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■「中央調査報(No.819)」より

 ■ 高市首相、「電撃」解散の背景 =野田氏、「中道」に政治生命= ~政界再編、テーマ浮上か~


時事通信社 政治部デスク 市川 謙吾

 2026年の日本政治は2月8日投開票の衆院選の結果が、各党の動向に大きく影響する。大方の予想を覆し、高市早苗首相(自民党総裁)が電撃的な衆院解散に踏み切った背景には何があるのか。野田佳彦元首相は政治生命を懸けて新党「中道改革連合」を結党。立憲民主党と公明党の合流には双方とパイプを持つ自民重鎮が関与したとされ、新党がきっかけとなって政界再編が本格的なテーマに浮上する可能性も捨てきれない。
 「重要政策は安定した政治基盤と国民の明確な信任がなければ実現できない。進むべき方向を示し、国民に堂々と信を問いたい。その覚悟で解散を決断した」。首相は1月19日の記者会見で、解散の大義をこう説明した。



◇「数」の現実
 昨年末、首相に近い自民幹部や側近議員はそろって「年末年始はゆっくりしていい。大丈夫、解散なんてないから」などと周囲に語っていた。状況が一変したのは新年1月9日の深夜。読売新聞がインターネットで「首相が衆院解散を検討、23日通常国会の冒頭に」と報じると、与野党に衝撃が走った。
 首相が冒頭解散にかじを切ったのはいつなのか。政府・与党は昨年12月25日、通常国会を1月23日に召集すると野党に伝えた。この時点で首相が本格的に検討していたとは考えにくい。23日を大幅に前倒しし1月初旬に召集して冒頭に解散すれば、政権の最重要課題である26年度予算案を年度内に成立させられる可能性があったからだ。
 ただし、今になって振り返れば兆しはなくはなかった。連立を組む日本維新の会は「身を切る改革」を実現しようと、衆院定数削減法案の成立を繰り返し自民に要求。連立離脱をちらつかせ、首相はいら立ちを募らせていた。
 参院では自民と維新を足しても過半数に足りないため、国民民主党の要求をのんで、所得税の課税最低ライン「年収の壁」を178万円に引き上げることで合意。国民民主の玉木雄一郎代表は予算案の早期成立に協力すると約束した。だが、大きな税収減となるため、合意の翌日には長期金利の指標となる新発10年物国債の利回りが約20年ぶりに2%を突破。26年度予算案で国債の元本返済と利払い費を合わせた「国債費」は過去最大の31兆円余となった。財務省の試算によると、34年度は利払い費だけで25兆円を超える可能性がある。
 この維国の対応は、「数」を持たない首相に現実を突き付けた。通常国会に提出する予定だったインテリジェンス(情報活動)機能強化に向けた国家情報会議設置法案のほか、スパイ防止法案や外国人政策といった「高市カラー」の濃厚な政策を実現するためには「直近の民意」を得る必要があるとの判断に傾いたとみられる。首相は1月5日の年頭会見で、解散について「目の前の課題に懸命に取り組んでいる」と述べるにとどめ、これまでの「考えている暇はない」とのフレーズは使わなかった。


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◇レアアース
 もう一つ、首相の背中を押したとみられるのが中国だ。中国商務省は1月6日、軍事力の向上につながる軍民両用品の日本向け輸出を禁止すると発表した。当初は民生用のレアアース(希土類)が含まれるか判然としなかったが、同9日になって日本の報道機関が「レアアースの対日輸出規制を強化したことが分かった」などと一斉に報道。読売新聞が首相の解散検討を報じる数時間前のことだった。
 首相の台湾有事発言以降、中国は日本渡航を控えるよう自国民に呼び掛け、日本産水産物の輸入も停止。日本周辺でロシアと爆撃機の共同飛行訓練を行うなど、経済と軍事の両面から対日圧力を強めていた。だが、レアアースの政治的影響は次元が異なる。
 中国に6割を依存するレアアースは、ハイブリッド車や電気自動車のモーター製造に不可欠。「レアアースを止められると日本の基幹産業が大きな打撃を受ける」(自民重鎮)。日本政府関係者によると、在京中国大使館の関係者が経済界への接触を強め、経団連幹部らに「日本に輸出しているレアアースを毎週1種類ずつ止めることもできる」と迫っていたという。業界団体の会長を務めるトヨタ自動車の豊田章男会長は、台湾発言後の昨年11月と12月、首相と面会している。
 中国がレアアースに踏み込んだことで、「日中対立は数年単位で続く」(自民関係者)との見方が強まった。4月にはトランプ米大統領が訪中し、習近平国家主席と首脳会談を行う予定だ。トランプ氏は秋の米中間選挙に向けてディール(取引)によって中国から経済的利益を引き出したい考えで、日中関係の悪化には距離を置いている。米中首脳が友好関係を強調すればするほど、中国との対立を招いた首相の不手際が浮き彫りとなる。
 時事通信の1月の世論調査によると、高市内閣の支持率は61.0%で、依然として高水準を維持している。だが、衆参予算委員会で野党の激しい追及にさらされる2〜3月は支持率が低下する傾向がある。自身や閣僚にスキャンダルが発覚すれば、タイミングを逃すことも考えられる。首相はこうした状況を勘案して解散を決意したとみられる。


