中央調査報

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■「中央調査報(No.576)」より

 地震に関する世論調査


 今年の10月で新潟県中越地震が起きてから1年を迎えたが、その間、2005年3月には福岡県西方沖、8月には宮城県南部と大きな地震が続いている。時事通信社では、9月14日~19日の6日間、2年振りに「地震に関する世論調査」を行った。今年は阪神大震災から10年という節目の年でもあるが、国民の震災に対する意識にどのような変化があったのだろうか。今回は地域差に基づき検証する。
 調査は、全国20歳以上の男女2,000人を対象に、面接聴取法で実施し、回収率は70.0%だった。なお、前回調査は2003年9月に実施された。


1.大地震への不安感 -阪神大震災直後を上回る増加傾向-
 「自分の住んでいる地域で、大地震が近く起きるのではないかという不安を感じているか」という質問に対し、「強く感じている」と答えた人の割合は27.8%(前回17.0%)、「多少感じている」は47.4%(同47.9%)で、これらの合計、いわば不安者層は75.2%と前回の64.9%より10.3ポイントも増加した。これは、阪神大震災直後の95年2月の調査における69.1%をも大きく上回る。(図1)

図1


 着目したいのは、「多少感じている」程度の人の割合は0.5ポイント減少しているのに対し、「強く感じている」人が10.8ポイント増加している点である。阪神大震災後、これら不安者層は下降し、98年以降は半数前後で推移していたが、宮城県で地震が続いた03年9月調査では再び6割半ばに上昇した。そして今年、上述のように大きな地震が相次いだためか、国民の大地震に対する不安感は確実に高まったといえる。
 これを地域別にみると、大地震不安者層が前回と比較して10ポイント以上の増加をみせたのは、九州(29.7%増)、中国(27.1%増)、阪神(23.4%増)、甲信越(15.7%増)、東北(12.9%増)と、軒並みここ10年間に大地震で被災した地域である。(表1)

表1


2.地震発生時の心配事 -建物倒壊への心配がトップ-
 「仮に、あなたが住んでいる地域で地震が発生した場合、どんなことが心配か」と質問をしたところ(複数回答)、「建物や塀の倒壊」が67.8%(前回59.8%)と最も多く、次いで「火災の発生」55.0%(同62.2%)であった。以下は全体の5割を下回り、「食料や飲料水の確保」48.5%(同45.3%)、「医療体制の確保」33.0%(同31.5%)、「通信網の断絶」29.7%(同28.8%)、「ガスなどの危険物の爆発」28.8%(同32.6%)などと続いている。(図2)

図2


 今回注目すべきは、これまでトップ項目であった「火災の発生」が5割半ばに落ち込み、「建物や塀の倒壊」と順位が入れ替わった点である。阪神大震災翌年の96年1月調査では、「火災の発生」は7割半ばであったが、これは、阪神大震災で火災による延焼被害が多かったためであろうか。その後は下降したものの、6割台で推移しトップを保っていた。(図3)

図3


 しかし今回、「建物や塀の倒壊」が前回より8.0ポイント増加しトップに挙げられた。この点、地域別にみたとき、このような逆転現象が顕著にみられるのは、北海道、京浜、北陸、東海、中国である。(表2)

表2


3.地震への対策や準備

 「地震に備えて対策や準備をしているか」という質問(複数回答)に対しては、「していない、わからない」が49.4%と前回の55.7%を6.3ポイント下回った。99年6月調査より同様の質問をしているが「していない、わからない」が全体の半数を切ったのは今回が初めてである。(図4)

図4

 これを都市規模別別にみると、大地震への不安者層が半数を切った2000年8月(図1参照)の調査では、“大都市”44.8%、“その他の市”52.9%、“郡・町村”73.8%であり、大都市と郡・町村の差は3割程度開いていた。しかし、その後差は縮小していき、今回調査では“大都市”40.2%、“その他の市”52.1%、“郡・町村”53.0%と、大都市と郡・町村の差は12.8ポイントまで縮まり、大都市以外では殆ど都市規模による差がなくなった。
 具体的な対策・準備としては、全体で「避難場所の確認」27.7%(前回25.2%)が最も多く、次いで「食料品や医薬品などの用意」22.4%(同16.9%)という傾向はこれまでと同じである。


4.地震予知研究強化に対しては消極的

 「地震の予知は難しいので、そのための研究に力を入れるよりは、地震が発生した後の被害を最小限に抑える研究に重点を置いた方がよい」との意見に賛成か、反対かと質問をした。まず、「反対」9.9%(前回8.0%)と「どちらかといえば反対」9.5%(同7.4%)を合わせた、いわば“地震予知研究積極層” は19.4%(同15.4%)であり、前回より4.0ポイント増加した。これに対し、「賛成」38.7%(同38.3%)と「どちらかといえば賛成」28.7%(同31.1%)を合わせた“地震予知研究消極層”は67.4%(同69.4%)と、前回に引き続き、国民の7割近くが地震予知の研究に対しては消極的であるという結果だった。
 ただ、全体的な経年推移で大きな変化がみられないものの、地域別にみると前回と今回とでは顕著な動きがあった。例えば、北陸、九州では消極層が10ポイント程度増加しているのに対し、甲信越、東海では積極層が10~20ポイント程度増加した。(表3)

表3


5.終わりに

 帰宅支援用の地図をはじめ地震関連の書籍や防災グッズが多く売られるようになったことをとっても、最近の防災に対する意識の高まりがうかがえる。確かに、本調査全体からも“地震に対する不安感”が著しく増し、防災対策を始めた人が増え始めているといえる。
 しかし、地震に限らず大災害の度に特徴的な被災状況が取り上げられ人々の関心が高まるものの、本調査における阪神大震災後の経過のとおり、風化傾向に陥るのが現状だったように思う。そうならないためには、専門家や政府・自治体の情報提供はもちろん重要だが、受け手である一般市民の積極性も欠かせないと思われる。

(調査部 川島優美子)