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■「中央調査報(No.801)」より

 ■第10回「諸外国における対日メディア世論調査」結果の概要


 公益財団法人新聞通信調査会(理事長 西沢豊)は、2023年11月~ 12月、米国、英国、フランス、韓国、タイの5カ国を対象に「第10回諸外国における対日メディア世論調査」を実施しました。調査は、米国は電話調査とWEB調査の併用、英国、フランス、韓国は電話法、タイは面接法で行い、各国とも約1,000人から回答を得ました。回答者の性別・年代別構成は各国の人口構成に近い比率に割り当てられています。
 「対日メディア世論調査」は2015年から年1回、6カ国で行っていましたが、今年度は中国での調査が実施できなくなりました。中国の他の調査機関にも依頼しましたが、いずれも現在の国内状況では、国外から依頼された世論調査を行うことは難しいとの回答でした。
 設問は各国共通の全10問ですが、今回はイスラエル・パレスチナ情勢に関して、国によって尋ねられなかった質問がありました。具体的な質問項目は大きく分けて、①各国新聞の信頼度評価、ニュース視聴の利用媒体、②日本に関する報道、③日本および調査各国間の好感度、④世界情勢についての意識―の全4分野です。いずれの質問もあらかじめ設定した選択肢から選んでもらいました。また、当調査で設定した質問のうちの幾つかは、当調査会が毎年日本全国で実施している「メディアに関する全国世論調査」でも聞いています。該当質問では直近調査(2023年7月実施)の結果を図表内に表記しているので適宜参照してください。ただし、「諸外国における対日メディア世論調査」と数値を比較する際には、調査手法や全体的な質問構成が異なることに留意する必要があります。調査結果の概要は以下の通りです。


1.各国新聞の信頼度評価、ニュース視聴の利用媒体
―新聞の情報信頼度、5カ国で低下

 まず各国の新聞情報信頼度の結果から見てみよう。新聞の情報を全面的に信頼している場合は100点、全く信頼していない場合は0点、普通の場合は50点として点数をつけてもらった。ただし米国は、現地調査機関の提言に従い0~10点で質問したので、集計時に回答数値を10倍した。この質問は第1回調査から続けて聞いており、結果の平均値の経年比較を示したのが図表1である。タイが61.7点で前回より2.9点の低下、フランスが55.7点で0.1点の低下、米国が54.9点で0.5点の低下、韓国が51.9点で4.2点の低下となっている。英国のみ50点を下回り、46.1点で前回より1.8点の低下となっている。当質問は前述の国内で7月に実施した「メディアに関する全国世論調査」でも聞いており、その結果は66.5点となっている。

図表1 新聞の情報信頼度

 最近は「ニュース」に接触するための媒体として、インターネットの台頭が著しく、もはや従来型メディアの新聞・テレビ・ラジオをしのぎ、その流れは加速していると実感することが多い状況だ。以下、SNSの利用実態なども含め、ニュースとの接触状況や意識を紹介する。まず、ニュース視聴の利用媒体では、米国、英国、フランス、韓国はテレビ、タイはSNS(facebook、Xなど)が、それぞれ1位となっている。2位には米国、韓国はインターネットのニュースサイト、英国、フランスは新聞、タイはテレビが続いている。新聞は英国、フランスで2位となっているが、米国、韓国、タイで4位となっている(図表2)
 新聞を紙面で読むか、電子版・オンラインで読むかについては5年前の第5回調査から尋ねている。新聞を読む人のうち、5カ国とも「電子版・オンラインのみ」が「紙面のみ」や「両方」よりも多くなっている。英国は、この質問を始めた2018年度から初めて「電子版のみ」が5割を超えた。

