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■「中央調査報(No.781)」より

 ■ 「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査2021」にみる
 コロナ禍における健康、雇用、意識と介護 (後編)



石田 浩(東京大学社会科学研究所)
石田 賢示(東京大学社会科学研究所)
俣野 美咲(東京大学社会科学研究所)
大久保 将貴(東京大学社会科学研究所)


要約
 東京大学社会科学研究所が2007年より継続して実施してきた「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」の2021年調査を用いて、(1)コロナ禍前後における健康状態の変容、(2)日本社会に対する希望の変化とその背景、(3)コロナ禍における雇用と収入、(4)家族介護の実態と影響、という4つのテーマに関して分析をおこなった。
 それぞれの分析テーマについての知見をまとめると、(1)コロナ禍では主観的な健康状態が悪くなっていると考えている人の比率が増えており、特に女性と低学歴者でその傾向がみられること、(2)生活満足感がある程度高い水準で一定のまま推移している一方で、日本社会への希望は低水準ながら変動しつつ推移していること、(3)医療従事者や介護・福祉職に従事する人は勤務日数や労働時間が増加し、それにともない収入も増加していたのに対し、飲食業や製造業では勤務日数・労働時間・収入が減少していること、(4)家族介護は主に女性が担っており、家族介護は就業を中断させ健康を悪化させる可能性があること等が明らかとなった。1
【注:当稿は10月号前編、11月号後編として2カ月に分けて紹介する】

1本稿は、東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクト・ディスカッションペーパーシリーズ No.151『「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査2021」分析結果報告:パネル調査からみる健康、意識、雇用、介護』(2022年3月)に加筆・修正したものである。本稿は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤研究(S)(18103003, 22223005)、特別推進研究(25000001, 18H05204)の助成を受けて行った研究成果の一部である。東京大学社会科学研究所パネル調査の実施にあたっては社会科学研究所研究資金、(株)アウトソーシングからの奨学寄付金を受けた。調査は一般社団法人中央調査社に委託して実施した。パネル調査データの使用にあたっては社会科学研究所パネル調査運営委員会の許可を受けた。

4.コロナ禍における雇用・収入に関する影響
(1)コロナ禍における雇用・収入に関する影響

 新型コロナウイルス感染症の感染拡大は、人々のライフスタイルを大きく変容させた。なかでも、働き方や収入面への影響は小さくないだろう。感染者数の急激な増加による医療従事者の過重労働が社会問題となり、緊急事態宣言下では多くの飲食店や商業施設等で臨時休業や時短営業を強いられることになった。そのほかにも、通勤ラッシュによる公共交通機関の混雑を避けるため、ピーク時間帯を避けた時差通勤が推奨されたり、人との接触を避けるために在宅勤務・リモートワーク等を導入する企業も多くあった。
 本節では、このようなコロナ禍における人々の働き方や収入の変化について分析する。具体的には、①雇用や収入に関してどのような影響があったか、②どのような人々が勤務日数・労働時間・収入の増加/減少を経験したのか、③どのような人々が業務内容・勤務形態・通勤方法の変更を経験したのか、④在宅勤務・リモートワーク・テレワークの状況の4点に着目して分析を行う。

(2)雇用や収入に関してどのような影響があったか
 東大社研パネル調査の若年・壮年パネル調査では、2021年1~3月に実施したWave15の調査において、新型コロナウイルス感染症に関連して、回答者自身の雇用や収入に対しどのような影響があったかを尋ねている。質問文は「新型コロナウイルス感染症に関連して、あなた自身について、雇用や収入に関わる影響がありましたか」というもので、図1にある10項目の選択肢からあてはまるものすべてを選択してもらう形式をとっている。

図1 コロナ禍における雇用・収入に関する影響(男女別)

