■ 地方自治体のホームページに収録された世論調査結果の概況
国士舘大学政経学部 教授 山田 茂
1.はじめに
都道府県・市区など全国の地方自治体は、毎年多数の世論調査を実施している。これらの世論調査結果は、それぞれ独自の内容を持っており、潜在的には幅広い利用需要が存在すると考えられる。しかし、その結果の利用にはこれまで大きな制約があり、特に地域外からは調査実施の有無さえ把握しにくかった。
本稿の目的は、最近筆者が行った検索をもとにインターネット上に設けられた地方自治体のホームページ(以下「HP」と表記)への世論調査結果の収録状況と各HPに収録されている調査の特徴点を概観することである。なお、本稿では「HP」をあるサイトのトップページという意味ではなく、「サイトに設けられたページ全体」という意味に用いる。
これまでも地方自治体による世論調査結果の大半は、その自治体の広報紙・地方紙などの地域メディアや全国紙の地方版によって紹介されてきた。例えば、2001年に結果が公表されて主要紙に紹介された地方自治体による世論調査は、都道府県63件、政令指定都市21件、政令指定都市以外の市とその連合体53件、東京都の特別区7件、町村とその連合体44件にのぼる(「日経テレコン21」に収録された全国紙5紙・地方紙17紙対象、前年実施調査を含む。筆者による概数)。しかし、これらの調査結果の紹介は、主な調査項目だけの場合がほとんどであり、調査主体の広報紙以外ではこの傾向が特に強い。
このため調査結果全体を入手するには、その自治体の図書館や情報提供窓口などに足を運んで報告書を閲覧しなければならない。また、報告書の発行がかなり時間が経過した後になったり、まったく発行されない場合もある。
他方、地方自治体による世論調査の実施状況を概観できる刊行物としては、内閣府政府広報室(旧総理府広報室)によって編集されている『世論調査年鑑』が良く知られている。この年鑑は、調査主体への問い合わせの回答をもとに作成されており、3つの部分((1)回答があった全調査を調査方法・テーマなどによって分類した集計表、(2)(1)のうち一部の個別の調査の対象・実施方法などについての明細を示した概要、(3)(2)の一部の調査の質問文と単純集計結果)から構成されている。
地方自治体が実施した世論調査結果の利用に際しては、この年鑑は有力な情報源といえるが、次のような3つの制約も指摘できる。その第1は、発行が年度単位であり、その時期も実地調査の実施時期の少なくとも1年後以降となる点である。例えば、平成12年度版は1999年4月~2000年3月に実施された調査の結果を収録して2001年3月に発行されている。
第2は、町村が問い合わせの対象から除外されていることである。町村とその連合体によって実施された調査は、上記のように最近では無視できない数にのぼっている。
第3は、(2)の調査の概要だけでなく(3)の調査結果まで収録されている調査は次のような条件を満たすものに限られていることである。すなわち、調査対象者及び調査事項に一般性があり(質問数が10以上)、有効回収数が500以上で回収率が比較的高いものである。2000年・2001年発行分の場合、収録されている調査の回収率は62%以上であった(1999年発行分までは回収率70%以上の調査)。
そのため調査結果まで収録されているものは、地方自治体による調査では中央省庁と比べてかなり少ない。2001年発行分では都道府県実施の調査206件のうち概要の収録は81件で、そのうち結果まで収録は34件だけである。また、市・区実施の調査500件のうち概要の収録は140件で、そのうち調査結果まで収録は36件だけである(表1)。
特に市・区による調査は、対象者数が一般に少なく、回収率が低い郵送法によって実施されたものがほとんどであるので、上記の収録の条件に合致しないものが大半である。
また、この年鑑の(1)の部分の調査方法などに関する集計項目も限られており、調査方法・対象者年齢の範囲などの細部についての情報は含まれていない。例えば、郵送調査における督促の有無・調査期間の長さなどについて知ることはできないし、調査のテーマの分類も「市町村合併」といった具体的なものではなく「地方自治行政問題」のような一般的なものである。
なお、世論調査を実施した自治体の一部がこの年鑑作成のための問い合わせに対して回答していない可能性もある。
表1『世論調査年鑑』の収録内容(2001年発行分)
調査主体 |
中央省庁 |
都道府県 |
市・区 |
実施機関総数 |
17 |
44 |
300 |
実施調査総数 |
36 |
206 |
500 |
概要収録件数 |
26 |
81 |
140 |
結果収録件数 |
23 |
34 |
36 |
つぎに『世論調査年鑑』以外の調査リストとしては『統計調査総覧』(毎年発行)・『地方統計ガイド』(1997年発行)が挙げられる。両者に収録されている調査の大半は一般的な統計調査であるが、意識・意見などを対象とした調査も一部収録されている。『統計調査総覧』には総務省への届出統計として都道府県・市などによって実施された調査が収録されており、『地方統計ガイド』には都道府県・政令指定都市によって実施された調査を収録している。ただ両書の収録内容は、調査の対象・方法などの概要だけであり、調査結果自体は掲載されていない。
