中央調査報

トップページ  >  中央調査報   >  以前の調査  >  時事世論調査に見る政党支持率の推移(1989-2004)
■「中央調査報(No.564)」より

 ■ 時事世論調査に見る政党支持率の推移(1989-2004)

前田幸男 東京都立大学法学部助教授

 本稿は、時事通信社・中央調査社が行っている世論調査に現れた政党支持率の変化を、近年の政治動向を念頭に検討するものである。時事データを用いた従来の分析は時事通信社・中央調査社編『戦後日本の政党と内閣』(1982)および同『日本の政党と内閣 1981-1991』(1992)に所収された論文が基本的なものである。それに対して、三宅・西澤・河野『55年体制下の政治と経済』(2001)は時事データを用いて前掲両書と重なる期間をより理論的な視角から分析している。松本『政治意識図説』は時事データ及び朝日新聞・読売新聞の世論調査データを、年齢と出生コーホートに着目して分析した力作であり、本稿の準備において大きな知的刺激を受けた。これらの著作はいわゆる55年体制下の政党支持の変遷を対象としているが、本稿の任務は、この55年体制という政党政治の構造、そしてそれに規定されていた人々の政治的態度および認識枠組みが変容した後の、政党支持の推移と特徴とを検討することにある。
 『日本の政党と内閣 1981-1991』が1991年6月までの調査結果を掲載していることを考えるならば、海部内閣末期の同年7月を検討時期の始点とするべきであろう。しかしながら本稿では、55年体制からの変化を明確にするために、海部内閣成立時点(1989.8)からの政党支持率を検討する。1993年の自民党分裂を契機に始まった諸政党の離合集散は、2004年9月現在、自民党と民主党との二大政党的構造へと収斂しつつあると論評されることが多い(例えば、読売新聞2004.7.12朝刊紙面)。事実、データで見る限り、有権者レベルでは1998年の第二次民主党結党以降、民主党支持の強化が徐々に進んでいるように思われる。



1. 政党支持の意味

 政党を支持することには、心理的には二つの意味があると考えられる(Campbell, et al. 1960)。第一は感情や価値観にかかわる側面である。アメリカ政治学においては、政党支持(Party Support)ではなく、政党帰属意識(Party Identification)という用語が用いられるが、これはアメリカ政治の文脈で言えば、多くの人々にとって、自己をDemocratあるいはRepublicanという集団の一員と考えることが自然だからである。平野(2001)は、この心情をプロ野球ファンが球団に対して抱く気持ちになぞらえている。この政党に対する帰属意識(親近感・忠誠心)が、非常に強い感情的要素を伴っていることも稀ではない。三宅の研究によれば、日本人の政党支持にも感情的側面は存在する(三宅、1985、第2章)。しかし、政党帰属意識と呼ばれるアメリカ人の党派的態度と比較すると、日本人の政党支持には感情的な要素が稀薄であるように思われる。
 第二の側面は、人々が複雑な政治現象を理解する際に政党が果たす認識枠組としての役割である。通常、人々は特定の政策や候補者について子細に情報を集め分析することはできない。膨大な量の情報を処理できない以上、情報を取捨選択し整序づける一定の枠組み、情報処理を簡略化する仕組みが必要なのである。そこで政党が重要な機能を果たす。各政党が政策や政権運営能力について有権者の間に明確な印象を確立していれば、人々は政党について持っている情報を基準に判断を下すことができる。即ち、政策、候補者、内閣等が特定の政党に属するか否かが人々の判断基準になるのである。
 ただし、ここで忘れてならないのは、調査対象に選ばれた個々人の選択は、調査員が読み上げた質問文に対する反応に過ぎないことである。質問に対する回答が持つ意味は、回答者個々人で異なるであろう。主に感情的な要素から政党を支持する人々もいれば、政策を理由として支持を表明する人々もいる。そして、この二つの理由は相互排他的ではない。換言すれば、政党に対する支持が持つ意味は研究者の側で想定した後付の理由に過ぎない部分がある。有権者の政党支持質問に対する回答は、前回選挙時の投票政党の報告に過ぎないこともありうる(Thomassen 1993 [1976])。