 図1は、その回答を男女別に集計したものである。男性では約4割、女性では約5割が「いずれも当てはまらない」を選択しており、雇用や収入の側面においては、コロナ禍以前と変化していない人々も少なくないことがわかる。しかし、影響があった人々の中で最も選択されているのは男女ともに「収入が減った」であり、男性では24.3%、女性では19.9%となっている。この結果からは、新型コロナウイルス感染症の感染拡大によるパンデミックが人々の生活に深刻な影響を与えている様子もうかがえる。
 男女の違いに着目してみると、「在宅勤務など勤務形態の変更があった」の選択率は男性が23.2%であるのに対し女性は13.9%と10ポイント程度の差がみられる。また「時差通勤など通勤方法の変更があった」の選択率も、男性で15.1%、女性で8.2%と男女差が確認できる。このような男女差が生じる背景には、男女で正規雇用者の割合に差があることや、男女で従事しやすい職種が異なることなどが考えられる。

(3)どのような人々が勤務日数・労働時間・収入の増加/減少を経験したのか
 では、こうした雇用・収入に関わる影響は、どのような人がより受けやすいのだろうか。ここでは、回答者の性別、年齢、従業上の地位、職種、配偶状況、子どもの有無に着目して、雇用や収入に関わる影響の受けやすさに違いがあるかどうかを検証する2。ここでは、まず勤務日数・労働時間・収入の増減についてみていく。図2に、勤務日数の増減を従属変数とした多項ロジスティック回帰分析の結果を示した3。図の丸はそれぞれの独立変数の係数の推定値を表し、左右のエラーバーは95%信頼区間を表している。また、丸が黒く塗りつぶされている場合は、その独立変数が5%水準で統計的に有意な効果を持つことを意味する。
図2 勤務日数の増減に対する独立変数の影響

 図2をみると、正規雇用者に比べて非正規雇用者や自営業主は勤務日数が減少しやすいことが読み取れる。また、事務職に比べて販売職、サービス職、生産現場・技能職は勤務日数が減少しやすい傾向にある。一方、農林漁業は事務職に比べて勤務日数が減少しにくいようである。これらの結果からは、不安定な雇用である人や、対面での接客や作業が必須となるような職種の人は勤務日数が減少しやすいことがうかがえる。
 図3では、さらに詳しく職種の効果を検討するため、医療、介護・福祉、保育・教育、飲食、運送、製造の6つの職種とそれ以外を比較した。その結果、製造業や飲食業に従事している人は勤務日数が減少しやすいこと、医療従事者や介護・福祉職に従事している人は勤務日数が減少しにくく増加しやすいことが示された。この背景には、製造業や飲食業では在宅勤務などへのシフトが難しいことや、緊急事態宣言下に飲食店に対し営業自粛・時短営業が要請されたことなどがあるだろう。また、感染拡大による医療や介護の現場への影響も反映した結果といえる。
図3 勤務日数の増減に対する特定の職種の影響

 次に、図4には労働時間の増減を従属変数とした多項ロジスティック回帰分析の結果を示した。図4の結果からは、男性に比べて女性、子どものいない人に比べている人は労働時間が減少しにくいことがわかる。また、30代に比べて50代、事務職に比べて販売職、サービス職、生産現場・技術職、無配偶者に比べて有配偶者は労働時間が減少しやすいこと、正規雇用者に比べて非正規雇用者は労働時間が増加しにくいこ とも示された。
図4 労働時間の増減に対する独立変数の影響

 詳しい職種の効果を検討した図5では、図3と同様に、製造業や飲食業で労働時間が減少しやすく、医療や介護の職種では労働時間が増加しやすいという結果が得られた。また、図5では女性や有配偶者の効果が統計的に有意ではなくなっていることから、女性であることや有配偶者であること自体が直接的に労働時間の減少に影響するわけではなく、女性や有配偶者が従事しやすい職種が労働時間の減少に影響を及ぼしていることが考えられる。
図5 労働時間の増減に対する特定の職種の影響

