■ インターネット・ゲーム依存について
独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター
1.はじめに 2)スクリーニングテスト スクリーニングテストは、本人や家族が本人の問題の重症レベルを評価する場合、診断の補助、または、ある集団における有病率の推計等に使用される。ネット依存に関しては、既に数多くのスクリーニングテストが開発されている4)。ゲーム行動症については、我々が開発したゲームズテスト(GAMing Engagement Screener Test, GAMES Test)を推奨する5)。これは9問からなる短いテストで、基本的にそれぞれの項目に「はい」、「いいえ」で回答するようになっている。合計点が5点以上の場合、ゲーム行動症が疑われる。ゲームズテストはICD-11のゲーム行動症に特化したテストであるが、ネット、スマホ依存等のテストについても、久里浜医療センターのHPで公開されている6)。 3.ネット・ゲーム依存の広がり 1)ネット依存 ネット依存の好発年齢は思春期である。我々は、2012年~13年にかけて、全国の中学生・高校生約10万人に対する実態調査を行った。ネット依存の同定には、Youngによる診断質問票(DQ)の日本語版を使用した。その結果、男性の6.4%、女性の9.8%、全体で7.9%の中高生にネット依存が疑われ、その推計値は52万人であった7)。同様の調査票を用いて、2017年秋に全国の中高生約6万4千人に対して行った調査では、中学生の12.4%、高校生の16.0%にネット依存が疑われ、その推計値は93万人であった8)。従って、わずか5年間に、推計数は1.8倍に増加したことになる。 2020年から始まった新型コロナパンデミックにより、わが国では学校閉鎖、ステイホーム推進、移動制限などの対策がなされた。世界的には長期にわたる都市のロックダウンが行われた国も多かった。このような対策はいずれも自宅で過ごす時間の延長に繋がり、その結果、ネット使用時間の延長や依存症状の悪化を引き起こしている9)。上記の中高生に対する調査はその後実施されていないが、仮に実施されていれば、それぞれの割合はもっと高くなっていると予想される。 2)ゲーム依存 我々は海外のゲーム依存に関する疫学研究の包括的レビューを行い、その有病率は0.6%~27.5%であることを報告した10)。有病率は、若者や男性に高く、世界の地域差は認められなかった。この論文では、13の縦断研究のレビューも行っている10)。それによると、ゲーム障害のリスク要因として、ゲーム時間が長い、ゲームに寛容な環境、男性であること、父子・母子家庭、高い衝動性などが挙げられていた。一方、防御要因としては、高い自己評価、能力、社会性などが示唆されている。ゲーム依存の自然経過では、大人は自然に改善する傾向があるが、青少年ではその傾向が低いことが示唆された。 ゲーム依存に関する国レベルの調査は、2019年の初頭に実施された。対象は一般の日本人から無作為に抽出された10歳~29歳の9,000名である5)。聞き取り調査と自記式調査を組みわせたこの調査の回答者数は5,096名(回数率56.6%)であった。既述のゲームズテストはこの調査のデータと専門外来を受診したゲーム依存の患者のデータを基に作成された。このテストの結果に基づくゲーム行動症が疑われる者の割合の推計値は5.1%(男性7.6%、女性2.5%)であった5)。年齢別にみると15-19歳が最も高く、7.6%であった。同じ年の10月に、10歳~79歳の一般人口に対する同様の調査が実施されているが、有病率の推計値については報告されていない。一般にゲーム行動症の有病率は思春期に最も高く、それ以後年齢ともに低下していく。そのため、全年齢の有病率の推計値は、10歳~29歳の値より低くなると推定される。 青少年に限らない2009~2019年に発表された53研究、226,247人を対象としたメタ解析研究では、有病率は3.05%と推計されている11)。対象となった個々の研究をみると、有病率は、女性より男性が高く、欧米よりアジアの方が高く、出版年が新しいほど高い傾向にあった。また、当然のことながら、使用された評価尺度により差が明確であった。さらに、2020年3月までの61研究、227,665人を対象とした別のメタ解析では3.3%と報告されている12)。 4.症状 1)患者背景 我々は、わが国に先駆けて久里浜医療センターにネット依存専門外来を2011年に開設し、今までに2,500名以上の患者を診療してきている。広くネット依存患者を受け入れているが、受診患者のおよそ90%は、ゲーム依存またはゲームの過剰使用が主な問題となっている13)。患者の約50%は中高生で、70%は20歳未満である。男性患者が多く、未婚者がほとんどで、約3/4は学生である。全体的に、他のアプリ嗜癖者の方がゲーム関連患者より、平均年齢やネット使用開始年齢が高い傾向があった。 2)健康問題、家族・社会問題 睡眠障害はネット・ゲーム依存患者のほぼ100%に見られる。部屋にこもりがちなため、体力低下も多くの患者に認められる。不規則な食事が原因で低栄養状態が続き、BMIが正常の下限以下になっている者が多くみられる。また、ネット・ゲーム依存は、脳の様々な部位の構造的・機能的障害に関係しているとのことである14)。 図1は久里浜医療センターを受診したゲーム依存患者が示した家族・社会問題の割合である13)。図のように、「朝起きられない」が80%、「欠勤・欠席」が51%、「昼夜逆転」が62%、「学業成績・仕事のパフォーマンス低下」が57%、「物を壊す・家族への暴言」が55%など、深刻な問題が高率に認められた。 