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■「中央調査報(No.528)」より

 ■ JGSSプロジェクトの紹介と予備調査の結果から

大阪商業大学総合経営学部 助教授 岩井 紀子


1.JGSSプロジェクトの目的
 JGSS(Japanese General Social Surveys)プロジェクトは、アメリカのGeneral Social Survey(GSS)に対応する総合的社会調査を日本で毎年実施し、その個票データをデータ・アーカイブで提供しようとする研究プロジェクトである。日本では、東京大学社会科学研究所のSSJデータ・アーカイブや札幌学院大学社会情報学部の社会・意識調査データベースなど、データ・アーカイブの構築と連携がようやく緒についた。しかし、欧米のデータ・アーカイブで提供されているような、社会科学の幅広い分野の研究者が利用でき、時系列分析が可能な、継続的かつ総合的社会調査のデータの蓄積は、まだない。
 そこで、このような調査データの構築と蓄積を目指して、大阪商業大学比較地域研究所と東京大学社会科学研究所のプロジェクトチームは、1998年秋から共同研究を開始した。1999年の春には、大阪商業大学比較地域研究所が文部科学省から学術フロンティア推進拠点としての指定を受けたことにより、JGSSは2003年度までの5年間の継続プロジェクトとなった。研究代表は谷岡一郎(大阪商業大学教授・学長)と仁田道夫(東京大学社会科学研究所教授・所長)であり、代表幹事は佐藤博樹(東京大学社会科学研究所教授)と岩井紀子である。JGSS事務局は大阪商業大学にある(事務局長:大澤美苗)。調査実施メンバーは、調査の度に多少の変動があるが、国公私立の教育・研究機関から社会学、政治学、社会心理学、教育学、統計学、人口学などを専攻するメンバーが参加している(詳細はJGSSのHPに掲載)。
注)GSSは、シカゴ大学のNational Opinion Research Centerが1972年から最新の2000年まで毎年ないし隔年実施しており、23回の調査に、のべ4万人以上が回答し、GSSを用いた著作は5,000以上にのぼる。類似の調査は、アイルランド、イギリス、オーストラリア、カナダ、ドイツ、台湾においてスタートしており、調査が重ねられている。

JGSSプロジェクトの経過と今後の予定

99/3 第1回予備調査実施

調査地域: 大阪府下と首都圏(各20地点)
調査対象: 20歳代から60歳代の男女個人
  抽出方法: 大阪府-層化2段無作為抽出法
     首都圏-2段無作為抽出法
  調査方法: 面接法と留置法を併用
有効回収数(率):大阪府151(43.3%)
         首都圏159(43.8%)
特徴: split-ballotにより
(1)留置票を2種類用いて調査項目を検討
(2)面接票と留置票の実施順序を検討

99/11 第1回予備調査データをSSJで公開
99/11 第2回予備調査実施

調査地域: 全国(81地点)
調査対象: 18歳以上の男女個人1,200人
抽出方法: 層化2段無作為抽出法
調査方法: 面接法と留置法を併用
有効回収数(率):790(65.0%)
特徴: split-ballotにより
(1)留置票を2種類用いて調査項目を検討
(2)謝礼を渡すタイミングが回収率に与える影響を
 検討

00/11 JGSS-2000(第1回本調査)実施

調査地域: 全国(300地点)
調査対象: 20~89歳の男女個人4,500人
抽出方法: 層化2段無作為抽出法
調査方法: 面接法と留置法を併用
有効回収数(率):2,893(64.9%)

01/3 第2回予備調査データをSSJで公開

JGSSのHP開設

01/11 JGSS-2001実施:JGSS-2000 の調査項目を一部修正、差替え
02/3 JGSS-2000データをSSJで公開

論文集・解説書の発行(仮題『最新のデータで見る日本人の姿-JGSS-2000の結果から』有斐閣)

02/11 JGSS-2002実施:標本数5,500;調査項目をかなり差替え
03/3 JGSS-2001データをSSJで公開
03/6 国際シンポジウム開催
03/11 JGSS-2003実施
04/3 JGSS-2002データをSSJで公開


