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■「中央調査報(No.550)」より

 ■ 誤解多い慣用句、定着しないカタカナ語―文化庁の「国語世論調査」結果から


 「声に出して読みたい日本語」(斎藤孝著)がベストセラーになるなど、世はちょっとした日本語ブーム。裏を返せば、国民の多くがそれだけ日本語の乱れを感じていることにほかならないが、文化庁が先に発表した「平成14年度 国語に関する世論調査」でもこうした実態が如実に裏付けられた。8割が言葉の乱れを感じ、3人に1人はまったく本を読まず、「役不足」や「流れに掉(さお)さす」といった慣用句の意味を全く逆に理解したりetc。今回の「世論調査」結果から日本人の国語意識の現状を探ってみた。
 この調査は95年度(平成7年度)から毎年実施。今回は(1)国語力についての認識(2)外来語の定着度(3)言葉遣いなど言語生活の実態―が調査項目。昨年11月~12月に16歳以上の全国3,000人の男女を対象に、社団法人中央調査社が個別面接形式で行い、2,200人から有効な回答があった。(回収率73.3%)。


1.言葉の乱れについての意識
 「普段の生活の中で接している言葉から考えて、現在使われている言葉は乱れていると思うか」との問いに、「非常に乱れている」と答えたものは24.4%。「ある程度乱れている」の56.0%を合わせて80.4%となった。ただ、99年度調査の85.8%よりも5.4ポイント減っている。
 また、これら回答者に「どのような点で乱れているか」を3つまで挙げてもらったところ、「言葉使い」(67.3%)、「敬語の使い方」(54.0%)、「若者言葉」(53.3%)、「あいさつ」(30.5%)の順で多かった。逆に「余り乱れていない」「まったく乱れていない」との回答者(17.0%)に、その理由を挙げてもらったところ、「多少の乱れがあっても、根本的には変わっていないから」「言葉は時代によって変わるものだから」「いろいろな言葉や表現がある方が自然だから」の回答を得た。


2.1カ月の読書量
 今回の調査では、読書量について初めて調べた。
 漫画や雑誌を除いて「1カ月に何冊の本を読むか」を尋ねた。1~10冊が最も多く58.1%を占めたが、次いで「全く読まない」が37.6%に上った。11~20冊、21~30冊、31冊以上はわずかで、それぞれ2.6%、0.7%、0.4%だった。「全く読まない」を地域別に見ると、高かったのは四国(59.8%)、東北(48.5%)、九州(47.5%)だった。低かったのは関東(28.6%)、近畿(34.3%)。また、都市規模別で「全く読まない」人の傾向を見ると、東京都区部(18.3%)、政令指定市(31.1%)に対し、人口10万人未満の小都市は41.8%、町村は48.0%だった。
 地方ほど、かつ人口が少ない地域ほど個人の読書量が少ない傾向が顕著になったが、この背景には手軽に本が買える書店が近くにあるかどうか、電車などを使う通勤途中で気軽に本を開く環境にあるかどうか、あるいは大商圏を抱え実用書を読む必要に迫られているかどうかーといった要素などが絡んでいるとみられる。
 また、「読書する人の数は最近どうなっていると感じますか」の質問に対し、「減っている」と感じている人は60.6%と約6割を占めた。「それほど変わっていない」(14.9%)、「読書する人としない人に分かれてきている」(13.4%)と続き、「増えている」はわずか4.7%だった。ここからも日本人の活字離れをうかがえる結果となった。
 このほか、最近数多く出版されている日本語について書かれた本について、「関心があり読んだ」(10.3%),「関心はなかったが読んだ」(4.9%)で、読んだ人の合計は15.1%にとどまった。


3.言葉の使い方―気になるか
 最近、コンビニエンスストアなどでよく聞く、「~のほう」「~から」といったマニュアル語、バイト語に、“さ入れ”言葉を加えた若者流の3つの“丁寧表現”について、「気になるか」「気にならないか」を聞いてみた。(カッコ内は96年度調査結果。「どちらとも言えない」「分からない」は略)

〇あしたは休まさせていただきます
「気になる」   57.1%(33.3%)
「気にならない」 36.7%(64.6%)

〇(店の会計で、店員が)
お会計のほう、1万円になります
「気になる」   50.6%(32.4%)
「気にならない」 40.7%(63.7%)

