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■「中央調査報(No.794)」より

 ■ 「主体的に学習に取り組む態度」を肯定するのは誰か?―「高校入試制度と学校生活に関する調査」データの分析事例から―


田垣内義浩(東京大学大学院 教育学研究科 博士課程)
中村 高康(東京大学大学院 教育学研究科 教授)


はじめに~「高校入試制度と学校生活に関する調査」の仕様~
 今日の社会においては「人が人を選ぶ」様々な局面が存在する。そうした「選抜」の局面の中でも、その人の人生にとって様々な社会的活動のチャンスを制約してしまうような大きな局面がいくつかある。入試制度は、教育システムにおけるそうしたチャンスの分岐を生み出すものとして、学術的にも注目されてきた。日本におい ては、そうした選抜は主として高校入学段階と大学入学段階に集中的にみられてきたものであるが、研究上注目度の高い大学入試に比べて、高校入試はほとんどすべての中学生が巻き込まれる一大イベントでありながら、十分な研究蓄積がない状況であった。
 そこで、私たちは、社会の選抜システムの一つとして社会学的に高校入学者選抜をとらえ、この選抜システムがもたらす教育的・社会的な影響を、調査によって仔細に明らかにすることを目指した。研究グループではすでに2020年度に登録モニターのサンプルを用いた簡便な全国調査を実施していたが(中村・林川2020)、高校入学者選抜制度が都道府県ごとに異なっていることを踏まえ、2022年度に東京都とX県の二つの都県を調査対象として、重点的に個別の選抜制度や高校入試の実態を踏まえた事例的アンケート調査を、中央調査社に委託して実施することにした。調査の概要は以下のとおりである1

調査の概要

 私たちはこの調査データを目下分析中であるが、その分析例の一つとして「主体的に学習に取り組む態度」の分析結果を以下で紹介したい。

1.高校入試における「主体的に学習に取り組む態度」の立ち位置
 本稿では、成績評価の「主体的に学習に取り組む態度」を肯定するものの諸特徴を明らかにしておくこととする。
 中学校では、令和3年度より新学習指導要領が全面実施され、成績評価の「観点別学習状況の変化」に変更があった。具体的には、従来、「知識・理解」「技能」「思考・判断・表現」「関心・意欲・態度」の4観点であったが、「知識・技能」「思考・判断・表現」「主体的に学習に取り組む態度」の3観点に修正された。「主体的に学習に取り組む態度」は、名称自体は新しいものの基本的に「関心・意欲・態度」の趣旨を引き継ぐものである。その中で名称の変更が行われたのは、「関心・意欲・態度」の時代には挙手の回数など表面的な部分に偏って評価されるきらいがあったためである(文部科学省 2019)。「主体的に学習に取り組む態度」はそうした従来の傾向から脱却し、「関心・意欲・態度」の趣旨を徹底することを目的に導入されたといえる。
 高校入試では学力検査と調査書(内申書)がセットで選抜資料として利用される点に独自性があるが、「主体的に学習に取り組む態度」は調査書にも記載される重要な項目である。また、調査書の成績項目の中でも、「主体的に学習に取り組む態度」は学力検査では測定が難しい評価項目であるため、別途検討する意義が大きい2
 この通り、注目に値する対象である「主体的に学習に取り組む態度」であるが、実は学術研究における蓄積は思いのほか少ない。そこで本稿では、「主体的に学習に取り組む態度」に対する意識の側面からこの問題に焦点を当ててみることとしたい。具体的に、「主体的に学習に取り組む態度」の項目を肯定するのはどのような特徴をもつ生徒なのか明らかにする。
 その際には、「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さを合わせ鏡として使用する。「主体的に学習に取り組む態度」への意識を考える場合、評価が高い生徒がまずそれに肯定することが想定できるからである。ところが実際には、成績評価の高さと意識の関係は予想より強固とはいえないという少し意外な結果が本稿では示されることとなる。となると、肯定意識の背景を理解する上で成績評価の高さとは別の要因を考慮していくことが別途求められる。そこで本稿では、「主体的に学習に取り組む態度」の肯定意識を規定するものは何なのか、その謎に迫っていくこととしたい。

