■「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査2023」からみる幸福、タイムプレッシャー、希望の結婚・出産年齢、希望の介護(後編)
石田 浩(東京大学社会科学研究所 特別教授)
石田賢示(東京大学社会科学研究所 准教授)
俣野美咲(東京大学社会科学研究所 助教)
大久保将貴(東京大学社会科学研究所 助教)
要約
本稿は、東京大学社会科学研究所が2007 年から継続して実施している「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」の2023年調査に関する基礎的な分析をまとめたものである。下記に挙げるテーマについて分析した。(1)幸福をめぐる人々の考え方とその関連要因、(2)誰が時間に追われており、タイムプレッシャーを感じやすいのか、(3)何歳までに結婚したいか、子どもを持ちたいかについての2時点間比較、(4)介護が必要になった場合の希望する介護場所と介護者、という4つのトピックを分析した。
【注:当稿は10月号前編、11月号後編として2カ月に分けて紹介する】1
4 .家族形成のタイミングの希望と実現
(1)「何歳までに結婚したいか」「何歳までに子どもを持ちたいか」の希望
近年、若年未婚者の結婚意欲の低下や出生意欲の低下が注目されている。国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向基本調査」の第16回調査(2021年)の結果によると、18~34歳の未婚者で「いずれ結婚するつもり」と考える者の割合は、男性で81.4%、女性84.3%であり、第15回調査(2015年)と比べて、男性では4.3%ポイント、女性では5%ポイント減少している(国立社会保障・人口問題研究所2023)。また、結婚意思のある18~34歳の未婚者に何人くらい子どもが欲しいかを尋ねた結果、男性で1.82人、女性で1.79人であり、男女ともに減少が続いている(国立社会保障・人口問題研究所2023)。
一方で、結婚意欲や出生意欲のある人々が、いつ頃までにそれらのライフイベントを経験したいと考えているのか、そしてそれを実現できているのかという点については、これまであまり焦点が置かれてこなかった。日本社会では未婚化だけでなく晩婚化、晩産化も進行しており、2022年時点の平均初婚年齢は男性で30.1歳、女性で29.7歳、第1子出生時の母親の平均年齢は30.9歳にまで上昇した(厚生労働省2023)。このような結婚や子どもを持つタイミングの遅れは、人々のなかで、いつ頃までにこれらのライフイベントを経験したいかという希望の時期がかつてよりも遅れていることによるものだろうか。また、その希望はどの程度実現されているのだろうか。
JLPSでは、Wave1およびWave17で、未婚で結婚意欲のある回答者に、何歳までに結婚したいかを、また、出生意欲のある回答者2に、何歳までに子どもが欲しいかを尋ねた。
Wave1では、正規の社員・職員として仕事に就いた経験、親とちがうところに住んだ経験、結婚の経験、子どもを持った経験について、それぞれ調査時点までの経験の有無と、今後の経験意欲の有無を尋ね、意欲がある場合は何歳までに経験したいか、具体的な年齢を数値で回答してもらう方式で尋ねた。
Wave17では結婚意欲についての設問の付問として、「ぜひ結婚したい」あるいは「できれば結婚したい」と回答した人々に、自分自身が何歳になるまでに結婚したいか、具体的な年齢を数値で回答してもらう方式で尋ねた。同様に、出生意欲についての設問の付問として、「男の子が欲しい」「女の子が欲しい」「男女問わず欲しい」と回答した人々に、自分自身が何歳になるまでに子どもが欲しいかを尋ねた。
本節では、これらの質問項目を用いて、次の2点について検討する。第1に、若年・壮年層(24~ 40歳3)における「何歳までに結婚したいか」および「何歳までに子どもを持ちたいか」の希望が、2007年時点と2023年時点でいかに変化したのかを比較する。第2に、2007年時点でのこれらの希望をどの程度の人々が実現したのかを、その後の追跡調査の回答から明らかにする。
(2)2007年時点と2023年時点の若年・壮年層の意識の変化
はじめに、性別および調査年別に「何歳までに結婚したいか」の回答の記述統計を表2に示した。男性は、2007年では34.64歳、2023年では34.75歳であり、ほとんど変化はみられない。女性においても同様に、2007年では33.43歳、2023年では33.18歳とほとんど変化していないことがわかる。
