中央調査報

トップページ  >  中央調査報   >  無作為抽出によるWEB・郵送ミックスモード実験調査の結果の概要
■「中央調査報(No.811)」より

 ■無作為抽出によるWEB・郵送ミックスモード実験調査の結果の概要


NHK放送文化研究所 荒牧 央
福田 葉月
萩原 潤治


1.はじめに
 世論調査の有効率(回収率)の低下やインターネット利用の拡大を背景として、世論調査の中にもWEBによる回答を組み合わせた「ミックスモード」の調査がみられるようになっている。NHK放送文化研究所では、2016年と2017年に住民基本台帳からの無作為抽出によるミックスモード方式の実験調査を実施したが、将来の実用化に向けて新たな知見を積み重ねることを目的に、あらためて調査を行った。この間、インターネットの利用がさらに進み、コロナ禍でテレワークやオンラインの活用が拡大するなど状況も変化している。2017年の前回調査であまり効果がみられなかった若年層の有効率や、前回は対象に含めなかった60代でもWEBによる回答方式が受容されるのかについて検証した。


2.調査の概要と日程
 今回の調査は2023年2月から3月に、WEBと郵送を併用するミックスモードで実施した。調査の概要は表1のとおりで、2017年の前回調査は16~59歳が対象だったが、今回は60代まで対象を広げた。調査方法は前回調査と同様、「WEB先行の逐次混合方式」を採用し、調査相手には回答方法としてWEB回答を先行して提示した後、一定期間内にWEBで回答が得られなかった相手、および郵送回答を希望する相手には紙の調査票を送付した。将来的にはWEBのみで世論調査を行うことも想定されるため、WEB回答数を最大限に伸ばすことを優先し、郵送回答は補完的な位置づけとしている。

表1 調査の概要

 調査票は、当研究所が2022年に実施した4つの郵送調査、「社会と暮らしに関する意識調査」「全国放送サービス接触動向調査」「全国メディア意識世論調査」「新型コロナウイルス感染症に関する世論調査(第3回)」から選んだ質問で作成した。そのうち大部分(28問中22問)は「社会と暮らしに関する意識調査」の質問である1)
 実査は2月10日(金)から3月17日(金)までの36日間である。実査開始の1週間前には「協力依頼はがき」を発送し、実査初日にWEBでの回答手順を説明した「回答のお願い」などを送付した(表2)。その後、未回答者に対して2回の督促を行った。実査開始から3週間後にあたる2回目の督促では、紙の調査票を送付して、郵送による回答方法を提示した。調査日程の設定にあたっては、各発送日から回答締め切りまでの間に土日・祝日をはさむことで有効率の向上をめざした。

表2 調査日程


3.回収状況
 今回のミックスモード調査の有効率は51.9%で、前回の54.5%を下回った(以下、WEBによる回答を「WEB回答」、補完として受け付けた紙の調査票の返送による回答を「郵送回答」、両者をあわせて「ミックスモード」とする)。有効率の内訳は、WEB回答が46.4%、郵送回答が5.5%である。WEB回答は前回(46.5%)と差がなかったが、郵送回答は前回(8.0%)を下回った。
 有効数を分母にすると、WEB回答が89%、郵送回答が11%で、WEB回答の比率は前回の85%からさらに高くなった。また、WEB回答者のうち84%がスマートフォンでの回答で、パソコンでの回答は12%にとどまっている。前回はスマートフォン72%、パソコン25%であり、スマートフォンでの回答が増加している。
 図1は今回の有効率を年層別にみたものである。全体の51.9%に比べて、16~19歳は42.6%、20代は35.9%、30代が42.8%と低くなっている。WEB回答を導入することで10代や20代の若年層の有効率が向上することを期待したが、今回も十分な効果はみられなかった。年齢によって有効率に大きな違いがあるという従来の世論調査の課題が、ミックスモードでも解消していないことを示している。

図1 ミックスモードと郵送調査の有効率(全体・年層別)

