) で多かった。 なお、「東京五輪の競技で最も印象に残ったこ と」を選択肢の中から1つだけ選んでもらった別 の質問では、「日本が過去最多の金メダルを獲得 したこと」(30%)と並んで、「10代など若い選 手たちの活躍ぶり」(29%)が3割を占めた。ま た「今まで見たことのなかった競技の面白さ」を 選んだ人は、女性の30代(22%)と40代(19%) で全体(13%)よりも多かった。その点では、ま さに「スケートボード」は、ふだんテレビなどで 見る機会があまりなく、女子ストリートで13歳 の西矢椛選手が日本史上最年少の金メダルを獲 得するなど、若い選手たちが大活躍したのであ るから、競技として印象に残った人が多いこと も大いに頷ける。 第2章 人々は、コロナ禍での開催をどう評価したのか ①開催時期については賛否が拮抗 東京五輪・パラは、コロナ禍の影響で当初の 予定よりも約1年延期されたが、21年夏になっ てもコロナの感染拡大は収まらず、開催地の東 京都に緊急事態宣言が出されている中で開催さ れることになった。 21年7月から開催されたことについてどう思 うか尋ねたところ、「開催してよかった」は52% でかろうじて半数を超えたが、『延期(25%)や 中止(22%)をしたほうがよかった』と思った人 も、合わせて47%と半数近くにのぼった。 「さらに延期したほうがよかった」という人は、 男性の40代(32%)と女性の30代(36%)が3割 を超えて全体を上回った。女性の30代について は、もともと『楽しみ』にしていたし、結果的に も『楽しめた』人が多かったと述べたが、実のと ころは「延期」(36%)や「中止」(21%)を望んで いた人が合わせて6割近くもいたのである。 ②若年層と都民は開催と自粛のジレンマに不満 コロナ禍で大会が開催されたことについて、 調査では、あえてネガティブな意見を示し、「そ う思う」か「そう思わない」かで答えてもらった (表3)。 ![]() 「そう思う」が5割を超えて多かったのは、「オ リンピック・パラリンピックを開催しながら国 民に自粛を求めた政府の対応には納得がいかな かった」(55%)と「オリンピック・パラリンピッ クを開催したことで、人々の新型コロナウイル ス対策への意識が緩んだ」(54%)である。また、 「オリンピック・パラリンピックを大々的に放送 しながら新型コロナウイルスの感染防止を呼び 掛けたメディアの姿勢には納得がいかなかった」 (42%)、「オリンピック・パラリンピック開催 への賛成と反対で、国民が分断されてしまった」 (37%)、「メディアがオリンピック・パラリンピッ ク一色になり、新型コロナウイルスなどの重要 なニュースが埋もれてしまった」(34%)につい ても、3割から4割が「そう思う」と答えた。 これを男女年層別と、都民か都民以外別で みてみると、「開催しながら自粛を求めた政府 の対応には納得がいかなかった」は女性の30代 (68%)や都民(63%)、「対策への意識が緩んだ」 は男性の30代(64%)と女性の20代(67%)、30 代(68%)が6割を超えて全体よりも高い。ま た全体では4割弱(37%)であった「開催への賛 否で国民が分断されてしまった」も男性の20代 (51%)、30代(54%)と女性の30代(52%)では 5割を超えた。さらに都民では「大々的に放送し ながら感染防止を呼び掛けたメディアの姿勢に は納得がいかなかった」(51%)も5割に達した。 このように、全体としては『楽しめた』人が多 かったが、コロナと絡めて尋ねると、特に30代 以下の人たちでは、開催と自粛のジレンマに不 満を感じていた人が多い。また、都民が他の地 域の人よりも楽しめなかったのは、地元で大会 が開催されているのに、他の地域の人以上にさ まざまな自粛を求められる状況に矛盾を感じて いたからであろう。 ③“人類が新型コロナに打ち勝った証” 『ならなかった』が7割超 今大会について、政府は「人類が新型コロナウ イルスに打ち勝った証として、世界に希望と勇気 を届ける」としていた。第7回で、そのように思 えたかどうか尋ねたところ、『証にならなかった (「あまり」+「まったく」)』が73%と多数を占めた。 