2 .「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さと肯定意識の関連
 まず、「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さと肯定意識のそれぞれについて、東京都とX県に分けた上で基本的な分布を示す。なお、以降の分析ではすべて高校受験を経験したものに限定している。
 最初に、「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さについて、「内申書の「主体的に学習に取り組む態度」の評価は高かった」という項目から確認しておくと(図1)3、どちらの都県でも3分の2程度が高かったと回答していることがわかる(東京都:68.5%、X県:69.0%)。続いて、「主体的に学習に取り組む態度」の肯定意識について、「成績評価に「主体的に学習に取り組む態度」の項目があるのは良いことだ」から検討してみると(図2)、こちらも3分の2程度が肯定していることが読み取れる4

図1 地域×「主体的に学習に取り組む態度」の評価は高かった

図2 地域×「主体的に学習に取り組む態度」の肯定意識

 この通り、成績評価の高さをみても肯定意識をみても、どちらも3分の2程度が肯定していることは同様の傾向である。ここからは、やはり評価の高いものが肯定するという直線的な関連が想像される。そこで、両者をクロス表により検討してみたのが、図3である。ここでは図表の解釈を容易にするため、評価の高さも肯定意識もそれぞれ四件法を二件法にまとめている。

図3 「主体的に学習に取り組む態度」の高さ× 肯定意識× 地域

 東京都から結果を確認してみると、予想通り、評価の高い方(75.3%)で低い場合(44.6%)よりも肯定する傾向が明確である。クロス表の結果、0.1%水準で有意であり、関連の強さを表すクラメールのVも0.300とそれなりに大きい。
 ただし、ここで注目してほしいのが、評価が低い場合であっても4割以上のものは肯定している事実である。ここからは、単純に評価の高さのみで説明しきれないメカニズムが肯定意識には存在することが示唆される。
 X県の結果はより示唆的である。つまり、評価の高い方(77.9%)と低い方(67.1%)で10%水準でしか違いが認められない。「主体的に学習に取り組む態度」の項目の評価は低いにもかかわらず、なぜかそれに肯定してしまう、そうした倒錯した意識が伺える。
 たしかに「主体的に学習に取り組む態度」の肯定意識を考える上で、成績評価の高さは重要である。ただし、想定以上にその関連は強固ではない。このことから、評価の高さのみによる説明は難しいと考えられること、となると肯定意識の背景を理解する場合には他の何かしらの要因をみつけていくことが重要であることが理解できる。次に評価の高さと肯定意識のそれぞれが成績の高さなどの基本的特徴とどのように関連しているかみることで、両者をそれぞれ別個でみることが重要とする上記の視点を改めて確認していくこととしたい。

3 .「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さや肯定意識と他変数との関連
 続いて、「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さと肯定意識のそれぞれが、成績の高さなどの基本的特徴とどう関連しているのか検討する。ここでは、性別、中3時成績、親学歴との関連を確かめる5
 まず、「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さについてみていこう(東京都:図4、X県:図56
想定できる通り、(地域差はあるものの)上記の基本的特徴によって「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さは分化していることが明らかである。性別は、男子より女子の方が10~20ポイント程度高く、女子の方で順応度が高いといえる。成績は、「主体的に学習に取り組む態度」の項目が成績評価の一部分になると考えると当然であるが、下位より中位、中位より上位の方でこちらも約20ポイント高い7
親学歴は、東京都では「両親とも非大卒」より「両親ともに大卒」や「どちらか大卒」の場合に、15ポイント程度高くなっている。一方、X県ではこのような違いは見出せない8

図4 基本的特徴×「主体的に学習に取り組む態度」の高さ(東京)

図5 基本的特徴×「主体的に学習に取り組む態度」の高さ(X県)

