■ 介護の社会化はすすんだか
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各調査の詳細は、厚生労働科学研究費補助金政策科学推進研究事業「要介護高齢者・介護者からみた介護保険制度の評価」平成13~15年度総合研究報告書(主任研究者:杉澤秀博)、および東京都老人総合研究所保健社会学部門編(1999)「高齢者・家族の保健・福祉ニーズの縦断的変化と保健・福祉政策」を参照。 |
3.介護者の負担は軽減したか
厚生労働省が公表している資料によると、制度の施行後、在宅サービスの利用者数や利用量、サービス事業所の総数は全国的にみて増加しており、施行前の1999年度月平均と施行後1年半が経過した2001年10月との比較では、訪問介護(ホームヘルプサービス)が110%増、通所介護(デイサービス)が75%増となっている(厚生労働省,2002)。我々の調査データでも、主な在宅サービスの利用者割合や利用回数は、制度施行後の2002年の方が施行前の96、98年より有意に高くなっていた(杉澤,2004)。
このように在宅サービスの利用拡大という意味では介護が社会化されつつあるといえるが、サービスを利用していたとしても依然として「家族主体」の在宅介護態勢のままで、「在宅サービス主体」とまでは転換が図られていない可能性がある。家族介護を前提とし、それを部分的に補完する程度の水準でしか在宅サービスが使われていないとすれば、家族介護者の負担は十分には軽減されず、真に介護の社会化が達成されたとは言えない。
そこで、在宅介護態勢がどのように変化しているかを高齢者の障害の程度別2に調べた(表1)。「身体障害・痴呆ともに中度~重度」および「身体障害が中度~重度で痴呆は軽度」の高齢者世帯では、「主介護者は家族だが副介護者はホームヘルパー」「ホームヘルパーが主介護者」といった『ヘルパー主体』の在宅介護態勢をとる割合が有意に増加していた。しかし、「身体障害が軽度で痴呆が中度~重度」といった、いわゆる動ける痴呆性高齢者を抱える世帯では、2002年時点においても『ヘルパー主体』は6%に過ぎなかった。ホームヘルパーを始めとする在宅サービスの利用は確かに増加しているが、制度施行後2年が経過した2002年の段階では、依然として家族を主体とした在宅介護態勢が8割以上を占めている。特に、長時間の見守りを必要とする動ける痴呆性高齢者を抱える世帯では、9割以上が家族介護を前提とし、介護の主体を在宅サービスが担うほどの転換は図られていなかった。

では、介護者の身体的、精神的、社会的負担は軽減されただろうか3。表2には、主介護者の身体的な愁訴数、介護による情緒的消耗、介護による社会生活の支障といった3つの側面から測定した介護者の負担度の変化を示した。分析に際しては、介護者の性と年齢、要介護者の身体的障害と精神的障害(痴呆)の程度を統計的にそろえた上で、分散分析により各測度の推定周辺平均を算出した。その結果、身体的な愁訴数と社会生活上の負担については目立った変化は見られなかったが、介護者の情緒的な消耗は、制度施行後の2002年の方が施行前より有意に悪化していた。
在宅サービスの利用は増えているものの、前述のように在宅介護の主力部分は依然として家族が担っているケースが圧倒的多数である現状においては、介護者の身体的、精神的、社会的負担が軽減するまでには至っていないと言える。さらに、結果は示していないが、介護者の相談ニーズが高まっているにもかかわらず、相談にのってくれた人が私的にも公的にも減っていることが、我々の調査結果からわかっている。介護者の相談に対する私的、社会的な支援態勢の弱まりが、介護者の精神的負担の増加に影響している可能性も考えられる。