5.治療 1)治療の概況 世界的にもゲーム行動症の治療は、まだ緒についたばかりである。2010年以後に出版された治療に関する論文の系統的レビューによると、認知行動療法(CBT)またはCBTをベースにした治療が最多で、その有効性が示されている16)。2007~2018年に発表されたゲーム依存に対するCBTの有効性に関する論文のレビューによると、ゲーム依存の症状や関連するうつ・不安症状の軽減には有効であることが示されている17)。しかし、ゲーム時間については、効果が不明確であった。問題点として、対象となった全ての研究において、介入前後の評価の比較を行っており、エビデンスレベルの低いことが指摘されている17)。 ゲーム依存の薬物治療は全く初期の段階にある。適応が認可された治療薬は世界的にも存在しない。わずかに研究レベルでは、一部の抗うつ薬の有効性が示唆されている。また、合併する注意欠如多動症の治療薬がゲーム依存に対しても有効であったと報告されている。 2)久里浜医療センターにおける治療 治療目標として、完全に止めるのが理想だが、様々な理由から実際には減ネット・ゲームとしている。これを達成する手段として、物理的にスマホやWiFiに制限をかけたり、取り上げたりはしない。原則的に、彼らに自分の問題を理解してもらい、自らネットやゲーム時間を減らす、または完全に止めるように決断させ、それに向けて努力するように導いている。実際の治療プログラム等については、紙面の制限もあるため、センターのHPを参照いただきたい18)。 6.予防も含めた今後の課題 ネット・ゲーム依存の予防や問題への対策も緒に就いたばかりである。一方で、ネット依存者は急速に増えていると推定されている。また、ネット・ゲーム依存の好発年齢は、わが国の将来を背負う若者であるという事実もある。以上を踏まえ、早急の対策が必要である。 現時点での対策はこのようなニーズに対応していない。それぞれの分野において、できる範囲でゆっくりと進んでいるのが現状である。例を挙げると、先駆的に予防教育を進めている地方公共団体の教育委員会や学校がある。また、ネットやゲームの過剰使用問題に対する相談対応も都道府県・政令指定市の精神保健福祉センターや国民・消費生活センター等で始まっている。当センターはネット・ゲーム依存の治療者、教育関係者、相談対応担当者育成のための研修を2014年から行っている。専門医療機関数は増えているものの、現時点のニーズに対応できるレベルにはほど遠い状況にある。そのために、多くの患者が専門外の小児科や児童思春期精神科外来などを訪れ、現場での対応が難しい状況になっている19)。また、治療プログラムや治療者のスキルが不均一という問題もあり、今後、マンパワーの育成だけではなく、治療の質を向上させるための治療ガイドラインの整備が必要である。 文献──────────── 1)American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Health Disorders, Fifth Edition(DSM-5). American Psychiatric Association, Arlington, VA, 2013(日本精神神経学会 (日本語版用語監修). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル, 医学書院, 東京, 2014). 2)World Health Organization: The ICD-10 Classification of Mental Health and Behavioural Disorders: Clinical Description and Diagnostic Guidelines. WHO, Geneva, 1992 (融道男, 中根允文, 小宮山実(監訳)ICD-10 精神および行動の障害: 臨床記述と診断ガイドライン. 医学書院, 東京, 1993). 3)WHO: ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics. https://icd.who.int/browse11/l-m/en. (2023年5月アクセス). 4)Matsuzaki T, Nishimura K, Higuchi S: Screening for forms of problematic Internet usage. Curr Opin Behav Sci in press. 5)Higuchi S, Osaki Y, KinjoA, et al: Development and validation of a nine-item short screening test for ICD-11 gaming disorder (GAMES test) and estimation of the prevalence in the general young population. J Behav Addict 10(2): 263-280, 2021. 6)久里浜医療センター. 依存症スクリーニングテスト一覧. https://kurihama.hosp.go.jp/hospital/screening/(2023年5月アクセス) 7)Young K: Internet addiction: The emergence of a new clinical disorder. Cyberpsychol Behav 1: 237-244, 1998. 