「裁判員制度に関する世論調査」
中央調査社では6月10日から13日にかけて、「裁判員制度に関する世論調査」を実施した。裁判員制度は、国民から無作為に選ばれた裁判員が、殺人、傷害致死などの重大事件の刑事事件裁判で裁判官と一緒に裁判に参加する制度で、2009年5月までに導入されることになっている。制度の導入により、国民の感覚が裁判の内容に反映されることになり、国民の司法参加・理解が大きく進むことが期待されている。本調査は、無作為に選んだ全国の20歳以上の男女2,000人を対象に個別面接聴取法により実施し、1,448人から回答を得た(回収率72.4%)。
今回の調査内容は、
1. 裁判員制度導入についての認知
2. 裁判員制度の必要性
3. 裁判員制度が必要だと思う理由
4. 裁判員制度が必要ないと思う理由
5. 裁判員として裁判に参加したいか
6. 人を裁くことに自信があるか
であり、1から5までは2003年5月にも実施された質問項目である。6は今回新たに加わった項目である。
1.裁判員制度導入についての周知
最初に、2009年までに「裁判員制度」が導入されることが決まったことを知っているかどうか答えてもらったところ、「知っている」と答えた人が74.2%、「知らない」と答えた人が25.8%と昨年に比べ大幅に認知度が向上した(昨年の質問文は、「裁判員制度が検討されていることを知っているか」で、「知っている」と答えた人は39.8%、「知らない」が60.2%)。
回答者の属性別に見ると、性別では「男性」(82.4%)、年齢別では「50歳代」(82.4%)、地域ブロック別では「近畿」(82.7%)、「阪神」(87.0%)で認知度が高く、「女性」(32.8%)と「20歳代」(39.3%)「九州」(41.6%)で認知度が低い。また、支持政党別に見ると「民主党支持者」(89.9%)で、内閣支持・不支持別に見ると、「内閣を支持しない」(82.3%)でそれぞれ認知度が8割を超えている。

「裁判員制度」導入についての周知 (%)
【支持政党別】
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知っている
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知らない
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自民党
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75.0 |
25.0 |
民主党
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89.9 |
10.1 |
支持政党なし
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71.6 |
28.4 |
2.裁判員制度の必要性
次に、裁判員制度を必要だと思うかどうかについて答えてもらったところ、「必要だと思う」が17.8%、「どちらかといえば必要だと思う」が22.1%、「どちらかといえば必要ないと思う」が15.4%、「必要ないと思う」が19.2%、「どちらともいえない・わからない」が25.5%と分散している。
昨年の結果と比較してみると、「必要だと思う」が10%近く減少(27.2%→17.8%)し、「どちらかといえば必要ないと思う」(10.5%→15.4%)と「必要ないと思う」(12.9%→19.2%)がそれぞれ昨年から増加している。
年齢別に見ると、「必要」または「どちらかといえば必要」と答えた層は「20歳代」(47.4%)と「30歳代」(47.4%)が最も多く、年齢が上に行くにしたがって比率は低下している。
また、支持政党別に見ると「民主党支持者」で必要と答えた人が多いが、内閣支持・不支持別に見ると、「内閣支持」「不支持」層では大きな違いは見られなかった。
3.裁判員制度が必要だと思う理由
裁判員制度の必要性で「必要だと思う」または「どちらかといえば必要だと思う」と答えた人に、その理由を2つまで選んでもらったところ、「裁判に対する国民の理解や関心が深まるから」と答えた人が59.5%、「裁判官の感覚が一般市民とかけ離れているから」が46.4%、「市民参加の判決の方が被告人も納得するから」が35.6%、「えん罪が少なくなるから」が10.9%だった。
昨年の結果と比較してみると、大きな変化は見られなかった。
4.裁判員制度が必要ないと思う理由
裁判員制度の必要性で「必要ないと思う」または「どちらかといえば必要ないと思う」と答えた人に、その理由を2つまで選んでもらったところ、「一般市民には裁判の知識が乏しいから」と答えた人が71.3%、「一般市民は不確かな情報に左右され易いから」が47.3%、「裁判に参加する一般市民に負担がかかるから」が29.3%、「えん罪が少なくなるとは思えないから」が13.4%だった。
昨年の結果と比較してみると、「裁判に参加する一般市民に負担がかかるから」(12.4%→29.3%)と「一般市民には裁判の知識が乏しいから」(61.9%→71.3%)が増加している。制度の導入が決定され、直接的な理由にシフトしているように思われる。
「裁判員制度」の必要性 (%)
【支持政党別】
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必要だと思う(計)
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必要ないと思う(計)
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自民党
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39.2
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34.3
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民主党
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54.4
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36.2
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支持政党なし
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36.9
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35.7
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5.裁判員として裁判に参加したいか
裁判員として、裁判に参加したいかどうかについて聞いたところ、「ぜひ参加したい」が5.4%、「参加してもよい」が19.5%と、参加意向のある人は合わせても4分の1弱だった。
昨年の結果と比較すると、「ぜひ参加したい」(7.6%→5.4%)、「参加してもよい」(21.6%→19.5%)が微減し、「参加したいと思わない」(62.7%→68.7%)が増加した。裁判員制度に自身が参加するかどうかは、消極的な傾向が見られる。
回答者の属性別に見ると、職業別で「事務職」(33.8%)、年齢別で「20歳代」(32.9%)と「30歳代」(32.7%)、政党支持別で「民主党支持者」(36.2%)などの参加意向が高い。「60歳以上」(16.7%)では参加意向は低く、(小泉)内閣の支持・不支持(26.6%・27.6%)では大きな差異は見られなかった。
「裁判員」として、裁判に参加したいと思いますか(%)
【支持政党別】
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参加する(計)
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自民党
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23.5
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民主党
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36.2
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支持政党なし
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23.4
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6.人を裁くことに自信があるか
裁判員として人を裁くことに自信があるかどうか聞いたところ、「自信がある」(1.5%)と「どちらかといえば自信がある」(5.5%)を合わせても7.0%と1割に満たなかった。
回答者の属性別に見ると、性別で「男性(10.2%)」、地域ブロック別で「京浜地区」(13.8%)、支持政党別で「民主党支持者」(11.4%)などで、「自信がある」と答えた人が多い。
人を裁くことに自信がありますか (%)
【支持政党別】
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自信がある(計)
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自信はない(計)
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自民党
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7.2
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85.8
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民主党
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11.4
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83.9
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支持政党なし
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6.0
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86.2
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7.おわりに
裁判員制度は、制度の導入決定の前後から、「どういった理由なら裁判員を回避できるのか」や、「参加義務に反した場合の罰則はどうなるのか」といった議論が幅を利かせているように思われる。本来の制度導入の理念・原理から、円滑な運用のための市民の負担回避の方策などが語られるべきであって、これでは本末転倒であろう。
今回の調査結果からは、裁判員制度の認知は上昇しているが、必要性の認識や自身の参加意向は減少傾向にあり、制度の必要性の発信方法を再検討してみる必要があるかもしれない。
また、国民も、「難しいことは専門家に任せておけばよい」という意識を捨て、「法律の素人」が参加することにこの制度の意義があることを、認識する必要があるだろう。
(調査部 木庭 雄一)
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