次に、値を5歳ごとの階級に区分し、性別および調査年別に回答の分布を比較した(図10)。男性は、2007年に比べて2023年では35–39歳までの層が約7%ポイント減少し、25–29歳までの層、45–49歳までの層がそれぞれ微増している。女性は40–44歳までの層が約5%ポイント減少したものの、ほとんど分布に差異はみられない。
続いて、「何歳までに子どもを持ちたいか」の回答の記述統計を表3に示した4。男性は2007年では35.80歳、2023年では35.38歳、女性は2007年では34.53歳、2023年では34.29歳である。いずれも、「何歳までに結婚したいか」の希望と同様に、時代による違いはほとんどみられない。
図11には、値を5歳ごとの階級に区分した場合の性別および調査年別の回答分布を示した。この結果からも、2007年と2023年で大きな変化はないことが読み取れる。
(3)「何歳までに結婚したいか」「何歳までに子どもを持ちたいか」の希望の実現
a.希望の実現率
続いて、Wave1(2007年)調査で「何歳までに結婚したいか」「何歳までに子どもを持ちたいか」の質問項目に回答した人々を分析対象として、その希望を実現した人々はどの程度いるのか、また、どのような人々が実現できたのかを検討する。
希望の実現の操作的定義は次のとおりである。まず、2007年時点で回答した「何歳までに結婚したいか(子どもを持ちたいか)」の希望年齢までに結婚(第1子出生)を経験した場合、「希望が実現した」とした5。次に、2007年時点で回答した希望年齢よりも上の年齢で結婚(第1子出生)を経験した場合、あるいは、2023年時点の年齢が2007年時点で回答した希望年齢よりも上で未婚(子どもがいない)場合は「希望が実現しなかった」とした。最後に、2023年時点の年齢が2007年時点で回答した希望年齢以下で未婚の場合は「まだ希望の年齢に至っていない」とした。
表4に「何歳までに結婚したいか」の希望の実現率を男女別に示した。2007年時点の希望がその後に実現したのは男性で約3割、女性で約4割である。続いて表5には、「何歳までに子どもを持ちたいか」の希望の実現率を示した。男女ともに、2007年時点の希望が実現したのは約15%であり、結婚と比べると実現率が低いことがわかる。
b. 希望が実現したのはどのような人々か?
では、希望が実現したのはどのような人々だろうか。表4・表5からもわかるように、2007年時点での希望年齢にまだ至っていないケースはごくわずかであるため、ここからは、希望が実現した人々としなかった人々に限定して分析を行う。
まず、表6・表7には、希望の実現の有無別に2007年時点の「何歳までに結婚したいか」「何歳までに子どもを持ちたいか」の平均年齢を示した。これは、希望が実現した人々のほうが、希望の年齢をより遅く設定していたため実現しやすかった、あるいは、希望が実現しなかった人々のほうが、希望の年齢をより若く設定していたため実現しにくかったという可能性が考えられるためである。表6・表7の結果をみると、いずれも、希望が実現した人々としなかった人々の間で、2007年時点の希望年齢に大きな差はないことがわかる。つまり、実現した人々の希望年齢がより遅かったというわけでも、実現しなかった人々の希望年齢がより若かったというわけでもないようである。
次に、2007年時点の回答者自身の状況や出身背景に着目して、「何歳までに結婚したいか」「何歳までに子どもを持ちたいか」の希望の実現の要因を検討した。
従属変数は、上述した「何歳までに結婚したいか」「何歳までに子どもを持ちたいか」の希望の実現についての変数であり、希望が実現した場合は1、実現しなかった場合は0をとるダミー変数である。
独立変数には、2007年時点の回答者の年齢、学歴、従業上の地位、暮らしむき、家庭生活に対する重要度、希望年齢までの残り年数、父親の学歴、母親の学歴、15歳時の父親の職業、15歳時の暮らしむき、15歳時の家庭の雰囲気を用いた。家庭生活に対する重要度とは、「次の事がらは、あなたにとってどれほど重要ですか。あてはまる番号1つに○をつけてください」という設問の「結婚して幸せな家庭生活を送ること」という項目に対する回答が「とても重要」だった場合に1、「少し重要」あるいは「重要ではない」だった場合に0をとる変数である。希望年齢までの残り年数とは、「何歳までに結婚したいか」「何歳までに子どもを持ちたいか」の年齢から2007年時点の回答者の年齢を減算したものである。15歳時の暮らしむきは、1 ~ 5の値をとり、豊かだったほど大きな値をとる変数である。15歳時の家庭の雰囲気は、「あなたが15歳だった頃(中学卒業時)、あなたの育った家庭の雰囲気はいかがでしたか」という質問項目を用いており、1~4の値をとり、より大きな値であるほど家庭が温かい雰囲気だったことを表す変数である。