 この通り、評価の高さについては基本的特徴による明瞭な分化がみられたが、「主体的に学習に取り組む態度」の肯定意識ではどうか。結果をみると、総じて思ったほどには関連がみられないことがわかる。関連がないどころか、成績については評価の高さとは異なるベクトルで有意になるなど予想外の結果もみられる。この点について次に確認しておく(東京都:図6、X県:図79
 性別について、評価の高さは男子より女子の方が高かったが、肯定意識は女子で有意に高くなることはない。次に、成績について、評価の高さは成績が上がるほど直線的に高くなっていたが、肯定意識にはそうした関連はない。それどころか、東京都では成績中位でもっとも高い傾向さえみてとれる(たしかに上位もほぼ肯定率は変わらないが)。また、X県ではそもそも有意にすらなっていない。(有意ではないものの)比率自体は成績中下位で高いようにみえるのは、評価の高さでみられた顕著な成績差を合わせ鏡にすると、かなり特異な結果である。親学歴については、どちらの都県でも学歴が高い場合に肯定度が上がる傾向はみてとれない。
 以上の結果をまとめると、性別・成績・親学歴という基本的特徴により評価の高さ自体は明確に規定されるが、それが肯定意識につながるかというとそうではない。ここからも、「主体的に学習に取り組む態度」には評価の高さと肯定意識の間にねじれた構造が存在することが示唆される。
 それでは、「主体的に学習に取り組む態度」の肯定意識はいかなるメカニズムのもと生じていると理解すればよいのだろうか。続いて、多変量解析を行うことで、複雑なメカニズムの一端を解きほぐしていくこととする。

図6 基本的特徴×「主体的に学習に取り組む態度」の肯定意識(東京)

図7 基本的特徴×「主体的に学習に取り組む態度」の肯定意識(X県)


4 .「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さと肯定意識の規定要因に関する分析
 続いて、「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さと肯定意識それぞれについて、多変量解析を実施することで双方の傾向性の違いを再度確認するとともに、それでは「主体的に学習に取り組む態度」の肯定意識がいかに生まれるといえるのか明らかにしていきたい。  まず、「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さについて。これまで検討してきた性別や成績などの諸特徴とともに、評価の高さと関連しそうなそれ以外の要因を加えて規定要因を検討したのが次のロジスティック回帰分析の結果である(表1)
表1 「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さに関するロジスティック回帰分析