ただし、大会におけるコロナ対策に対しては、 人々の評価は高く、感染拡大を防ぐために、観 戦を目的に海外から日本を訪れる人たちの入国 が制限されたことと、ほとんどの競技が無観客 で開催されたことについては、いずれも9割以上 の人が『適切(どちらかといえばを含む)』だった と評価している。 第3章 人々は、今回の東京五輪・パラの意義をどう感じたのか ①経済効果は期待外れに終わり効果は“スポーツの範疇”にとどまる 今回の東京五輪・パラは、人々にとってどん な意義を持つものだったのだろうか。 第7回で尋ねた、大会が「役に立ったと思うこと」 と、ほぼ同じ選択肢で第1回から第6回までの調 査で尋ねた、大会に「期待すること」の結果から、 人々が大会に何を期待し、それがどの程度叶え られたのかをみてみる。なお、第6回はすでにコ ロナ禍にあり、人々がもともと何を期待していた のかを知ることが難しいため、16年10月に配付 回収法で実施した第1回の結果も示す(表4)。 ![]() 第1回では「日本経済への貢献」が6割(63%) で最も多く、「日本全体の再生・活性化」(52%) も5割を超えていた。第2回から第5回もこの2 つが常に上位で、その傾向はコロナ禍によって 大会が延期されたあとに実施した第6回でも変 わらなかった。 一方で、大会後の第7回で尋ねた「役に立った こと」のトップは「スポーツの振興」(58%)で、 半数を超えたのはこの項目だけである。2番目も スポーツ関連の「スポーツ施設の整備」(36%) で、大会前に多くの人が期待を寄せた「日本経済 への貢献」は15%、「日本全体の再生・活性化」 は20%にとどまった。 人々が期待した経済的な恩恵は期待外れに終 わり、多くの人が実感できた大会の効果は、ス ポーツの範疇にとどまったのである。 ②震災復興に『役立たなかった』が7割超 政府は今大会を“復興五輪”と位置づけ、東 日本大震災の被災地の復興を後押しするとして いた。これについて、第7回で、復興に役立っ たと思うかどうか尋ねたところ、『役立った』は 26%にとどまった。なお、被害が大きかった岩手、 宮城、福島を含む「北海道・東北」では、『役立った』 が27%、『役立たなかった』が72%で、いずれも 全体と同程度であった。また、一部で被害が出 た「関東・甲信越」では『役立たなかった』が78% で全体よりも多かった。被災地を含む地域では、 多くの人が、大会が復興を後押ししたとは実感 できなかったのである。 ③1964年大会との意義の違い 64年大会は“戦後復興を示す”9割超 今大会は“震災復興を示す”半数以下 “復興五輪”に関連して、前回、1964年の東京 大会の4か月前にNHK文研の前身であるNHK 放送世論調査所が、東京23区の都民1,500人を 対象に個人面接法で実施した世論調査の結果も 紹介する。今回とは調査方法も質問文も異なる ため単純に比較はできないが、終戦から約20年 というタイミングであった64年の調査では「オ リンピックは日本の復興と努力を外国に示す上 で大きな意味をもっている」という意見に対し、 「賛成」が92%にのぼった。 これに対し、今回の第1回の都民の回答では、 「オリンピックは、震災復興を世界に示す上で大 きな意味がある」と思う人は42%と半数に届か ず、第2回以降も半数を超えることはなかった。 開催国になることは“国の名誉” 64年大会は9割弱、今大会は6割 大会開催の意義を考えるために、もうひとつ、 64年調査の結果を紹介する。64年調査では「オ リンピックの開催国となることは、その国にとっ て最大の名誉である」という意見に対し、「賛成」 が85%であった。苦しい戦後復興を乗り越えた 当時の人々は、五輪開催によって、いよいよ国 際社会で存在感を示せるまでになった自国を誇 らしく思ったのだろう。 しかし今回は、招致成功(13年)の記憶も新し い第1回の時点(16年)でも「オリンピックの開 催国になることは、その国にとって、大きな名 誉である」という意見に対し、「そう思う」は62% であった。 五輪は“国際スポーツ大会”と思う人は 64年大会より今大会のほうが多い 多くの人が五輪開催を日本の名誉だと受け止 め、戦後の復興を世界に示す絶好の機会だと感 じていた64年に比べると、今大会は開催の意義 を見出しにくかったであろう。しかし次の結果 をみると、五輪開催の別の意義がみえてくる。 