 続いて、収入の増減を従属変数とした多項ロジスティック回帰分析の結果を図6に示した。この結果からは、正規雇用者に比べて自営業主は、収入の減少も増加もしやすい傾向にあることがわかる。また、事務職に比べて販売職、サービス職、生産現場・技能職、運輸・保安職は収入が減少しやすいようである。販売職、サービス職、生産現場・技能職は図2図4の分析で勤務日数や労働時間が減少しやすい傾向が確認されており、それにともなって収入も減少しやすい傾向にあるのだろう。一方、運輸・保安職では勤務日数や労働時間への影響はみられなかったが、収入は減少しやすいという結果が得られた。運輸・保安職の中でもとりわけタクシーやバス、電車、飛行機などの旅客運送業では、外出自粛による利用客の減少が収入の減少につながっていると考えられる。
図6 収入の増減に対する独立変数の影響

 より詳しい職種の影響について、図7をみてみると、医療従事者は収入が増加しやすく、介護・福祉や保育・教育の職種でも収入が減少しにくいという傾向が確認できる。一方、飲食や運送、製造では収入が減少しやすい。ここでも、勤務日数や労働時間の増加/減少との関連がうかがえる。
図7 収入の増減に対する特定の職種の影響


(4)どのような人が業務内容・勤務形態・通勤方法の変更を経験したのか
 新型コロナウイルス感染症の感染拡大が長引く中で、これまでと業務内容が変わったり、在宅勤務や時差通勤のような勤務形態、通勤方法の変化を経験している人も少なくない。冒頭に示した図1では、業務内容の変更があった人は男女ともに15%程度、勤務形態の変更があった人は男性で約25%、女性で約15%、通勤方法の変更があった人は男性で15%、女性で約10%という結果が得られていた。こうした働き方の変化は、どのような人々の間で生じやすい、あるいは生じにくいのだろうか。
 図8の左に示したのは、業務内容の変更があったか否かを従属変数とした二項ロジスティック回帰分析の結果である。同じく図8の中央には勤務形態の変更を従属変数とした結果、右には通勤方法の変更を従属変数とした結果を示した。図8をみると、まず業務内容の変更については、事務職に比べて運輸・保安職、サービス職、専門・技術・管理職で起こりやすいという結果が示された。勤務形態の変更と通勤方法の変更については、男性に比べて女性、正規雇用者に比べて経営者、非正規雇用者、自営業主、事務職に比べてそれ以外の職、子どものいない人に比べている人は経験していない傾向にある。
図8 業務内容の変更・勤務形態の変更・通勤方法の変更に対する独立変数の影響

 図9では、図8と同じ3つの従属変数に対する詳しい職種の効果を検討した。業務内容の変更は、医療、介護・福祉、保育・教育、飲食で生じやすく、製造では生じにくい。また、独立変数に投入した職種のいずれも、勤務形態の変更や通勤方法の変更は起こりにくいということが示された。
図9 業務内容の変更・勤務形態の変更・通勤方法の変更に対する特定の職種の影響

 デスクワークが多い事務職は、在宅勤務への切り替えや時差通勤など比較的柔軟な対応が可能であることが推測されるが、対面での業務が欠かせないような仕事の場合はそのような対応が難しく、感染リスクに晒されながら働かざるを得ない状況になるのではないだろうか。また、こうした職種の違いによる影響を考慮しても、正規雇用者と非正規雇用者、自営業主の間には、勤務形態の変更や通勤方法の変更があったかどうかに有意な差があることも明らかとなった。

(5)コロナ禍における在宅勤務等の状況
 東大社研パネル調査の若年・壮年パネル調査では、Wave15(2021年)の調査で、回答者自身の在宅勤務・リモートワーク・テレワークの状況について尋ねている。具体的には、在宅勤務等が認められているか否かと、認められている場合は在宅勤務等の頻度を「週5日以上」「週3~4日」「週1~2日」「在宅勤務・リモートワーク・テレワークはしていない」の4つの選択肢から選択してもらうものである。この質問項目を用いて、新型コロナウイルス感染症により勤務形態に変更があった人の在宅勤務等の状況についてみてみよう。
 図10は、在宅勤務が認められていると回答した人の割合である。新型コロナウイルス感染症により勤務形態に変更があった人のうち、在宅勤務が認められている人は8割以上であることがわかる。
図10 在宅勤務・リモートワーク・テレワークが認められている人の割合