〇(千円未満の買い物をしたとき、店の会計で、店員が)
千円からお預かりします
「気になる」   45.2%(38.4%)
「気にならない」 44.3%(58.0%)


 前回調査では3つとも「気にならない」が6割前後を占めていたが、今回はいずれも「気になる」が「気にならない」を上回り、前回と全く逆の結果に。また年代別では、3つの言葉遣いともに、「気にならない」が「気になる」を上回ったのは16歳~19歳男性だけで、中高年を中心に「気になる」年齢層が多かった。文化庁では「96年度調査でこれらの言葉が話題になったことで、『そういえば変だな』と感じる機会が増えたのでは・・」とみているようだ。


4.慣用句等の理解度
 慣用句やことわざの理解状況については2000年度の調査から取り上げている。今回は8つの語句について例文を掲げた上、その語句の意味を2つ提示し、これに「両方の意味」「全く別の意味」「分からない」を加えた5つの選択肢から正しいものを選んでもらった。
 「流れに掉(さお)さす」(例文:その発言は流れに掉さすものだ)では、本来の意味は「傾向に乗り事柄の勢いを増す行為をすること」だが、これを選んだ人はわずか12.4%。正反対の意味である「傾向に逆らい、勢いを失わせる行為」が63.6%に上った。また、「分からない」も21.4%あった。
 また「確信犯」でも、「悪いことであると分かっていながらなされる行為・犯罪」の誤答が57.6%で、正答率は16.4%。「閑話休題」(例文:こんなこともあった。閑話休題、ここからのお話は、)は正解の「さて(話を脇道から本筋に戻す)」(23.8%)と、誤答の「さて(話を本筋から脇道に移す)」(27.0%)が相拮抗しているが、4割以上(43.8%)が「分からない」と答えた。
 「役不足」は「本人の力量に比べて役目が軽すぎること」が本来の意味だが、正答率は27.6%。全く正反対の「本人の力量に比べて役目が重過ぎること」(62.8%)の半分にもいかなかった。「気が置けない」も本来の「相手に気配りや遠慮をしなくてよい」(44.6%)と、正反対の「相手に気配りや遠慮をしなくてはならない」(40.1%)が大差なかった。
 「奇特」(例文:彼は奇特な人だ)では正解の「優れて他と違って感心なこと」が49.9%で、「奇妙で珍しいこと」を選んだ人(25.2%)の倍近かった。ただし、「分からない」が16.7%あった。このほか、「耳ざわり」と「一部始終」は正答率は9割前後に上った。(表1参照)

表1)慣用句の理解度(単位は%)

語 句

本来の意味

正答率

分からない

流れに棹さす
傾向に乗って事柄の勢いを増すような行為をすること

12.4

21.4

確信犯
政治・宗教上の信念に基づく行為・犯罪

16.4

18.8

閑話休題
話を脇から本筋に戻すときに用いる

23.8

43.8

役不足
本人の力量に比べて役目が軽すぎること

27.6

5.0

気が置けない
相手に気配りや遠慮をしないでよいこと

44.6

6.9

奇特
優れて他と違って感心なこと

49.9

16.7

耳ざわり
聞いていて気にさわること

86.5

1.8

一部始終
ものごとの最初から最後まですべて

91.1

2.5


5.カタカナ語の使用状況に関する意識
 
外来語や外国語などのカタカナ語について、「日ごろ、読んだり聞いたりする言葉の中に、これらカタカナ語を使っている場合が多いと感じることがあるか」を尋ねた。「よくある」と答えたのが56.6%、「たまにはある」が29.5%で、両方合わせた「ある」は86.2%と9割近くを占め、99年度調査の83.9%より2.3ポイント増加。逆に「多いと感じることない」は99年度の13.8%から12.1%へ1.7ポイント減少した。
 地域ブロック別では、「よくある」は近畿(62.8%)と関東(61.4%)で6割を超えるが、九州(43.4%)、東北(47.9%)で5割を下回る。
 都市規模別では、「よくある」は町村で49.4%だが、規模が大きくなるに従って割合も高くなり、大都市では61.1%だった。
 一方、こうしたカタカナ語の使用について「どちらかというと好ましくない」と感じる人が36.6%で、「どちらかというと好ましい」の16.2%の倍以上に達した。45.1%は「別に何も感じない」だった。
 「好ましくない」理由として、「日本語の本来の良さが失われるから」「カタカナ語は分かりにくいから」「体裁の良さだけを追っているようだから」などを挙げている。


