中央調査報

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■「中央調査報(No.560)」より

書籍紹介

「郵送調査法」  林 英夫 著
2004年関西大学出版部 (3,800円+税)

 郵送調査の方法論と実証データ・文献を集大成した待望の書。本書は、アカデミックの分野はもとよりビジネスの分野においても、郵送調査の研究への意欲と研究情報の公開に弾みをつけさせることを予感させる。
 「ビジネスとアカデミックの両分野における実践的および基礎的な研究の過程で蓄積してきた文献やデータを集約(略)、郵送調査法という題目で刊行された単行本として、おそらくわが国で最初の専門書」と著者が述べているように、わが国の主要な世論調査の60%程度を郵送調査が占めている(内閣府大臣官房政府広報室編「全国世論調査の現況」平成15年版)にもかかわらず、郵送調査の専門書は皆無に近かった。
 第1部は、郵送調査の特徴、他の調査法との比較、実施・返送状況、実施方法、標本抽出、郵便物の到達度・返送率・返送速度・コストなど郵送調査の研究の基礎が述べられる。
 第2部は、回答誤差、返送率と標本構成比、早期返送者と後期返送者の比較、返送率の予測に必要とされる日別の累積返送率に基づく返送パターンの事例紹介、数理モデル適用事例の実用性検討、欧米の研究、郵便形態・質問紙の形態・協力依頼状・事前予告・事後催促・謝礼の効果、回収票の識別、匿名性と非守秘性・整理番号と記名の影響、匿名での返送確認の技法、無回答者の非協力理由、回答者行動の説明理論と応用など、これまでの実践的研究とその基礎理論のまとめである。
 第3部は、1990年から著者らが行った郵送調査の返送率改善に寄与した操作要因の効果の実証的事例の紹介。終章は、郵送調査の今後の実証研究の具体的課題を示している。
 調査方法論に関する研究としてでなく、実践的なテキストとしても高く評価される。
(大阪支社藤田 陽一)