中央調査報

トップページ  >  中央調査報   >  以前の調査  >  「『裁判員制度』に関する世論調査」結果から
■「中央調査報(No.550)」より

 「『裁判員制度』に関する世論調査」結果から

時事通信社 解説センター特信部 瀬戸 直樹

 現在の裁判官に加え、一般市民から選ばれた「裁判員」が殺人や汚職などを扱う刑事裁判に参加する「裁判員制度」が検討されていることを知っている人の割合は、39.8%にとどまっている―時事通信社が初めて行った「『裁判員制度』に関する世論調査」でこんな結果が明らかになった。調査は5月9日から12日までの4日間、全国の成人男女2,000人を対象に行われ、有効回答率は72.3%だった。

1.「裁判員制度」検討の認知
 裁判員制度については、政府の司法制度改革推進本部(本部長・小泉純一郎首相)が3月に素案を公表しており、導入のための法案を来年の通常国会に提出する方針だ。素案によると、法定刑の重い重大事件を対象とし、裁判員は選挙人名簿を基に作成した裁判員候補者名簿から無作為に裁判ごとに選任する。また、裁判員は裁判官とほぼ同等の権限を持ち、有罪・無罪の決定や量刑判断などを行う。
 調査では、「裁判員制度が検討されていることを知っている」と答えた人の割合は39.8%で、「知らない」は60.2%に上った。
 「知っている」と回答した人の割合を地域別にみると、14大都市で46.7%、「その他の市」で39.3%、「郡・町村」で33.7%となっている。都会ほど認知度が高いが、すべての地域で半数を下回った。
 職業別にみると、自由業・管理職で64.5%、事務職で50.4%と半数を超える一方で、農林漁業では19.4%、労務職では29.5%にとどまっている。男女別では、男性が49.9%、女性が30.5%で、男性がほぼ半数に達したのに対し、女性は3割程度にとどまった。また、年齢別では20歳代で26.5%、30歳代で36.7%、40歳代で44.1%、50歳代で49.3%、60歳以上で39.2%だった。

2.「裁判員制度」の必要性
 次に裁判員制度の必要性について尋ねたところ、「必要だ」と答えたのは27.2%、「どちらかといえば必要だ」は22.5%、「どちらかといえば必要ない」は10.5%、「必要ない」は12.9%、「どちらともいえない・分からない」は26.8%だった。この結果、「必要だ」と「どちらかといえば必要だ」を合わせた“必要派”は49.8%、「必要ない」と「どちらかといえば必要ない」の“不要派”は23.4%となり、“必要派”が“不要派”の2倍以上に達した。
 “必要派”の割合を地域別にみると、14大都市で53.8%、その他の市で49.4%、郡・町村で46.3%となっており、都会ほど割合が高い。職業別では事務職で58.1%、労務職で52.0%、自由業・管理職で51.6%と過半数に達する一方で、農林漁業では38.7%にとどまった。
 また、男女別では、男性が52.2%、女性が47.5%となっている。年齢別では、20歳代で52.5%、30歳代で55.6%、40歳代で50.0%、50歳代で51.7%、60歳以上で43.2%だった。
 さらに、「必要だと思う理由」を、“必要派”に複数回答で2つまで選んでもらったところ、一番多かったのは「裁判に対する国民の理解や関心が深まる」(58.8%)だった。以下は、「裁判官の感覚が一般市民と懸け離れている」(50.0%)、「一般市民が参加した判決の方が被告人も納得しやすい」(34.3%)、「えん罪が少なくなる」(14.9%)、「その他」(0.7%)の順。

3.「裁判員」の年齢
 “必要派”に「裁判員になることができる年齢を、何歳以上にすべきだと思うか」と尋ねたところ、「20歳以上」が12.8%、「25歳以上」が8.6%、「30歳以上」が33.6%、「40歳以上」が31.9%、「50歳以上」が9.6%で、「30歳以上」がトップとなった。(図1)
 制度の素案は、裁判員の年齢について「20歳以上」「25歳以上」「30歳以上」の3つの案を掲げており、司法制度改革推進本部の裁判員制度・刑事検討会で詳細を詰めることになっている。
 しかし、調査結果では、「30歳以上」とともに「40歳以上」が3割台に上っており、全体的にみると、裁判員にはそれなりの“人生経験”が求められていることが分かる。
 ただ年齢別にみると、20歳代では「20歳以上」(17.1%)と「25歳以上」(21.9%)を合わせると39.0%となり、「30歳以上」の37.1%をも上回って最も多くなる。若年層は、同世代でも裁判員が務まるとの意識が強いようだ。
図1

