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■「中央調査報(No.783)」より

 ■ 2023 年の展望 ― 日本の政治
 ~政権浮沈懸かる統一選・補選、サミット後は解散含み~



時事通信社 政治部デスク 内海 雅文


岸田文雄首相は2023年、内閣支持率の低迷で揺らぐ政権基盤の立て直しに全力を挙げる方針だ。過去最大となる114兆3812億円の23年度予算案の年度内成立に最優先で取り組み、これを実績に4月の統一地方選と衆院補欠選挙の勝利を目指す。5月に広島市で開催される先進7カ国首脳会議(G7サミット)の終了後は、衆院解散・総選挙を視野に入れた政権運営が続きそうだ。

◇旧統一教会・政治とカネ、懸念続く
 「新たな挑戦をする1年にしたい。世界そして日本は歴史の分岐点を迎えている。これ以上先送りできない課題に正面から愚直に挑戦し、答えを出していくのが岸田政権の歴史的役割と覚悟し、政権運営に臨んでいく」。首相は1月4日、三重県伊勢市の伊勢神宮を参拝後、恒例の年頭記者会見に臨み、新年の抱負を語った。
 通常国会は同23日に召集。会期は6月21日までの150日間となる。
 首相は21年衆院選、22年参院選に連勝。解散以外に大型国政選挙の予定がない23年は、本来なら腰を据えて困難な政治課題に取り組む好機となるはずだったが、内閣支持率の下落に苦しむ政権内に余裕は見られない。
 最大の要因は、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題だ。安倍晋三元首相が参院選の遊説中、銃撃され死亡した事件をきっかけに、自民党と教団の関係が相次ぎ判明し、世論の批判が集中。野党は昨年の臨時国会に続き、今年の通常国会でも徹底追及する構えだ。
 閣僚の「政治とカネ」を巡る問題も依然くすぶる。昨年10月以降、山際大志郎前経済再生担当相、葉梨康弘前法相、寺田稔前総務相、秋葉賢也前復興相が相次ぎ辞任。首相は任命責任を問われただけでなく、一連の「辞任ドミノ」を巡る対応の遅れも批判された。政権内では局面打開に向け、通常国会前に複数の閣僚を入れ替える内閣改造論も浮上したが、首相は最終的に見送った。ただ、会期中に閣僚の新たなスキャンダルが発覚すれば、首相の判断に疑問符が付くのは必至。政権にとっても致命傷となりかねない。

◇安保・原発政策を転換
 政府は昨年末に安全保障関連3文書を改定し、敵のミサイル発射拠点をたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)の保有や、防衛費の国内総生産(GDP)比2%への増額など、防衛力を抜本的に強化する方針を明記。首相は必要な財源を確保するため、約1兆円の増税に踏み切る考えを示した。
 エネルギー政策を巡っても、原発を「最大限活用」する方針に転換。次世代型原発への建て替えや、運転期間60年超への延長などを打ち出した。
 これに対し、野党は重要政策の変更を臨時国会の閉幕後に決めたことを問題視。通常国会で論点となるのは間違いない。
 経済政策も大きな節目を迎える。政府は、4月8日に任期満了を迎える日銀の黒田東彦総裁の後任人事案を、3月までに国会に提示する方針。「アベノミクス」の柱である異次元の金融緩和を推し進めてきた黒田路線は修正されるのか。首相の判断に注目が集まっている。
 首相は年頭会見で、今年の課題として「異次元の少子化対策」に取り組むと宣言。経済財政運営の基本指針「骨太の方針」を策定する6月ごろまでに、将来的な子ども予算倍増に向けた大枠を提示する考えを明らかにした。ただ、実現には「兆円単位」の財源が必要との指摘もある。さらなる国民負担の必要性などを巡り、通常国会で議論となりそうだ。

