中央調査報

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■「中央調査報(No.506)」より

 インターネットリサーチの現状


 近年のインターネットの普及には目覚しいものがあり、パソコンの低価格化・性能の向上と合わせプロバイダを含めたインフラの進歩が、インターネットを手軽に使える環境作りに拍車をかけている。そのような環境を利用して行う「eビジネス」なる言葉が新聞やテレビでも見かけるようになってきている。調査業界でもインターネットを利用したアンケート調査が行われており、すでに研究段階から実用段階に入っているところもある。現時点で、調査業界がインターネットリサーチをどのように考え、どのように行っているか、JMRA(日本マーケティング・リサーチ協会)がJMRA正会員社(73社)に対して行った「インターネットリサーチに関する調査」の結果報告からインターネットリサーチの現状と課題を紹介する。
 <調査の概要>
  調査時期: 平成11年1月18日~1月29日
  調査対象: JMRA正会員社 全73社
  調査方法: 郵送調査(自記入式、無記名)
  回収数: 56社(回収率77%)

1.インターネットリサーチの実施状況
 クライアントにおいてもインターネットリサーチへの関心は高く、4割が実施の依頼を受けている(図1)。
 また、インターネットの実施状況については、自主調査やテストを含めてではあるが、インターネットリサーチを実施したことのある会社は、25社(44%)に達している(図2)。
 インターネットリサーチを実施したことのある25社のうち、「10回以上」実施しているところは6社と少なく、まだビジネスメニューとして確立していないところが多い(図3)。

(図1)クライアントからの「インターネットリサーチ」要請の有無(N=56社)(太字は%)




(図2)自主調査やテストを含めて、「インターネットリサーチ」実施の有無(N=56社)(太字は%)



(図3)この1年間で「インターネットリサーチ」を実施した回数(N=25社)(太字は%)



 調査システムの形態については、自社のシステムを使い、自社のモニターを対象に実施しているケースが多い。一方、専門的なノウハウや、管理・運営していくための環境が必要であるため、他社と提携して実施している会社も少なくない(図4)。
 対象者の設定については、あらかじめ調査協力を承諾している登録済みの対象者のクローズド型が7割と多い。一方、不特定多数の対象者(ホームページを見て回答してもらうなど)のオープン型も3割程ある(図5)。
 対象者への依頼は、電子メールで告知する方法が主流である。また、対象者の回答は、「ホームページ上で得る」ケースと「電子メールで返送してもらう」ケースに分かれた(図6)。

(図4)調査システムの形態(複数回答、N=25社)(太字は%)



(図5)対象者の設定(複数回答、N=25社)(太字は%)


(図6)具体的なインターネットリサーチの実施方法(複数回答、N=25社)(太字は%)


2. インターネットリサーチの将来性
 「インターネットリサーチ」が市場調査の一手法として確立するかどうかについて聞いたところ、インターネットリサーチは市場調査の一手法として確立するという意見が大半を占め(図7)、その理由としては、「低コストで実施できる」「短期間で実施できる」が多くあげられた。また、「条件付きで確立すると思う」という回答では、「インターネットユーザーの特殊性」があげられ、代表性の観点から定量調査に不向きとする意見も多かった。しかし、インターネットの普及によってその特殊性もある程度解消されるとの見方もあり、当面は調査テーマや調査対象者を限定して実施すべきとしている。


(図7)「インターネットリサーチ」の市場調査の一手法としての確立の問題(複数回答、N=25社)(太字は%)


3.インターネットリサーチに関する諸問題と見解
 この、諸問題と見解については、インターネット調査を受託業務しているJMRA正会員社(7社)に実状把握のために行ったアンケートで再度たずねている。見解のところは[]付きの形で併記する。

 <調査の概要>
 調査時期:平成11年4月1日~4月9日
 調査対象:インターネット調査を受託業務
      しているJMRA正会員社
 調査方法:インターネット調査(クローズド型) 

