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■「中央調査報(No.534)」より

 ■ 高齢者に対する社会保障をめぐる国民意識
                   ―毎日新聞2001年高齢社会世論調査から―

ジャーナリスト 越谷 和子 



 景気悪化に財政逼迫が加わる中で、国民は高齢社会にどう対処しようとしているのだろうか。毎日新聞が2001年8月31日から3日間、面接方式によって実施した「高齢社会全国世論調査」によると、高齢者への医療や介護などを行う社会保障では、現在の給付水準を「維持すべきだ」が69%、さらに「上げるべきだ」が14%で、計83%の大多数が事実上給付水準の引き下げに“反対”の意向を示している。一方、介護保険制度が発足して4月で2年になるが、介護保険制度に対する不安や不満は依然として根強く、難問が山積していることが分かった。以下、同調査の結果をたどりながら、国民の社会保障に対する意識などを探っていきたいと思う。
〈「高齢社会全国世論調査」の設計・方法〉
調査地域:全国
調査対象:20歳以上男女個人
標本規模:4,565人
標本抽出法:層別多段無作為抽出法
回収数((率):3,057人(67%)
調査方法:直接面接法
調査期間:2001年8月31日~9月2日

◆高齢者への社会保障給付引き下げに“反対”83%
 医療、年金、介護など福祉の3分野を占める社会保障費は、前年度(2001年度)一般会計予算で17兆5500億円にのぼり、政策的経費としては、公共事業費や教育費を上回る最多費目となっている。この社会保障費の7割弱の12兆円余が、高齢者関連とされ、高齢者を対象とする介護保険サービス給付の4分の1、高齢者に支給される基礎年金の3分の1などを、国のおカネで負担している計算になる。
 では、国民は、高齢者への社会保障の給付水準をどうすべきだと考えているのだろうか。それをみると、「現状のまま維持すべきだ」が69%に達し、これに「上げるべきだ」14%を合わせると83%の大多数が事実上、給付水準の引き下げに“反対”の意思を表している。「下げるべきだ」は14%に過ぎない。年代別にみると、「維持すべきだ」は30代-2-から70歳以上の各年代層で70%台に達し、20代だけが61%にとどまっている。これに対し「下げるべきだ」は、20代が20%で最も多いが、60代になると12%、70歳以上では11%に下がり、年金受給年齢になると「下げるべきだ」が急速に減る。

◆高齢者の社会保障費「不足分は税金で補う」55%
 では、高齢者への社会保障の給付水準を「維持すべきだ」「上げるべきだ」という人はその対応策をどのように考えているのだろうか。結果は、「不足分を税金で補うべきだ」が55%で最も多く、次いで「保険料や自己負担の引き上げで補う」が23%となる。この「不足分を税金で補うべきだ」55%をどう解釈するかは難しい問題だが、今回の調査では税金の具体的な財源までは聞いていないので、小泉純一郎首相の国会答弁「社会保障水準の維持、向上を望むなら消費税率2ケタアップは避けられない」をそのまま支持した、あるいは裏付けたということはできないであろう(図1)
図1


◆介護保険制度への「期待」58%に上昇
 国民の介護保険制度への期待度をみると、「期待する」(「多少は期待する」を含む)は58%に及び、介護保険制度発足半年後の前回調査(2000年9月)より6ポイント増えた。また、この質問は1998年以来4年継続して行っているが、今回は4年間で最も高い期待度となった。これは、介護保険制度実施後、利用者の苦情改善を図るオンブズパーソン制度が全国各地で発足し、各自治体でも在宅サービスや施設の希望に沿った改善を進めていったことなどが多くの人に知れ渡り、同保険への期待度が高まったとみることができよう。
 一方、「身内が介護保険サービスを受けている」「現在介護保険制度を利用するための手続きをしている」人は合わせて16%になり、前回調査の13%より3ポイント増えた。この人たちの介護保険制度への期待度は高く、全体の58%を14ポイントも上回る72%に及び、身内の介護を“肩代わり”してくれる介護保険制度に大きな期待を寄せていることが分かる(表1)
(表1)介護保険制度への期待 
表1



◆介護保険制度への不安・不満「保険料が高い」「利用手続きが煩雑」などが急増

 2001年10月から65歳以上の高齢者の保険料が半額から満額徴収に変わった。これと軌を一にするように介護保険制度への不安や不満が高まっている。
 不安・不満の1位は「保険料(一人当たり月3.000円程度、65歳以上は10月から全額負担)が高い」が42%で、前回2000年9月調査より6ポイント増えた。また、3位の「介護保険を利用する手続きが煩雑である」も13ポイント増えて35%になったのをはじめ、4位の「保険料を支払う40歳以上64歳以下の人々の大半は掛け捨てになる」も9ポイント増えて34%になった。このほか、「自治体ごとに保険料や介護サービスの質・量に差がある」が7ポイント増えて33%に、「希望する在宅サービスや施設を実際には利用できない」が2ポイント増えて30%に、「サービスに対する不満や苦情を訴えにくい」が4ポイント増えて23%になるなど、介護保険制度の根幹にかかわる部分で不安・不満が増大している。これは介護保険制度の施行に伴い、多くの人が介護サービスを利用し、その情報が多くの国民に知れ渡り、同サービスが利用者の要望に必ずしも応えきれていないことを多くの人が知ったからであろう(図2)
図2


◆民間の介護保険への希望1位「医師の派遣」、2位「病院などへの送迎」
 最近は民間の保険会社の中でも、要介護時に年金などを給付する“介護保険”の商品を販売しているところもある。また公的介護保険が対象としていないサービスを提供しようと検討を進めている保険会社もある。そこで、国民が民間の介護保険サービスに求めているものは何かを聞いた結果、最も多いのは「定期的な医師の派遣や健康指導」48%で、次いで「病院などへの送り迎え」34%、「家事の代行」33%、「給食(配食)」30%などとなっている(複数回答)。前回2000年9月調査と比べると、「病院などへの送り迎え」「給食(配食)」などが増え、「定期的な医師の派遣や健康指導」「家事の代行」などが減っている。これは公的介護保険が運用されたことによって、必要な介護サービスの実態がよく分かるようになり、国の介護保険では不足している部分を民間の介護保険で補完しようという試みが次第に現実のものになってきていることを示している。
 では、民間の介護保険が実際に販売された場合、負担できる保険料はどのくらいか。1位は「3000円未満」45%で、次いで「3000円~5000円未満」35%となり、両者を合わせると“5000円以下”が80%に達している(表2)
(表2)民間の介護保険への希望表2



◆労働意欲“60歳過ぎても働きたい”が7割
 高齢社会に生きる日本人は何歳まで働きたいと思っているのか。結果は「60歳以前に引退したい」は9%と少なく、「60歳まで」も19%に過ぎず、両者を合わせると“60歳以下で引退”は28%に過ぎない。これに対し「65歳まで」は31%に及び、3人に一人は“65歳現役”を願っている。また、「いくつになっても働きたい」が26%あり、4人に一人は“生涯現役”を望んでいる。従ってこれら「65歳まで」「70歳まで」「いくつになっても」を合計すると69%に達し、60歳過ぎても働きたいという人がほぼ7割を占めている。
 一方、働きたい理由(複数回答)は、「生活費を得るため」が45%と多いものの、「健康を保つため」がこれを上回る48%に及び“働いているほうが体によい”という日本人のユニークな勤労観をのぞかせている。従って高齢社会に生きる日本人は「働くことが健康につながる」という価値観を胸に、老後を元気にたくましく生き抜いていくであろうことが予想されるのである(図3)
図3