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■「中央調査報(No.564)」より

回収率の低下、協力拒否の増加と対象者の意識

 調査にとって回収率の確保は調査結果の信頼性を維持するために重要な課題である。しかし近年、対象者を個別に訪問する調査の回収率は低下の一途をたどっており、調査員が対象者宅を訪問しても、すんなり調査に応じてくれる人が減っているという。ここでは、回収率低下の現状について、対象者の調査観を調査した結果を紹介しながら考察したい。まず、40年余にわたりほぼ毎年実施されている内閣府「国民生活に関する世論調査」の回収率と不能理由の変遷をたどってみる。


図1



「国民生活」調査の回収率と不能理由の推移

 上の(図1)は、1969年から2004年の35年間37回分の「国民生活に関する世論調査」回収率と不能理由の推移を表したものである。不能理由は全サンプル数を基準に%を算出した。回収率を見ると、84年までは80%を超えていたが、それ以降は70%台で次第に低下を続け、95年には75%を割り、2004年にはかろうじて70%を確保している。不能理由内訳では、70年代前半には不能理由の中に占める拒否の割合は2割以下であったのが、70年代後半から大きく増加し、現在では4割以上に達している。それに続くのが一時不在で、85年までは不能理由のトップであり、それ以降も増加を続け、拒否とほぼ同率で推移している。住所不明が70年代前半と比べるとおよそ半分に減っているが、他の不能理由には大きな増減は見られず、やはり拒否の増加が際立っている。69年には50人に一人が調査協力拒否していたのが、現在では10人に一人以上が拒否していることになる。


調査に対する関心と信頼・貢献度評価

 「国民生活」調査の回収率低下と不能理由の推移を挙げたが、その他の各種調査員訪問調査でも同じような傾向がある。人々の調査に対する見方が冷たくなっているのだろうか。世論調査・市場調査に対する国民の関心・信頼度はどの程度か、その貢献度をどう評価しているかなどの調査を中央調査社で2004年9月に実施した(全国20歳以上男女個人2,000人、回収数1,423、回収率71.2%)。(図2)に各質問の回答内訳を示した。
 「調査員が訪問して行う世論調査や市場調査などのアンケート調査」を依頼された経験が1回でもある人は全体の36%、結果に関心がある人は6割弱、国民の考えを正しくとらえていると答えた人も過半数、3分の2近くが結果を信用できると答え、世の中の役に立っていると答えた人が7割近くいる、という結果になった。87年9月に「調査員が訪問して行う世論調査」について同様の内容の調査を行ったところ、国民の2割強が過去に世論調査を受けた経験があり、過半数が世論調査の結果に関心をもち、同様に過半数が世論調査は国民の考えを正しくとらえると考え、3分の2近くがその結果を信用しており、さらに7割が世の中の進歩や発展のために役立っていると評価していた。今回は「調査員が訪問して行う世論調査」に特化せず「調査員が訪問して行う世論調査や市場調査などのアンケート調査」という表現に改めたが、全体として17年前の結果とそれほど変動がないことがわかる。調査結果に関心があり、信頼度や貢献度を評価する人は依然として多数を占めていることがわかった。

図2


調査協力を依頼されてどう感じるか

 調査協力を依頼されたときのことについて「調査への協力を依頼されたときどう感じるか」、「調査を依頼されて断ったことがあるか」の二つの質問をした。(図3、4)に内訳を示した。
 「依頼されたときどう感じるか」の質問では、「半分義務と思っている」、「自分の意見を述べるいい機会だと思う」の順に多く、「自分には関係ないことと思う」「迷惑な感じがする」という否定的な回答はあわせて29%と3割近くになった。2000年3月に同じ内容の調査を行った結果は、「半分義務と思っている」、「自分の意見を述べるいい機会だと思う」の順に今回とほぼ同じ数値で多くなっており、「自分には関係ないことと思う」「迷惑な感じがする」という二つの回答はあわせて22%と、今回結果よりも少なかった。調査に協力しながらも内心ではどうでもいい、迷惑だと思っている人も多くいるけれども、協力することに責任を感じている人のほうが多いということがわかる。 「断ったことがあるか」の質問に対しては、「ある」と答えた人が19%と2割弱。断った理由としては「忙しかったので」を挙げた人が66%と最も多く、次に多かったのが「後でセールスなどがあると思ったので」の30%、続いて「長時間かかりそうだったので」が29%、「プライバシーに触れるような立ち入ったことを聞かれそうだったので」23%の順に多くなっている。2000年3月の結果は、「断ったことがある」人が22%、断った理由としては「忙しかったので」が52%、後でセールスなどがあると思ったので」が37%、「プライバシーに触れるような~」が23%の順に多くなっており、今回の結果とほぼ同じである。ただし、「後でセールスがあると思ったから」と答えた人は7ポイントほど減っており、「忙しかったので」「長時間かかりそうだったので」を挙げた人は12~14ポイント増加している。