64年と今回の、それぞれの大会後に、「オリン ピックは国と国とが実力を競い合う国際的な競 争の舞台である」という意見について、そう思う かどうか尋ねた結果、64年は「賛成」(48%)と「反 対」(47%)が拮抗していたが、今回は「そう思う」 が61%で、「そう思わない」の37%を大きく上回っ た。つまり今のほうが、五輪を純粋な国際スポー ツ大会として捉えている人が多いのである。 第4章 東京パラリンピックと障害者スポーツへの理解 ①五輪同様、印象に残ったメダル獲得競技 人々は東京パラリンピックをどのように視聴 し、どんな感想を持ったのか。また、それが障 害者スポーツへの理解をどの程度進めたのだろ うか。 表5は、東京パラで印象に残った競技や式典 を複数回答で尋ねた結果である。トップは「競泳」 (46%)で、「車いすテニス」(41%)や、「車いす バスケットボール」(40%)も4割に達して、五 輪同様、日本勢のメダル獲得競技が多くの人の 印象に残った。東京五輪で4割以上の人が印象 に残った競技が5つであったことを考えると、五 輪競技ほどには見慣れていないパラ競技で4割 以上の人が印象に残った競技が3つもあったこ とは特筆すべきことである。 ![]() ②テレビのリアルタイム視聴が多数 次に、東京パラを視聴する際にどのメディア を利用したのか尋ねた結果を、東京五輪の際の 利用メディアと併せてみてみる(表6)。 ![]() 調査では、NHKと民放の放送・サービスを、 それぞれテレビの「リアルタイム(放送と同時 に)」と「録画」、インターネット向けのサービス であるNHKプラスやTVerなどの「動画」に分け た上で、放送局以外のサービスである「YouTube」 「YouTube 以外の動画」「LINE」「Twitter」 「Instagram」「その他のSNS」も加えた12のメディ アを示して、大会を視聴する際に利用したもの を複数回答で尋ねた。 東京パラは、テレビの「リアルタイム」が他の メディアに比べて圧倒的に多く、NHKが73%、 民放が63%であった。東京五輪と比べれば、 NHKでは10ポイント、民放では15ポイントほ ど低いが、録画やNHKプラスなどのインター ネット向けサービスも含めると、81%(五輪は 91%)と非常に多くの人が、放送局のサービスを 通じて東京パラを視聴していたのである。 なお、NHKテレビの「リアルタイム」で視聴し た人の割合を男女年層別にみると、60代以上で は8割を超えて極めて高いが、男女ともに最も 低い20代でも5割を超え、幅広い年代の人たち がNHKの競技中継や番組で東京パラに接してい たことがわかる。 ③“スポーツ”として楽しめた東京パラ 東京パラを視聴してどのような感想を持った のか、9つの感想を示し、それぞれについて、そ う思うかどうか尋ねた(表7)。 ![]() 「そう思う」という人が最も多かったのは、「選 手が競技にチャレンジする姿や出場するまでの 努力に感動した」(72%)と「想像していた以上 の高度なテクニックや迫力のあるプレーに驚い た」(71%)で、それぞれ7割を占めた。次いで 「記録や競技結果など純粋なスポーツとして楽し めた」(64%)が6割で多かった。多くの人がパ ラリンピックをスポーツ競技大会として観戦し、 楽しんでいた様子がうかがえる。 「これからもっと障害者スポーツを見たいと 思った」という人は、全体では約5割(49%)だが、 女性の40代(56%)と60代(58%)では6割近く に達した。また、「自分も障害者スポーツをやっ てみたいと思った」という人は、全体では15%と 少ないが、男性の20代では26%、女性の20代 では25%と4人に1人にのぼった。東京パラの 視聴を経て、障害者スポーツを“もっと見たい”“自 分もやってみたい”という意欲まで掻き立てられ た人が、若い人や女性を中心に少なからずいた ことは注目に値する。 ④東京パラの視聴が障害者スポーツへの理解を促進 東京パラをきっかけに、自身の障害者スポー ツに対する理解が進んだかどうか尋ねたところ、 『進んだ(「かなり」+「ある程度」)』は70%と7割 を占めた。 特に、NHKの放送・サービスで東京パラを視 聴した人では、『進んだ』が80%で、視聴しなかっ た人の41%を大幅に上回った。 