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■「中央調査報(No.536)」より

 ■ 日本の”ギャンブル型レジャー”の市場分析

財団法人自由時間デザイン協会 副主任研究員 上村 基

 最近のレジャービジネス全般にいえることだが、長引く不況の影響と、レジャーの多様化がますます進み、市場規模のマイナス成長が続いている。特に、バブル経済崩壊後のレジャーの中でも不況に強いといわれてきた“ギャンブル型レジャー”が、ここ数年特に不振にあえいでいる。
 本稿では、日本におけるパチンコや競輪・競馬などの公営5競技、宝くじなどのいわゆる“ギャンブル型レジャー”に関して分析を行うとともに、日本のギャンブル市場について明らかにしていきたい。

1.近年の余暇市場と“ギャンブル型レジャー”の動向
 自由時間デザイン協会が昨年の7月に発表した「レジャー白書2001」を元に、余暇市場の規模について平成3年から過去10年間の推移をみると、平成8年の90兆8,860億円をピークに、その後4年連続のマイナスを記録しており、平成12年には85兆570億円まで規模が縮小している(図表1)。
 これを部門別にみてみると、平成12年の対前年比伸び率で趣味・創作部門が+0.1%、観光・行楽部門が+1.5%なのに対し、スポーツ部門は▲2.9%、娯楽部門は▲1.0%と、いまだに下げ止まっていない。
 この娯楽部門には、競輪・競馬などの公営5競技やパチンコ、宝くじなどのいわゆる“ギャンブル型レジャー”が含まれている。余暇市場における公営5競技の売上額の推移をみると、平成3年以降、観光・行楽やスポーツなどの売上額もマイナス成長であるが、公営5競技も同じように推移している。
 同じギャンブル型レジャーでもパチンコは平成7年まで上昇を続け、不況に強い国民的レジャーとして認知されてきた。それも平成8年から減少に転じ、伸び悩み状態にある。しかし、その規模は非常に大きい。パチンコの市場規模は、平成12年で観光・行楽部門全体の約2倍にもなるのである。
 他方、宝くじだけは比較的堅調で、他の産業規模に比べれば規模こそ小さいものの、平成3年から12年まで着実にプラス成長を続けており、平成12年では9,500億円に上り、1兆円に届く水準まできている。
 もともと、競輪・競馬などの公営5競技やパチンコなど、いわゆるギャンブル型のレジャーは不況に強い、と言われてきた。しかし、バブル経済崩壊直後は売上額もあまり落ちなかったが、公営5競技はその後毎年のように売上額が減少をはじめ、その他のレジャー産業同様の下落傾向を示している(図表2)。

2.深刻な不況続く公営競技
 競輪や競馬などの公営5競技は、平成4年の8兆9,320億円をピークに減少に転じ、平成8・9年は持ち直したものの、ここ2~3年は落ち込みが激しい。
 種別にみてみると、公営5競技の中では中央競馬の“一人勝ち”の状況である。中央競馬は、天才ジョッキー武豊の登場と、史上5頭目の三冠馬ナリタブライアンの存在によって平成9年には約4兆円を記録した。しかし、その中央競馬でさえ平成10年以降マイナスに転じ、平成12年には3兆4,350億円とほぼ10年前の規模に逆戻りしている。
 また、中央競馬を除くその他4競技はさらに落ち込みが激しい。競艇は中央競馬に次いで2位の市場規模を占めているが、平成3年には2兆2,220億円だったのが、平成12年には1兆3,670億円と約38%も落ちている。
 競輪は3位を占めているが、平成3年には1兆9,370億円だったのが、平成12年には1兆2,680億円と約35%も落ちている。競艇よりはやや落ち込みは少ないものの、過去10年の推移はほとんど同じである。ここにきて、競輪開催施行者の撤退も相次ぎ、兵庫県市町競輪事務組合の甲子園競輪と西宮競輪、北九州市の門司競輪の3場が相次いで撤退を表明した。
 地方競馬はさらに厳しく、平成3年には9,820億円だったのが、平成12年には5,610億円と43%も落ちている。平成12年にはすべての主催者(施行者)で赤字を計上している。競輪と同様、九州の中津競馬や新潟県競馬など、施行者の撤退が相次いでいる。
 オートレースは全国に6カ所しかなく、もともと市場規模もそれほど大きくないのだが、それでも市場規模の低下が著しい。平成3年には3,420億円だったのが、平成12年には1,910億円と44%も落ちている(図表3)。