図表2 ニュース視聴の利用媒体

 ニュース接触におけるインターネットのニュースサイトやSNSの台頭が調査結果からも明らかになったが、一方で、フェイクニュースの拡散が大きな問題となっている。人々はインターネット上でニュースに触れるとき、どれだけニュースの信ぴょう性に気を配っているのだろうか。インターネットのニュースを見る時に、ニュースの出所を気にするか尋ねたところ、5カ国すべてで「気にする」(「いつも気にする」と「まあ気にする」の合計)が、「気にしない」(「全く気にしない」と「あまり気にしない」の合計)を大きく上回っている。「気にする」と答えた人は、タイが85.5%で最も多く、次いでフランス84.9%、米国84.6%と8割台となっている。以下、韓国が72.1%、英国が70.8%となっている。そのうち、「いつも気にする」のはフランスが63.2%で最も多く、次いで米国が50.0%と半数を占めている。昨年7月に新聞通信調査会が実施した「メディアに関する全国世論調査」では、「気にする」と答えた人が47.1%、そのうち「いつも気にする」のは13.3%となっている。他国と比較して、日本でインターネットニュースの出所を気にかける人はかなり少なくなっている(図表3)
 メディアが政府を批判する際にどのように報道しているか尋ねたところ、「率直に批判する」(「やや率直に批判する」と「非常に率直に批判する」の合計)の割合は、米国で58.3%と最も多く、次いで英国で46.3%となり、両国では「控えめに批判する」(「非常に控えめに批判する」と「やや控えめに批判する」の合計)を上回っている。一方、タイ、フランス、韓国では、「控えめに批判する」と答えた人が過半数を占め、「率直に批判する」を上回っている。

図表3 ネットニュースの出所を気にするか

 

2.日本に関する報道
―日本への関心、韓国で上昇が続く

 日本のことが報道されると関心を持って見聞きするか否かについては、関心層(「とても関心がある」と「やや関心がある」の合計)はタイで78.0%と最も高く、次いで韓国で77.9%となっている。以下、フランス52.3%、米国51.4%、英国30.6%となっている。韓国について時系列に見ると、近年では第8回調査が64.5%と低かったが、昨年は74.4%まで上昇した。今回は過去最高を更新し、77.9%となっている(図表4)

図表4 日本のことが報道されると関心を持つか

 では、日本についてどのようなことを報道してもらいたいと思っているのか、自国のメディアに期待する内容を尋ねた。1位はタイを除く4カ国で「科学技術」、タイは「観光情報」が挙げられている。2位には、米国、英国は「国際協力や平和維持活動」、フランスは「生活様式や食文化」、韓国は「政治、経済、外交政策」、タイは「科学技術」が続いている。
 

3.日本および調査各国間の好感度
―日本に対する好感度、韓国で上昇

 当調査では、第2回調査(2016年)から日本および調査各国間の好感度についても質問している。前回調査から、自国とロシアに対する好感度も追加して尋ねている。
 まず日本に対する好感度(「とても好感が持てる」と「やや好感が持てる」の合計)については、タイで最も高く91.1%、次いでフランス81.5%、米国80.4%、英国71.1%となっている。前回と比較すると、特筆すべきは韓国の日本に対する好感度の高まりである。近年では第6回調査(2019年)の好感度が22.7%と最も低かったが、前回はそれまでの最高である39.9%まで上昇した。今回はさらに4.1ポイント上昇し、44.0%となっている。韓国で政権交代があった2022年から日本に対する感情は継続的に改善していることが確認できた。
 日本を除いた相互好感度について見ると、米国は自国、英国、日本、フランス、タイの順に、英国は自国、日本、フランス、タイ、米国の順に、フランスは自国、日本、英国、タイ、米国、韓国の順に、好感度が5割以上になっている。また、韓国は自国、米国、英国、フランス、タイの順に、タイは自国、日本、英国、米国、フランス、韓国、中国の順に好感度が5割以上になっている。前回からの変化を見ると、ロシアに対する好感度はタイで8.0ポイント上昇したのをはじめ、5カ国すべてで上昇した。中国に対する好感度はフランスで6.8ポイント、韓国で6.1ポイント上昇した。また、米国はフランスに対する好感度、英国は日本、米国、フランス、タイに対する好感度、韓国は米国に対する好感度、タイはフランス、韓国に対する好感度が、それぞれ5ポイント以上の低下となっている(図表5)

図表5 各国間の好感度-「好感が持てる」の回答比率

 

