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■「中央調査報(No.796)」より

 ■ 「環境問題に関する意識と行動:2023年全国Web調査」から見る環境意識と環境配慮行動


阿部 晃士(山形大学人文社会科学部 教授)
小松  洋(松山大学人文学部 教授)
篠木 幹子(中央大学総合政策学部 教授)
海野 道郎(東北大学 名誉教授)


1.はじめに
 われわれは、1988年に「生活環境研究会」を設立し、社会調査データを用いた環境問題の研究を続けてきた。宮城県仙台市を主な対象地として実施してきた廃棄物問題を中心とする調査では、廃棄物の分別や排出は世帯ごとに行われることから、世帯単位で対象を抽出し、世帯内の主な家事担当者に回答を求めてきた(海野 2006など)。
 現在は、これまでの成果を踏まえ、環境問題全般を主題とする全国的な継続調査の実施を目指すプロジェクトに取り組んでいる。そのため、環境配慮行動や環境意識のどのような側面をどのように測定すべきか、また世帯ではなく個人を対象として調査を行ううえで、その属性や関連する社会意識として何を取り上げるのかを検討することが課題となっている。
 「環境問題に関する意識と行動:2023年全国Web調査」はこの取り組みの1つである(1)。われわれが従来の調査で使用してきた質問と他の社会調査を参考に新たに作成した質問を織り交ぜて比較検討できるよう、異なる2つの調査票を作成し、それぞれを用いたWeb調査を同時に実施した。
 ここでは、この調査から得られた結果のうち、環境意識や環境配慮行動の近年の傾向について紹介する。

2.調査の概要
 2023年3月4日(土)から、2つのWeb調査を実施した。それぞれ2023年1月1日時点における性別・年齢・都道府県の人口を基準に割り付けた全国の18歳から79歳までの2,500人ずつ(合計5,000人)を対象としている。2つの調査の調査票には、双方に用いた共通の質問と、比較のため一方のみに用いた質問がある。
 なお、われわれは、2015年にも篠木が中心となり全国で2,500人を対象とするWeb調査を実施している。この2015年調査と共通の質問では、2時点の比較を行う(2015年調査も、今回の2023年調査も、中央調査社に委託し同じ方法で実施したものである)。
 以下の図表における%の基数は、2023年の2つの調査に共通の質問では5,000人、一方の調査票だけの質問(n=2,500と記した)と2015年の調査では2,500人である。

3.環境問題の位置づけ
 現代社会のさまざまな問題の中で、環境問題はどのように位置づけられるのだろうか。
 「今後10年の日本のことを考えたとき、以下の問題はどのくらい重要だと思いますか。それぞれについて、当てはまるものを1つ選んでください。」と尋ねた。
 図1は、今回(2023年)の調査と2015年調査の回答のうち「非常に重要である」の比率を、今回の調査で「非常に重要である」との回答が多かった順に並べたものである。【環境問題】は2015年より2ポイント増えて49%であった。また、半数以上の回答者が「非常に重要」としたのは【経済問題】、【医療・福祉】で、【経済問題】は5ポイント増、【医療・福祉】は3ポイント減である。【教育問題】、【治安問題】、【労働問題】、【貧困問題】では「非常に重要である」が4割前後を占めている。2015年調査では尋ねておらず今回の調査で採用した【防衛問題】は4割で、これらと並んでいる。【移民問題】を重要と考える回答者は、前回も今回も2割程度と少なかった。

図1 現代社会における諸問題の重要性
 この質問からは、人びとの意識のなかで、さまざまな問題の重要性は大きく変わってはおらず、環境問題の位置づけもほぼ同じように見える。
 それでは環境問題の中では、何が重大なものと認識されているのだろうか。図2に示したのは、7つの環境問題について、それぞれの重大性を「非常に重大である」から「まったく重大ではない」の4段階で評価してもらった回答である(2023年調査のみ)。この図も「非常に重大である」という回答が多い順に項目を並べている。【地球温暖化】が最も重大な問題と考えられている(「非常に重大」が54%)。また、【天然資源の枯渇】(44%)、【放射性廃棄物】(43%)、【大気汚染】(39%)、【水質汚染】(39%)なども、「非常に重大である」が4割前後となっている。
図2 環境問題の重大性(2023年調査, n=2,500)
 一方、【家庭ごみの処理】、【化学薬品や農薬による中毒や汚染】の場合は、「非常に重大」は3分の1程度とやや少なくなる。
 ただし、これらも含めてすべての項目で「非常に重大」と「やや重大である」を合計すれば8割を越えており、どの環境問題も重大と認識されているといえる。