たいという気持ち」は男性で比率が高く、男女間で有意な差がみられた(χ2検定、p<0.05)。暮らし方による影響はみられなかった。


4.今後の調査・研究
 今後の調査・研究の方法は、「調査研究方法」の項で述べたように、高齢者の自立生活にかかわる行動・個人要因・環境要因とIADLの相互関係に関する概念枠組みを用いて、それぞれの関連を明らかにしていくことである。また、調査対象者への個別インタビューによる質的調査の結果も活用することとする。


5.調査研究委員
【委員】
主 査 橋本泰子(大正大学・教授)
委 員
    浅海奈津美(北里大学・講師)
    奥山正司(東京経済大学・教授)
    小田泰宏(藍野大学・教授)
    鈴木晃(国立保健医療科学院・健康住宅室長)
    辻彼南雄(ライフケアシステム・メディカルディレクター)
    中村敬(大正大学・教授)
    松田修(東京学芸大学・助教授)


2. 時事調査における政党支持質問

 本稿が対象とする時期で最も大きな変化といえば「政党支持なし」層の劇的な増加である。ただし、時事通信社の世論調査データで「政党支持なし」を検討する際には、次の点に注意しなければならない。時事通信社が行っている世論調査の政党支持質問には1994年6月以前と同年7月以降で大きな違いがある。以下に変更前と変更後の質問を列挙する。

【94年6月までの質問】
Q1.
a)あなたは、どの政党を支持しますか。
b)(「なし」「わからない」人に)保守党と革新党にわければ、どちらを支持しますか。
c)(具体的な政党をあげた人に)あなたが、その政党を支持する理由は何ですか。
(回答票)(M.A.)
【94年7月からの質問】
Q1.
あなたは、どの政党を支持しますか。
SQ.
あなたが、その政党を支持する理由は何ですか。(回答票)(M.A.)
  

 従って、1994年6月までの質問で定義される「政党支持なし」と同年7月以降の質問で定義される「政党支持なし」とは同一の集団ではない。具体的には、前者からは「なし」「わからない」と応えた人々で、再度質問された場合「保守党」「革新党」を選択する人々が「政党支持なし」から除外されている。1994年7月以降は、この下位質問が削除されているため、この質問方法の変化により「政党支持なし」が増加することになる。実際同年6月から7月にかけて、「政党支持なし」は13%増加するのである。本稿ではこの方法論的問題を回避するために次善の策として、「政党支持なし」「わからない」および94年6月以前は「どちらかといえば保守党」「どちらかといえば革新党」を選択した人々を全て「非政党支持者」という範疇に合計した。この手続により、94年6月と94年7月との間に存在する質問文の断絶から生ずる問題を回避できる。
 ただし、この「非政党支持者」がいわゆる「政党支持なし」層と同一の集団であるか否かには一定の留保が必要であろう。すなわち「わからない」がどちらかと言えば政治的関心の低い人々の反応であるのに対し、「政党支持なし」は政治的関心・知識は高いが積極的に支持したい政党を見いだせない人々の反応である可能性が高いからである(田中、1997)。実際、松本が示したように1960年から1980年の時事調査データを見ても、「わからない」は徐々に減少したのに対し、「政党支持なし」は漸増傾向にあった(松本、2001、43-45頁)。その意味で明らかに「政党支持なし」と「わからない」とは異質の集団である。ただし、海部内閣発足直後の1989年8月から1994年6月までの59ヶ月間の「わからない」の平均比率が3.4%であるのに対し、1994年7月から2000年3月までの59ヶ月間の平均比率は3.2%である。質問方法変更の前後で「わからない」の比率がほぼ一定であることを考えると、非政党支持率を用いて「政党支持なし」層の動向を探ることに大きな問題はないように思われる。