ところで、地方自治体によるHPを利用したさまざまな情報提供の進展には目を見張るものがある。地方自治情報センターに登録されている自治体のHPは2002年2月現在1800以上にのぼる。以下に示すように、これらのHPの相当数のものに世論調査の結果が収録されている。
HPによる情報提供のメリットは、閲覧者が調査結果を迅速に入手できることだけでなく、網羅的な検索や関連情報の入手なども容易に行えることである。世論調査結果を提供する場合には、多方面における利用を促進し、今後の調査実施への対象者の協力促進や他地域の自治体での実施方法の改善などの効果も期待できる。
また、世論調査の報告書名を収録した公共図書館の「蔵書目録」や「新規受け入れ資料リスト」、情報公開などを担当する部門の「行政資料目録」・「販売刊行物目録」などが一部の自治体のHPに収録されるようになっている。
このほか地方自治体が実施した世論調査に関するリストが、次のようなHPにおいて提供されている。まず上記の総務省への届出統計のリストは、総務省統計局のHP内に収録されている。特定のテーマに関連する世論調査では首都機能移転関係の調査結果が国土交通省のHP内に、労働関係の実施調査リストが日本労働研究機構のHP内に収録されている。同じく内閣府男女共同社会参加局のHP内にも「地方公共団体の動き」の中で1996年10月以降に実施された同局関連の内容の地方自治体による意識調査の概要が紹介されている。また、実地調査を委託された調査機関のなかには受託実績のリストをHPに掲げているものもある。
ただし、これらのリストには調査結果が収録されたHPへのリンクは張られていない。さらに、地域メディアなどのHPにも自治体から公表された世論調査結果が収録されている。
2.今回の検索の方法と調査実施の概況
今回の検索は2001年12月~2002年2月に行った。キーワードは、最近の『世論調査年鑑』に収録されている調査に多い名称(「世論調査」「意識調査」「意識実態調査」「アンケート」「意向調査」「ニーズ調査」など)を用いた。
今回の検索では、各HPの収録内容を確認の上、意見・意識・態度などを調査項目に含み、無作為抽出による調査または全数調査だけをカウントした。住民投票を「アンケート」とよぶ例もあり、具体的な調査方法・調査項目の確認が必要と考えた。応募者から対象者を選ぶ「モニター調査」や企業・学校・議会などの所属者を対象とする調査は除外した。
表2に、調査結果の収録が確認できたHPの数などを示した。実施された調査の概要だけを収録していて、集計結果が含まれていないものは除外した。HP開設数は、地方自治情報センターへの登録数である。
自治体の各区分とも収録件数は、概ね増加傾向にある。実地調査から結果公表までの期間を考慮すると、2001年の後半に実施された世論調査結果の収録は今後も増加すると考えられる(なお、実施時期を明示していない調査がかなりある)。
地域的な傾向としては、調査結果をHPに収録している自治体は大都市圏に比較的集中している。なかでも毎年調査を数件実施している東京都のHPは収録件数が格段に多い。東京都の特別区・都下の各市・周囲3県の各市でも世論調査が活発に実施されている。都道府県のHPの大半には調査結果が収録されているが、大都市圏以外では調査結果をまったく収録していない県もある。政令指定都市では、ほとんどが毎年調査を実施して、結果を収録している。一般の都市は収録件数が最も多いが、不定期調査の比率が高い。
町村のHPにおける調査結果の収録は比較的少ない。町村による調査実施自体が少ないこと、町村役場の体制、HP閲覧用機器の世帯への普及が大都市圏以外の地域では立ち遅れていることなどが作用しているのであろう。調査のテーマは、上述の市町村合併関連および長期計画策定が大半を占めている。
表2 地方自治体のHPに収録された世論調査(2002年2月現在)
自治体の種類 |
都道府県 |
政令都市 |
一般の市 |
東京の区 |
町村 |
地方自治体総数1) |
47 |
12 |
658 |
23 |
2554 |
開設HP数2)3) |
48 |
12 |
598 |
23 |
1146 |
調査結果収録HP数3) |
38 |
12 |
268 |
16 |
80 |
収録調査件数 |
163 |
47 |
216 |
26 |
85 |
1998年実施 |
24 |
3 |
32 |
5 |
7 |
1999年実施 |
38 |
8 |
57 |
3 |
27 |
2000年実施 |
48 |
16 |
64 |
7 |
23 |
東京圏4) |
8 |
4 |
18 |
7 |
4 |
2001年実施 |
23 |
6 |
60 |
7 |
17 |
1)自治体総数は2001年5月現在。
2)大阪府の開設HPは2。
3)他に市町村連合体のHPが51,その収録調査は8。
