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■「中央調査報(No.789)」より

 ■ コロナ禍の不安やストレス、ネット社会の中高生~「中学生・高校生の生活と意識調査2022」の結果から~


NHK放送文化研究所 世論調査部 中山 準之助


1.はじめに
 2022年の夏に、NHK放送文化研究所は全国の中学生・高校生の年齢にあたる人とその親を対象にした世論調査「中学生と高校生の生活と意識調査」(以降、「中高生調査」)を10年ぶりに実施した。
 今回対象となった中高生は、2004年から2010年に生まれた世代だ。2008年のリーマンショック後の経済の停滞があった頃に生まれ育ち、2008年にアップル社のiPhone、翌年にはGoogle社のOSを搭載したアンドロイド型スマートフォンが相次いで日本にも登場1)して以降のSNSサービス急拡大の時期に成長し、幼少期から身近に使える環境にある「ソーシャルネイティブ世代」とも言われる。
 また、新型コロナウイルス感染症の拡大などの社会の変化のほか、制度面でも2016年、18歳に投票権が与えられ、2022年4月には成人年齢が20歳から18歳へと引き下げられるなど、取り巻く環境や、社会の制度が大きく変わった時代を生きてきたとも言える。
 そうした令和の中高生のいまの生活実態、意識や価値観を捉えるため、「中高生調査」を実施した。なお、調査が行われた時期は、政府がマスク着用を推奨し、新型コロナウイルス感染症を感染症法上の「2類相当」としていた時期で、現在と状況が異なる点に留意されたい。
 調査の概要は、表1の通りである。

表1 調査の概要


2.コロナ禍の悩みやストレス
コロナ禍のストレス

 2020年の新型コロナウイルスの感染拡大以降、中高生たちは、学校でのマスクの着用や行事の中止など、さまざまな影響を受けてきた。中高生たちはどのような思いを抱いてきたのだろうか。まず「新型コロナウイルスの感染拡大によって、ストレスを感じていることがあるか」を図1の11項目から複数回答で選んでもらったところ、実に9割近い中高生が何らかのストレスを選んだ。
図1 コロナ禍のストレス(複数回答、 女子で回答の多い順)<男女別>
 男女別にみると、「気軽に外出できないこと」、「友だちと自由に遊べないこと」、「学校行事や部活動が中止になること」は女子で5割を超え、それぞれ男子の4割を上回る2)。また、「自分や家族が感染するかもしれないと考えること」は女子が43%で、男子の30%を上回る。一方、男子が女子を上回ったのは、「マスクを着用しなければならないこと」だけで、NHK放送文化研究所が実施した他の調査3)においても、コロナ禍でストレスが増えたのは、男性よりも女性が多いという結果がみられるが、中高生でも同様の傾向であった。

「何もやる気がしない」「不安になる」が『ある』高校生約4割
 心の健康について調べるため、図2の8つの不安定な心理状態について、どの程度感じることがあるかを尋ねた。
図2 不安定な心理8項目(『ある(よく+ときどき)』高校生の多い順)<中高別>
 中高別にみると、『ある』(「よくある」「ときどきある」の合計)は、高校生では、「何もやる気がしない」と「すぐ不安になる」が4割ほど、「学校に行く気がしない」が3割ほどで多く、いずれも高校生が中学生を上回った4)
 また、「消えてしまいたい」については、中高生ともに『ある』は1割台で、両者に差はないが、男女中高生別でみると(図3)、『ある』は、男子が中高ともに1割程度なのに対し、女子中学生は19%、女子高校生は22%で、女子が男子よりも多い。この他、図表は割愛したが、「何もやる気がしない」をはじめ、高校生で多い順の上位5項目においても、女子が男子を上回り、心理面の不安定さは、中学生よりも高校生、さらには、男子よりも女子で強い傾向がみられた。
図3 「消えてしまいたい」<男女中高別>