◇待ち受ける統一選・衆院補選
 前半国会を乗り切っても、首相には統一地方選と衆院補選が待ち受ける。このうち統一地方選を巡っては、前哨戦と位置付けられた昨年末の茨城県議選で、自民党の現職が相次ぎ落選。無所属の保守系新人がその穴を埋める見通しのため、勢力図に大きな変化はなさそうだが、一部で「国政の現状に対する不満の表れ」(関係者)との危機感もくすぶる。
 一方、衆院補選については、政治資金規正法違反罪で略式命令を受けた薗浦健太郎氏=自民党離党=の議員辞職に伴う千葉5区、先の和歌山県知事選に当選した岸本周平氏=国民民主党離党=の議員辞職に伴う和歌山1区、安倍氏の死去に伴う山口4区で、それぞれ実施される見通し。さらに、自民党の岸信夫前防衛相が健康不安などを理由に議員辞職を検討しており、地盤の山口2区も補選となる可能性がある。
 補選には「政権の通信簿」としての意味合いもあり、自民党幹部は「全勝」を勝敗ラインと位置付けている。結果によっては、党内に「首相の下で次期衆院選を戦えない」との声が広がる可能性もある。実際、過去には統一地方選や衆院補選での敗北が政権崩壊につながったケースもあり、首相サイドは神経をとがらせている。

◇広島サミット、政権浮揚なるか
 首相が今年最大の政治イベントと意気込む広島サミットは、5月19~21日の日程で開催される。ロシアのウクライナ侵攻や中国の軍事的威圧、北朝鮮の核・ミサイル開発などで国際秩序が大きく揺らぐ中、議長国として首相のリーダーシップが問われている。
 サミット成功に向けた「地ならし」のため、首相は年明け早々にG7メンバーの欧米5カ国を歴訪した。1週間の強行日程で、フランスのマクロン大統領、イタリアのメローニ首相、英国のスナク首相、カナダのトルドー首相、米国のバイデン大統領の順に会談。ウクライナ情勢などを巡り、首脳間の認識共有に努めた。
 「各国首脳と意見交換を重ねる中で、国際社会を主導していく責任の重さと、日本に対する期待の大きさを改めて強く感じた。G7が結束し、法の支配に基づく国際秩序を守り抜くべく連携していくことを、改めて確認できた」。首相は1月14日、最後の訪問地となった米ワシントンで内外記者会見に臨み、外遊の成果をこう誇った。
 サミット本番では、中ロを念頭に「力による一方的な現状変更の試みを認めない」と発信。G7の連携を内外にアピールすることを目指す。
 議長国として、首相は被爆地・広島での開催にもこだわった。ライフワークの「核兵器のない世界」に向け、G7で一致したメッセージを打ち出したい考え。自身のレガシー(政治的遺産)とし、政権浮揚につなげる思惑も透ける。

◇解散戦略、慎重に探る
 次期衆院選は、小選挙区の「1票の格差」是正のため、定数を「10増10減」する新たな区割りで行われる。10月で衆院議員の任期満了まで折り返しとなる残り2年。与野党は衆院解散・総選挙をにらみ、候補者調整を加速させるなど準備を進めている。
 解散権を握る首相自身は昨年末のBS番組で、防衛費増額のための増税に触れ、「国民に負担をお願いするスタートの時期までには選挙はあると思う」と発言。しかし、年頭会見では「結果として税が上がる前に選挙があることも日程上、可能性の問題としてあり得ると申し上げた」と軌道修正した。
 その後のBS番組では「さまざまな政策を次々と打ち出す中、どこで行うべきか、時の首相が判断するものだ」と強調。年内解散の可能性について「今は考えていない」とする一方、「(25年10月の)衆院の任期が来るまでいつでもあり得るのが理屈だ」とも語った。
 首相の自民党総裁としての任期満了は24年9月。再選を確実にするためにも、解散戦略を慎重に探る構えだ。世論の注目を集めるサミットの終了後は、その有力な選択肢となるが、内閣支持率の低迷が続けば決断は難しくなる。