3. 政党支持率の推移

 本節では、政党支持の性質が多様であることを念頭に、1989年以降の政党支持率の推移を検討する。ただし、諸政党の離合集散が頻繁であるため、自民党支持率と非政党支持率とを主な検討対象とする。まず海部内閣成立直後の1989年8月からデータが利用可能な2004年8月までの政党支持率を示したのが図1である。グラフが繁雑になるのを避けるために、非政党支持率、および自民党、社会党・社民党、日本新党、新進党、そして民主党(第1次・第2次共通)の支持率のみを掲載している。このグラフから読みとれる政党支持率の推移について以下の点を指摘したい。


図1


 第一に、いわゆる「政党支持なし」層の増加は55年体制崩壊以前から指摘されていたことであるが、55年体制崩壊を契機にそれが一挙に加速したことである。非政党支持の比率は、海部・宮沢両内閣期(1989.8-1993.8)には平均して48.8%であった。それに対して、橋本内閣から小泉内閣(1996.1-2004.8)までの平均は61.6%である。そしてグラフからも明らかなように細川・羽田・村山内閣期に非政党支持は最低45%から最高67%にまで急増している。時系列データの視覚的検討は始点と終点との時期設定により異なった印象を与える危険性があるが、少なくとも本稿の検討時期に関しては1993年8月から1995年12月が一つの画期であったように思われる。さらに言えば、橋本内閣発足から小泉内閣に至る時期には非政党支持率が上昇する傾向は確認できない。時事データで見る限り55年体制下では「政党支持なし」が80年代にも漸増傾向にあっただけに、何故橋本内閣以降、非政党支持の上昇が止まったのかは興味深い問題である。いずれにしても細川内閣から村山内閣に至る時期の非政党支持の急増は、長期的な社会構造の変化から生じたのではなく、短期的な政界再編の効果により生じた、と考える方が妥当である。
 なお、紙幅の関係でデータを示すことはできないが、各政党に対する支持には顕著な男女差がある。より具体的に言えば、男女各々で支持率を計算すると、各党とも基本的に男性から数パーセント高い支持を得ている。本稿の検討期間でいうと、自民党は男性からの支持率が平均6.2%高く、民主党は平均3.3%高い。唯一公明党だけは女性の支持率が1.4%高い。裏を返すと、これは女性に非政党支持者が多いことを意味する。期間中を平均すると女性と男性との差は一割近く(9.5%)になる。従来、若年層における「政党支持なし」の多さは議論されてきたが、男女間にも相当の違いがあることは認識されるべきであろう。
 第二に、グラフから非政党支持の比率は周期的に鋭角的な低下を示すことが読みとれる。この変化は国政選挙の時期に生じており、普段明確に特定の政党を支持しない人々も、選挙・政治関連の報道量が激増する時期には、世論調査の質問に対して、政党への支持を表明するのであろう。一体誰が「政党支持なし」から特定政党の支持者へと変化しているのかは、パネルデータを利用しなければ分からない。しかし、国政選挙のサイクルとともに非政党支持の比率が急落することを考えると、一部の人にとって政党への支持は、直近に投票した政党名以上の意味を持っていないように思われる。


 本稿の検討期間について、選挙を挟んだ前後二ヶ月間での非政党支持率の変化を表1に掲載してある。一見して明らかなのは、国政選挙と違い統一地方選挙には非政党支持を減少させる効果がないことである。四回の統一地方選挙における非政党支持の減少は平均0.7%に過ぎない。政党からの公認・推薦を受けずに選挙に臨む首長候補者が増加傾向にあるのみならず、地方議員レベルでも無所属が増加傾向にある(石上、2003)。従って統一地方選挙では、選挙運動にせよ、報道にせよ、政党が果たす役割を有権者に印象づけることが少ないのであろう。