表8には、「何歳までに結婚したいか」の希望の実現の有無を従属変数とした2項ロジスティック回帰分析の結果を示した。男性の分析結果では、2007年時点での暮らしむきが良いほど、また、「結婚して幸せな家庭生活を送ること」の重要度が高いほど、希望を実現しやすいことがわかる。女性では、2007年時点の年齢が20-24歳に比べて35-40歳の場合、また、2007年時点の従業上の地位が正規雇用に比べて無職・学生の場合、希望を実現しにくい。また、希望年齢までの残り年数が長いほど、希望を実現しやすいという結果が得られた。
表9には、「何歳までに子どもを持ちたいか」の希望の実現の有無を従属変数とした2項ロジスティック回帰分析の結果を示した。男性のみ、高卒以下に比べて短大・大学・大学院卒であると希望を実現しにくいことが示された。しかし、ほとんどの変数が統計的に有意な影響を及ぼしておらず、「何歳までに子どもを持ちたいか」の希望の実現については、2007年時点の回答者の状況や出身背景によって説明できない部分が大きいようである。
(4)小括
本節では、若年・壮年層における「何歳までに結婚したいか」および「何歳までに子どもを持ちたいか」の希望が2007年時点と2023年時点でいかに変化したのか、また、それらの希望をその後どの程度の人々が実現したのか検討した。
1点目の時点間での意識の変化については、結婚・子どもを持つことのいずれにおいても、2007年時点と2023年時点でほとんど変化はみられなかった。厚生労働省の「人口動態調査」によると、2005年から2020年にかけて、平均初婚年齢は男性で1.2歳、女性で1.4歳、第1子出生時の母親の平均年齢は1.6歳遅くなっている(厚生労働省2023)。このように、結婚や子どもを持つことを実際に経験する年齢は時代とともに遅くなっているのに対し、結婚意欲や出生意欲のある人々の「何歳までに経験したいか」という希望は、この16年間でほとんど変化していない。このことからは、人々の「何歳までに結婚したいか(子どもを持ちたいか)」の希望と、実際の経験年齢との間のギャップがより大きくなっていることが示唆される。
2点目に、これらの希望を実現した人々はどの程度存在するのか、またどのような要因が希望の実現に影響を及ぼしているのかを検討した。結婚について、何歳までに経験したいかの希望を実現した割合は男性で約3割、女性で約4割であった。子どもを持つことについては、男女ともに約15%であり、結婚と比べて実現率が低かった。
希望の実現に影響を及ぼす要因として、2007年時点の回答者自身の状況と出身背景に着目して分析を行った結果、男性では主に経済的な豊かさが、女性では雇用の安定性と、年齢や希望時期までの残り年数が、「何歳までに結婚したいか」の希望の実現に正の影響を及ぼすことが示された。経済的な豊かさや安定的な雇用での就業が結婚への移行を促すことはよく知られているが(e.g. 麦山 2017)、単に結婚しやすいだけではなく、希望していた時期までの結婚を実現しやすいということが新たに明らかになった。
また、三輪(2019)によると、男性は、配偶者選択の基準として、相手の容姿・外見を重視すると回答した割合は約6割、年齢を重視すると回答した割合は約5割に達するが、年収を重視する、あるいは学歴を重視するという回答は極めて低かった。その一方で女性は、相手の年収を重視すると回答した割合は約6割、容姿・外見を重視する割合、年齢を重視する割合はそれぞれ5割程度、学歴を重視する割合は約3割だったという。「何歳までに結婚したいか」の希望の実現に、男性は経済的な豊かさ、女性は年齢的な要因が影響を及ぼすという本節の分析結果には、このような配偶者選択基準のジェンダー差が反映されていると考えられる。
「何歳までに子どもを持ちたいか」の希望の実現に関しては、投入した独立変数のほとんどが統計的に有意な影響を及ぼさなかった。子どもを持つことは、結婚と比べて自分自身の意思でコントロールできない要素が大きい。また、多くの場合、過去に抱いていた希望よりも、その時点での自身や配偶者が置かれた状況に応じて、子どもを持つか持たないかや、持つタイミングを決定すると想定される。そのため、結婚よりも子どもを持つことのほうが「何歳までに経験したいか」の希望の実現率も低く、その希望を抱いていた当時の自身の状況や出身背景によって説明できない部分が大きいのかもしれない。
参考文献