4.環境配慮行動の実行状況
 では、環境配慮行動の実行度はどうか。ごみ減量・資源化行動(●印)と省エネルギーなどの全般的な環境配慮行動(◇印)の実施状況を見てみよう(図3)。ここでは、今回の2023年調査と2015年調査で共通の項目について、今回の調査で実行度が高かったものから順に並べている。いちばん高かったのは【マイバッグ持参】の83%、使っていない場所の【電灯の消灯】が80%、ごみの【ポイ捨てをしない】が76%、【冷暖房の抑制】が67%と続く。これらの4項目は3人に2人以上が実行していた。日々実施する機会があり、習慣化することによって手間感が小さくなる可能性のある行動や、お金の節約にもつながる行動は実施されやすいと考えられる。
図3 さまざまな環境配慮行動の実行度(●ごみ減量/◇省エネなど)
 【不要な包装を断る】、【マイボトルの持参】、【直せるうちは修理】、【生ごみの水切り】などのごみ減量・資源化につながる行動の実行度は半数程度である。
 その他の行動の実行度は30%以下である。【地域清掃活動】、【環境イベント参加】、【自然の中で過ごす】といった実際の参加や活動を伴うもの、【生ごみの肥料化】、【エコマーク商品購入】、【トレイ包装野菜(を)買わない】、【環境配慮洗剤(の使用)】といったお金や手間ひまがかかることは実行のハードルが高いと考えられる。
 また、この図で顕著なのは、2015年からの実行度の低下である。【マイバッグ持参】は82%と83%でほとんど変わらなかったものの、それ以外の行動の実行率は軒並み低下している。【生ごみの水切り】は34ポイント、【直せるうちは修理】は32ポイント、【地産地消】が29ポイントなど、約30ポイント下がった項目もある。
 プラスチック製レジ袋が2020年7月1日から全国で有料化されたこともあり買い物時にマイバッグを持参することは定着した一方で、ルールが設けられていない行動は実行されなくなった可能性がある。
 環境配慮行動の実行には、さまざまな要因があるが、他の人びとの行動についての認識もその1つとなりうる。社会の中で何割の人が環境配慮行動を実行していると回答者が考えているのかを見てみると、ごみ減量に関して(図4)、今回も2015年調査も、5割の人がごみ減量に取り組んでいると考えている人が最も多く、6~7割が取り組んでいると思っている人が次に多い。しかし、6割以上の他者が取り組んでいると思う人は、2015年調査では50%を占めていたのに対して、2023年には43%と減少している。
図4 ごみ減量に関する他者行動の推定値
 温暖化防止(図5)に関しても、ごみ減量と同様に5割の人が温暖化防止に取り組んでいると考えている人が最も多く、5割を中心におおむね左右対称の分布になっている。6割以上が実施しているとの回答は、2015年は29%、2023年は32%と2時点間でほとんど変わらなかったが、ごみ減量行動に比べると、他者の実行を低く見積もっていることがわかる。
図5 温暖化防止に関する他者行動の推定値
 以上より、ほとんどの環境配慮行動の実行度が低下していること、また同時に、他の人もあまり実行していないと認識する人びとが増える傾向にあることが確認できる。

