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■「中央調査報(No.787)」より

 ■ インターネット・ゲーム依存について


独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター
樋口 進


1.はじめに
 いわゆるインターネット(以後、ネットと略)依存の歴史はまだ浅く、問題視され始めたのは1990年代の後半である。2013年には米国精神医学会(APA)が、「精神疾患の診断・統計マニュアル第5版, DSM-5」に、インターネットゲーム障害(Internet gaming disorder)の診断基準を初めて収載した1)。しかし、これは正式な収載ではなく、今後の研究のための病態にリストされている。しかしながら、APAが基準を示したことで、その後ネット依存関係の論文発表は飛躍的に増えた。
 現在、我々が日常の臨床で疾病の診断や分類に使用しているのは、世界保健機関(WHO)が策定した国際疾病分類の第10版(ICD-10)である2)。新しい第11版(ICD-11)に向けた改訂作業は2005年頃から始まった。2013年時点のICD-11の草稿にはネット依存関連の診断名はなかった。筆者は当時多くのネット依存患者を診療しており、その疾病化が必要だと痛感していた。そこで、WHOに疾病化について検討するように強く働きかけ、そのための経済的支援も実施してきた。これをきっかけにして、2014年からネット依存の疾病化に関する検討プロジェクトが開始された。2014年の東京での会議を皮切りにして、毎年異なる国で専門家会議が開催された。この検討段階で、既存の医学的知見から、インターネットアプリ全体を対象とした依存概念(ネット依存)を構築するのは困難と判断された。しかし、電子ゲームに関しては、疾病化が可能と判断され、2019年の世界保健総会で、ゲーム行動症(gaming disorder)が無事にICD-11に収載の運びとなった。ICD-11はWHOにより2022年に発効しているが、わが国では翻訳の途上にあり、使用開始時期については明らかではない。なお、本稿ではゲーム行動症に代わり、一般的に使用されているゲーム依存という用語を使用し、その概念と診断、疫学、症状、治療および予防対策について略述する。

2.ゲーム依存の概念と診断
1)ゲーム行動症の診断等

 一般に依存とは、快感やワクワク感のような報酬をもたらす行動がエスカレートし、その結果、健康・社会・家族問題などが引き起こされている状態を指す。ゲーム依存もこの状態と一致している。表1にICD-11のゲーム行動症の診断要件を示す3)。表のように、持続的または反復的なゲーム行動パターンで、表のような3つの臨床的特性が認められる。診断は、これらの要件に加えて、様々な機能に重大な障害が生じており、それが長期継続している場合に下される。しかし、ゲーム行動の症状と影響が深刻な場合には12ヵ月より短くとも診断が可能とされている。以上の診断要件は漠然としているが、これを基にした診断ガイドラインが近く出版される予定である。

表1 ICD-11のゲーム行動症の診断要件
 既述の通り、ネット依存は疾病として確立されていないので、診断ガイドラインは存在しない。そのため、我々は外来を訪れる患者で、ゲーム以外のネットの過剰使用とそれに伴う明確な問題が存在する場合にはネット依存とみなして治療の対象としている。

2)スクリーニングテスト
 スクリーニングテストは、本人や家族が本人の問題の重症レベルを評価する場合、診断の補助、または、ある集団における有病率の推計等に使用される。ネット依存に関しては、既に数多くのスクリーニングテストが開発されている4)。ゲーム行動症については、我々が開発したゲームズテスト(GAMing Engagement Screener Test, GAMES Test)を推奨する5)。これは9問からなる短いテストで、基本的にそれぞれの項目に「はい」、「いいえ」で回答するようになっている。合計点が5点以上の場合、ゲーム行動症が疑われる。ゲームズテストはICD-11のゲーム行動症に特化したテストであるが、ネット、スマホ依存等のテストについても、久里浜医療センターのHPで公開されている6)