今の悩み「外見」女子で35%
 中高生に対して、「今、悩んでいることはあるか」図4の13項目から複数回答で選んでもらった。「成績、受験」と「将来のこと」が上位に挙がり、特に「外見」で男女差が大きく、男子が17%、女子が35%で、女子が男子を18ポイント上回った。
図4 今の悩み(複数回答、女子で回答の多い順)<男女別>
 コロナ禍の影響をとくに女子が被っていること、心理面での不安定さについても、女子のほうが高いことが見てとれた。「ソーシャルネイティブ世代」の今の中高生。次に、SNSの利用についてみていきたい。

3.中高生のネットの利用
「YouTube」は中高で約9割、「LINE」は中学生8割、高校生9割台

 中高生のインターネットの利用の実態はどうなっているのか。「インターネットを使っていない」と「無回答」を除く『インターネットを使っている』中高生は、全体の99%になっている。その彼らに対して、利用しているSNSを複数回答で尋ねた(図5)
図5 利用しているSNS(複数回答、『インターネットを使っている』と回答した人)<男女別>
 中高別にみると、中高ともに、「YouTube」と「LINE」が突出して多く、中学生では「YouTube」が89%、「LINE」が83%、高校生では「YouTube」が92%、「LINE」が95%となっている。高校生が、中学生を上回ったのは、「LINE」、「Instagram」、「Twitter」で、特に「Instagram」と、「Twitter」は、高校生が中学生より30ポイントほど多く、高校生になると利用が急激に増える実態がみてとれる。また、「Instagram」の利用は、男子高校生で65%であるのに対し、女子高校生では75%とより多く、男子より女子でより使われていることが確認できた。

インターネットの利用時間「2時間くらい」が中高ともに3割弱で最多
 「インターネットを使っている」と回答した人に、平日(夏休みなど学校が休みの日は除く)1日の平均利用時間を図6の7つの選択肢から選んでもらったところ、最も多いのは、「2時間くらい」で、中高ともに3割ほど、また高校生では「3時間くらい」も24%と多い。
図6 インターネットの利用時間(『インターネットを使っている』と回答した人)<中高別>
 なお、テレビについては、中学生の25%、高校生の38%が「ほとんど見ない」と回答し、メディアの利用としてはインターネットが中学生、高校生に浸透している状況がみてとれる。投稿反応少なくても『不安にはならない』
 それでは、中高生は、どのような意識で、インターネットを使っているのだろうか。『インターネットを使っている』という人の99%にあたる「SNSを利用している」人のうち、「投稿することがある」人は44%であった。「投稿することがある」人に、「反応が少ないと、不安になるか、それとも不安にならないか」を尋ねた(図7)
図7 「SNS上の承認欲求」(「SNSで投稿することがある」
と回答した人)<中高別>
 中学生、高校生ともに、『不安にはならない(あまり+まったく)』が、『不安になる(とても+やや)』を上回り、特に、高校生では『不安にならない』が84%と、『不安になる』の17%を大きく上回った。なお、男女差は特にはない。

「不特定多数の人」に向け投稿 中高ともに4人に1人
 では、「誰に向けて投稿しているのか」、図8の4つの項目から複数回答で選んでもらった。
図8 SNSの投稿対象(複数回答、「SNSで投稿すること
がある」と回答した人)<男女中高別>
 男女中高別にみると、「友人や知人」が8割前後と多く、「不特定多数の人」が2割台だった。「家族や親せき」は、男子中学生で24%、女子中学生で36%なのに対し、高校生では男子、女子ともに12%と少なく、特に女子では中学生より20ポイント以上少ない。
 特に「不特定多数の人」をあげたのが、中学生、高校生ともおよそ4人に1人にのぼる点は特筆すべきであろう。年齢が上がるに従って、ネットによる新たな人間関係のできる可能性が高くなることがうかがえる。
 現在は小学校でも警察関係者が学校に出向き、ネットの使い方の危険例を紹介するなどの授業が早い段階から行われるようになり、リテラシーの基礎となる情報は届けられている。コロナ禍でオンライン授業の活用も進み、ネットの利用が広がる中で、子どもたちに、犯罪や事件、危険な事例の情報を伝えていくことはもちろんだが、同時に、ITツールを活用して世界を広げていけるようなサポートも必要になっていくであろう。