 次に図11には、在宅勤務が認められている場合、実際にどの程度在宅勤務をしているかについての回答である。新型コロナウイルス感染症により勤務形態に変更があった人の回答で最も多いのは「週1~2日」であり、3割程度を占めている。「週3~4日」「週5日以上」はそれぞれ2割程度であり、在宅勤務が認められている場合、7割以上が実際に在宅勤務をしている状況が読み取れる。しかし、認められているにもかかわらず、在宅勤務をしていないという人も3割弱存在している。業務の都合上、出勤せざるを得ないということや、制度上は認められていても、自宅の環境や勤務先の雰囲気などから実際には在宅勤務ができる状況にないことなどが考えられる。
図11 在宅勤務・リモートワーク・テレワークの日数

 最後に、新型コロナウイルス感染症により勤務形態に変更があった人のうち、在宅勤務が認められている人の割合を従業上の地位別に示したのが図12である。経営者や自営業主では在宅勤務が認められている人の割合は9割を超えており、比較的フレキシブルな対応が可能であることがわかる。また正規雇用者も86.1%と多くの人々が認められている一方で、非正規雇用者は66.7%と他に比べて突出して低い割合となっている。新型コロナウイルス感染症の収束の見通しが立たない中では、在宅勤務や時差通勤などのように感染対策を講じながらも継続して働くための柔軟な対応が求められるが、その対象の外に置かれてしまう層が一定数存在していることが示唆される。
図12 従業上の地位別にみた在宅勤務が認められている人の割合


(6)小括
 本節では、新型コロナウイルス感染症による、人々の働き方や収入面への影響について分析をおこなった。分析の結果、雇用や収入に関する影響を受けていないという回答が最も多い一方で、影響を受けた人々の中では「収入が減った」という回答が最も多く、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが人々の生活に深刻な影響を与えている様子もうかがえた。
 どのような人々が雇用や収入に関する影響をより受けやすいのかという点についての分析では、医療従事者や介護・福祉職の人々の労働時間の増加や、飲食業、製造業、運送業に従事する人々の間で労働時間の減少や収入の低下が起きていることなど、メディア等でも度々取り沙汰されている問題が東大社研パネル調査のデータにおいても確認された。
 また、被雇用者の中でも正規雇用者と非正規雇用者では影響の受け方が大きく異なっていることも明らかになった。正規雇用者よりも非正規雇用者は、労働時間が減少しやすい傾向にあり、在宅勤務などの勤務形態の変更や時差通勤などの通勤方法の変更も経験していない傾向にあった。このような傾向は、職種の違いや性別、年齢、婚姻状態、子どもがいるかどうかといった関連する要因をコントロールしてもみられた。非正規雇用者は、さまざまな側面で正規雇用者よりも不利な立場に置かれやすいことが知られているが、コロナ禍においてその格差がより顕著にあらわれている可能性がある。
 本稿の分析結果からは、雇用・収入面では影響を受けていない人がマジョリティではあったものの、影響を受けた人は過重労働や収入の低下など深刻な問題を抱えている可能性が指摘できる。今後は、影響を受けたかどうかだけではなく、具体的にどの程度労働時間や収入が変化したのかなど、人々が受けるインパクトの大きさについても詳しく分析する必要があるだろう。

2年齢、従業上の地位、職種、配偶状況、子どもの有無はいずれもWave14(2020年)時点の情報を用いた。
3勤務日数の増減の定義は、先述の質問項目において、「勤務日数が減った」を選択している場合に1(=減少)、「勤務日数が増えた」を選択している場合に3(=増加)、いずれも選択していない場合は変化なしと考えて2の値を割り当てた。「勤務日数が減った」と「勤務日数が増えた」のいずれも選択している場合は増加を優先させて3の値を割り当てた。基準カテゴリは2の変化なしとした。後述する労働時間の増減、収入の増減という変数の定義も同様である。