3.ネット・ゲーム依存の広がり
1)ネット依存

 ネット依存の好発年齢は思春期である。我々は、2012年~13年にかけて、全国の中学生・高校生約10万人に対する実態調査を行った。ネット依存の同定には、Youngによる診断質問票(DQ)の日本語版を使用した。その結果、男性の6.4%、女性の9.8%、全体で7.9%の中高生にネット依存が疑われ、その推計値は52万人であった7)。同様の調査票を用いて、2017年秋に全国の中高生約6万4千人に対して行った調査では、中学生の12.4%、高校生の16.0%にネット依存が疑われ、その推計値は93万人であった8)。従って、わずか5年間に、推計数は1.8倍に増加したことになる。
 2020年から始まった新型コロナパンデミックにより、わが国では学校閉鎖、ステイホーム推進、移動制限などの対策がなされた。世界的には長期にわたる都市のロックダウンが行われた国も多かった。このような対策はいずれも自宅で過ごす時間の延長に繋がり、その結果、ネット使用時間の延長や依存症状の悪化を引き起こしている9)。上記の中高生に対する調査はその後実施されていないが、仮に実施されていれば、それぞれの割合はもっと高くなっていると予想される。

2)ゲーム依存
 我々は海外のゲーム依存に関する疫学研究の包括的レビューを行い、その有病率は0.6%~27.5%であることを報告した10)。有病率は、若者や男性に高く、世界の地域差は認められなかった。この論文では、13の縦断研究のレビューも行っている10)。それによると、ゲーム障害のリスク要因として、ゲーム時間が長い、ゲームに寛容な環境、男性であること、父子・母子家庭、高い衝動性などが挙げられていた。一方、防御要因としては、高い自己評価、能力、社会性などが示唆されている。ゲーム依存の自然経過では、大人は自然に改善する傾向があるが、青少年ではその傾向が低いことが示唆された。
 ゲーム依存に関する国レベルの調査は、2019年の初頭に実施された。対象は一般の日本人から無作為に抽出された10歳~29歳の9,000名である5)。聞き取り調査と自記式調査を組みわせたこの調査の回答者数は5,096名(回数率56.6%)であった。既述のゲームズテストはこの調査のデータと専門外来を受診したゲーム依存の患者のデータを基に作成された。このテストの結果に基づくゲーム行動症が疑われる者の割合の推計値は5.1%(男性7.6%、女性2.5%)であった5)。年齢別にみると15-19歳が最も高く、7.6%であった。同じ年の10月に、10歳~79歳の一般人口に対する同様の調査が実施されているが、有病率の推計値については報告されていない。一般にゲーム行動症の有病率は思春期に最も高く、それ以後年齢ともに低下していく。そのため、全年齢の有病率の推計値は、10歳~29歳の値より低くなると推定される。
 青少年に限らない2009~2019年に発表された53研究、226,247人を対象としたメタ解析研究では、有病率は3.05%と推計されている11)。対象となった個々の研究をみると、有病率は、女性より男性が高く、欧米よりアジアの方が高く、出版年が新しいほど高い傾向にあった。また、当然のことながら、使用された評価尺度により差が明確であった。さらに、2020年3月までの61研究、227,665人を対象とした別のメタ解析では3.3%と報告されている12)

4.症状
1)患者背景

 我々は、わが国に先駆けて久里浜医療センターにネット依存専門外来を2011年に開設し、今までに2,500名以上の患者を診療してきている。広くネット依存患者を受け入れているが、受診患者のおよそ90%は、ゲーム依存またはゲームの過剰使用が主な問題となっている13)。患者の約50%は中高生で、70%は20歳未満である。男性患者が多く、未婚者がほとんどで、約3/4は学生である。全体的に、他のアプリ嗜癖者の方がゲーム関連患者より、平均年齢やネット使用開始年齢が高い傾向があった。