5.エネルギー政策と原子力発電
 地球温暖化防止のため化石燃料の使用を削減することが求められている。経済産業省によると、日本の電源構成は、2019年度時点で化石燃料が76%(石油等7%、石炭32%、LNG37%)、非化石燃料が24%(原子力6%、再エネ 18%)となっているが、2030年度には化石燃料が41%(石油等2%、石炭19%、LNG20%)、非化石燃料は59%(原子力20~22%、 再エネ36~38%、水素・アンモニア1%)となる見通しである。この情報を提示したうえで、回答者に電力をどのようにまかなっていくのがよいと思うかを尋ねた(図6)
 最も多いのは「再生可能エネルギーの割合を増やしていく」の45%で、「再生可能エネルギーの割合を最大限、増やしていく」の33%と合わせて8割弱の回答者が再生可能エネルギーを増やすのが望ましいと答えた。原子力発電を増やすのがよいという回答は2割強にとどまっている。さらに、エネルギー政策を考える際の論点を7つ挙げ、それぞれをどのくらい重視すべきかを尋ねた。図7は、「特に重視すべき」という回答が多い順に並べたものである。
図6 電源構成に関する意向(2023年調査)
図7 エネルギー政策で重視すべきこと(2023年調査)
 これによると、【安全性】を「特に重視すべき」という回答者が4割を超えている。また、【安定供給】、【温暖化抑制】、【将来世代の負担】は3割程度、【(身近な)環境への影響】は4分の1にとどまる。ここまでは「重視すべき」も合わせると4分の3以上の回答者が重要視していることになる。【価格(が安いこと)】と【技術の発展継承】は「特に重視すべき」との回答は2割にとどまっており、【価格】は他の項目に比べると「ある程度は重視すべき」という弱い支持が多くなっている。
 科学技術は、私たちの生活環境に大きな変化をもたらしてきた。科学技術の利便性を享受することによって問題が軽減される場合がある一方で、さまざまな副作用があることを私たちは知っている。回答者が科学技術に対してどのような意識を持っているのかを尋ねた(図8)
図8 科学技術に対する意識
 まず、今回の2023年調査においては、【科学技術は人間がコントロールしきれるものではない】という意見に賛意を示すのは、全体で6割弱であるが、2015年調査に比べると大幅に減少している。また、【科学技術の利便性を享受するには、ある程度のリスクを受容しなければならない】という意見には7割の人が賛意を示しているが、この問いについても、2015年調査と比べて1割ほど減少している。2つの項目から、人びとの意識が「科学技術は人間がコントロールできる」「リスクは小さい」という方向に傾いていることが示唆される。  それでは、原子力発電については、意識の変化は見られるだろうか。原発のコストについて、【意見A:原子力発電はコストが低い。原発を廃止すれば電気料金が高くなる。】、【意見B:原子力発電が低コストに見えるのは、事故時の被害を過小評価しているからだ。】という2つの意見を提示し、どちらの意見に近いかを4選択肢で答えてもらった。図9に示したように、原発の経済性を評価する意見Aに近い回答者は半数強(52%)、意見Bに近い回答者は半数弱(49%)だった。2015年調査と比べると、意見Aに近い回答者が10ポイントほど増えていることが分かる。
図9 原発のコストに対する意識
 原発の安全性については、【意見A:福島原発事故の教訓を踏まえた世界一厳しい基準を満たすのだから、今後の原発は安全だ。】、【意見B:基準がいくら厳しくても想定外のことは起こりうるので、今後の原発も絶対安全だとは言えない。】の2つの意見を提示し、選好を尋ねた。原発の安全性に否定的な回答者は7割(71%)で、半数をはるかに超える人が原発は絶対に安全だとは考えていない。しかし、それでも、2015年調査における否定的回答者(77%)からは減っている。
図10 原発の安全性に対する意識
 この2つの意識は、概念としては独立のものだが、非常に相関が高く、原発が経済的だと思う人ほど、原発は安全だと考える傾向にある。また、2015年との比較では、近年「原発は経済的である」「原発は安全だ」と認識する人びとが増えつつある。2011年の東日本大震災による福島原発の爆発事故からの時間が経過するに伴い危機感が薄れつつあることがわかる。

6.おわりに
 以上、2023年のWeb調査の回答を2015年と比較しながら、近年の環境意識や環境配慮行動の傾向について整理した。
 環境問題が重要と考える割合は低下しておらず、地球温暖化をはじめ、多くの環境問題が重大な問題として認識されている。しかし、この2時点の間にほとんどの環境配慮行動の実行度が低下している。
 また、再生可能エネルギーを増やすのがよいと考える人は8割を占めており、エネルギー政策でも安全性を重視すべきという回答が最も多かった。原発の安全性を否定する回答も7割を占めている。ただし、安全性を明確に否定する回答は大幅に減少し、科学技術にリスクが伴うという認識も薄れる傾向にあった。
 Web調査にはサンプルの代表性などの課題があるが、同じ方法による同程度の規模の調査を実施して比較したことで、こうした変化を把握できた点には一定の意義があるだろう。
 われわれは現在(2024年1月下旬から)、このWeb調査の分析を継続しながら、その成果を取り入れて改善した調査票を用いた調査を実施している。小松が中心になって行っている全国の無作為抽出標本に対する郵送留め置き調査(「環境問題に関する意識と行動:2024年全国調査」)である。
 今後は、この取り組みを通して、環境意識と環境配慮行動のより適切な測定方法を模索するとともに、今回示したような変化の背景やそこにある意識と行動のメカニズムをさらに検討していく予定である。


注:(1)本研究は、JSPS科研費21H00766の助成を受けたものである。

引用文献
海野道郎, 2006, 「家庭廃棄物(ごみ)に対する住民の意識と行動」『中央調査報』588: 1-5.