8)Mihara S, Osaki Y, Nakayama H, et al: Internet use and problematic Internet use among adolescents in Japan: A nationwide representative survey. Addict Behav Rep 4: 58-64, 2016. 9)Alimoradi Z, Lotfi A, Lin CY, et al: Estimation of behavioral addiction prevalence during COVID-19 pandemic: a systematic review and meta-analysis. Curr Addict Rep 9: 486-517, 2022. 10)Mihara S, Higuchi S: Cross-sectional and longitudinal epidemiological studies of Internet gaming disorder: A systematic review of the literature. Psychiatry Clin Neurosci 71(7): 425-444, 2017. 11)Stevens MW, Dorstyn D, Delfabbro PE, et al: Global prevalence of gaming disorder: A systematic review and meta-analysis. Aust N Z J Psychiatry 55: 553-568, 2021. 12)Kim HS, Son G, Roh EB, et al: Prevalence of gaming disorder: A meta-analysis. Addict Behav 126: 107183, 2022. 13)Higuchi S, Nakayama H, Matsuzaki T, et al: Application of the eleventh revision of the International Classification of Diseases gaming disorder criteria to treatment-seeking patients: Comparison with the fifth edition of the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Internet gaming disorder criteria. J Behav Addict 10(1): 149-158, 2021. 14)Weinstein A, Lejoyeux M: Neurobiological mechanisms underlying internet gaming disorder. Dialogues Clin Neurosci 22(2): 113-126, 2020. 15)Higuchi S, Nakayama H, Matsuzaki T, et al: Application of the eleventh revision of the International Classification of Diseases gaming disorder criteria to treatment-seeking patients: Comparison with the fifth edition of the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Internet gaming disorder criteria. J Behav Addict 10(1): 149-158, 2021. 16)Lampropoulou P, Siomos K, Floros G: Effectiveness of available treatments for gaming disorders in children and adolescents: A systematic review. Cyberpsychol Behav Soc Netw 25(1): 5-13, 2022. 17)Stevens MWR, King DL, Dorstyn D, et al: Cognitive-behavioral therapy for internet gaming disorder: A systematic review and meta-analysis. Clin Psychol Psychother 26: 191-203, 2019. 18)久里浜医療センター: インターネット依存治療研究部門. https://kurihama.hosp.go.jp/hospital/section/internet.html.(2023年5月アクセス) 19)Tateno M, Matsuzaki T, Takano A, et al: Increasing important roles of child and adolescent psychiatrists in the treatment of gaming disorder: current status in Japan. Front Psychiatry 13: 995665, 2022. |