2.JGSSの特徴
 
JGSSは、GSSに範を取り、国際比較を視野に入れているが、日本社会と人々の意識や行動の実態を把握することに主眼をおいている。調査対象者の世帯構成、就業や生計の状況、両親や配偶者の職業、対象者の政党支持、政治意識、家族観、人生観、死生観、宗教、余暇活動、犯罪被害など広範囲の調査事項を網羅し、さまざまな問題関心から分析ができる調査データの構築を目指している。GSSは平均90分を要する面接調査であるが、JGSSでは、日本の調査環境を考慮して、面接法と留置法を併用している。就労状況、政党支持、婚姻歴など、設問が複雑であったり枝分かれの多い調査項目は、面接調査票に入れている。一方、プライバシーに関連するなど面接で回答しにくい設問は、留置調査票に入れている。面接調査と留置調査の所要時間は、それぞれ20分程度である。
 JGSSの項目の選択に当たっては、GSSで過去に使用された全調査項目を検討した上で、1990年以降の5回の調査における出現頻度や重要性から判断して、必要な項目を抽出した。さらに、日本における近年の各種の世論調査を参照し、関心が高い項目あるいは時系列の観察が必要と思われる項目を加えている。
 JGSSの調査データは、社会科学の多くの問題について基礎的な資料を提供し、多岐にわたる変数の関連を分析することを可能にする。その反面、GSSと同様に、一つの問題関心について詳細な情報を提供することは出来ない。
 社会学の研究者グループが行なってきた著名な調査としては、「社会階層と社会移動調査(SocialStratification and Social Mobility Survey:SSM調査)」がある。SSMとJGSSは、いくつかの点で異なっている。第1に、SSMは面接調査であるのに対して、前述したようにJGSSでは、各対象者に対して面接調査法と留置調査法を併用している。第2に、JGSSではSSMで中核をなす職業、学歴、収入、支持政党、政府の役割などに関する項目に加えて、対象者の生活習慣、健康状態、余暇活動、生活環境および人間観、死生観、倫理観、医療・法律問題への考え方、ドナーカードの保有やペットの存在など時事的なトピックまで、対象者の行動や意識について幅広く尋ねている。第3に、JGSSは、調査項目の差し替えを行ないながら、2003年までは「毎年」実施する予定である。
 そして何よりも、JGSSは、調査の結果得られた個票データを教育・研究のためにすみやかに公開することを大前提として、調査を企画し、調査に関する情報を積極的に公開している。JGSSのホームページでは、プロジェクトの概要、調査実施のスケジュール、各調査の目的、方法、回収状況、関連文献などを日本語だけでなく、英語でも紹介している。また、事項検索の機能も備えており、関心のある事項を選択すれば、調査票に用いた質問文や回答分布・変数名をみることができる。
 JGSSでは、調査項目の検討と調査方法論上の検討を行なうために、第1回予備調査を1999年3月に首都圏と大阪府において、さらに同年11月に第2回予備調査を全国で実施した。これらの結果を踏まえて、第1回本調査(JGSS-2000)を2000年10月~11月に全国で実施し、本年10月~11月にはJGSS-2001を実施する。
 第1回と第2回予備調査の個票データは既にSSJデータ・アーカイブに収録されており、JGSS-2000のデータも2002年3月には収録される。JGSSの利用申請は、9月末時点で30件200名を超えており、国内の国公私立大学をはじめ、アメリカや香港の大学で利用されている。


3.予備調査の結果から
 
JGSS-2000の分析結果は、11月の社会学会を皮切りにして順次報告がなされる予定である。本稿では、調査方法の実験を多数織り込んだ、2回の予備調査の結果を紹介したい。
[面接調査と留置調査の実施順序・併用の可能性]
 第1回予備調査では、split-ballotの方法を用いて、全体の半分では、面接調査→留置調査、残りの半分では、留置調査→面接調査の順に実施した。ただし、対象者の都合や希望で、順序を変更してもよいこととしていた。この結果、58.7%のケースでは面接調査を先に実施しており、調査員も、面接調査を先に実施する方がスムーズに運ぶ印象をえていた。第2回予備調査からは、実施順序は、調査員の状況判断に任せているが、面接を先に行なうケースが全体の4分の3を占めている。また、面接調査と留置調査のうちの片方しか実施できなかったケースは非常に少なく、ふたつの調査方法の併用は可能である。
[謝礼を渡すタイミング]
 第2回予備調査では、split-ballotの方法を用いて、81の調査地点の約半数にあたる40地点では、調査に先立って謝礼を渡し(挨拶状に同封)、残りの41地点では、調査の終了時に渡した(事前の挨拶状では謝礼について触れている)。謝礼を渡すタイミングが回収率に与える影響は大きく、調査対象者の性別、年齢、居住地域、居住する市郡の人口規模をコントロールしても、先渡しの方が後渡しに比べて、回収率は有意に高かった(オッズ比は1.82)。
 謝礼を渡すタイミングが回答に与えうる影響についても検討を行った。先渡しによって、「わからない」の割合が若干の項目について幾分増すが、「無回答」が有意に増加することはなかった。また、先渡しによって「配偶者と死別した者」や政治的に保守的な意識を持つ層が幾分掘り起こされたように思われる。JGSS-2000からは、すべての対象者について、謝礼を挨拶状に同封している。
[split-ballotによる質問項目の検討]
 予備調査では、選択肢やスケール、回答の方法などが一部異なるA票とB票の2種類の留置調査票を用意して、split-ballotの方法を用いて、全体の半分ではA票を、残りの半分ではB票を使用した。面接調査票は1種類である。A票にはGSSと互換性がある選択肢とスケールを、B票には日本の調査でよく用いられる選択肢やスケールを主に組み込んでいる。第1回予備調査は都市部のサンプル、第2回予備調査は全国サンプルという違いはあるが、二つの調査はいずれも、以下に述べるような傾向を示していた(図は第2回予備調査の結果から;A票410、B票380)。
1) 選択肢の表現:GSSでは、意見への賛否を求める場合に、strongly agree/agree(強く賛成/賛成)の選択肢を示すことが多い。日本の調査でよく使われる、賛成/どちらかといえば賛成を用いる方が、回答の分布が広がる(図1)。
図1