 一方、今回調査対象に加えた60代の有効率は67.7%で、ほかの年層に比べて最も高かった。内訳は郵送回答が14.1%で、ほかの年層に比べて高いことは予想どおりだが、WEB回答だけでも53.6%を確保しており、30代以下を10ポイント以上も上回っている。60代でもミックスモードによる回答が可能であることが示されたといえる。
 同じく図1で、近い時期に実施した郵送調査(2022年10~11月「社会と暮らしに関する意識調査」)と有効率を比較すると、ミックスモードの全体の有効率(51.9%)は郵送調査(57.9%)よりも低く、年層別にみると16 ~ 19歳、50代、60代で低かった。20代から40代についてもミックスモードのほうが低い傾向がみられるものの、有意差はなかった。
 有効率の期間別の内訳は、1回目の督促までに回答があったものが37.4%、1回目の督促から2回目の督促までが7.7%、2回目の督促以降が6.7%、不明・無回答が0.1%だった。すべてが督促による効果とは限らないが、1回目の督促以降に合計で14.4%の積み上げがあったことになる。
 回答日のデータから日ごとの有効率の推移をみると(図2)、どの年層もほぼ同じように推移しており、16~19歳を除けば、調査序盤に生じた差がそのまま終盤まで持ち越されて有効率の違いにつながっている。また、60代では紙の調査票を送付した2回目の督促の効果が大きく、2回目督促以降の有効率が13.4%と高くなっている。

図2 日ごとの有効率の推移(年層別)

 ミックスモードと郵送調査の有効サンプルの構成比については、男女別、男女年層別で違いはみられなかった。学歴、職業、雇用形態などほかの属性別にみても、細かい差はあるものの、おおまかな分布は近似していた。


4 .郵送調査との回答差
 ミックスモードと郵送調査の回答分布について、質問ごと(表形式の質問は項目ごと。複数回答質問は選択肢ごと)にカイ二乗検定と連関係数クラメールのV(以下Vとする)を用いた分析を行い、回答差が大きい質問を確認した。Vは0から1の値をとり、1に近づくほど連関が強い。カイ二乗検定はサンプルサイズが大きいと有意になりやすいため、平沢・歸山(2024)2)にならい、Vの値が0.15以上であれば連関がある、つまり回答差が大きいと判断した。その結果、全28問の110変数のうち、カイ二乗検定で有意、かつ、Vが0.15以上の変数は6変数(5.5%)のみであった。
 表3には上記の基準を満たした質問に「●」と表示した(参考までに、連関があるとする幅を広げ、Vが0.1以上0.15未満の質問には「▲」をつけた)。1問に複数の項目がある場合や複数回答の質問の場合、1つでも基準を満たす項目や選択肢があれば、その質問に「●」または「▲」と表示した。「●」がついたのは第23問と第28問だけである。「社会と暮らしに関する意識調査」からの第1 ~ 22問は調査票の前半部分にあり、前の質問の影響を受けにくいため特に比較可能性が高いと考えられるが、ここで回答差が大きい質問はなかった。全体的にみて、ミックスモードと郵送調査の回答分布にはほとんど差がないといえるだろう。
 一方で、一部の質問は回答差が大きく、最後の第28問「オンライン化でどうなるか」は、両者の差が顕著だった。ただし、オンラインに対する肯定的な意見も否定的な意見も、ミックスモードのほうがあてはまると答える人が多く、ミックスモードの回答者が必ずしもオンライン化に肯定的なわけではない。インターネット関連の質問など、一部の質問における回答差が再現性のあるものかどうかは今後も検証が必要である。

表3 郵送調査と回答差が大きい質問
 
 
5 .まとめ
 今回の調査の有効率は、近い時期に行った郵送調査には及ばなかったものの、郵送調査に近い水準を確保することができた。今回対象に加えた60代については、郵送回答の比率が高めだが、ミックスモードによる調査が可能であることがわかった。また、有効回答に占めるWEB回答の比率は9割まで高めることができた。WEB先行型のミックスモードでは、督促のタイミングなど適切な調査設計を行うことでWEB回答の比率を大きく高められる特長があり、今回もそれが示されている。
 ミックスモードの有効サンプル構成は郵送調査とほぼ近似しており、回答分布も一部の質問を除いて郵送調査とほとんど差がないといえる。こうしたことも前回調査に続いて確かめることができた。
 一方で、WEBを使ったミックスモードの採用によって、世論調査の有効率の向上につなげることはできなかった。以前からの懸案である若年層の有効率についても同様で、若年になるほど有効率が低くなる傾向は従来の郵送調査と共通した課題として残ったままである。課題の改善に向けて、今後もさまざまな面から検討を続けていきたい。
 
 

1) 具体的な質問文・選択肢については下記を参照。
 荒牧央・福田葉月・萩原潤治,2024,「無作為抽出によるWEB・郵送ミックスモード方式実験調査の検証」『放送研究と調査』74(11): 76-100.
2) 平沢和司・歸山亜紀,2024,「無作為ミックスモード調査の可能性」杉野勇・平沢和司編『無作為抽出ウェブ調査の挑戦』法律文化社,19-43.