4.SNSでの人間関係の変化
「SNSだけで、会ったことがない友だち」『いる』高校生で4割

 次に、ネット環境が急速に変わる中での中高生のコミュニケーションの意識を探りたい。今回、友だちの数について、「SNSだけのつきあいで、実際には会ったことがない友だち」がどれぐらいいるのか、図9の4つの選択肢から1つを選んでもらった。結果は、中学生では、「いない」が73%で最も多いものの、会ったことがない友だちが1人以上『いる(1人+2~3人+4~9人+10人以上)』と答えた人が26%にのぼる。さらに、高校生では、「いない」が58%、1人以上『いる』と答えた人は42%と、4割に達する。
図9 SNSだけのつきあいで、実際には会ったことがない友だち<中高別>
 また、「SNSで知り合って、実際に会うようになった友だち」について尋ねたところ(図10)、「いない」が、中学生で92%、高校生で85%と最も多い一方で、1人以上『いる』と答えた人が高校生では14%と、2けたに達した。ネット社会の急速な進展で、こうした関係構築が更に広がっていくのか今後が注目される。
図10 SNSで知り合って、実際に会うようになった友だち<中高別>


「深刻な悩みを相談できる友だち」が「いない」は中高ともに約2割
 ネットを介して、新しい形の友人関係を築く中高生が一定数いる中で、リアルな友人関係はどうなのか。
 「いじめなど深刻な悩みごとを相談できる友だち」についても尋ねたところ(図11)、中高生ともに「2~3人」が最も多い(中学生38%、高校生46%)。ここで注目したいのが「いない」で、中学生は21%、高校生も17%と、2割前後である。ネットという人間関係を広げるツールが浸透する一方、悩みを相談できる人がいないのが、5~6人に1人いることは、留意すべきであろう。
図11 いじめなど深刻な悩みごとを相談できる友だち<中高別>


悩みや心配ごとの相談相手 高校生「友だち」4割「お母さん」3割
 では、そうした悩みを誰に打ち明けているのか。「悩みごとや心配ごとを相談するとしたら、主に誰に相談するか」を尋ねたところ(図12)、中学生では、「友だち」と「お母さん」が3割台で同程度、高校生では、「友だち」が43%で最も多く、次いで、「お母さん」が30%である。「お母さん」は「友だち」と同様、相談相手として重要な位置を占めている。
図12 悩みや心配ごとの相談相手<中高別>
 親からの視点でもみてみる(図13)。父母に対して、「子どもが悩みごとや心配ごとがあるときに、主に誰に相談すると思うか」を尋ねたところ、父親では、「母親」が64%で最も多く、「友だち」が16%であった。一方、母親では、「母親(自分)」が44%で最も多く、次いで「友だち」が30%、「父親」は5%である。中高生自らが考えているよりも、親、特に父親は「相談相手は母親」と思う人が多くなっている。
図13 父母 子どもが悩みや心配ごとを誰に相談すると思うか


子どもの友人関係『把握している』 父親4割 母親9割近く
 一方、「父親」をあげているのは、中高生も母親も父親自身も5~6%になっている。
 「子どもの友だち関係について、どの程度把握しているか」を親に尋ねた質問では、父親は、「ほとんど把握している」が4%、「ある程度把握している」が39%で、合わせて『把握している(ほとんど+ある程度)』が44%にとどまった。一方で、母親は、「ほとんど把握している」が21%、「ある程度把握している」が66%で、合わせて『把握している』は87%と9割近い(図14)。悩みの相談先として、「父親」の存在感が薄い背景には、子の友人関係を『把握していない』が多い点も影響しているのではなかろうか。
図14 父母 子どもの友人関係の把握
 SNSが浸透し、コミュニケーションも多様化する中で、子どもたちを支える人が「母親」に限られる必要はないはずである。そこには、「父親」がいてもよいし、地域の大人がいてもよい。複雑化する社会における子どもたちの思いについて最後に迫りたい。