(1) インターネット上で調査を行う場合、標本抽出や母集団と標本の関係をどのように考えるか
 「母集団」をどう考えるか、というところで意見が分かれている。
・ 生活者全体を母集団と考えた場合、代表性の確保は困難であり、「定量調査には不向き」「標本の特殊性を考慮した使い方をすべき」としている。
・ インターネットユーザーを母集団と考えた場合、「インターネットユーザーの研究(一般代表サンプルとの比較研究を含む)を進めることにより、通常の調査と同様に対応できる」とする意見も少なくない。
・ [既存の調査とは異なり、実状においては「代表性はない」という意見が大勢を占める]
(2)ホームページ上で不特定多数に対してアンケートを行う場合、インセンティブ目当てに複数回答するものが多数存在すること
・ 「不特定多数に対する調査」に対しては否定的な意見が多く、インターネット上で調査を行うならば、「クローズドなモニターを設定すべき」としている。
・ 複数回答に関しては、重複回答をチェックするシステムを設ければすぐに対応できる問題であり、特に懸念される問題とは考えられていない。
・ [インセンティブ目当ての複数回答については「クローズド型」調査を行っても、完全に防げていないのが実状である。各社問題視しており、対応を模索している状況]
(3) 『調査』と『マーケティング活動』が混在して行われていること
 (例)顧客リストを集めるために調査を行ったり、見込み客と思われる対象者に対してセールスやプロモーションを行ったりすること
・ 特に、インターネットリサーチに限った問題ではなく、調査環境を悪化させる要因として懸念されている。
・ [『調査』と『マーケティング活動』には、必ず一線を隔すべきという意見で一致している]
(4) 対象者のプライバシー保護について
 (例)調査データを格納しているサーバー(コンピュータ)に外部から侵入され、個人情報を含むデータか漏洩したりすること
・ 各社とも重要課題と認識しており、インターネットリサーチが確立するためには不可欠な要素としている。一方、現時点では技術的な問題もあって、最良の対応策を講じるしかないとしている。
・ [「システムのセキュリティ強化」は調査会社としての義務という認識で一致している。外部からの侵入に対するセキュリティ上の課題に対しては、各社とも継続検討課題としてあげている]
(5)対象者が自身の属性を偽ったり、「人となり」(人格や性格)を変えて回答する恐れがあること
・ 特に、インターネットリサーチに限った問題ではなく、完全に防止することは不可能としている。しかし、ある程度防止するためにもインターネット上で調査を行う際にはクローズドなモニターを設定するべきとの意見が多い。
・ [インターネット調査が現状で抱える問題として捉えている。調査対象者をモニター化し、クローズド型調査を実施することで防いでいる]
(6)インターネットは簡単にサンプルを収集することができる手段であるため、他業種が容易に市場調査へ参入してくることについて
・ 現実にこのような事態が起きていると認識しており、脅威に感じている会社も少なくない。市場調査会社としての専門性・信頼性を高めていくことにより、他業種からの参入組と差別化を図る必要があるとしている。
・ [「リサーチシステムの確立により、他業種とは差別化できる」という意見が大勢を占めている]

4.今後のインターネットリサーチ実施予定
 「今後インターネットリサーチを実施する予定がある」と6割の会社が回答している(図8)。

(図8)「インターネットリサーチ」の実施予定(複数回答、N=25社)(太字は%)


5.インターネットリサーチのテーマ
 インターネットリサーチのテーマとしては、次のものが複数あげられた。
 適するテーマとしては、定性調査、コンピュータ関連、サイバーマーケット関連、インターネットユーザーの特性にマッチした分野。
 適さないテーマとしては、代表性が求められる調査(世論調査・シェア予測)、インターネットユーザーの特性にマッチしない年齢層の調査。

6.ま と め
・ 現在、JMRA正会員社の多くは、インターネットリサーチの有効性・信頼性に疑問を持ちながらも、スピード・コスト面からのクライアントの要求、異業種からの調査業界への進出を考えると、インターネットリサーチを市場調査の一手法として認めざるを得なくなっている。
・ インターネットの普及率はいまだ10%前後とされており、ユーザー特性の偏りの問題はしばらく解消されないだろう。実施する会社はもとより、発注するクライアント側もインターネットリサーチに適したテーマ、調査対象を見極めて実施すべきとしている。
・ 代表性の問題以外にも、インターネットリサーチを実施していく上での問題点として、「重複回答の防止」「属性詐称の防止」があり、これらを防ぐためには、クローズドなモニター組織を設定し、そのモニターを対象として調査を行う必要があるとしている。
・ JMRAに対しては、インターネットリサーチの有効性の研究と啓蒙活動が求められている。また、「対象者のプライバシー保護」「調査とマーケティング活動の混同」などについての監視体制・規制づくり(ガイドラインの作成)が期待されている。

 以上が結果報告からの紹介となったが、JMRAのインターネット・リサーチ委員会(筆者も委員として参加)では、ガイドラインについての案も合わせて報告している。また、今回紹介しなかったが、インターネット調査を受託業務しているJMRA正会員社に対する調査結果では、インターネット調査の実状に関する総括、開始の経緯、モニターの設定手続き、調査依頼クライアントについても報告している。その他の結果等についてはJMRAの報告書の「日本におけるインターネットリサーチの現状と課題」を参照されたい。
 個人的には、「インターネットリサーチは定性調査のツールかな」という思いがあったので、インターネット調査を受託業務しているJMRA正会員社の多くが「市場調査の一手法としてのインターネット調査の今後」という質問について「将来的には、定量調査の一手法としても確立していく」と答えていたのに「お、ここまで行くのか」と多少の驚きと新鮮な思いがした記憶がある。
 昨今のIT(インフォメーション・テクノロジー)の発達のスピードには加速度的なものがあり、インターネットが社会インフラになる日もそう遠くないのかもしれない。

(集計部次長 根本 晋)

[報告書の問い合わせ先]
 社団法人 日本マーケティング・リサーチ協会
      電話 03(3813)3577
(報告書)
日本におけるインターネットリサーチの現状と課題
発  行:社団法人 日本マーケティング・リサーチ協会
     インターネット・リサーチ委員会
発行年月:1999年7月