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■「中央調査報(No.576)」より

 ■ 2004年度「高齢者日常生活継続調査」の概要

国際長寿センター      

1.調査の目的
 国際長寿センターでは、2004年度より橋本泰子大正大学教授を主査とした調査研究委員会を設け、後期高齢者を対象とした高齢者日常生活継続調査を開始している。
 自立した生活を続けることの高齢者個人にとっての意味は、健康長寿によって創造的な意義深い社会生活を続けることであり(プロダクティブ・エイジング)、またその社会にとっての意味は高齢者の活動が社会に還元されると同時に社会保障諸制度を「持続可能な制度」とするためにきわめて重要であるという点にある。


2.調査方法
1)対象
 IADLが全項目において自立している首都圏在住の75歳から79歳の一人暮らしあるいは夫婦世帯の在宅高齢者300名を対象とした。
※IADL(instrumental activies of daily living)
 手段的日常生活活動能力:
 「電話を受けたり、かけたりできる」
 「交通手段を使って外出できる」
 「日常の買物ができる」
 「食事の用意や食べることができる」
 「洗濯ができる」
 「薬をのむことができる」
 「お金の管理ができる」

2)期間
 第1回調査は2004年11月~2005年1月に訪問面接法により実施された。以降、2008年度まで年1回の調査を実施する。

3)調査・研究方法と調査項目
 本調査は5年間の継続調査であり、調査開始時点で75-79歳の後期高齢者を対象とし今後、環境等とIADLの関係の分析を研究課題とすることとした。高齢者の自立生活を促進させたり遅らせたりする要因は社会学的・心理学的・医学的等のさまざまな領域にまたがっている。 本調査ではByerts,Tらの老年学領域における個人・環境要因との相互関係に関する概念枠組みを視座とした。これは、B=f(E,P)という単純な式で示される。B(behavior)には、顕在的行動と潜在的行動の両者が含まれ、E(environment)には、物理的環境と社会的環境の両者が含まれる。 P(person)には、生得的地位と達成的地位、過去の体験、パーソナリティ特性などが含まれる。

図

 調査項目の設定は以下のとおりである。
(1)行動 Behavior



活動 activity:外出頻度、外出先、自動車や自転車の利用、家庭での役割等を調査項目とした。


意識 consciousness:生活満足度、介護保険の利用、活動への意欲等を調査項目とした。介護保険の利用は、ADLやIADL障害の状態および本人の意欲にもかかわる。
(2)個人要因 Person


健康 health:過去一年の入院および現在の通院の有無と疾患名に加え、転倒の有無、両親の死亡年齢と死因を調査項目とした。また、主観的幸福感や健康習慣も調査項目としている。


経済 economy:最長職と従事年数、年収、最終学歴、生活資金源を調査項目とした。


家族 family:別居子、孫との交流に関する設問を中心とした調査項目を設定した。
(3)環境要因 Environment


住居 residence:居住形態、寝室と居間の状況、住宅改修の有無を調査項目とした。


地域 locality:地域への愛着、生活の便、交流、ソーシャル・サポートを調査項目とした。


情報information:医療福祉に関する情報の収集、困った時の連絡先を調査項目とした。
(4)活動水準の指標 Index


IADL:Lawtonの自己評価版を本委員会で翻訳し一部改変したものを用いた。


ADL:LawtonのADL評価項目を参考に日本人の生活習慣に合うよう翻訳したものを用いた。


3.第1回高齢者日常生活継続調査から
 調査対象はあらかじめ「男性一人暮らし」「男性夫婦二人暮らし」「女性一人暮らし」「女性夫婦二人暮らし」の4つの「暮らし方タイプ」グループに分け、独立した形で抽出したものである。この4つのグループごとに調査対象者の特性を明らかにして、次年度調査以降に生活の中の変化量を把握していくための基準値を得ることが本年度調査の主な目的であった。以下では、第1回の調査結果の中から得られた結果のうちからいくつかの例を示すこととする。