 モデル1は、先ほど関連をみた基本的特徴を投入したものとなる。具体的に、性別(女性ダミー)、中3時成績(上位ダミー、中位ダミー)、親学歴(両親とも大卒ダミー、両親どちらか大卒ダミー)、東京ダミーである。分析からは、先述した結果を裏づけるように性別と中3時成績が有意であることがわかる。その一方で、親学歴は10%水準で有意であるに過ぎず、ここからは中3時成績を媒介した間接的な影響が示唆される10
 モデル2は、上記の基本的な特徴とは別に、学校への適応度や教員との相性を考慮に入れたものである。学校が好きでなかったり、教員との相性が良くなかったりする場合、挙手や発表・発言などの行動は積極的にはなされづらくなり、結果として「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さにも響いていくと想定できるからである。
 本調査では、学校への適応度や教員との相性に関して、次のような変数群を設定している(羅列すると、「自分の学校が好きだった」「先生のことが好きだった」「学校に行きたくないことがあった」「先生は自分を正しく評価してくれた」、それぞれ「あてはまる」~「あてはまらない」の4件法)。これらは、クロス表でみた時、「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さとも肯定意識とも、ほとんどの場合で関連が強い。
 モデル2では、もっとも「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さと関連が強かった「先生は自分を正しく評価してくれた」をダミー変数化(肯定=1、否定=0)して投入した。すると、モデル1でみた他変数の影響を差し引いたとしても、「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さと強く関連することがわかった。それ以外にも、上で羅列した変数はいずれも、多くの場合に同様の結果を示すことも確認している(数値は省略)。ここからは、学校への適応度や教員との相性が「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さと関連を持っていることがわかる。また、モデル1で検討した基本的特徴の係数はあまり変化していないことから、こうした基本的特徴とは別ルートで学校への適応度や教員との相性という要因が「主体的に学習に取り組む態度」の評価につながっていくことがわかる11
 また、本調査では調査書評価の高さと関連すると予想される提出物の提出や授業中の積極的な発言など25項目にわたる中学時代の行動経験を尋ねているという独自の特徴がある。そこで、こうした点をモデル3にて検討してみることとした。ただし、25個の項目それぞれについて「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さと関連するかみていくとかなり煩雑になる。そのため、25個の項目を因子分析にかけた上で、中学校時代の行動に関する因子を抽出することとした。因子分析の推定法は最尤推定法、回転法は斜行回転とした。因子数はscree法や解釈のしやすさを考慮して4に設定した。その結果、次のように解釈できる因子が抽出された。
 第一因子は、「学校内のその他の係や委員に自分から進んでなったことが多い」「ボランティア活動を積極的にやった」「部活動に積極的に取り組んだ」「同級生や後輩の面倒をよく見てあげた」「生徒会・委員会活動に積極的に取り組んだ」「学級活動に積極的に取り組んだ」「授業中は積極的に発言した」「運動会などの学校行事に積極的に参加した」の負荷が高く、これらには「進んで」や「積極的」と形容されるものが多いため、この因子を積極性因子と名づけた。
 第二因子は、「定期テストの成績が上がるようにがんばった」「小テストをがんばった」の2つの項目のみで負荷が非常に高い結果が得られたため、この因子はテスト因子とした。
 第三因子は、「先生によくしかられた」「先生に反発することがあった」「よく忘れ物をした」の正の負荷が高く、「校則を守った」「授業をまじめに聞いていた」「掃除の時間はまじめに掃除をした」「提出物はきちんと提出した」の負の負荷が高いため、この因子をふまじめ因子と名づけた。
 第四因子は、「遅刻が多かった」「欠席が多かった」の負荷のみが高い結果となったため、怠学因子とした。
 以上、因子分析の結果抽出された4因子を投入したのがモデル3となる。これをみると、性別や成績の影響が弱まる傾向が示唆されることから、これら2変数による「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さへの影響は今回投入した中学時代の行動経験を媒介して生じていると理解できる。
 次に、4因子のどれが「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さと関連しているかみてみると、積極性因子とふまじめ因子が関連するのに対して、テスト因子と怠学因子は有意でないことがわかった。これは、「主体的に学習に取り組む態度」が何により評価されるかセットで検討すると納得のいく結果である。先述した通り、「主体的に学習に取り組む態度」は主にノートやプリントの提出、授業中の取り組みや態度で評価されると想定できる。ここから、「授業中は積極的に発言した」が含まれる積極性因子、「よく忘れ物をした」「授業をまじめに聞いていた」「提出物はきちんと提出した」が含まれるふまじめ因子が有意なのに対して、「知識・技能」「思考・判断・表現」との関連が強いテスト因子、各教科の評価というより学校生活全体の評価として調査書に記載される怠学因子が非有意であることも理解のできる結果である。
 以上の評価の高さでの検討を踏まえて、続いて同様の分析を、「主体的に学習に取り組む態度」の肯定意識について行っていく(表2)。そうすることで、評価の高さと肯定意識の両者には異なるメカニズムが存在していることを再確認するとともに、それでは何が肯定意識の背景にあるのか明らかにしていくこととする。
表2 「主体的に学習に取り組む態度」の肯定意識に関するロジスティック回帰分析

