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■「中央調査報(No.574)」より

 ■ 「レジャー白書2005」に見るわが国の余暇の現状と課題

(財)社会経済生産性本部 余暇創研 柳田尚也


 財団法人社会経済生産性本部 余暇創研では、本年7月「レジャー白書2005 ~インバウンド 日本の魅力再生~」を発表した。レジャー白書は、過去30年間にわたってわが国の余暇動向を需給両面から総合的に明らかにしてきた唯一の出版物である。平成16年の余暇は、全般にはきびしい中にも明るさが見えた年となった。ここ数年“巣ごもり“状態にあった人々は、少しづつ足を外へ向け始めている。本稿では、同白書の記事の中から平成16年の余暇活動および余暇産業・市場動向等の現状と課題について、簡単にご紹介する。


1.日本人の余暇をめぐる環境

 はじめに、日本人の余暇をめぐる環境がどのような状況にあるかを、時間面・経済面の基礎的なデータをもとに見てみよう。


サラリーマンにゆとりなし-時間的ゆとり
 まず、“時間的なゆとり”を把握する代表的指標である総実労働時間(規模30人以上)の動きを見ると、平成15年の1846時間から平成16年の1840時間へと見かけ上6時間の時短となっている。“見かけ上”とあえて書いたのは、実際はこの減少はパートタイマーなどの短時間労働者が増えたことによるもので、正社員の時間的ゆとりは実際は過去10年間ほとんど改善していないからである(図表1)。年次有給休暇の取得率も、47.4%(前年比0.7%減)と相変わらず5割を切る低水準が続いている。レジャーを楽しむ上でいちばん大切な前提である“時間のゆとり”が確保され、わが国の余暇が本格的な回復を見せるのは、まだしばらく先のことのようである。

図表1


家計収入は7年ぶり好転-経済的ゆとり
 一方、久々に明るい動きとなったのは家計収入・消費などの“経済的ゆとり”の面である。平成16年の家計調査報告によると、「家計収入」および「可処分所得」が7年ぶりにプラスに転じている。同報告でも分析しているように、ゴールデンウィークの海外旅行復調などが好材料となり、「教養・娯楽費」は前年比5.9%の大幅増となった。
 こうした実態面での動きは、人々の意識の面にも反映したようである。図表2を見ると、「余暇支出が(前年に比べて)減った」という人は増加傾向で推移していたが、平成16年は久々にグラフの傾向が反転している。わずかではあるが、人々の心理的な“ゆとり感”が回復してきているのは、レジャー業界にとって明るい材料である。

図表2


2.日本人の余暇活動の現状
   ~外出型のレジャーが好調~


 レジャー白書では、毎年「スポーツ」「趣味・創作」「娯楽」「観光・行楽」の4つの部門からなる計91種目の余暇活動について、15歳以上男女3,000人を対象とするアンケート調査を行い、国民の活動参加実態を調べている。図表3は、調査結果から参加人口上位20種目を示したもので、平成16年の国民の余暇活動の状況を端的にあらわしている。以下3つのポイントから、平成16年の余暇動向を読み解いてみよう。

図表3


ポイント1:観光・行楽系活動の回復
 ポイントの第一は、観光・行楽系活動の回復の動きが顕著に見られたことである。図表3の参加人口第2位に見える「国内観光旅行」は余暇活動の典型的種目の一つであるが、平成15年の5900万人から6080万人へと回復傾向が明確になった。第16位「ピクニック・ハイキング」(2750万人→3060万人)もよく伸びている。上位20位には入っていないが、「海外旅行」もSARS等の呪縛をようやく脱し、参加人口は970万人から1200万人へと力強い伸びを見せている。このように、観光・行楽面の余暇活動で底堅い動きが見られたのが平成16年の大きな特徴である。


ポイント2:「映画」の好調
 ポイントの二点目は、趣味・創作部門における「映画」の好調である。邦画では宮崎映画の大作「ハウルの動く城」が公開されたほか、「世界の中心で愛を叫ぶ(“セカチュー”)」が若年層の間で大ヒットとなった。一方洋画でも「ラストサムライ」「ハリーポッターとアズカバンの囚人」などいずれも好調で、映画の参加人口は前年より200万人以上の増加で第8位となった。“ヒット作だのみ”といわれ続けてきた映画業界であるが、平成13年の「千と千尋の神隠し」の大ブレイク以来、参加人口は増加を続けている。この背景には、「シネマコンプレックス」が質的・量的に充実し、ファミリーが週末に滞在して楽しめる空間として郊外型複合施設が定着してきたという供給サイドの充実も指摘されている。