(俣野 美咲)


5.家族介護の実態と影響
(1)はじめに

 2000年に介護保険制度が創設されて以降、介護のあり方は大きく変化した。厚生労働省「介護保険事業報告」の2000年と2017年調査によれば、介護保険創設後の17年で、居宅サービス利用者は約3.8倍、施設サービス利用者は約1.8倍に増えている。介護保険制度以前の主な介護提供主体は家族であったが、介護保険制度以降は、主な介護提供主体は家族および非家族(公的介護サービスなど)になりつつあるということだ。この変化は、主に公的介護サービス利用の拡大によってもたらされたと考えられる。しかしながら、非家族によって提供される介護サービスが、家族介護を完全に代替するケースは稀である。介護が必要になった場合には、公的介護サービスを利用しながら、在宅や施設で家族介護を継続することが多いからである。内閣府が2017年に実施した「高齢者の健康に関する調査」によると、「介護が必要になった時に誰に依頼したいか」という質問に対して、男性では72.8%が、女性では56.8%が家族に依頼したいと回答しており、要介護者が家族による介護を希望していることも確認できる。この点を踏まえると、持続可能な介護提供体制を設計する前段階として、家族介護の状況とその影響を丁寧に把握する必要がある。こうした背景のもと、本稿では、「東大社研パネル調査」の「継続・追加サンプル」を用いて、以下の3点を明らかにする。第1に、家族介護を提供しているのは誰なのかについて、性別・世代別・配偶者の有無別に集計する。基礎的な属性に基づいた集計をすることで、介護者がどの程度いるのか、また時系列でどの程度変化するのかを明らかにすることが目的である。第2に、家族介護をすると介護者の就業にどのような影響を与えるのかを明らかにする。昨今では、介護を理由とした介護離職が問題となっている。本稿では、介護離職がどの程度生じているのかを定量的に明らかにする。第3に、家族介護は時に介護者の健康に影響を与えることが知られている。例えば、家族介護が介護者の健康に負の影響を与えることがある。本稿では、家族介護が主観的健康およびメンタルヘルスにどのような影響を与えるのかを明らかにする。

(2)誰が家族介護をしているのか
 本節では、誰が介護をしているのかについて、性別・世代別・配偶者の有無別に集計をおこなう。世代については、東大社研パネル調査における若年世代(調査開始の2007年時点で35歳未満)と壮年世代(調査開始の2007年時点で35歳以上)に分類する。また家族介護の有無については、仕事以外で現在介護をしている場合に、家族介護者としてコーディングしている。図13が集計の結果である。図13からは、以下の5点が分かる。第1に、2021年では、壮年調査世代女性で約16%、壮年調査世代男性で約4.8%、若年調査世代女性で約5.4%、若年調査世代男性で約3.3%が家族介護をしている。第2に、対象者の年齢(調査年)を重ねるごとに介護者の割合は増加傾向にある。ただし、2021年については、とりわけ女性・壮年世代において値が前年に比べて低下しており、コロナ禍において対面が制限され介護が困難な状況も推測される。第3に、男性よりも女性の方が介護者の割合が高く、介護というケア役割についても女性が中心に担っていることがわかる。第4に、配偶者の有無で介護者になるか否かが異なるのは男性において顕著である。換言すれば、男性は配偶者がいる場合には介護の役割を妻が担っている一方で、女性の場合には配偶者の有無にかかわらず介護の役割を担っている。第5に、壮年世代は若年世代に比べて介護者の割合が高い。これは、壮年世代の方が親の年齢も高く、介護を必要とする者が身近に増えるためだと考えられる。