 まず、性別・成績・親学歴という基本的な特徴を考慮したモデル1をみると、先にみた通り性別・親学歴の影響力はない一方、(東京都でみた結果を裏付けるように)10%水準ではあるが成績は下位と比較した時に中位で肯定する傾向にあることがわかった。地域については、東京都で否定する方向に動いていることが示唆される。
 次に、「先生は自分を正しく評価してくれた」を投入したモデル2では、やはり先生が正しく評価してくれた生徒で肯定する傾向にある。また、この変数を考慮することで東京ダミーが有意でなくなっていることから、媒介関係の存在が推測される。実際に、傍証とはなるが、東京都の方でX県よりも「先生は自分を正しく評価してくれた」とする比率は10ポイント程度低い。(こうした結果が得られた背景を理解することは困難だが)教員との関係性がやはり「主体的に学習に取り組む態度」への意識を左右していること自体は読み取れる。学校や教員との相性が良いかどうかにも性別など諸特徴は関連してくるだろうが、それでもこれらの要素はどうした地域に生まれ、そこにいかなる(公立)中学校が存在し、そこでどうした教員と出会ったか、というように運的要素が比較的強いと考えられる。成績などの基本的特徴のみならず、通学する学区や学校、担当する教員との適合度という側面も今後検討を深めていくことが求められる。
 続いて、調査書の評価の高さと関連しそうな中学時代の行動経験に関する4因子を投入したモデル3をみると、先ほどの評価の高さと同様に、積極性因子(10%水準)とふまじめ因子が関連するのに対して、テスト因子と怠学因子は有意ではない。
 そして、ここで重要なのが、これらの変数を投入することにより、肯定意識の規定メカニズムを理解する上でのきっかけが徐々に浮かびあってくることである。以下で具体的に検討してみよう。
 まず注目すべきなのは、これら因子得点に関する変数を投入したときに、成績の影響力が大きく変わることである。まず、成績上位ダミーが有意となっている。特に、テスト因子を投入したときにより顕著にその傾向が現れる。ここから読み取れるのは、次の点である。つまり、成績上位はそもそもこれら中学時代の行動をとりやすい傾向にあるため、「主体的に学習に取り組む態度」の評価自体は高い傾向にあり、基本的には有利な側に立つ。そのため、ロジスティック回帰分析でみた時に、成績下位と比較して否定することはない。ところが、ひとたびこれらの行動を取るという条件を揃えてしまうと、実は「主体的に学習に取り組む態度」には否定する方向に意識が変わってしてしまうということである。
 次に、成績中位ダミーが非有意になっている。これは積極性因子を投入することで生じている。つまり、成績中位は「主体的に学習に取り組む態度」の評価と連関する積極的に発言するなどの行動を取るということを通じて、「主体的に学習に取り組む態度」自体には肯定的になるということである。
 以上の結果は、先に検討した「内申書の「主体的に学習に取り組む態度」の評価は高かった」について、あてはまるを1、あてはまらないを0とダミー変数化して投入したモデル4でも裏付けられる。まず、「主体的に学習に取り組む態度」の評価が高いものがそれを肯定するという至極当然の結果がみられる。一方で重要なのが、本変数を入れることで、成績上位ダミーが有意になるのに対して、成績中位ダミーは非有意になることである。つまり、成績上位層は基本的に「主体的に学習に取り組む態度」の評価は高いためそれに肯定的になるものの、ひとたびこの前提を統制してしまうと「主体的に学習に取り組む態度」で評価されることに批判的になる。一方で、成績中位層は「主体的に学習に取り組む態度」の評価が高いことを通じて、「主体的に学習に取り組む態度」を評価されることに肯定するということができる12