このように、東京でのパラリンピック開催と、 それを伝えたメディアは、障害者スポーツに対 する理解の促進に大きく寄与したと言える。 第5章 東京五輪・パラは日本に何を遺したのか ~大会のレガシー~ ①若い女性を中心にスポーツへの意識が高まった 東京五輪・パラが日本に遺したもの、いわゆ る“レガシー”とは何だったのか。 調査では、大会を通じてスポーツに対する意 識にどのような変化があったかを、選択肢の中 から複数回答で尋ねた(表8)。 ![]() 最も多かったのは「スポーツへの関心が高まっ た」であるが、46%と半数に届かず、2番目は「健 康への関心が高まった」の32%で、「競技場でス ポーツ観戦したくなった」(24%)や「スポーツ中 継が見たくなった」(21%)は2割程度とそれほ ど多くない。 しかし、回答には年代によって大きな差があ り、「スポーツへの関心が高まった」は女性の20 代では60%で、全体(46%)を大きく上回ってい る。「競技場でスポーツを観戦したくなった」も、 女性の40代が31%で全体(24%)よりも多く、 女性の20代(28%)と30代(27%)も3割近くで あった。「自分も運動がしたくなった」も、女性 の20代(29%)と男性の30代(27%)で約3割に のぼり、全体(17%)を大きく上回った。 このように、東京五輪・パラをきっかけにス ポーツへの関心や観戦意欲、自身の運動意欲を 高めた人は、特に若い女性で多い。 ②“多様性への意識” 理想と現実には大きなギャップ 東京五輪・パラでは、人種や性別、性的指向、 宗教、障害の有無など、あらゆる面での違いを 肯定し、互いに認め合う“多様性と調和”を大会 ビジョンに掲げていた。 これが実現できたと思うかどうか尋ねたとこ ろ、『実現できた(「かなり」+「ある程度」)』が 61%と多数を占めた。 まずは大会における“多様性と調和”の実現に ついて、多くの人が好意的に評価したわけだが、 大切なのは、そうした考え方や行動が、大会後 の日本社会に根付くかどうかである。そこで、 調査ではさらに、大会を通じて多様性について どのようなことを感じたか、3つの項目を示して、 そう思うかどうか尋ねた。 「多様性に富んだ社会を作るための取り組みを 進めるべきだと思った」については、『そう思う (「どちらかといえば」を含む)』が84%と圧倒的多 数となった。 しかし、「自分の多様性への理解が深まった」 では『そう思う』は56%、「日本は多様性に理解 がある国だと思った」では『そう思う』は45%で、 5割前後にとどまった。 つまり、多くの人が、“多様性と調和”が大会 において実現されたと評価し、今後、社会全体 としても進めるべきだと思っているが、自身の 理解の進み具合や、日本の現状については、十 分ではないと感じている人が多く、理想と現実 のあいだには、まだ隔たりがあると言える。 ③バリアフリー化『進んでいない』約5割 障害者の家族は“意識面”が「不十分」 東京パラには、社会からさまざまなバリア(障 壁)を取り除く“バリアフリー”の必要性に気付い てもらうという意義もあった。 東京大会の開催が決まってからバリアフリー 化は進んだと思うかどうか尋ねたところ、『進ん だ』は46%、『進んでいない』は49%と意見がわ かれた。 では、人々が考えるバリアフリー化が『進んだ』 ものと『進んでいない』ものとは、どのようなも のなのか。10の取り組みを示し、それぞれ対策 が進んだと思うかどうか尋ねた。 『進んだ』が『進んでいない』を上回ったのは、 「多機能トイレの設置」(65%)と「エレベーター やスロープなどの設置」(61%)、それに「外 国人向けの案内表示や多言語対応窓口の整備」 (48%)の施設面の3つだけである。また、「点字 や音声案内などの整備」は、『進んだ』と『進んで いない』がともに46%である。 これに対して、『進んでいない』と回答した人 が多いのは、「障害や病気にかかわらず楽しめる 娯楽施設の充実」(75%)と「障害や病気があっ ても働きやすい労働環境の整備」(72%)で7割 を超え、また、「障害や病気のある子どもの教 育環境の整備」(67%)と「あらゆる人が地域に 受け入れられ、ともに活動できる社会の実現」 (65%)、それに「障害や病気のある人への差別 や偏見の解消」(65%)も6割を超えている。