図13 性別・世代別・配偶者の有無別にみた介護者の割合


(3)家族介護をすると就業にどのような影響を与えるのか
 厚生労働省「平成29年雇用動向調査」によれば、平成29年の常用労働離職者735万人のうち、「個人的理由による離職」は74.7%を占めており、「介護・看護」による離職は1.2%となっている。平成25年に取りまとめられた「社会保障制度改革国民会議報告書」には、「今後、要介護者が急増する中、親などの介護を理由として離職する人々が大幅に増加する懸念がある」との記述があり、これからの日本社会において介護と就業の両立を支援する制度設計は喫緊の課題である。ここでは、家族介護をすると就業(就業の有無と労働時間)にどのような影響を与えるのかについて、男女別に分析をおこなう。用いるデータは図13と同様に、8年分の東大社研パネル若年・壮年調査データである。ここでは、家族介護をしていない状態からする状態になると、就業にどのような影響を与えるのかを確認するため、時点と個体の固定効果モデルによって推定をおこなう。結果変数と処置変数の他の調整変数は、年齢、婚姻状況、子どもの有無、主観的健康、メンタルヘルスである。固定効果モデルによる推定結果が図14である。
図14 固定効果モデルによる家族介護が就業の有無および労働時間に与える影響の推定結果

 図14の分析結果からは、女性においてのみ家族介護が就業に影響を与えていることが確認できる。具体的には、家族介護をすると就業確率が平均で5%低くなり、労働時間(月)が平均で5時間短くなる。男性についてこうした関連は確認できなかった。なぜ女性においてのみ家族介護は就業を抑制し、労働時間を短くするのだろうか。今回の分析では、介護の有無を変数として用いており、どのような介護をしているのか、どの程度介護をしているのかを考慮していない。したがって、介護の内容や時間が男女で異なるために、女性においてのみ負の関連がみられたことは否定できない。

(4)家族介護をすると健康にどのような影響を与えるのか
 最後に、家族介護をすると健康(主観的健康とメンタルヘルス)にどのような影響を与えるのかについて、男女別に分析をおこなう。近年では、「介護疲れ」「介護うつ」が報道されることが多く、長期間および長期間の介護が健康に与える様々な側面が問題視されている。以下では、介護と健康の関連についての分析結果を紹介する。介護については、これまでと同様の変数を用いる。健康については、主観的健康(self-rated health)を変数として用いる。東大社研パネル調査」における主観的健康(self-rated health)とは、「あなたは、自分の健康状態についてどのようにお感じですか」という質問に対して、「1:とても良い」「2:まあ良い」「3:普通」「4:あまり良くない」「5:悪い」の選択肢で測定される。解釈をわかりやすくするために、値が高くなるほど健康状態が良くなるよう値を反転して分析をおこなった。メンタルヘルスの指標としては、MHI-5(Mental Health Inventory 5)を用いる。MHI-5は、過去1ヶ月間で「かなり神経質であった」「どうにもならないくらい気分が落ち込んでいたこと」「落ち着いておだやかな気分であったこと」「落ち込んで、憂鬱な気分であったこと」「楽しい気分であったこと」の5項目について尋ねている。回答選択肢は、それぞれの項目について「1:いつもあった」から「5:まったくなかった」の5件法で測定される。分析では、これらの5項目について単純加算し、値が高くなるほどメンタルヘルスが良くなるよう値を変換している。図14と同様に、家族介護をしていない状態からする状態になると、健康にどのような影響を与えるのかを確認するため、時点と個体の固定効果モデルによって推定をおこなう。結果変数と処置変数の他の調整変数は、年齢、婚姻状況、子どもの有無、就業の有無である。固定効果モデルによる推定結果が図15である。
 図15の分析結果からは、女性においてのみ家族介護が健康に影響を与えていることが確認できる。具体的には、家族介護をするとメンタルヘルスが平均で0.4ポイント低くなる。なお男性についてこうした関連は確認できなかった。家族介護と就業の分析と同様に、今回の分析では、介護の有無を変数として用いているため、介護の質と量を考慮していない。
図15 固定効果モデルによる家族介護が主観的健康およびメンタルヘルスに与える影響の推定結果