4)東京圏は東京都と周囲3県。
3.HPに収録された最近の世論調査結果の概況
すでに述べたように、大部分のHPには個別調査についてかなり詳しい点まで収録されているので、ここでは最近実施された調査を中心にその対象・調査方法・テーマなどの具体的な特徴を紹介しよう。
まず自治体内で調査を担当している部門は、一般的な内容の調査ではほとんど広聴部門であり、特定テーマの調査ではその問題の担当部門が多い。県警本部・土木部など調査を従来まったく実施していなかった部門による調査も散見される。市町村合併の計画がある地域では他の自治体との共同実施調査の結果も収録されている。
対象の範囲では、外国籍の住民を専ら対象とする調査や対象に含めた調査の実施が増えている。地域的には、東京都・滋賀県・三重県や政令指定都市(大阪市・京都市・神戸市・横浜市・福岡市)・近畿地方を中心とする中小都市(堺市・西宮市・芦屋市・三田市・豊岡市・舞鶴市・津市・武生市・逗子市・富士見市など)による調査にみられる。
『世論調査年鑑』では対象者の年齢層の範囲は「20歳以上」と「特定年齢層」にしか分類されていないが、各HPの記述から一般的なテーマの調査でも種々の範囲が用いられていることがわかる。下限は「20歳」が大部分であるが、「15歳」「16歳」「18歳」もある。上限を設けていない調査が大半であるが、一部では「65歳」「69歳」「75歳」「79歳」が用いられている。転出者・出身者・一般の県外居住者を別に調査したり、3ヶ月以上の在住者に限定している場合もある。
対象者の選定方法の大半は、無作為抽出であるが、相当数の調査では男女別に同数を割り当てる方法が併用されている。これは、「男女共同参画社会」がテーマの調査に多い。一部には年齢層や地域別に割り当てる方法も採用されている。全世帯を対象とした調査もごく少数みられるが、世論調査というよりは、啓発活動または意見・提案の募集という性格が強いように見受けられる。
サンプリングリストは、住民基本台帳がほとんどであり、選挙人名簿の利用は少ない。
面接法は少数の都道府県や大都市圏の市・区による調査に採用されているが、郵送法への完全な切り替えや配布だけを郵送に変更する動きもみられる。費用面の事情が作用しているのであろう。面接調査の実地調査の期間は、1ヶ月を超えるものが相当数あり、回収率を一定水準まで引き上げるための措置であろう。郵送法の場合、締め切り日の繰り延べがかなり多い。広報紙と一緒に調査票を配布する方法が全戸調査の場合には採用されている。地縁組織の役員・役場職員が配布する方式の調査が、少数ながらみられる。
回収率は、大半を占めている郵送法では5割未満が多い。農村部の小規模な自治体が概して高率である。督促を行った調査の回収率には、郵送法としてはかなり高い6割を超えているものもある。面接法・留置法の調査では大半が7割から8割に達している。
なお、実地調査の委託先の調査機関名を明示したものは少ない。
定期調査は都道府県・政令指定都市・大都市圏の市区の広聴部門によるもの以外では少ない。広聴部門の調査では、毎年の共通項目に各年次の特定テーマが加えられる形が多い。広聴部門以外による調査では、「男女共同参画社会」「市町村合併」「総合計画」「環境」「地域の情報化」「教育」などが主なテーマである。
実地調査から結果の公表までの期間は、早いもので2ヶ月、多くは数ヵ月である。速報集計が確報と別に公表されているものもある。
HPへの公表形態は、集計結果と関連情報を独立した形で収録したもののほか、記事として収録された広報紙の紙面・記者発表をそのまま収録したものがみられる。報告書全体をそのままHPに収録している少数の場合を除いて、年齢別回収率・調査不能の理由・調査票・クロス集計などまで収録したものは少ない。調査結果が長期計画などの文書の中に引用の形で収録されている場合には、調査方法・回収状況などの情報が欠けているものが多い。
過去の調査結果のHPへの収録は、1997年前後までに実施されたものが大半であり、これは地方自治体によるHP開設が盛んに行われた時期以降に相当する。長期計画文書などでの引用・一部の研究機関を除き過去の調査結果の遡及収録は行われていない。過去に収録されていた調査結果を削除してしまったHPもある。
調査結果の付近に設けられているリンクは、同一サイト内へのものがほとんどで、外部へのものは少ない。
結びにかえて
以上みてきたようにHPを利用した情報提供によって、地域外居住者などによる世論調査結果の利用の可能性は、時期の点においても、利用できる情報の範囲の点においても飛躍的に拡大したといえる。今後は、利用の前提である調査方法・回収状況など調査結果の理解に必要な情報の収録の充実を特に望みたい。
各地方自治体のHPには、さまざまな名称の世論調査結果が毎日のように新しく収録されているので、今回の検索では一般的でない名称の調査や最近公表された調査の結果などを見落としている可能性がある。より網羅的な検索を早い機会に再度行いたい。
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