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障害の測度と分類は、東京都老人総合研究所社会福祉部門編「高齢者の家族介護と介護サービスニーズ」(光生館,1996)を参照。 |
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介護負担の各測度の出典は、近刊の「介護保険制度の評価-高齢者・家族の視点から」を参照。 |
4.増大する施設需要とその背後にある要因
在宅サービスの供給量が増えたにもかかわらず、介護保険制度が始まって以来、特別養護老人ホームなどの介護施設への入所希望者が増加しており、制度の大きな問題点となっている。我々のデータでは、「なるべく入所させたくない」「お世話できなくなっても入所させたくない」といった在宅志向の介護者は2002年時点で66.7%であり、約3分の2の主介護者は在宅介護を希望していたが、施行前(1996年:78.6%)と比べるとその割合は有意に低下していた。
では、どのような介護者で入所希望が高いだろうか。主介護者の性、年齢、精神的負担(情緒的消耗)、主観的な経済状態、および要介護高齢者の身体的障害、痴呆症状、世帯類型が、主介護者の入所希望とどのような関係にあるかを分析した。その結果、「介護者の精神的負担が強い」「要介護高齢者の痴呆が重い」「要介護高齢者がひとり暮らし」であることが、主介護者の入所希望を高めていた。しかし、これらの要因は介護保険制度施行前も入所希望を高めるリスク要因であり、施行後にこのような介護者で特に入所希望が高まったというわけではない。別の言い方をすれば、制度施行後も「痴呆」「介護ストレス」「ひとり暮らし」は依然として介護者の在宅継続意向を弱める要因であり、現行の制度では、このような介護負担が重い人たちの在宅生活に対応できていない可能性が示唆されている。
これらの要因に加えて、給付されるサービスの量に制限がある在宅サービスと違って施設サービスの方が完結的で介護者の負担も軽く、相対的には安価であるといった介護保険制度の仕組みに係わる問題、あるいは家族を施設に入れることへの抵抗感の減少などが、介護者の施設志向の増大に関係している可能性も考えられる。
このように全体的には介護者の入所希望が増大しているが、在宅サービスを利用している人ではそれが抑制されるようになっているかもしれない。ホームヘルパー、デイサービス、ショートステイについて、利用者と非利用者とで主介護者の入所希望状況がどのように異なるかを比較した。その結果、ホームヘルパーを利用している主介護者が入所を希望する確率は非利用者と有意な違いがなく、ショートステイやデイサービスを利用している家族では、利用者の方が非利用者よりも入所を希望する確率が高くなっていた。この傾向は、介護保険施行前後で共通していた(図2)。在宅サービスの利用は増えているが、現状ではサービスの利用は必ずしも介護者の在宅継続意欲の向上につながっていない場合が多いと言える。しかし、以上の結果は三鷹市という一地域におけるものであり、また横断面での分析結果であるため、今後は他の地域や縦断的な分析など、より多角的な検討を行う必要がある。

5.おわりに
本調査は筆者らが三鷹市と共同して実施したが、本稿の内容・意見は執筆者の独自の見解であり、三鷹市の見解を示すものではない。本稿では一部の結果しか紹介できなかったが、近刊の『介護保険制度の評価-高齢者・家族の視点から』(杉澤秀博、中谷陽明、杉原陽子編、三和書籍)では、より多角的な分析結果を紹介しているので、ご一読いただきたい。
最後に、多忙な介護の中で調査にご協力くださいました対象者の皆様、三鷹市職員の皆様、並びに長時間にわたり介護者の話を丁寧に聴き取ってくださいました中央調査社の調査員の皆様とスタッフの皆様のご尽力に心より感謝申し上げます。
| 【引用文献】 | |
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医療経済研究機構,2001,『介護保険による効果の評価手法に関する研究報告書』. |
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厚生労働省監修,2003,『平成14年版厚生労働白書』ぎょうせい. |
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内閣府国民生活局物価政策課,2002,『介護サービス市場の一層の効率化のために』. |
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杉澤秀博,2004,「介護保険制度の導入と高齢者・家族の介護サービスに対する意識の変化」杉澤、 中谷、杉原編『介護保険制度の評価-高齢者・家族の視点から』三和書籍. |