ポイント3:自宅で楽しむ余暇が低調
 ポイントの三点目は“自宅内・自宅周辺で楽しむ余暇”が低調であったことである。代表的な種目である「パソコン(ゲーム、趣味、通信など)」を見てみよう。「パソコン」はここ数年急速に伸び続けてきており、自宅内で楽しむ余暇活動の代表格となっていたが、参加人口は前年の4510万人から4430万人と初めて減少に転じ、頭打ちとなった。他の自宅内・自宅回りで楽しむ余暇活動を見ても、「ビデオ鑑賞」(5140万人→4870万人)「(家庭での)音楽鑑賞」(4540万人→4240万人)、「テレビゲーム」(3060万人→3010万人)、「ジョギング・マラソン」(2700万人→2620万人)と、参加人口は軒並み減少している。


3.余暇関連産業・市場の動向

 続いて供給サイドの状況を見てみよう。白書では、4部門78種のレジャー業種を対象とする1年間の産業動向の把握、および余暇市場規模の推計を行っている(図表4)。


(1)余暇市場の動向

余暇市場規模は前年比微減

 平成16年の余暇市場は81.3兆円、前年比微減であった。年前半にはGWの海外旅行の好調などもあり、市場回復への期待感も高かったが、夏場の猛暑と五輪放映による出足の鈍りに加え、秋口には台風・地震などの影響もあり、後半伸び悩んだかたちとなった。図表4を見ると、余暇市場規模はバブル前後に大幅に拡大したが、その後平成8年を境に減少傾向が続いている。平成16年も減少傾向は続いているものの、家計消費の好転などもあり、減少幅は前年よりも縮小した。
 ちなみにレジャー白書では、すでに一定程度の市場規模のある78業種について時系列的な把握を行っているが、こうした既存市場の外には温浴施設や携帯電話などの“新しい余暇市場”が徐々に成長しつつある。これらを広く捉えると、余暇関連市場規模はもっと伸びている可能性もある。


デフレ傾向に終止符
 平成16年のレジャー産業全体全体で共通して見られた傾向は、多くの業界で「価格破壊」に終止符が打たれたという点である。外食産業のマクドナルドに象徴されるいわゆる「低価格戦略」が一段落し、デフレ傾向も払拭されつつある。一方で消費者も成熟化しつつあり、もはや単に「安い」だけでは消費者にアピールしきれない状況を生じている。こうした中で、「価格」と「質」がほどよくバランスした“ワンランク上”の商品・価格帯が注目され始めているようだ。


「二極化」の更なる進行
 レジャー産業全体傾向の二つ目の特徴は、業界構造の内部でいわゆる「二極化」の更なる進行が見られたことである。パチンコ、カラオケ、ゲームセンターなどの娯楽部門の業界では軒並み店舗大型化が進む一方、中小・既存店が厳しい競争の中で淘汰され、「店舗数」は全体に減少の傾向を見せている。平成17年3月期決算でパチンコホールでマルハン、ダイナムの上位2企業がそろって大台の1兆円企業となったことも象徴的である。


(2)部門別動向とトピックス
 次に、4つの部門別の動向と主なトピックスを見てみよう。


スポーツ部門
 スポーツ部門の市場規模は前年比マイナス3.2%で、長期的に伸び悩む業界が多い。好調だったのがテニスクラブ・スクール。「テニスの王子様」効果によりキッズ市場が活性化する中、「インドアテニススクール」が儲かるビジネスモデルを確立しつつある。天候や日焼けを気にせず、顧客本位の高いサービスが受けられることが評価されているようだ。フィットネスクラブも引き続き好調。中高年をターゲットに順調に伸び、市場規模は平成以降最高値を更新している。健康・癒し志向の高まりの中、地域の医療機関と連携した運動療法プログラムを提供するサービスを開始する企業も登場した。一方ゴルフ場・スキー場などの従来型のレジャーは苦戦。外資をはじめ日本の資本による“再生ビジネス”も活性化している。


趣味・創作部門
 前年比1.3%プラスと堅調であった。アップルのipodに代表される携帯音楽プレーヤーが爆発的な人気となった。「(自宅での)音楽鑑賞」が低迷する一方で、音楽を「外で」、より「手軽に」楽しむスタイルが着実に広がっているようだ。不振が続くCDに替わるソフト媒体としては、平成16年は携帯着メロ・着うたのような新しい市場が拡大。平成17年には本格的なインターネット音楽配信サービスも始まり、今後の伸びが注目される。AV機器も好調である。大画面薄型テレビに値頃感が出始めており、アテネ五輪の買い替え需要もあってよく売れた。DVDもハード・ソフトともに過去最高の伸びとなり、VHSを逆転している。その他ヒット作続出の映画、ミリオンセラーが多数出た書籍など、メディア関連が好調であった。