5.将来に向けて
『自信あり』と『自信なし』中高で逆転  高校生『自信なし』が多い

 中高生に対して、「自分に自信があるか」を尋ねたところ、自分に『自信あり(とても+ある程度)』の人は中学生では51%、高校生では45%で、中学生が多い。一方『自信なし(あまり+まったく)』の人は中学生では49%、高校生では55%で、高校生のほうが多い(図15)
図15 自分に自信<中高別>
 一方で、自分の将来への「不安」を尋ねたところ、『不安あり(とても+やや)』が、中学生では7割台、高校生では8割台で、『不安なし(あまり+まったく)』を大きく上回る(図16)。年齢が上がるに従って、自信がなく、不安が拡大する傾向がある。
図16 将来への「不安」<中高別>


18歳から大人 高校生で「早い」5割超 母親では「早い」7割
 では、いま現在、大人になる準備はできているのだろうか。「18歳から大人として扱われることについてどう思うか」を尋ねたところ、中学生では「早い」が4割、高校生では「早い」が5割を超え、「ちょうどよい」を上回る。学年別にみると、18歳になる可能性のある高校3年生で、「早い」が58%と最も多く、特に女子高校生では、「早い」が62%で、「ちょうどよい」の36%を大きく上回った(図17)
図17 18歳で大人<男女中高別>
 父母に対しても、「18歳から大人として扱われることについてどう思うか」を尋ねたところ、父親で、「早い」は5割ほど、母親では、「早い」が70%で、「ちょうどよい」(28%)を大きく上回った(図18)
図18 父母 18歳で大人
 制度の面で、国が自立を促す政策を進めている一方で、いよいよ大人になるタイミングで親を含めて「早い」と感じる人たちがいて、大人に近づけば近づくほど『自信なし』や、将来への『不安あり』の人が多い点を見ても、自立を促すサポートを、学校だけでなく、社会全体でもしっかりと行うとともに、自信を持ち、将来に向け明るい展望を抱ける世の中にする努力を大人側もしていく必要があるのではなかろうか。

6.まとめ
 以上、「中高生調査」の結果から、3年間続いてきたコロナ禍のストレスと、ネット社会を生きる中での人間関係と意識についてみてきた。
 特に、ソーシャルネイティブとも言われる世代らしく、SNSを使いこなし、新たな人間関係も築いている現状が見てとれ、劇的な変化の時代も柔軟にたくましく生きている姿が垣間見られた。その一方で、対面の人間関係は今でも、悩みの相談など非常に大事な点である。
 コロナ禍の影響から家庭にいる時間が以前より多くなったとされる中高生であるが、友だちに加えて母親の存在感がある一方、父親やあるいは周囲の大人が果たせることもまだあるのではないか。
 18歳成人など、制度の面だけでなく、教育や家庭、社会がともに子どもたちの明るい未来を描ける世に変えていくためにも、大人側も変わっていく必要があるのだと考える。



1) 総務省 『令和元年版 情報通信白書』
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r01/html/nd111110.html
2) 選択肢を囲う『 』は複数の選択肢を合算している場合、「 」は単独の場合を示している。なお、『 』の%は選択肢を単純に足し挙げたものではなく、各選択肢の実数を足し挙げて再計算したものである。
3) 小林利行・村田ひろ子、2022、「コロナ禍は暮らしや意識をどう変えたのか~新型コロナウイルス感染症に関する世論調査(第2回)」の結果から~」、NHK放送文化研究所、『放送研究と調査』2022年7月号
4) 互いに独立な%の検定(信頼度95%)を行った結果(以下同様)