表1


 統一地方選挙と比較すると、衆議院選挙と参議院選挙とは大幅に非政党支持を減少させる。各政党の議席数が重大な関心事である以上、選挙運動・報道の各局面で政党が大きく取り上げられるのであろう。しかしながら、非政党支持が減少することの意味は時期により異なる。参議院選挙で最も非政党支持が下落したのは1995年参議院選挙の12.1%であるが、それは自民党4.8%、新進党5.2%の支持率増加へとつながっている。1996年の衆議院選挙時の変化もこれに近い。非政党支持が10.9%減少したのに対し、自民党が3.2%、新進党が4.1%支持を増やしている。この二つの選挙は、非政党支持の減少が、自民党と野党第一党の支持率を同程度上昇させた例である。
 その一方、1998年4月に民主党と旧新進党系議員とが新しく民主党を結成して以降は若干状況が異なる。98年の参議院選挙時には5.3%しか非政党支持は減少しなかった。しかしながら、自民党支持は1.4%低下しているのに対して、民主党への支持は5.6%増加している。2000年衆院選挙時は非政党支持の減少が10.5%に対し、自民党支持2.4%、民主党支持5.3%の上昇である。2001年参議院選挙は、小泉内閣効果であると思われるが、自民党支持が上昇する。非政党支持の減少7.7%に対して、自民党支持は5.0%上昇、それに対して民主党支持は1.8%の微増に留まった。注目に値するのは初期の爆発的支持率を失った小泉内閣のもとにおける二回の選挙である。2003年衆議院選挙では非政党支持が6.8%下落したが、自民党支持は0.4%増に留まり、民主党支持が4.0%増加している。
 さらに、2004年7月の参議院選挙では非政党支持は7.5%減少しているが、その減少は自民党ではなく、民主党支持の増加へとつながっている(今回の参-5-議院選挙では非政党支持率の底が7月にあるので、5月と7月との差を取っている)。自民党支持率は上昇することなく3.1%下落したのに対して、民主党支持率が11.0%増加したのである。さらに1995年と2004年の参議院選挙について、選挙の前後二ヶ月間の非政党支持率、自民党支持率、野党第一党支持率の変化を、性別・年齢毎に検討したのが表2である。1995年参議院選挙時の非政党支持の減少は、男女、年齢を問わず基本的に自民・新進両党の支持率を押し上げている(自民党の30歳代の支持率減少は例外であろう)。それに対して、2004年参議院選挙時の非政党支持の減少は、男女、性別を問わず民主党支持率の上昇にのみつながり、自民党は全ての集団において支持率を下げているのである。


表2


 表3は1995年および2004年参議院選挙後の性別・年齢別支持率を示している。全ての性別・年齢で非政党支持が最大の集団である。そして、2004年参議院選挙時には、自民党は全体の支持率でこそ第一党の立場を維持しているが、20歳代から40歳代においては第一党の地位を民主党に奪われている。集計された数値のみに依拠することの危険性を承知した上で、あえて大胆な議論をすれば、自民党は国政選挙時に「政党支持なし」層を引きつける力を現在は失っているのではないか。1998年以降の選挙では、自民党の支持率には国政選挙時の非政党支持の減少から来る浮揚力が見られないのである。2001年参議院選挙時の支持率上昇は、小泉内閣の高支持率の波及効果から来る例外であろう。 その意味では、松本(2001)が指摘したように、自民党はかつてのような包括政党(佐藤・松崎1986)ではなくなり、特定の堅い支持者に依存し、新たな支持層を引きつける能力を失ったように思われる。現在の自民党と公明党との連立は、「政党支持なし」層を取り込めなくなったが故に、公明党支持者を取り込むことで、選挙時の得票力を補完するという意味があるように思われる。あるいは、逆の見方をすれば、一定の固い票を動員できるが一部の有権者が強い拒否反応を示す公明党との連立の故に、自民党は広範な有権者を動員する魅力を失った可能性も否定できない。そして、従来は自民党支持に傾斜していた人々が、民主党への支持を表明するように変化しつつあるのではないか。