3.ギャンブル化の方向で好調な宝くじ
 宝くじは、いわゆる“ギャンブル型レジャー”の範疇に含められるかどうか議論の分かれるところである。宝くじを買う人は競輪や競馬、パチンコをやる人とはタイプが大きく異なる。当たれば1億円だとか3億円だとかいう宣伝文句に踊らされて、巨額を投じる人もいる。しかし、現実的にはほとんど当たらないのであり、ギャンブルではないという人もいる。近年、ナンバーズやロト6など手軽でインスタントな宝くじが登場し、当たる確率も拡大してきたことから、ここでは“ギャンブル型レジャー”の範疇に含めて考えたい。
 前述のように、平成3年以来、宝くじは堅調な推移を見せており、他の産業規模に比べれば規模こそ小さいものの、平成12年まで着実にプラス成長を続けている。宝くじの還元率は45.6%、経費・手数料が14.6%であるから、収益率は39.8%となる。ほとんどの宝くじが自治体主催であるから、売上げの4割は自治体の収入になる。他の公営競技は還元率が75%であるから、宝くじよりは相当に高い。公営5競技の還元率も一定の範囲内で施行者が決定できれば収支バランスが取れる所も多いだろう。
 いずれにしても宝くじは好調で、最近特に好調なのは平成13年6月に登場した「インスタントくじ(スクラッチ)」や、平成6年10月に登場した「ナンバーズ」、平成11年4月に登場した「ミニロト」、平成12年10月に登場した「ロト6」などの「数字選択式宝くじ」である。
 従来の宝くじにはない数字選択式宝くじの魅力は、購入者自らが数字を選択できる点、当選金額が発売額と当選口数によって変動する点、売り切れがなくいつでも好きなだけ買えることができる点、などである。
 このことは、宝くじがギャンブル性(射幸心)をくすぐるような施策を打ち出してきたことで、他の公営5競技と同様のいわゆる“ギャンブル”に近づいてきたことを意味している。
 ただ、市場としては平成12年で9,500億円と他競技と比べるとやや少なく、アメリカでは約4兆円、イギリス、スペイン、ドイツなどでは約1兆円で、世界的にみるとまだ市場が拡大する可能性がある。

4.スタート直後の「toto」も不振
 平成10年5月に「スポーツ振興投票の実施等に関する法律」が公布、同年11月に同法及び関係政省令が施行され、「スポーツ振興くじ(toto)」がスタートした。還元率は50%以下。当面は47%とされた。
 当初マスコミの予測では、売上額は2,000億円などといわれていたが、実際には平成13年の売上げで604億円にとどまった。理由は様々であるが、販売店が7,000カ所しかなかったり(イタリアでは18,000店)、払戻金融機関が信用金庫だったり、などである。本場イタリアではバール(大衆パブ)やたばこ店などで発売・払戻しができる。日本では差詰めコンビニなどで発払いができれば状況が一変したに違いない。
 また、最初の頃こそ1等で1億円が出ていたが、そのうち1等でも1万円を切る低配当が出たりと配当にバラつきがあり、配当の興味を失ってしまった。そこで最近になって、延長Vゴールを入れずに90分で引き分けの場合、これを引き分けとカウントすることで、当選確率を低めて高配当が出やすいよう改正がなされた。公営5競技も宝くじもそうであるがどこも不景気で、適度な射幸心を煽って売上げを伸ばそうと必死で努力しているのである。
 しかし、世界的にみるとサッカーくじは不振であり、本場イタリアでは世界一の売上規模を誇り、3~4年前には3,000億円を超えていた売上げが、今は2,000億円ぐらいとあまり良くないようである。今は日本同様に「数字選択式くじ」が人気のようである。