2)健康問題、家族・社会問題
 睡眠障害はネット・ゲーム依存患者のほぼ100%に見られる。部屋にこもりがちなため、体力低下も多くの患者に認められる。不規則な食事が原因で低栄養状態が続き、BMIが正常の下限以下になっている者が多くみられる。また、ネット・ゲーム依存は、脳の様々な部位の構造的・機能的障害に関係しているとのことである14)
 図1は久里浜医療センターを受診したゲーム依存患者が示した家族・社会問題の割合である13)。図のように、「朝起きられない」が80%、「欠勤・欠席」が51%、「昼夜逆転」が62%、「学業成績・仕事のパフォーマンス低下」が57%、「物を壊す・家族への暴言」が55%など、深刻な問題が高率に認められた。
図1 ゲーム依存患者が示す様々な問題の出現率(N=189)
 既述のコロナパンデミックは、患者の症状にどのような影響をもたらしたのであろうか。我々のネット依存外来を受診したゲーム行動症の再来患者のネット使用時間やゲーム時間はパンデミック前に比べてパンデミック後の方が有意に延長しており、症状の悪化を引き起こしていることが示唆された15)

5.治療
1)治療の概況

 世界的にもゲーム行動症の治療は、まだ緒についたばかりである。2010年以後に出版された治療に関する論文の系統的レビューによると、認知行動療法(CBT)またはCBTをベースにした治療が最多で、その有効性が示されている16)。2007~2018年に発表されたゲーム依存に対するCBTの有効性に関する論文のレビューによると、ゲーム依存の症状や関連するうつ・不安症状の軽減には有効であることが示されている17)。しかし、ゲーム時間については、効果が不明確であった。問題点として、対象となった全ての研究において、介入前後の評価の比較を行っており、エビデンスレベルの低いことが指摘されている17)
 ゲーム依存の薬物治療は全く初期の段階にある。適応が認可された治療薬は世界的にも存在しない。わずかに研究レベルでは、一部の抗うつ薬の有効性が示唆されている。また、合併する注意欠如多動症の治療薬がゲーム依存に対しても有効であったと報告されている。

2)久里浜医療センターにおける治療
 治療目標として、完全に止めるのが理想だが、様々な理由から実際には減ネット・ゲームとしている。これを達成する手段として、物理的にスマホやWiFiに制限をかけたり、取り上げたりはしない。原則的に、彼らに自分の問題を理解してもらい、自らネットやゲーム時間を減らす、または完全に止めるように決断させ、それに向けて努力するように導いている。実際の治療プログラム等については、紙面の制限もあるため、センターのHPを参照いただきたい18)

6.予防も含めた今後の課題
 ネット・ゲーム依存の予防や問題への対策も緒に就いたばかりである。一方で、ネット依存者は急速に増えていると推定されている。また、ネット・ゲーム依存の好発年齢は、わが国の将来を背負う若者であるという事実もある。以上を踏まえ、早急の対策が必要である。
 現時点での対策はこのようなニーズに対応していない。それぞれの分野において、できる範囲でゆっくりと進んでいるのが現状である。例を挙げると、先駆的に予防教育を進めている地方公共団体の教育委員会や学校がある。また、ネットやゲームの過剰使用問題に対する相談対応も都道府県・政令指定市の精神保健福祉センターや国民・消費生活センター等で始まっている。当センターはネット・ゲーム依存の治療者、教育関係者、相談対応担当者育成のための研修を2014年から行っている。専門医療機関数は増えているものの、現時点のニーズに対応できるレベルにはほど遠い状況にある。そのために、多くの患者が専門外の小児科や児童思春期精神科外来などを訪れ、現場での対応が難しい状況になっている19)。また、治療プログラムや治療者のスキルが不均一という問題もあり、今後、マンパワーの育成だけではなく、治療の質を向上させるための治療ガイドラインの整備が必要である。