4.世界情勢についての意識
―世界の課題「戦争や地域紛争の終結・抑止」

 ロシアによるウクライナ侵攻やイスラエルによるパレスチナ自治区ガザへの侵攻が世界的な関心を集めているが、いずれも解決の糸口はまだ見えていない。世界が抱える課題について人々はどのように考えているのだろうか。
 最近の世界情勢を踏まえて、世界各国で連携して取り組むべき課題は何か尋ねたところ、昨年「戦争や地域紛争の終結・抑止」を1位に挙げたのは米国のみだったが、今回は米国、英国、韓国、タイの4カ国で1位となっている。また、フランスでも3位から2位に上昇している。割合は全5カ国で増加している。また、「国際テロ組織の撲滅」はフランスでは1位だったが、欧米3カ国では10ポイント前後の増加、順位も上昇している。昨年、英国、フランス、韓国で1位だった「地球環境問題」は、順位、割合ともに低下している(図表6)

図表6 世界各国で連携して取り組むべき課題

 次に現在、どの国が世界平和への最大の脅威になっていると思うか尋ねたところ、5カ国とも「ロシア」を挙げた人の割合が昨年より減少したとはいえ、米国、英国、フランス、タイで1位となっている。韓国では、「ロシア」「中国」の割合が減少し、「北朝鮮」を挙げた人が最も多く28.3%となっている。北朝鮮による挑発的な発言や繰り返し行われるミサイル発射に対する警戒感が背景にあるものと見られる(図表7)

図表7 世界平和への脅威

 現在のイスラエル・パレスチナ情勢に責任があるのはどれか尋ねたところ、米国では「ハマス」を挙げた人が半数を占めている。ただ、年代による意識の差が見られ、年齢が低いほど、「イスラエル」に責任があるとする人が多くなっている。実際、20代では「イスラエル」を挙げた人の割合が31.1%と「ハマス」を挙げた人の割合28.9%を上回っている(図表8)。日本でも、米国の大学でのイスラエルによるガザ攻撃に反対するデモの様子などが報道されているが、この調査結果でも示されたと言えよう。

図表8 イスラエル・パレスチナ情勢への責任(米国・年代別)

 韓国では「ハマス」を挙げた人が最も多く、次いで「イスラエル」が多くなっている。タイでは「イスラエル」を挙げた人が最も多く、次いで「ハマス」が多くなっている。両国では3位に「米国」が挙げられている(図表9)

図表9 イスラエル・パレスチナ情勢への責任

 なお、英国とフランスではこの質問はできなかった。英国の調査機関の担当者からは「会社の方針として、情勢が緊迫しているなかで、このような質問はできない。」との回答があった。また、フランスの担当者からは、「フランス政府は国民に冷静になることを求め、ユダヤ人に向けられた暴力をやめるよう呼び掛けている。このテーマはとてもセンシティブなので、質問するのが難しい。」との回答があった。
 調査が実施されたのは、両国内でこの問題をめぐってデモや抗議が頻繁に行われ、時に人々の間に対立が生じていた時期だった。そのような状況の中で、紛争の責任の所在について質問することは社会の分断を深めかねないという懸念があったためと思われる。


 以上、今年度の「諸外国における対日メディア世論調査」の結果を概観した。今年度の調査は想定外のことが重なった。これまで依頼していた中国の調査機関で実査ができなくなったため、5カ国で行うことになった。またイスラエル・パレスチナ情勢の責任に関する質問は英国とフランスで尋ねることができなかった。中国での調査実施の取りやめや、英国とフランスでの一部の質問の取りやめにより、これまでと同様の意識調査ができず、データを残すことができなかったことは残念だったが、それらの国が抱える問題の根深さが示唆されたと言えよう。
 調査結果を見ると、ウクライナ情勢、イスラエル・パレスチナ情勢が混迷する中、調査対象国では、世界が解決すべき課題として「戦争終結」を挙げる人が昨年の調査と比較して増えており、それだけ状況が深刻化していると言える。韓国では、日本に対する好感度が昨年に引き続き上昇し、日本に対する関心も高まっている。新聞について見ると、新聞を電子版やオンラインのみで読む人が、5カ国とも、この質問を開始した当初から、右肩上がりに伸びている。今回、英国で初めて半数を超え、これで米国、英国、韓国、タイで半数を超えた。
 これらの傾向がどのように変化していくのか、今後も意識調査を通して注視していきたい。