表3

4. 政党の再編と政党支持

 最近の選挙を見る限り選挙時の非政党支持率の減少は、民主党に一方的に有利に働いている。調査データに依拠せずに、敢えて大胆に推し量れば、これは55年体制下の認識枠組み、ならびに価値対立を共有していない人々が民主党に託した期待を表しているのではないか。心理的には未知の対象に対しては一定の肯定的評価を与えることが多いと言われる(Holbrook, et al. 2001)。ただし、その期待は確固とした印象や、過去の実績に支えられているわけではない。過去15年間に登場した様々な新党に対する支持は、新党が持つ可能性に対する期待という側面があったのではないか。米国大統領選挙の文脈では、現職候補者に対する評価が実績中心となるのに対し、現職に挑戦する新人に対する評価は、将来に対する期待中心である(Miller and Wattenberg 1985)。自民党や公明党に対する支持が短期的には激しい上下動を示さないのは、過去の実績という明確な判断基準が与えられた上での支持だからであろう。それに対して、新しい政党を結成する場合、政治家個人の実績はあっても、政党としての明確な実績はない。そこで新党に対する支持は将来に対する期待に依拠することになる。新党への支持が大きな振幅を示すのは、その漠然とした印象に基づいた期待が裏切られる時に支持率が急落するからであろう。その点、細川連立政権瓦解後の日本新党支持率の急落は示唆的である。
 期待はいずれそれが実現したか否かを問われるものである。その意味で、実績なき期待に基づく支持を長期的に保持することは難しい。ならば、新党が短期間で解体せずに定着するためには、期待を梃子として、あるいは現政権の失政に乗じて、政権を掌握し一定の実績を有権者に示す必要があるだろう。コンヴァースが古典的論文で指摘したように、政治家レベルで新しく編成あるいは再編成された政党システムが、有権者の心理に定着するまでには10年単位の時間を必要とする(Converse 1969)。政党が基本的に選挙・議会を通じて政権を掌握する存在であるが故に、政党の再編成は政治家レベルで先行する。しかし、新しい政党システムが安定するか否かは、エリートレベルで成立した政党システムが有権者の心理に定着するかにかかっている。政党システムの安定には有権者総体としての(個人としてではない)政党支持の安定が、仮に必要条件ではないとしても、極めて重要な役割を果たすのである。
 以上、いささか迂遠な議論を詳述したのは、近年「政党支持なし」層の持つ重要性が過度に強調されているように思われるからである。従来の政党支持質問が有効性を失っただけではなく、人々は政党を支持したくないという積極的意思がある(田中、1997)、あるいは、政党支持は政治意識の指標としての効用を失った(松本、2001)、という主張がなされている。だが、それらは55年体制下の諸政党に対する支持率が低下し、「政党支持なし」が増大したことに依拠した議論である。果たして特定の諸政党が人々の支持を得られなくなったことから、理論としての政党支持の意味を否定することができるのであろうか。55年体制下の政党政治の基本構図が崩れ、政党が離合集散を開始し、数多くの新党が数年単位で結成・解散される状況では、有権者が諸政党に対して明確な印象を持つことは難しい。それでは、政党は人々にとって感情移入の対象にも、政治現象を理解するための認識枠組にもなり得ないだろう。
 従って、短期的には政党支持率が回復する可能性は低い。だがそれは長期的な動向とは別問題である。松本は、「政党支持なし」の増加を、人々が加齢により自民党支持へと変化する力学が消滅したことに求めた(松本、2001、121頁)。しかし、従来は「政党支持なし」であった人々が、特定政党の支持者へと変化する可能性は十分にある。先述のように、少なくとも時事データで確認できる限りでは非政党支持の増加は止まっているのであり、加齢による政党支持の強化が別のパターンで生ずる可能性は皆無ではない。
 もう一度、表3を御覧頂きたい。1995年と2004年は9年の違いである。そこで1年のズレがあるが、大まかには1995年の20歳代は2004年の30歳代と考えて問題はないであろう。9年間における非政党支持の変化を年齢ではなくコーホートで検討すると、非政党支持は20→30歳代で11.5%減少、30→40歳代で15.6%減少、40→50歳代で5.8%減少している。なお、2004年の20歳代の非政党支持率は、1995年の20歳代の率とほぼ同等である。それに対して、自民党支持率の変化を見ると20→30歳代で1.9%増加、30→40歳代で8.7%増加、40→50歳代で0.1%減少している。民主党が20-40歳代で第一党になっているのは先述の通りである。従って、加齢効果による自民党支持率の世代毎の上昇は停止したかもしれないが、加齢効果による「政党支持なし」の減少自体が停止したわけではない。すなわち、人々が経験を積むにつれ、特定の政党を支持するようになる傾向自体は(たとえ個人レベルでの政党支持が不安定であるにしても)持続しているのである。そして、近年の傾向を見る限り、40歳代以下の層で民主党支持が増加しつつある。