○厚生労働省、2023、「令和4年(2022)人口動態統計月報年計(概数)の概況」、厚生労働省ホームページ、(2024年2月9日取得、https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai22/dl/gaikyouR4.pdf )。
○国立社会保障・人口問題研究所、2023、『現代日本の結婚と出産――第16回出生動向基本調査(独身者調査ならびに夫婦調査)報告書』、厚生労働省ホームページ、(2024年2月21日取得、https://www.ipss.go.jp/ps-doukou/j/doukou16/JNFS16_ReportALL.pdf)。
○三輪哲、2019、「結婚を阻む『壁』の在り処――結婚意識と配偶者選択」佐藤博樹・石田浩編『出会いと結婚』勁草書房、15–43。
○麦山亮太、2017、「職業経歴と結婚への移行――雇用形態・職種・企業規模と地位変化の効果における男女差」『家族社会学研究』29(2):129–141。
(俣野美咲)
5.希望する介護場所と介護者
(1)はじめに
2000年に介護保険制度が創設されて以降、介護のあり方は大きく変化した。厚生労働省「介護保険事業報告」の2000年と2017年調査によれば、介護保険創設後の17年で、居宅サービス利用者は約3.8倍、施設サービス利用者は約1.8倍に増えている。介護保険制度以前の主な介護提供主体は家族であったが、介護保険制度以降は、主な介護提供主体は家族および非家族(公的介護サービスなど)になりつつあるということだ。この変化は、主に公的介護サービス利用の拡大によってもたらされたと考えられる。しかしながら、非家族によって提供される介護サービスが、家族介護を完全に代替するケースは稀である。介護が必要になった場合には、公的介護サービスを利用しながら、在宅や施設で家族介護を継続することが多いからである。内閣府が2017年に実施した「高齢者の健康に関する調査」によると、「介護が必要になった時に誰に依頼したいか」という質問に対して、男性では72.8%が、女性では56.8%が家族に依頼したいと回答しており、要介護者が家族による介護を希望していることも確認できる。この点を踏まえると、持続可能な介護提供体制を設計する前段階として、介護が必要になった際に希望する介護場所や介護者を把握する必要がある。
こうした背景のもと、本稿では、「東大社研パネル調査」の「継続・追加・リフレッシュサンプル」を用いて、以下の3点を明らかにする。第1に、希望する介護場所と介護者について男女別に集計する。基礎的な属性に基づいた集計をすることで、人々はどのような介護を希望しており、希望する介護は属性によってどのように異なるのかを明らかにすることが目的である。第2に、希望する介護場所や介護者は、どのような属性によって規定されているのかを明らかにするために、様々な属性を考慮して多変量解析をおこなう。
(2)希望する介護場所
本節では、希望の介護場所について男女別に集計をおこなう。集計に用いるデータは、東大社研パネル調査の継続・追加・リフレッシュサンプルである。この調査は、日本全国に居住する20~34歳(若年調査)と35~40歳(壮年調査)の男女を母集団として地域・都市規模・性別・年齢により層化し、対象者を抽出した追跡調査である。2007年1月から4月に第1回目(Wave1)の調査を郵送配布・訪問回収の方法で行い、「若年調査」は3367、「壮年調査」は1433のケースを回収した。アタック数に対する回数率は、それぞれ34.5%と40.4%である。2007年からの「継続サンプル」は、毎年少しずつ脱落する者がいるため、アタックできる数が徐々に少なくなり、サンプルサイズが縮小していく。この点を考慮して、2011年には「追加サンプル」を補充した。同年齢の24~38歳(若年)と39~44歳(壮年)の対象者を抽出し、郵送配布・郵送回収の方法により、712(若年)、251(壮年)のケースを回収した。その後これらの対象者も毎年追跡している。また2007年から実施している追跡調査と同様に、地域・都市規模・性別・年齢により層化した上で、20 ~ 31歳(2019年時点)の対象者を全国から抽出し、2019年に郵送配布・訪問回収の方法で調査を実施した。2380のケースを回収し、アタック数に対する回収率は36.1%である。「リフレッシュサンプル」調査についても、2019年以降、同一の人々を毎年追跡している。本稿では、希望の介護場所と介護者について尋ねている2023年調査を用いる。