5.パチンコは世界最大のギャンブル産業
 最後に、パチンコである。世界に類をみないこのパチンコ産業が実は大きな市場を形成している。パチンコは法律的にはあくまでメダルゲームということになっており、風俗営業法の第1章総則第2条第7号に定められた営業である。パチンコ屋では貸し玉、貸しメダルと呼び、玉1個4円、メダル1枚20円で客に貸してゲームをさせる。その結果、勝てば景品に交換するという営業なのである。ほんの昔は、大衆娯楽として待ち合わせの時間つぶしにとか、サラリーマンの会社帰りに駅前でなど、軍艦マーチの流れる煙草臭い空間でストレスを解消する。こうした身近なレジャーであった。
 しかし、近年のパチンコは違う。大きなきっかけは昭和56年に「フィーバー機」と呼ばれる機械が登場してからである。その頃から売上げは10兆~15兆円と一桁上がってしまった。その後「CR機」といってカードでやる機械が登場して、全国全台がカードでやるようになれば業界の売上げが捕捉できるというわけで、導入推進のために射幸性がますます高くなった。今のパチンコは、何万円もお金を持って行って3~4時間ほど我慢しないとドッとは出ない構造になっている。すでに、少額で短い時間楽しめるレジャーではなくなっているのである。
 市場規模でみると、平成3年には23兆円程度だったのが、一番ピークの平成7年には約31兆円にもなった。平成12年でも約29兆円ぐらいあり、日本の産業構造全体でみても巨大なマーケットである。
 あらためて、パチンコがなぜ実態的にギャンブルなのかというと、パチンコ店で特殊景品と呼ばれる景品と交換し、これを景品交換所で現金に換えることから一連の流れでそう考えられている。景品交換所は古物取引商であり、客が勝手に現金化しているだけのことである。しかし、現実的には違法行為であり警察のお目こぼしがあるとしか言いようがない。このいわゆる“3店方式”が業界の常識となっており、客が景品を現金化する確率は90%を超えるといわれている。
 このような巨大な市場を形成する業界を、統計データとして捕捉することは実際相当に難しい。しかし、市場規模でいうところの数字は再投資額を含めた金額であり、実際にパチンコ店の粗利益は13~14%だといわれている。全国の店舗数は約16,000店、雇用者数は34万人にも上るといわれている。ただ、参加人口は年々減少してきており、パチンコよりもギャンブル性が高いパチスロが隆盛となってきており、客単価の上昇が考えられる。このように、射幸心を煽ってギャンブル性が高くなり、景品交換の仕組みによって、日本には世界最大のギャンブルが存在しているのである。

6.世界一のギャンブル大国日本
 以上みてきたように、いわゆるギャンブルと考えられている競輪や競馬、競艇などの公営5競技の他に、宝くじやパチンコなどのレジャーを含めて“ギャンブル型レジャー”と称してきた。この市場規模たるや、世界を見渡してもこれを上回る国はおそらくないだろう。平成12年でみても、公営5競技の売上合計が約6兆8,000億円、宝くじが9,500億円、パチンコが約28兆7,000億円であるから、これらの合計は約36兆4,500億円にも上る。これは平成12年余暇市場全体(85兆570億円)の約43%を占めている。
 これを日本国民1人当たりで計算すると年間約30万円で、月に2万5千円はこれらのギャンブルに費やしていることになる。これは相当な金額である。おそらく世界一の金額ではなかろうか。もっとも、このうちパチンコが約8割を占めているため、公にはこの8割はカウントされない。しかし、現実的にはパチンコはギャンブルとなっており、暗黙の了解の元に粛々と社会に存在しているのである。
 世界のギャンブル市場を把握する正式な統計は存在しないが、くじが世界一盛んで人口も多いアメリカの例がある。米州くじ協会によると、平成12年の総売上額は377億6,000万ドル(日本円で約4兆7,000億円)で、住民1人当たりの年平均購入額は152.97ドル(日本円で約19,000円)である。この他にカジノやスポーツブッキング、競馬などの売上があるが、それぞれの売上を合算しても約8兆円弱であると推測される。それぞれが「くじ」の売上を上回る市場ではないと考えられているからである。以上から推測すると、日本は世界最大のギャンブル大国であることは間違いないといえよう。