2) 選択肢「場合による」の有無:《三世代同居》に関しては、「場合による」があってもなくても、「望ましい」と「望ましくない」の比率は差がない。しかし、「場合による」があると、そこに回答が集中する(第2回では50.0%)。
3) 選択肢「わからない」の有無:この選択肢にも回答が集まる傾向があるが、「わからない」の有無によって、他の選択肢の分布が変わることは少ない。法律の知識を要する設問については、「わからない」の選択肢は不可欠と思われる(図2)。
図2


4) スケールと用語:選択肢のすべてを用語で記述した場合とスケールで呈示した場合(両端にのみカテゴリーを記入)を比べると、スケールで呈示した方が、回答の分布はより均整がとれている。用語で記述した場合には、「どちらともいえない」などの中間値の選択率が高くなり、その前後の選択肢の回答分布も変わる。
5) 3点尺度と5点尺度: 《最近の判決》に関しては、二つの尺度で回答の分布は類似しているが、5点尺度の方が「わからない」の回答が少ない。
6) 4点尺度と5点尺度:意見に対する賛否を問う場合、中間値「どちらともいえない」があると、この選択率が高い。無回答率への影響はわずかであるが、意見項目によっては、賛否の比率が大きく異なる場合がある(図3)。《階級帰属意識》に関しては、「中の中」がない場合にはある場合に比べて、「わからない」の選択率が増す。
7) 選択肢の呈示順序: 《所得税の負担感》に関しても、《人間の本性》に関しても、支配的な意見のカテゴリーが最初にくると、それに反応する傾向が伺える。降順(高い→低い、善→悪)の方が、昇順(低い→高い、悪→善)より、「高い」や「善」の選択率が高い(図4)。《子どもの性別に関する希望》に関しては、呈示順序の影響はほとんどない。
図3~4
8) 選択式と記述式: 《信仰している宗教の有無―ある/特に信仰していないが、家の宗教はある/ない》を尋ねた上で、「ある」または「家の宗教はある」と答えた人に、付問において《宗教名》を選択式ないし記述式で尋ねた。付問が選択式か記述式であるかということが、本問への回答に影響を与えていた。付問が記述式の方が、選択式の場合に比べて本問において「家の宗教はある」の回答が少なく、「ない」の選択率が増す。


4.JGSSプロジェクトの強味
 
以上のように、本調査の前に2回の予備調査を実施して、調査方法と調査項目を精査し、調査会社(中央調査社)への指示を明確にしたことにより、JGSS-2000は精度が高く充実している。また、専従のスタッフを置くJGSS事務局をベースにして、研究代表と代表幹事と調査会社が連絡を密にし協議を重ねることにより、二つの研究所の連携ならびに他の研究メンバーとの共同作業・研究は非常にスムーズに運んでいる。


5.プロジェクトが直面した問題と克服
 
研究メンバーの連携、調査会社との連絡、ならびにデータの情報公開は、インターネットに大きく依存している。海外出張や滞在中のメンバーも、プロジェクトの仕事からは逃れられない。しかしながらITの負の影響からも逃れられず、本年9月に世界を荒し回ったコンピュータ・ウィルスによる被害を受けた。そこで、大阪商業大学のHPを発信しているサーバや作業・研究に用いているコンピュータの接続の組み替えを行ない、外部からのウィルスやハッカーの侵入に対するプロテクトを強化した。


<参考資料>
●大阪商業大学比較地域研究所・東京大学社会科学研究所編集・発行『日本版General Social Surveys(JGSS)第1回予備調査基礎集計表・コードブック』2000
●大阪商業大学比較地域研究所・東京大学社会科学研究所編集・発行『日本版General Social Surveys(JGSS)第2回予備調査基礎集計表・コードブック』2001
●佐藤博樹・石田浩・池田謙一(編)『社会調査の公開データ-2次分析への招待』2000,東京大学出版会
●JGSSのHP: www.jgss.daishodai.ac.jp
●National Opinion Research CenterのHP:www.norc.uchicago.edu/
●SSJデータ・アーカイブのHP:www.iss.u-tokyo.ac.jp/ssjda/