希望する介護場所については、「将来もし日常生活を送る上で介護が必要になった場合、主にどこで介護を受けたいですか。現在介護を受けている場合にはご希望をお答えください」という質問で測定している。回答選択肢は、「自宅」「子どもの家」「親族の家」「介護施設や老人ホーム」「医療機関」が与えられている。表10は男女別に希望する介護の場所を集計した結果である。男女全体については、最も多いのが「介護施設や老人ホーム」で52.63%、続いて「自宅」が35.87%、「医療機関」が7.69%となっている。男性についても同様の順で、「介護施設や老人ホーム」が49.10%、「自宅」が40.01%、「医療機関」が7.33%となっている。女性についても同様で、「介護施設や老人ホーム」が55.18%、「自宅」が32.87%、「医療機関」が7.95%となっている。男女別の集計に着目すると、回答割合の高い選択肢の順序については同様であるものの、男性では女性よりも「自宅」を希望する割合が高く、女性では男性よりも「介護施設や老人ホーム」を希望する割合が高くなっている。
(3)希望する介護者
次に、希望の介護者について男女別に集計をおこなう。希望する介護者については、「将来もし日常生活を送る上で介護が必要になった場合、主に誰に介護を頼みたいですか。現在介護を受けている場合にはご希望をお答えください」という質問で測定している。回答選択肢は、「配偶者」「子ども」「その他の親族」「知人・友人」「介護職等の専門家」が与えられている。表11は男女別に希望する介護の場所を集計した結果である。男女全体については、最も多いのが「介護職等の専門家」で69.21%、続いて「配偶者」が19.45%、「子ども」が5.74%となっている。男性についても同様の順序で、「介護職等の専門家」で64.15%、続いて「配偶者」が26.27%、「子ども」が3.45%となっている。女性についても同様で、「介護職等の専門家」で72.86%、続いて「配偶者」が14. 52%、「子ども」が7. 40%となっている。男女別の集計に着目すると、回答割合の高い選択肢の順序については同様であるものの、男性では女性よりも「配偶者」を希望する割合が高く、女性では男性よりも「介護職等の専門家」や「子ども」を希望する割合が高くなっている。
(4)希望する介護場所の規定要因
本節では、先述の希望する介護場所の規定要因について分析をする。ここでは、性別の他に、年齢、本人収入、仕事以外の介護の有無、配偶者の有無、子どもの有無を用いる。アウトカムは施設(「介護施設や老人ホーム」「医療機関」)と非施設(「自宅」「子どもの家」「親族の家」)の2値に分類した。推定には最小二乗法を、標準誤差の計算には頑健な手法を用いている。図12が分析結果である。点は点推定値を、エラーバーは信頼区間を示している。分析結果からは、(1)年齢が高いと希望する介護場所として施設系を希望する確率が低くなること、(2)男性は女性よりも希望する介護場所として施設系を希望する確率が低くなること、(3)子どもがいる場合にはいない場合よりも希望する介護場所として施設系を希望する確率が低くなることがわかる。
(5)希望する介護者の規定要因
次に、介護者の規定要因について分析をする。ここでも同様に、規定要因の変数として性別、年齢、本人収入、仕事以外の介護の有無、配偶者の有無、子どもの有無を用いる。アウトカムは非家族(「介護職等の専門家」「知人・友人」)と家族(「配偶者」「子ども」「その他の親族」)の2値に分類した。推定には最小二乗法を、標準誤差の計算には頑健な手法を用いている。図13が分析結果である。点は点推定値を、エラーバーは信頼区間を示している。分析結果からは、(1)男性は女性よりも希望する介護者として非家族を希望する確率が低く(家族を希望する確率が高く)なること、(2)配偶者がいる場合にはいない場合よりも希望する介護者として非家族を希望する確率が低く(家族を希望する確率が高く)なることがわかった。
(6)小括
本節では、「東大社研パネル調査」の最新データを用いて、(1)希望する介護場所と介護者について男女別に集計する、(2)希望する介護場所や介護者は、どのような属性によって規定されているのかを明らかにする、という2点の分析をおこなった。
(1)については、以下の4点が明らかになった。第1に、希望する介護場所として最も回答割合が高いのは全体でも男女別でも「介護施設や老人ホーム」である。第2に、男性では女性よりも「自宅」での介護を望む割合が高い。第3に、希望する介護者として最も回答割合が高いのは全体でも男女別でも「介護職等の専門家」である。第4に、男性は女性よりも「配偶者」に介護を望む割合が高い。このことからは、希望する介護についてはジェンダー差の存在が示唆される。