5 .まとめと考察
 本稿では、調査書(内申書)の成績評価に「主体的に学習に取り組む態度」の項目が含まれることへの肯定意識の実態とそれが生じるメカニズムを考えてきた。その結果、「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さに関しては、成績や性別という基本的特徴により分化するのに対して、「主体的に学習に取り組む態度」の肯定意識に関してはそれほど明瞭な違いが生じないことがわかった。これは、成績が下がるほど、また男子ほど「主体的に学習に取り組む態度」の評価自体は低い傾向があるにもかかわらず、それらの層で「主体的に学習に取り組む態度」への肯定度が下がるかといえばそれほど強くはその関連がみられないことを意味する。
 この背景には、たしかに「主体的に学習に取り組む態度」の評価は低いのだが、(とりわけ成績中位層にて)学力検査と比べればまだ好ましいという意識が存在することが示唆される。例えば、本調査では高校入試における学力検査点と内申点の理想的な比率を尋ねた項目があるが、そちらを「学力検査重視」「学力検査と内申点を同等に重視」「内申点重視」の3つのカテゴリーにまとめたとき、成績上位と比べて成績中下位で「学力検査重視」以外の2つのカテゴリーに該当する割合が高くなる13
本稿で検討してきた「主体的に学習に取り組む態度」を学力検査とは異なる調査書の独自性と捉えるならば、以上の結果は「主体的に学習に取り組む態度」が高校入試において有利と想定できる成績上位層とは異なる層の入試経験を支える制度としてまさしく機能していることの傍証となる。
 一方で、それではなぜ成績中下位と比べて成績上位で「主体的に学習に取り組む態度」への肯定意識が低くならないかというと、基本的に成績上位層は「主体的に学習に取り組む態度」の評価が高く、入学者選抜において有利な立場にいるからである。そのため、先ほど示したように、内申点よりも学力検査の方を重視してほしいとしつつも、基本的に「主体的に学習に取り組む態度」を否定することはない。しかし、この傾向は有利にゲームを進められるという条件付きである。実際に、先ほど言及したように、「主体的に学習に取り組む態度」の肯定意識の規定要因に関するモデルに実際の「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さを追加で投入してみると、もともと有意ではなかった成績上位ダミーの影響力が浮上し、主体性評価を否定する方向に動く。そのため、基本的に成績上位は「主体的に学習に取り組む態度」の評価も高いためそれを否定することはないが、一旦評価が高いという前提が取り外されてしまうと、一気に主体性評価の否定論者になってしまう可能性がある。中村(2011)が示す通り、成績上位層が調査書よりも学力検査(筆記試験)に賛成するという傾向は大学入試においてもみられることから、学力検査が意識の面においてエリート選抜の規範となっているといえるだろう。
 この通り、「主体的に学習に取り組む態度」の肯定意識と実際の評価の高さのねじれた結果の解明を通じて興味深い構造を明らかにできたと考えているが、一方で課題は多い。一例を挙げるならば、本稿では成績については一貫した解釈ができたと考えているものの、性別や地域でみられた結果の背景は十分に理解できなかった。今後は、これらの点について検討を深めることで、「主体的に学習に取り組む態度」、ひいては調査書選抜や高校入試を取り巻くメカニズムをより精緻にしていくことが重要であろう。