5. 結語

 「政党支持なし」の増大は先進産業諸国共通の現象である(Dalton and Wattenberg 2000)。それは基本的に情報社会化、価値観の多様化等の社会構造的要因、とりわけ高学歴化に付随した有権者の変化が原因であり、政党支持による投票行動の規定力も弱まっていると主張される。その一方で、政党支持(政党帰属意識)の衰退は神話に過ぎず、政党支持が投票行動・選挙結果に与える影響は70年代以降着実に上昇してきたという結果も報告されている(Bartels 2000)。もし、社会構造的要因が「政党支持なし」を増加させる方向に働いているのならば、如何なる要因が政党支持の役割を強化しうるのであろうか。
 V.O.キーが古典的著作で主張したように、有権者の政治的意見は、それ独自で存在するというよりは、政治家レベルでの対立、政治家が発するメッセージを反映し形成されるものである(Key 1966)。政党政治家が新聞やテレビを通じて有権者に送るメッセージが鮮明であり内容的に妥当だと受け取られることが、有権者の判断において政党が影響力を持つ条件である。ここで想起されるべきは、1970年代半ばから1980年代終わりにかけて、「政党支持なし」の増加と、自民党支持率の上昇とが同時進行した事実である(例えば、平野、2001、図8-1を見よ)。これは、自民党政治家がある特定の集団に対してメッセージを送り、その集団の支持を引き出すことに成功したのに対し、社会党を中心とした革新政党が、説得力のあるメッセージを伝えることも、新たな支持基盤を取り込むことにも失敗したことの証左ではないのか。
 従って、政党政治家が、各政党の差異を標的と定めた有権者集団に伝達することに成功すれば、新しい集団の支持を獲得することは可能である。この差異は政策内容に限る必要はなく、政策目標達成手段の差でも良い。その意味では、今後、民主党と自民党との差異がより明らかになれば、政党支持率の上昇・「政党支持なし」の減少へとつながる可能性がある。さらに、政党間の実質的な競争、特に現実的な政権交代の可能性が、有権者の興味を引きつけ、彼ら・彼女たちを政党が持つ差異に敏感にすることも考えられよう。先述のように新党への支持は未知のものに対する期待という側面を持つ。それに対して、政権党に対する支持は、過去の実績にたいする承認、あるいは過去の実績に基づいた期待である。新党は未来に対する期待に依拠せざるを得ない点で、過去の実績に基づき戦う与党に対して、不利な戦いを強いられる。だが逆に、一旦政権交代が常態化し、複数の主要政党が各々の政策や実績を有権者に印象づける機会を持てば、新しい政党システムが有権者にとって有効な判断基準となり、諸政党に対する支持率も回復する可能性が高いのではないか。
 この点、歴史の特定時点における政党政治の有効性に対する疑義から生じた個別政党への支持率の低下と、有権者の心理過程において政党が果たす役割の理論的意義は明確に分離した上で議論すべきものであろう。「政党支持なし」が有権者において多数派を占める状況は、政党・政治家が有権者に対して有効なメッセージを伝達していないが故に生じている部分も大きいのではないか。政党支持が理論としての意味を喪失し、人々は政党を支持すること自体を忌避すると主張するためには、政治家レベルの政党システムが安定しても、それが有権者レベルでの支持として定着しないことを示す必要がある。その論証に成功して初めて、人々は政党そのものに拒否反応を示し、積極的に「政党支持なし」を選択すると言えるだろう。その意味では、政権交代のある政党政治の確立は、日本の自由民主主義の将来にとって切実な課題であるだけでなく、政党支持に基づいた政治学理論の有効性を検証する上でも重要な試金石である。