文献────────────
1)American Psychiatric Association: Diagnostic and Statistical Manual of Mental Health Disorders, Fifth Edition(DSM-5). American Psychiatric Association, Arlington, VA, 2013(日本精神神経学会 (日本語版用語監修). DSM-5 精神疾患の診断・統計マニュアル, 医学書院, 東京, 2014).
2)World Health Organization: The ICD-10 Classification of Mental Health and Behavioural Disorders: Clinical Description and Diagnostic Guidelines. WHO, Geneva, 1992 (融道男, 中根允文, 小宮山実(監訳)ICD-10 精神および行動の障害: 臨床記述と診断ガイドライン. 医学書院, 東京, 1993).
3)WHO: ICD-11 for Mortality and Morbidity Statistics. https://icd.who.int/browse11/l-m/en. (2023年5月アクセス).
4)Matsuzaki T, Nishimura K, Higuchi S: Screening for forms of problematic Internet usage. Curr Opin Behav Sci in press.
5)Higuchi S, Osaki Y, KinjoA, et al: Development and validation of a nine-item short screening test for ICD-11 gaming disorder (GAMES test) and estimation of the prevalence in the general young population. J Behav Addict 10(2): 263-280, 2021.
6)久里浜医療センター. 依存症スクリーニングテスト一覧. https://kurihama.hosp.go.jp/hospital/screening/(2023年5月アクセス)
7)Young K: Internet addiction: The emergence of a new clinical disorder. Cyberpsychol Behav 1: 237-244, 1998.
8)Mihara S, Osaki Y, Nakayama H, et al: Internet use and problematic Internet use among adolescents in Japan: A nationwide representative survey. Addict Behav Rep 4: 58-64, 2016.
9)Alimoradi Z, Lotfi A, Lin CY, et al: Estimation of behavioral addiction prevalence during COVID-19 pandemic: a systematic review and meta-analysis. Curr Addict Rep 9: 486-517, 2022.
10)Mihara S, Higuchi S: Cross-sectional and longitudinal epidemiological studies of Internet gaming disorder: A systematic review of the literature. Psychiatry Clin Neurosci 71(7): 425-444, 2017.
11)Stevens MW, Dorstyn D, Delfabbro PE, et al: Global prevalence of gaming disorder: A systematic review and meta-analysis. Aust N Z J Psychiatry 55: 553-568, 2021.
12)Kim HS, Son G, Roh EB, et al: Prevalence of gaming disorder: A meta-analysis. Addict Behav 126: 107183, 2022.
13)Higuchi S, Nakayama H, Matsuzaki T, et al: Application of the eleventh revision of the International Classification of Diseases gaming disorder criteria to treatment-seeking patients: Comparison with the fifth edition of the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Internet gaming disorder criteria. J Behav Addict 10(1): 149-158, 2021.
14)Weinstein A, Lejoyeux M: Neurobiological mechanisms underlying internet gaming disorder. Dialogues Clin Neurosci 22(2): 113-126, 2020.
15)Higuchi S, Nakayama H, Matsuzaki T, et al: Application of the eleventh revision of the International Classification of Diseases gaming disorder criteria to treatment-seeking patients: Comparison with the fifth edition of the Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders Internet gaming disorder criteria. J Behav Addict 10(1): 149-158, 2021.
16)Lampropoulou P, Siomos K, Floros G: Effectiveness of available treatments for gaming disorders in children and adolescents: A systematic review. Cyberpsychol Behav Soc Netw 25(1): 5-13, 2022.
17)Stevens MWR, King DL, Dorstyn D, et al: Cognitive-behavioral therapy for internet gaming disorder: A systematic review and meta-analysis. Clin Psychol Psychother 26: 191-203, 2019.
18)久里浜医療センター: インターネット依存治療研究部門. https://kurihama.hosp.go.jp/hospital/section/internet.html.(2023年5月アクセス)
19)Tateno M, Matsuzaki T, Takano A, et al: Increasing important roles of child and adolescent psychiatrists in the treatment of gaming disorder: current status in Japan. Front Psychiatry 13: 995665, 2022.