1 調査の詳細は中村高康編(2023)『高校入学者選抜システムの地域間比較:その教育的・社会的影響の多様な在り方に関する社会学的研究』(第一生命財団)を参照。
2 具体的に、調査書における成績評価のうち「知識・技能」「思考・判断・表現」は定期テストなど学力検査との類似性が比較的高い項目で評価されるが、「主体的に学習に取り組む態度」はノートやプリントの提出、授業中の取り組みや態度など相対的にテスト的な要素とは異なる部分で評価されると想定される。
3 もちろん、ここでわかるのは回答者による主観的な評価の高さであるという限界がある。しかし、中学時の成績というと5段階の自己評価を用いることが一般的な社会調査の現状を踏まえると、調査書の中でも「主体的に学習に取り組む態度」を取り出してその特徴を探ろうとすること自体稀少な試みであり、以後はそのメリットを活かした分析をおこなうこととする。
4 ただし、地域別にみると若干の違いがあり(5%水準で有意)、東京都(65.5%)よりX県(74.3%)の方で肯定率が高い。このことから、肯定意識の背景には何かしらの地域的な影響の存在が伺える。
5 中3時成績は、5教科の成績に関する5段階の自己評価を上位・中位・下位の3段階に置き直している。
6 ここで、「主体的に学習に取り組む態度」の評価の高さは高い層と低い層に二分割している。
7 「主体的に学習に取り組む態度」はテスト的な要素とは異なる部分を評価することから、テスト一発勝負では評価が低くなってしまう成績下位のものにとっての救いになっているかは注目すべき部分である。ただし、この結果からは、「主体的に学習に取り組む態度」においてもなお成績による顕著な違いがあらわれる可能性が高いことが読み取れる。
8 この背景には、X県が地方県のため、「両親とも大卒」のサンプルサイズが少なく(N=32)、結果が不安定になっていることも考えられる。ただ、もしかすると「主体的に学習に取り組む態度」の在り方が地域によって違う可能性も想定でき、こうした点を深く検討することは今後の課題としておきたい。
9 「主体的に学習に取り組む態度」の肯定意識について、肯定と否定の二件法にまとめている。
10 「両親とも大卒」ではなく「両親どちらか大卒」のみでプラスに有意(10%水準)であることから、親学歴は高ければ高いほど直線的に評価が高まることはないこともわかる。「両親とも大卒」の場合、その効果はすべて成績に吸収されるのに対して、「両親どちらか大卒」の場合、その影響が小さいながら残る。成績とは異なる何かしらの要因に媒介されていることが示唆される。
11 もちろん、影響の方向性については考慮しておく必要がある。たとえば、学校が好きだから「主体的に学習に取り組む態度」の評価が高かったのか、「主体的に学習に取り組む態度」の評価が高かったから学校が好きなのか腑分けできない。ただし、学校への適応度や教員との相性と評価の高さが密接にリンクしていること自体は確かである。当然といえば当然だが、評価の高さの背景には成績とは異なる別ルートが存在することは、これまで直接的に検証されてこなかったことから、本稿の結果は注目してもよいだろう。
12 今回は肯定するか否定するかという二つの区分が重要と判断したため、肯定と否定に選択肢をまとめた上でロジスティック回帰分析を実施している。しかし、肯定意識の変数をそのまま四件法として用いて重回帰分析を行った結果、少し異なる傾向が現れたことは付言しておく必要がある。つまり、成績下位と比較した時の成績中上位、男子と比較した時の女子で肯定する傾向が、上記と同様の変数を投入したモデル1にてみてとれた。しかし、重要なのが手法を変えたとしても、モデル3にて成績下位と比べた場合にも上位は否定する方向に変化してしまうという事実である。中位と比較するとよりその傾向は顕著になる。ここから、先述したクロス表でみたように、評価の高さではなく肯定意識をみた時、それほど成績や性別が明確には効いてこない背景の一端は理解できたといえるだろう。
13 具体的には次の通り。東京都について、「学力検査重視」「学力検査と内申点を同等に重視」「内申点重視」の順に数値を並べると、成績上位(74.8%、14.3%、10.9%)、成績中位(65.3%、24.2%、10.5%)、成績下位(52.5%、30.7%、16.8%)、X県について、成績上位(69.3%、18.1%、12.6%)、成績中位(37.7%、39.6%、22.6%)、成績下位(38.3%、44.7%、17.0%)である。たしかに、「内申点重視」の比率にそれほど違いはないが、成績中下位で「学力検査重視」より「学力検査と内申点を同等に重視」の比率が高いことを踏まえると、それらの層で学力検査重視のみでは困るという意識が根強く存在することが伺える。

参考文献
○ 文部科学省、2019、「児童生徒の学習評価の在り方について(報告)」中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会、URL:https://www.mext.go.jp/component/b_menu/shingi/toushin/__icsFiles/afieldfile/2019/04/17/1415602_1_1_1.pdf (参照日:2023年12月8日)。
○ 中村高康、2011、『大衆化とメリトクラシー:教育選抜をめぐる試験と推薦のパラドクス』東京大学出版会。
○ 中村高康・林川友貴、2021、「高校入試における調査書の意味と機能に関する実証的研究 ⑴ :「 入試制度と学校生活に関する調査」の仕様と基礎分析」『東京大学大学院教育学研究科紀要』第60巻、pp.373-382.