(2)については、以下の5点が明らかになった。第1に、年齢が高いと希望する介護場所として施設系を希望する確率が低くなる。第2に、男性は女性よりも希望する介護場所として施設系を希望する確率が低くなる。第3に、子どもがいる場合にはいない場合よりも希望する介護場所として施設系を希望する確率が低くなる。第4に、男性は女性よりも希望する介護者として非家族を希望する確率が低く(家族を希望する確率が高く)なる。第5に、配偶者がいる場合にはいない場合よりも希望する介護者として非家族を希望する確率が低く(家族を希望する確率が高く)なる。
(大久保将貴)
6.おわりに
最後に本稿の分析結果をまとめておく。最初のテーマである幸福をめぐる人々の考え方では、主観的な幸福度と関連する要因を分析した。最も重要なのは、暮らし向きであった。現在の生活が豊かであるほど、幸せであると感じる度合いは高くなる。暮らし向きに続くのが、主観的健康度である。自身の健康状態が良いほど、幸福度が高い。3番目の要因として、社会的繋がり(何か問題が起きたときに相談したり頼んだりできる人が存在)がある場合には、幸福度が高い傾向にあった。
第2のテーマであるタイムプレッシャーの分析では、誰がタイムプレッシャーを感じやすいのかを検証した。男女ともに労働時間が長時間に及ぶ場合には、タイムプレッシャーを感じやすく、さらに女性の場合には家事労働時間が長いほど急いでいると感じやすい傾向があった。睡眠時間についてみると、女性でのみ起床または就寝時刻が特に決まっていない場合には、タイムプレッシャーが弱いという関連がみられた。、生活時間のあり方が、時間に対する意識に影響を与えている可能性がある。
第3のテーマは、結婚や子どもを持つ年齢についての分析である。2007年と2023年の時点間の比較では、「何歳までに結婚したいか」と「何歳までに子どもを持ちたいか」の希望について大きな意識変化は観察されなかった。実際の結婚・出産年齢はこの間に上昇しているので、希望と実際の経験年齢のギャップが時点間で広がったことが推察される。これらの希望を実現した人々がどのくらい存在するのかを調べると、希望の年齢までに結婚した人の割合は、男性で約3割、女性で約4割であり、希望の年齢までに子どもを持った人の比率は、男女ともに約15%であった。
4つ目のテーマである希望する介護場所・介護者の分析では、介護場所として最も希望が多いのは、男女共に「介護施設や老人ホーム」であった。希望する介護者については、最も希望が多いのは、男女共に「介護職等の専門家」であった。希望する場所の規定要因を調べると、年齢が高いほど、女性は男性より、子どもがいない場合にはいる場合よりも、介護場所として施設系を希望する傾向があった。希望する介護者については、男性は女性よりも、配偶者がいる場合にはいない場合よりも、家族を希望する傾向があった。
(石田浩)
1 本稿は、東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクト・ディスカッションペーパーシリーズ No.174『「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査 2023」分析結果報告:パネル調査からみる幸福、タイムプレッシャー、希望の結婚・出産年齢、希望の介護』(2024年3月)に加筆・修正したものである。本稿は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤研究(S() 18103003, 22223005)、特別推進研究(25000001, 18H05204)の助成を受けて行った研究成果の一部である。東京大学社会科学研究所パネル調査の実施にあたっては社会科学研究所研究資金、(株)アウトソーシングからの奨学寄付金を受けた。調査は一般社団法人中央調査社に委託して実施した。パネル調査データの使用にあたっては社会科学研究所パネル調査運営委員会の許可を受けた。
2 すでに子どもがいる回答者の追加出生意欲も含む。
3 回答者の年齢が、Wave1では20~40歳、Wave17では24~57歳であり、両時点で年齢層を統一させるため、24~40歳に分析対象を限定した。
4 Wave17(2023年)は、すでに子どもがいる者もこの設問の回答対象となっているため、調査時点で子どもがいない人に限定して分析した。
5 前述したように、JLPSではWave1(2007年)およびWave17(2023年)の2時点でのみ「何歳までに結婚したいか」「何歳までに子どもを持ちたいか」を尋ねている。したがって、本節で検証しているのは、2007年時点の希望がその後も変化していないと仮定した場合の希望の実現である。
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