1)居住地域への愛着度(N=300)
図1

 居住地域への愛着は、4つの「暮らし方タイプ」のいずれでも「愛着がある」との回答が80%以上を占めており、暮らし方別に差を見ると「一人暮らし」より「夫婦ふたり暮らし」の対象者の方が住まい地域に愛着を持っているものが多いことを示していた(Mann-Whitney検定、p<0.05)。男女別では女性の方に愛着をもっている人が多い傾向はあったが、統計学的には有意差はなかった(Mann-Whitney検定)。


2)外出の頻度(N=300)
図2

 男性と女性では外出の頻度が異なり、両群には統計学的に有意差がみられた(Mann-Whitney検定)。しかし、各「暮らしのタイプ」および暮らし方による外出の頻度の差はみられなかった(KruskalWallis検定)。


3)近隣とのつきあい方(N=300)
図3

 近隣とのつき合いは、男女間で差違があり、男性ではあいさつ程度、女性では互いに訪問したり、お茶を飲んだりと親密なつき合いが男性より多い。困ったときの助け合いも女性の方が多い(χ2検定p<0.01)。暮らし方との関係をみると、互いの家を訪問したり、お茶を飲んだりは、一人暮らしの方が多く、男性でも同様な傾向を示している(χ2検定、N.S.)。


4)主観的幸福感(N=300)
図4

 「昨年に比べて元気と思う」で表される自覚的な健康観は各群とも大きな差はないが、男性の夫婦ふたり暮らしでやや高い傾向を示した(N.S.)。個々の項目について、性別および暮らし方別に差異をみてみると、「物事をいつも深刻に考える」で表される心理的抑鬱感は女性に多く(χ2検定、p<0.05)、 「人生を振り返って満足できた」で表される人生の満足感と「人生で求められていたことを実現できた」で表される自己達成感は、一人暮らしの群より夫婦ふたり暮らしの群の方が多かった(χ2検定、P<0.05)。


5)ソーシャル・サポート
 (享受:receiving support)(N=300)
図5

 心配事や悩みを聞いてくれる人は二人暮らしでは配偶者であり、いずれの群でも子どもがその役を担っており、次いで実のきょうだいが頼れる存在になっている。また、女性の一人暮らしでは友人の占める割合が高いが、いずれの群でも近隣の占める割合は低い。「いない」と回答した人は男性一人暮らしでは26.5%、女性一人暮らしで10.0%であった。


6)ソーシャル・サポート
 (提供:providing support)(N=300)
図6

 悩みや心配事を聞いてあげる相手は、一人暮らしでは子どもと友人、近所の人であった。また、一人暮らしでは「いない」という回答が多く、友人と回答した人は男性の一人暮らしより女性の一人暮らしの方が多かった。夫婦二人暮らしでは配偶者と子どもという回答が大半を占めていた。


7)一人暮らしを希望した理由(N=124)
図7

 一人で暮らすことを希望した理由は、男性では「しかたがなかった」が、女性56.9%に対して、79.4%を占めていた。「自分で決めた」は男性20.6%に対して、女性では36.7%と高く、女性の方が自立した生活を望む姿勢が強いことがわかる(χ2検定、p<0.05)。


8)生活への意欲(N=300)
図8

 「これからなすべきことがあるという意欲や、何か役に立ちたいという気持ち」は男性で比率が高く、男女間で有意な差がみられた(χ2検定、p<0.05)。暮らし方による影響はみられなかった。


4.今後の調査・研究
 今後の調査・研究の方法は、「調査研究方法」の項で述べたように、高齢者の自立生活にかかわる行動・個人要因・環境要因とIADLの相互関係に関する概念枠組みを用いて、それぞれの関連を明らかにしていくことである。また、調査対象者への個別インタビューによる質的調査の結果も活用することとする。


5.調査研究委員
【委員】
主 査 橋本泰子(大正大学・教授)
委 員
    浅海奈津美(北里大学・講師)
    奥山正司(東京経済大学・教授)
    小田泰宏(藍野大学・教授)
    鈴木晃(国立保健医療科学院・健康住宅室長)
    辻彼南雄(ライフケアシステム・メディカルディレクター)
    中村敬(大正大学・教授)
    松田修(東京学芸大学・助教授)