図3

図4


調査と個人情報

 個人情報保護の重要性が叫ばれるようになって久しいが、この点についても上に述べた調査の中でいくつか質問した。「アンケート調査に答えることによってプライバシーが侵害されたり個人情報が漏れたりすることに不安を感じるか」の質問には、「強く感じる」「どちらかといえば感じる」をあわせて46%と半数近くの人が不安を感じている結果になった。不安を感じる理由としては、「個人情報漏洩の事件が頻繁に報道されているから」が最も多く66%の人が挙げた。次に「個人情報を提供する先が適切な管理を行っているかわからないから」が43%と多くなっている(複数回答)。半数近くの人が不安を感じながらも協力してくれた、ということだろうか。来年4月に個人情報保護法の施行が決まっているが、これによって個人情報管理が改善されると思うか、という質問もしてみた。 47%の人が「改善される」、34%が「改善されない」、19%が「わからない」と答えた。「改善されない」と答えた人に理由をたずねたところ、「個人情報の不正使用を監視する体制が整っていないから」を挙げた人が39%、「管理を厳しくしても必ずミスは起こるから」が36%と多くなっており、「事業者が法律を守る努力をしないから」をあげた人は16%と次に多かった。ただ、実際は個人情報保護法がどういう内容か知っている人は少ないと思われる。内閣府による「個人情報保護に関する世論調査」(2003年11月)では、「個人情報の利用に関係したプライバシーの侵害が増えたと思うか」という質問で「そう思う」と答えた人が6割を超えた。89年の同調査の58%、85年の48%と比べても増加しており、個人情報の取り扱いに対する信用が低下していることを表している。

調査に快く協力してもらうために必要なこと

 同じ調査の中で、「調査に協力していただくために調査をする側にどのようなことが必要だと思うか」の質問に複数回答で答えてもらった。(図5)に上と同じ2000年3月の調査結果とあわせて示した。最も多くの人が挙げたのが、「調査の目的をはっきりさせること」で8割近くの人が挙げた。次に「調査の結果がどう使われるかを知らせること」が63%、「調査の実施上の責任や連絡先がはっきりしていること」が52%、「なぜ自分が調査対象となったのか」48%の順で多く挙がった。2000年3月の調査では、挙げた人が多かったのは今回と同じ項目だが、今回では複数を積極的に挙げる人が増えているようだ。特に「調査の結果がどう使われるかを知らせていること」、「調査員の身分証明がしっかりなされていること」を挙げる人は15ポイントほど増加した。

図5


終わりに

 以上、内閣府「国民生活に関する世論調査」の回収率と不能理由の変遷、調査対象者の調査に対する意識に関する調査の結果を紹介した。回収率の低下、調査対象者の協力度の低下は調査員訪問調査において重大な問題だが、調査結果への信頼や評価はそれほど変化していないようだ。内閣府「安全・安心に関する特別世論調査」(2004年7月)では、「今の日本は安全・安心な国か」の質問に対し、「そう思わない」と答えた人が56%と過半数、「一般的な人間関係が難しくなったと感じる」人が6割以上という結果であった。このように人々の他者に対する警戒心が強くなっていることも協力度を下げる要因として少なからぬ位置を占めていると考えられる。調査対象者の信頼を得、善意を引き出し、信頼できる調査結果を得るために重要なのは、調査を行う企業や人がどこの誰なのか、協力者の回答がどのように使われ、社会に還元されるのかをはっきり示す手間と誠意を惜しまないことだと、紹介した調査結果から浮き彫りとなっている。
                                                

(管理部 山地 彩香)