こ のように、環境面や意識面のバリアフリー化は、 『進んでいない』と思う人が多いのである。 表9は、環境面・意識面の各項目について『進 んでいない』と答えた人を、障害者との関係別に 示したものである。 ![]() 「障害や病気にかかわらず楽しめる娯楽施設」 と「障害や病気があっても働きやすい労働環境」 といった環境面では、友人や知人に障害者がい る人や、障害がある人のサポートやボランティ アの経験のある人では、『進んでいない』が多い。 また、「あらゆる人が地域に受け入れられ、とも に活動できる社会の実現」や「障害や病気のある 人への差別や偏見の解消」、「困ったときにはお 互いに助け合うという意識の醸成」といった意識 面では、家族に障害がある人がいる人では、『進 んでいない』が多い。 まとめ 人々のあいだで「多様性に富んだ社会を作るた めの取り組みを進めるべきだ」という意識や、障 害者への理解が高まったことは、今大会の果実 といえる。一方で、“多様性と調和”に対する自 身の理解の進み具合や日本の現状については、 十分ではないと感じている人が多い。また、身 近で障害者に接している人ほど環境面や意識面 でのバリアフリー化が不十分だと感じている人 が多い。 こうした課題を克服するためには、今後も粘 り強い啓発が求められるし、その点では、今大 会で多くの人が興味を持った障害者スポーツが、 大切な“気づきの場”の役割を果たすのであろう。 調査では、今後、障害者スポーツがより理解 されるためにどうすればいいと思うか尋ねたが、 「テレビや新聞などのメディアで障害者スポーツ をもっと取り上げる」が65%と群を抜いて多かっ た。東京パラリンピックで質・量ともに情報を 充実させたメディアには、大会後も引き続き積 極的に障害者スポーツの情報を伝えていくこと が求められている。 また、「障害者スポーツの大会をもっと開催す る」(34%)、「障害者スポーツの体験イベント をもっと開催する」(27%)も、それぞれ3割程 度いる。その点では、障害者スポーツを、「今後 もっと観戦したい」、「自分も挑戦したい」と思っ ている人が少なからずいるのだから、今後その ような人たちを巻き込んでいくための大会やイ ベントを積極的に開くといった仕掛けも必要で あろう。 今回の東京オリンピック・パラリンピックに ついては、政府が掲げた“復興五輪”や“コロナ に打ち勝った証”という位置づけに対して、人々 は冷ややかな評価を下した。また、半数以上の 人が開催と自粛のジレンマに不満を感じ、当初 は多くの人が抱いた経済効果への期待もコロナ 禍によって肩透かしに終わった。そうした点で は、人々が思い描いていたような大会にはなら なかったと言える。 一方で、大多数の人々がテレビを通じて競技 に夢中になり、若い年代を中心にスポーツへの 関心を高めた人も多いのだから、純粋なスポー ツ大会としての意義は達成されたと言えるので はないだろうか。 その1つの証として、今後もオリンピック・パ ラリンピックを日本で開催してほしいと思うか どうか尋ねた結果を、最後にご紹介したい。 『開催してほしい』が68%(「開催してほし い」32%+「どちらかといえば開催してほしい」 36%)で圧倒的に多い。特に男性の20代~ 40代 と女性の20代と30代では、積極的に「開催して ほしい」と答えた人が4割を超えている。これら の年代の人たちは、熱心にテレビで大会を視聴 し、大会後も競技を観戦したい、自分もプレー したいとまで思えた人が他の年代の人たちより も多かった。すなわち、スポーツ大会としての 五輪・パラを楽しんだ人たちなのである。 さらに言えば、この年代こそが、今大会の開 催と自粛のジレンマに特に不満を抱いていた。 言い換えれば、“次は、コロナ禍ではない時に五 輪・パラを迎え、思う存分スポーツの醍醐味を 味わいたい”という思いが、日本でのさらなる開 催を願うことにつながっているように思う。 そして、若者たちのそうした願いは、最も早 ければ、札幌市が招致を目指している2030年 の冬のオリンピック・パラリンピックで叶う可 能性もある。実現すれば、今回の東京と同じく、 札幌で2度目の開催となるわけだが、そのとき、 現在の多くの人が心から共感できる意義や位置 づけを示すことができるのか。今大会の成果と 課題を踏まえて、議論が尽くされることを期待 したい。 |