6.カタカナ語の理解度
 氾濫するカタカナ語については、国立国語研究所が先に言い換え事例を公表した単語を含む120語を取り上げ、各語について(1)その言葉を聞いたこと、または見たことがあるか(認知度)(2)(聞いた、または見たことがあると答えた人に)その言葉の意味が分かりますか(理解度)(3)(分かる、何となく分かると答えた人に)自分でその言葉を使ったことがありますか(使用度)-を質問した。(「理解度」は「分かる」のみで示し、「何となく分かる」は除外)。
 その結果、「ストレス」が認知度(97%)、理解度(93%)、使用率(91%)ともにトップ。
 以下理解度を中心に見ると、2位が「リサイクル」の91%(認知度97%、使用度87%)、3位が「ボランティヤ」の91%(同97%、86%)となり、これらベストスリーは近年の社会現象を受けて市民生活に根付いていることが分かった。
 逆に理解度が低かったのは、抱卵や孵化の原義から主に企業支援の意で使われる「インキュベーション」(3%)、法律などの実施を示す「エンフォースメント」(3%)、企業共同体を指す「コンソーシアム」(4%)など。120語のうち意味が分かる人が5割に満たない言葉が69語と半数を超えており、さらに、このうち理解度10%に満たない言葉は11語だった。企業や官庁などで使い始めたカタカナ語に一般の理解が進んでいない実態が明らかになった。
 120語のうち、理解率を基準にベスト20とワースト20を(表2)で掲げておく。(編集部)

(表2)カタカナ語の理解度
【ベスト20】

順位

外来語

語 義

理解率(%)

1
ストレス 肉体的、精神的な緊張や圧迫

92.6

2
リサイクル 廃品や資源の再利用、再生

91.1

3
ボランティア 自発的に奉仕活動をする人

90.8

4
テーマ 主題、題目

88.2

5
レクリエーション 休養、娯楽、気晴らし

87.7

6
サンプル 見本、標本、試供品

87.5

7
リーダーシップ 統率力、指導力

85.1

8
スタッフ 職員、幹部

83.4

9
フルタイム 常勤の、専任の

82.7

10
ホームページ インターネットで提供される情報のページ

82.6

11
キャンペーン 選挙運動、宣伝活動

82.2

12
リフレッシュ 気分を一新する

81.5

13
インターネット 相互に接続された世界規模の通信網

78.3

14
プロジェクト 計画、企画、開発事業

78.2

15
ドキュメント 文書、記録、証書

77.9

16
ピーク 最高潮に達する点、頂点

77.4

17
パフォーマンス 実行、功績、公演、人前での表現行為

76.2

18
ケア 手当て、世話、保護、介護

75.6

19
コスト 値段、費用、原価、経費、生産費

74.8

20
ホワイトカラー 事務系労働者

73.3

【ワースト20】

順位

外来語

語 義

理解率(%)

1
インキュベーション 企業支援、育成

3.3

2
エンフォースメント 法律などの施行・執行

3.4

3
コンソーシアム 企業連合体、共同企業体

4.1

4
タスクフォース 特定任務のために編成された部隊

4.9

5
メセナ 企業などによる芸術や科学の擁護、援助

5.7

6
エンパワーメント 権限の付与

5.7

7
トレーサビリティ 生産流通の履歴を管理し追跡できる仕組み

6.1

8
リテラシー 読み書きの能力、識字率

6.3

9
ガバナンス 支配、統治、社会的統括

6.8

10
バックオフィス 後方で事務処理や管理業務を行う部門

7.8

11
デジタルアーカイブ 資料をデジタル情報で保管すること

9.0

12
ジェンダー 社会、文化面の性差

10.0

13
スキーム 公的な計画、枠組み

10.4

14
インセンティブ 誘因、刺激、動機

10.4

15
モラルハザード 道徳的危険、道徳的節度を失った行動

10.5

16
モラトリアム 猶予、債務の返済期日を延期すること

11.4

17
サマリー 要約、まとめ

11.6

18
ノーマライゼーション 健常者と障害者とが隔てなく一緒に暮らす社会にすること

12.2

19
スケールメリット 規模の大きさに伴う利益

13.4

20
キャッチアップ 追いつく、遅れを取り戻す

13.6