娯楽部門
 前年比1.0%のマイナスとなった。約30兆円と余暇市場全体の3割以上を占めるパチンコ・パチスロ市場は前年比マイナス0.5%の微減となった。よりギャンブル性の高いパチスロへのシフトがつづき、店舗大型化と二極化が進行している。公営競技は軒並み低迷しており、特に地方競馬がきびしい。こうした中で宝くじは引き続き1兆円台を維持。ギャンブル市場は宝くじに持っていかれた感じである。ゲーム関連市場では、ゲームセンターがプラス成長となった。大型店やショッピングセンター立地などの店舗が好調である。 一方、自宅内で楽しむTVゲームは伸び悩んだ。16年12月のニンテンドーDS・プレーステーションポータブルダブル同時発売と、ハード面では動きがあったが、開発費の高騰もあってソフト市場は苦戦を強いられている。価格破壊競争がようやく終止符を打ち、外食の落ち込み幅は縮小した。「ワンランク上」の商品・サービス志向も見られ始めているが、売上げの伸びは新規出店によるもので既存店は軒並み厳しい。「中食(なかしょく)化」(半製品の持ち帰り)の進行など、ライフスタイルの変化も影響してきている。


観光・行楽部門
 前年比0.9%のプラスとなった。前年までの落ち込みの反動もあって海外旅行者は大きく伸び、国内旅行も堅調であった。旅行業、国内・海外航空は軒並み好調である。宿泊産業では「ホテル好調・旅館苦戦」の状況は変わらない。経営面ではきびしさも続いており、旅館やリゾートホテルの再生ビジネスも登場している。遊園地の市場規模は前年比で減少した。ディズニーランドとUSJの2大パークが伸び悩んだ。一方、ラーメン・餃子などのフードテーマパークが全国的に人気となっている。


(3)レジャー業界における改革の動き
 平成16年には、レジャー産業界で新たな顧客価値創造に向けた3つの改革の動きが見られた。


①広がる“再生ビジネス”
 平成16年もホテルやゴルフ場など多くのレジャー産業で経営破たんや施設閉鎖が見られたが、こうした施設の買収や経営参画による建て直しを狙う再生ビジネスが拡大している。初期投資を抑え、事業コンセプトを見直せば十分利益が得られるという認識が広がっているが、リーズナブルな価格設定等により顧客価値を高めていることも重要な成功要因である。


②“ブランド化”による集客拡大
 デフレ傾向が一段落し、低価格戦略だけでは消費者に感動が与えられない時代となった。こうした中で、平成16年は綿密なマーケティングをもとに、独自のブランドづくりや“ワンランク上”の価値あるサービスを提供して成功するケースが数多く見られた。


③カギは“人づくり”
 業績を伸ばしている企業や業界では、今後の経営のカギを握る最後の資源といわれる“人材資源”に着目し、サービス人材の育成(人づくり)に積極的に取組み始めている。こうしたサービス人材の育成は、今後のレジャー産業の大きな共通課題でもある。
 
 レジャー白書本体では、それぞれの動きに関する具体的事例の紹介なども行っているので、ぜひご参照いただきたい。

図表4


4.特別レポート 「インバウンド 日本の魅力再生」
 最後に、特別レポート「インバウンド 日本の魅力再生」の趣旨を簡単にご紹介する。レジャー白書では、毎年特別レポートとして話題のテーマを取り上げて分析を行っている。本年は、「観光立国」の潮流の中で、外国人観光客を受け入れるインバウンド促進の動きに注目し、日本の魅力発見の取り組みによる「地域主役の観光立国創造」について提唱した。


 政府が目標とする「訪日外国人1,000万人時代」が到来すると、従来の観光地だけでなく、ふつうの地域を外国人旅行者が訪れはじめる。こうした外国人旅行者の居住地域への受け入れについては、日本人の7割以上の人が歓迎意識を持っていることが今回の調査により明らかになった。一方、現在の中心であるアジア人客の7割はすでに訪日リピーターであり、個人旅行の比率も高まる今後は、日本の魅力は何か、地域の魅力は何かが、改めて問われるようになる。
 将来に向けてカギとなるのは、実際の受け皿となる“地域サイド”の対応である。住民自身が地域で余暇を楽しみ、地域の魅力を発掘し、来訪者に誇りをもって地域を紹介するような地域であれば、外国人旅行者にも日本人観光客にも“訪れてみたい”場所となるだろう。地域を楽しむための空間やサービスを提供する観光産業やレジャー産業の果たすべき役割も、いままで以上に大きくなるものと思われる。(了)