【参考文献・和文】

石上泰州「第15回統一地方選挙における『脱政党』」『都市問題』、94巻11号、2003年。

平野浩「選挙民の中の政党」川人貞史・吉野孝・平野浩・加藤淳子『現代の政党と選挙』有斐閣、153-174頁、2001年。

佐藤誠三郎・松崎哲久『自民党政権』中央公論社、1986年。

時事通信社編『戦後日本の政党と内閣-時事世論調査による分析-』時事通信社、1981年。

時事通信社・中央調査社編『日本の政党と内閣1981-91-時事世論調査による分析-』時事通信社、1992年。

田中愛治「『政党支持なし』層の意識構造」『レヴァイアサン』、20号、1997年。

松本正生『政治意識図説-「政党支持世代」の退場-』中公新書、2001年。

三宅一郎『政党支持の分析』創文社、1985年。

三宅一郎・西澤由隆・河野勝『55年体制下の政治と経済-時事世論調査データの分析-』木鐸社、2001年。

【参考文献・英文】

Bartels, Larry M. "Partisanship and Voting Behavior, 1952-1996. "American Journal of Political Science 44, no.1(2000): 35-50.

Campbell, Angus, Philip E. Converse, Warren E. Miller, and Donald E. Stokes. The American Voter. New York: Wiley, 1960.

Converse, Philip E. "Of Time and Partisan Stability. "Comparative Political Studies 2, no.2(1969): 139-71.

Dalton, Russell J., and Martin P. Wattenberg. Parties without Partisans: Political Change in
Advanced Industrial Democracies. Oxford: Oxford University Press, 2000.

Holbrook, AllysonL., Jon A. Krosnick, Penny S. Visser, Wendi L. Gardner, and John T. Cacioppo.
"Attitudes toward Presidential Candidates and Political Parties: Initial Optimism, Inertial First
Impressions, and a Focus on Flaws. " American Journal of Political Science 45, no.4(2001): 930-50.

Key, V. O. The Responsible Electorate: Rationality in Presidential Voting, 1936-1960. New York:
Vintage, 1966.

Miller, Arthur H., and Martin P. Wattenberg. "Throwing the Rascals Out: Policy and Performance
Evaluations of Presidential Candidates, 1952-1980. "American Political Science Review 79, no.2(1985): 359-72.

Thomassen, Jacques. "Party Identification as a Cross-National Concept: Its Meaning in the
Netherlands. "In Classics in Voting Behavior, edited by Richard G. Niemi and Herbert F. Weisberg, 263-66. Washington,D.C.: CQ Press, 1993[1976].

---------------------------------------------------------------------------------------
時事世論調査の概要
 調査開始、1960年6月より毎月実施
        (2004年9月で通算541回)
 ・地 域:全国
 ・対 象:20才以上の男女個人
 ・方 法:個別面接聴取法
 ・サンプル:2000(1971年3月までは1200サンプル)
 ・抽出方法:層化2段無作為抽出法