(5)おわりに
 本節では、同一個人を複数時点にわたって調査した「東大社研パネル調査」データを用いて、(1)家族介護をしているのは誰なのか、(2)家族介護をすると介護者の就業にどのような影響を与えるのか、(3)家族介護が主観的健康およびメンタルヘルスにどのような影響を与えるのか、の3点について分析をおこなった。
 (1)については、以下の5点が明らかになった。第1に、2021年では、壮年調査世代女性で約16%、壮年調査世代男性で約4.8%、若年調査世代女性で約5.4%、若年調査世代男性で約3.3%が家族介護をしている。第2に、対象者の年齢(調査年)を重ねるごとに介護者の割合は増加傾向にある。ただし、2021年については、とりわけ女性・壮年世代において値が前年に比べて低下しており、コロナ禍において対面が制限され介護が困難な状況も推測される。第3に、男性よりも女性の方が介護者の割合が高く、介護というケア役割についても女性が中心に担っていることがわかる。第4に、配偶者の有無で介護者になるか否かが異なるのは男性において顕著である。第5に、壮年世代は若年世代に比べて介護者の割合が高い。(2)については、女性においてのみ、家族介護に直面すると就業を中断するおよび労働時間を短くする傾向があることが明らかとなった。(3)については、家族介護と主観的健康の間に関連はみられなかったものの、メンタルヘルスについては女性においてのみ負の関連を確認した。長時間および長期の介護については、身体的健康にも大きな影響を及ぼしうるが、介護の期間や対象を考慮しない場合には、介護はまずメンタルヘルスに影響を及ぼす可能性が指摘できる。また、本分析結果を踏まえても、男女では家族介護による異なるストレスを経験することが示唆される(Zwar et al. 2020)。したがって、家族介護の影響を明らかにする際には、ジェンダーを考慮に入れるべきである。
 日本において、介護の可視化および社会化が進展する契機となったのは、2000年に導入された介護保険制度の創設である。本稿では、「東大社研パネル調査」を用いて、家族介護の実態とその影響に着目した。分析結果からは、介護保険制度創設以降においても、女性は男性に比べて介護をしており、また様々な指標において介護の影響を受けやすいことが明らかとなった。「介護の社会化」が掲げられる以前のジェンダー規範は、介護において依然として続いていると考えられる。

引用文献
Zwar, L., H.H. Konig, & A. Ha jek, 2020,“Psychosocial Consequences of Transitioning into Informal Caregiving in Male and Female Caregivers: Findings from a Population-based Panel Study,” Social Science and Medicine 264: 113281.

6 .おわりに
 本稿は、東京大学社会科学研究所が2007年から継続して実施している「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」の2021年調査から明らかになってきた現代日本の姿を以下の4つのトピックに関して分析した。(1)コロナ禍前後における健康状態の変容、(2)日本社会に対する希望の変化とその背景、(3)コロナ禍における雇用と収入、(4)家族介護の実態と影響、である。
 分析結果をまとめると、(1)コロナ禍では主観的な健康状態が悪くなっていると考えている人の比率が増えており、特に女性と低学歴者でその傾向がみられること、(2)生活満足感がある程度高い水準で一定のまま推移している一方で、日本社会への希望は低水準ながら変動しつつ推移していること、(3)医療従事者や介護・福祉職に従事する人は勤務日数や労働時間が増加し、それにともない収入も増加していたのに対し、飲食業や製造業では勤務日数・労働時間・収入が減少していること、(4)家族介護は主に女性が担っており、家族介護は就業を中断させ健康を悪化させる可能性があること等が明らかとなった。
 コロナ禍の前後の状況を考慮しながら、人々の働き方、収入、健康、介護、そして意識がどのように変貌してきたのか、あるいは変化は見られないのか、について調査データに基づき考察したものである。2022年調査は完了し、2023年にも調査を予定しているので、コロナ禍と人々のライフコースの長期的な関連について今後も慎重に検証していく。

(石田 浩)