4.裁判員の人数
 裁判員制度の導入にあたり、日弁連などが主張しているのは、裁判官の影響を極力少なくして、裁判員がプロに負けない程度の勢力を確保することだ。これは市民の常識を加味した判決を目指すのを新制度導入の目的としているためで、裁判員の数を裁判官の3倍以上とするよう求めている。
 これに対し最高裁などは欧州各国のいくつかの参審システムでは裁判官と市民の数がほぼ同数ということや、現状システムの小幅な改善で対応したいとの基本的スタンスもあって、裁判員の数を日弁連の主張よりかなり少なくしたい意向だ。
 改革推進本部の素案では、裁判員の人数に関しても「裁判官は3人、裁判員は2人か3人」と「裁判官は1人か2人、裁判員は9人から11人」の両論を併記している。
 ただ検討会の論議では、「裁判官は3人」との意見が大勢を占めていることから、裁判員の人数については「裁判官が3人いる場合、何人にすべきだと思うか」と“必要派”に聞いた。
 その結果「1人」が3.5%、「2人」が8.9%、「3人」が25.4%、「4―6人」が30.1%、「7―9人」が14.6%、「10人以上」が8.1%となった。「4―6人」が最も多くなっており、「裁判官と同数の3人から、裁判官の3倍の9人まで」が“妥当な線”と言えそうだ。(図2)
 これは、「裁判員の人数が多すぎれば合議しにくくなり、少なすぎれば裁判官の発言力が一層強くなる」といった懸念を反映しているとみられる。
 「裁判官の発言力が強くなる」というような一般市民の“自信のなさ”は、“不要派”に「必要でない理由」を複数回答で2つまで選んでもらった結果にも表れている。「一般市民には裁判の知識が乏しい」(61.9%)と「一般市民は不確かな情報に左右されやすい」(59.3%)が特に多く、以下は、「えん罪が少なくなるとは思えない」(18.6%)、「裁判に参加する一般市民に負担が掛かる」(12.4%)、「その他」(2.7%)の順だった。
図2

5.「裁判員」としての裁判への参加意思
 最後に「裁判員制度ができた場合、裁判員として、裁判に参加したいと思うか」と質問したところ、「ぜひ参加したいと思う」が7.6%、「参加してもよいと思う」が21.6%、「参加したいとは思わない」が62.7%、「分からない」が8.1%となった。「ぜひ参加したい」と積極的に参加する意思を表明した人の割合は、全体の1割にも届かなかった。
 制度の素案は、裁判員に原則として裁判所への出頭義務を課し、出頭しない場合には、行政罰である「過料」を科すとしている。質問では、この点に触れなかったため、調査結果は一般市民の“本音”を表しているわけだが、制度の必要性は感じつつも、実際に自らが裁判員として裁判に参加することにはためらいを覚える、といった意識がうかがえる。
 裁判への参加意思について、地域別にみると、都会ほど「ぜひ参加したいと思う」と「参加してもよいと思う」の割合が高く、「参加したいとは思わない」の割合が低かった。職業別では、農林漁業で「ぜひ参加したいと思う」が3.2%、「参加してもよいと思う」が3.2%と、ともに7つの職種の中で最低となり、「参加したいとは思わない」が83.9%と、7職種中で最高となった。
 また男女別にみると、「ぜひ参加したいと思う」(男性10.1%、女性5.3%)と「参加してもよいと思う」(男性24.5%、女性18.9%)で、男性の方が女性よりも割合が高く、「参加したいとは思わない」(男性59.0%、女性66.1%)では、逆に女性の方が男性よりも割合が高かった。男性の方が女性よりも参加意思が強いと言える。
 年齢別では、「ぜひ参加したいと思う」が20歳代で10.5%、60歳以上で5.9%、「参加してもよいと思う」が20歳代で27.0%、60歳以上で15.5%、「参加したいとは思わない」が20歳代で57.0%、60歳以上で68.8%などとなっており、世代が若くなるほど参加意思が強いようだ。

 司法制度改革推進本部は制度の導入時期について「制度の周知期間が必要なため、法案が成立すれば、その数年後」としている。“法律の素人”の参加が前提であるだけに、分かりやすい制度設計が求められているが、一般市民にとっては、仕事や家事など日常生活に多大な影響が出る可能性が指摘されており、ある日突然、裁判員に選ばれてあわてふためくことがないよう、制度を熟知しておくことが不可欠だ。(了)