◇防税増税、党内政局の火種
 足元の自民党内に目を向けると、防衛費増額に伴う増税の開始時期を巡る議論が、政局の火種となる可能性がある。昨年末の税制改正論議では「24年以降の適切な時期」と結論を先送りした。
 党内最大派閥の安倍派には、政府の増税方針への反対論が根強い。同派所属の萩生田光一政調会長は、別の財源捻出策を練るため、自身をトップとする特命委員会を立ち上げる考えを表明。「(財源の)中身について議論するいとまがないまま方向性が決まった。財源をきちんと確保できるのかどうか、そのことによって何か課題がないのか、しっかり議論したい」と記者団に強調した。党幹部は「防衛増税の話が完全に政局になっている」との見方を示す。
 同派を中心に、国債を一部借り換えながら60年間で完済する「60年償還ルール」の見直し論も浮上している。国の借金の返済財源に充てる債務償還費を減らし、防衛財源に振り向ける構想だ。
 萩生田氏は、償還年数を80年に延長する案に言及。党の若手有志による「責任ある積極財政を推進する議員連盟」はルール自体の廃止を唱え、「償還費を防衛費などに振り向けることについて検討すべきだ」と訴える。
 ただ、財政規律を重視する政府側は否定的だ。松野博一官房長官は1月12日の記者会見で「毎年度の債務償還費が減少する分、一般会計の赤字国債は減るが、その分、特別会計の借換債が増える」と指摘。その上で「ルールが市場の信認の基礎として定着している現状を踏まえれば、(見直しは)財政に対する市場の信認を損ねかない」とけん制した。

◇10増10減、連立に亀裂も
 「10増10減」に伴い、都市部では選挙区が増えることになる。公明党はこのうち、東京、埼玉、千葉、愛知の4都県で、新たに候補者擁立を目指す方針。山口那津男代表は「可能なところは挑戦したい。自民党とよく相談しながら、互いの議席が最大化できるような協力の体制を整えていきたい」と意欲を示す。
 背景には、国政レベルで顕著な党勢の衰えがある。ピーク時に900万票に迫った比例代表の得票数は、昨夏の参院選で600万票余りに激減。山口氏が異例の8期目続投を決めたのも、現状に対する強い危機感からだ。
 選挙区での候補者擁立について、同党は局面打開に向けた「千載一遇のチャンス」(関係者)と期待するが、自民党は無条件で譲ることには否定的。展開次第では連立関係に亀裂が生じるリスクもはらんでいる。

◇野党「共闘」で温度差
 立憲民主党と日本維新の会は、臨時国会で「共闘」。旧統一教会の問題を受けた被害者救済法の成立につながるなど、一定の成果を上げた。両党は通常国会でも共闘を継続する方針で一致。防衛費増額に伴う増税に反対し、行財政改革の徹底を求めていく構えだ。
 立民の泉健太代表は1月13日の会見で「野党第1党と第2党の合意は大変大きい。国会に緊張感を持たせて身のある論戦を行い、国民に論点をしっかりと伝えていく」と意義を強調。党内には維新との国会連携が選挙協力に発展することを期待する向きもある。
 これに対し、維新側の反応は冷ややかだ。両党はそもそも、憲法改正や安全保障など基本政策で隔たりが大きい。「日本維新の会は一度も他党と選挙協力をやったことはない。単独で政権を目指す姿勢を示さないと有権者の期待が逃げていく」。馬場伸幸代表は1月5日のBS番組で、立民との選挙協力の可能性を否定した。
 一方、国民民主党は昨年の通常国会や臨時国会で、2022年度予算や第1、2次補正予算に賛成するなど、与党寄りの姿勢が目立つ。立民から打診された今年の通常国会での共闘参加も拒否した。
 自民党の麻生太郎副総裁や茂木敏充幹事長は、国民の連立入りを模索しているとされる。玉木雄一郎代表は「承知していない」と否定する一方、「政策本位で与野党を超えて連携することは党で決めた方針だ。これまでも、これからも、それでやっていく」とも強調。関係者は「いろいろな可能性がある」と含みを残す。(了)