◇「じり貧」打開、決戦へ賭け
 「与党と野党に分かれていた中道勢力を政治のど真ん中に位置付けられるチャンスだ」。野田氏は1月15日、公明の斉藤鉄夫代表と新党結成で合意後、記者団にこう強調。「穏健な保守に『中道と連携していこう』と思ってもらえるような結果を(衆院選で)出して、政界再編の一里塚にしたい」と意気込みを語った。
 24年9月に立民代表に就任した野田氏は、政権交代に向けて同年10月の衆院選を「ホップ」、25年7月の参院選を「ステップ」と位置付け、次期衆院選の「ジャンプ」で実現すると訴えていた。
 だが、24年衆院選は派閥裏金事件で自民が惨敗する中、立民は148議席と十分に伸ばせなかった。多党化が進んだこともあり国民民主などとの野党共闘態勢も構築できず、立民内には不満が募り始めた。野田氏は党内の空気を感じ取ったのか、25年6月の会見で、次期衆院選で政権交代を実現できなければ「当然、代表を辞める」と明言。翌月の参院選は22議席と改選議席の維持にとどまり、「事実上の敗北」と総括せざるを得なかった。
 党勢回復の道筋が見えない中で、公明が自民との連立を解消。野田氏は信頼する安住淳幹事長を中心に公明側への接触を始めた。全国規模の支持基盤を持つ公明は各小選挙区で1万〜2万票を持ち、選挙協力が実効性を伴えば衆院選の構図が一変する可能性があるためだ。中道路線を強調することは立民の最大グループでリベラル勢力の「サンクチュアリ」などの反発を招くことは容易に想像できたが、今回の衆院選に文字通り政治生命が懸かった野田氏にとっては他に選択肢はなかった。
 一方の公明も「じり貧」の状況は立民と同じだった。24年衆院選は裏金事件に関係した自民候補を推薦したことも響き、公示前勢力から8減の24議席と大敗。当時の石井啓一代表も落選した。25年参院選も改選14議席から過去最低の8議席に後退。特に、かつて800万票超を集めたこともある比例代表の得票が521万票にとどまった。
 連立を離脱したものの、維新と組んだ高市政権は高支持率を維持。野党として自民と対決するのか、一定程度協力して政策実現を目指すのか定まらず、党勢浮揚に転じるきっかけを全くつかめないでいた。突然、首相が仕掛けた政治決戦への対応を迫られ、立民との新党にかじを切ったのが実情だ。


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◇公明に譲歩
 立公は1月19日、中道新党の基本政策を発表した。両党に隔たりがある安全保障に関しては、集団的自衛権への言及は避けつつ「安保関連法が定める存立危機事態での自衛権行使は合憲」と明記。立民は「違憲部分の廃止」という主張を大きく転換させた。「新増設は認めない」と訴えていた原発政策では、安全性が確認された原発の再稼働を容認。「憲法改正論議の深化」を含め、いずれも立民内のリベラル勢力が強く反発しかねない内容だ。
 野田氏が基本政策で譲歩してでも公明との合流を優先させた理由は、大きく三つある。一つ目は、首相再登板を目指す野田氏にとって今回の衆院選がラストチャンスになる可能性があること。勝利のためには、公明が持つ全国規模の組織の支援が必要なこと。三つ目は、立民のリベラル色が強い政策から距離を置き、中道に路線転換して政界再編につなげることだ。
 野田氏は同16日の党名発表会見でも「幅広く声を掛けてもっと大きな固まりになれば政界再編の第一歩を踏み出す戦いになる」と主張するなど、繰り返し政界再編に言及。複数の関係者によると、野田氏は石破政権の末期、退陣論の広がりを受けて石破茂首相(当時)へ離党を呼び掛けたという。立公の接近には、両党とのパイプが太く石破政権の屋台骨を担った森山裕前幹事長が関与したとの証言も複数ある。
 ある自民関係者は、党内で高市首相の濃厚な保守色を嫌う向きも少なくないとして「保守派と穏健保守で真っ二つに割れている」と指摘。「ミシン目を修復するには衆院選で圧勝して過半数を回復するしかない」と語った。一方、敗北して首相が退陣し、岸田文雄元首相や石破、森山両氏ら穏健派が復権すれば「再び自立公連携の芽が出てくる」と語った。


◇受け皿狙う
 一方、国民民主は引き続き、与党と中道のはざまで存在感を発揮する可能性がある。朝日新聞が1月17、18両日に実施した世論調査の「比例代表の投票先」で、国民民主は中道の9%を上回る10%だった。玉木氏は所得税の課税最低ライン「178万円」への引き上げを自民にのませ、予算成立に協力するとしていたが、解散を受けて予算賛成は確約できないとの姿勢に転じた。中道にも参加しない方針。衆院選で政権批判票の受け皿となって躍進を再現し、国会に確固たる勢力を築く狙いだ。
 とはいえ、一足飛びに自民や中道をしのぐことは至難だ。有権者の期待を集め続けるために「手取りを増やす」政策を実現する必要があり、さらなる勢力伸長に向けて一定程度、与党と協力するとみられる。玉木氏は1月20日の会見で「政策を前に進めるためにわれわれが影響力を高めなければいけない。政局、選挙最優先ではなく、経済と国民生活最優先の新しい政治に変えていく」と語った。


2026年の主な政治日程