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■「中央調査報(No.577)」より

 ■ 浸透するあいまい言葉、敬語の誤用も多く
     -文化庁の「国語に関する世論調査」結果から


 いいか悪いかの判断がつかないときの「微妙(びみょう)」というあいまい言葉は若者のみでなく年代を超えて浸透しつつある。また、敬語については豊かな表現が大切にされるべきと考える一方、年代に関わらず、正しい敬語を使っている自信がなく、誤用とされる敬語表現を正しいと認識しているといった姿が浮き彫りとなった。慣用句についても「汚名返上」を「汚名挽回」と誤用するのは年代の高い層で多いなど、言葉を取り巻く状況がこれまでとは異なった様相を呈している。
 ここ数年日本語ブームの続く中、文化庁が先に発表した「平成16年度 国語に関する世論調査」の結果から日本人の国語意識の現状を探ってみた。

 この調査は、社会状況の変化と言葉のかかわりを調べて国語施策の参考にするため、95年度(平成7年度)から毎年実施。今回は①敬語の使い方について②常用漢字表について③手書きや手紙について④慣用句等の言葉遣いについて―などが調査項目。
 今年1月14日から2月7日にかけ16歳以上の全国3000人の男女を対象に、個別面接方式(実施:社団法人中央調査社)で行い、2179人(72.6%)から有効な回答があった。


1.言葉の使い方に対する意識
 ふだん、自分の言葉の使い方についてどの程度気を遣っているかを尋ねた。「非常に気を遣っている」9.5%、「ある程度気を遣っている」61.0%で、両方合わせた「気を遣っている」層は70.6%と7割を超える。一方、「全く気を遣っていない」4.3%、「余り気を遣っていない」25.0%で、「気を遣っていない」層は合わせて29.3%。平成9年度調査と比べると、「気を遣っている」層が3ポイントの増加。


2.敬語の使い方の間違いとこれからの敬語の在り方
 敬語の使い方に間違いが多くなっているという指摘について、「そう思う」が43.0%、「少しそう思う」が38.0%で、合わせた肯定層が81.0%と多数を占める。一方、「そう思わない」が4.4%、「余りそう思わない」が11.0%で、合わせた否定層は15.4%にとどまる。
 また、これからの敬語の在り方については、「(a)新しい時代にふさわしく、敬語は簡単で分かりやすいものであるべきだ」という考えに近いと答えた人が33.6%、「(b)敬語は伝統的な美しい日本語として、豊かな表現が大切にされるべきだ」という考えに近いと答えた人が53.6%。平成9年度調査結果と比べると、(a)の「簡単で分かりやすいものであるべきだ」は8ポイント減少、(b)の「豊かな表現が大切にされるべきだ」は7ポイント増加となった。


3.敬語の正誤
 敬語の使い方に関する8つの例文を挙げ、正しく使われていると思うかどうかを尋ね、平成9年度調査と比較した(図1)。例文のうち、(2)「あの方は、昨年東京にまいりまして」と(4)「お目に掛かっていただけませんか」は謙譲語の「まいる」、「お目に掛かる」を敬意を表すべき動作主に使っている点で問題。(3)「中村さんがお話しされたように」は「お話しする」という謙譲語に尊敬の助動詞「れる」を付けている点で問題。(7)「この電車には御乗車できません」は本来「御乗車になれません」と言うべきところで問題。 (5)「ただいま会長が申されたことに」は会議などで、(8)「どちらにおられますか」は一般的にかなり使われていて、一概に誤用だとは言えないという考え方もあるが、謙譲語に尊敬の助動詞「れる」を付けて尊敬語として用いた誤用だと考え、違和感を持つ人もある。(6)の「先生がお見えになります」は「見える」が尊敬表現であり、さらに「お・・・になる」とすることで過剰な敬語であるという指摘があるが、既に普通に用いられる言い方となっている。

図1

 敬語が「正しく使われていると思う」の割合が高いのは、敬語が正しく使われている「お試しください」(84.8%)と過剰な尊敬表現ではあるが既に普通に使われることが多い「先生がお見えになります」(82.9%)。誤用とされる「中村さんがお話しされたように」(69.3%)、「この電車には御乗車できません」(59.1%)、「どちらにおられますか」(58.3%)も半数以上が「正しく使われていると思う」と答えている。また、誤用とされる表現のうち、「お目に掛かっていただけませんか」は60歳以上で「正しく使われていると思う」と答えた人の割合が5割を超え最も高くなっている。
 平成9年度調査と比べ、敬語が正しく使われている「お試しください」のほか、誤用とされる「あの方は、昨年東京にまいりまして」や「あす父がまいりますが、お目に掛かっていただけませんか」も若干ではあるが「正しく使われていると思う」と答えた人が増加している。一方、最近かなり使われている「ただいま会長が申されたことに」「どちらにおられますか」は「正しく使われていると思う」と答えた人が6~7ポイントの減少となっている。このほか、「中村さんがお話しされたように」「先生がお見えになります」「この電車には御乗車できません」も減少している。


4.手書きをするか
 4つの場合を示して手書きをするかどうかを尋ねた(図2)。
 「いつも手書きをする」と「大体手書きをする」を合わせた「手書きをする(計)」の割合は、(1)「はがきや手紙などのあて名」(79.5%)、(3)「はがきや手紙などの本文」(74.9%)、(2)「年賀状のあて名」(65.1%)の順。これに対し、(4)「報告書やレポートなどの文章」は「手書きをする(計)」(45.8%)の割合が「全く手書きをしない」(23.3%)と「余り手書きをしない」(13.2%)を合わせた「手書きをしない(計)」(36.5%)を上回っているものの、(1)~(3)の場合に比べ、手書きをする人の割合が低い。

図2



5.今後の手紙のあるべき作法
 今後の手紙のあるべき作法について尋ねた(図3)。
 まず、手紙の書式については、「伝統的な書式を守っていくべき」という考え方に近いと答えた人の割合が39.3%、「伝統的な書式にこだわらなくてもよい」という考え方に近いと答えた人の割合が38.1%と同水準となっている。「どちらとも言えない」と意見を保留した人は20.3%である。
 次に、手紙を手書きにするか否かについては、「なるべく手書きにすべき」という考え方に近いと答えた人の割合が47.8%と、「手書きにこだわらないようにすべき」(24.8%)という考え方に近いと答えた人の割合を23ポイント上回っている。「どちらとも言えない」と意見を保留した人は25.4%である。
 パソコン等の使用が普及する中でも、「手紙」については、実態も今後の在り方についても「手書き」派が多い結果となった。

図3



6.慣用句の言い方
 3つの慣用句について、それぞれ2つの言い方を示し、どちらを使うか尋ねた。
 「青田買い」と「青田刈り」では本来の言い方である「青田買い」と答えた人が29.1%で、「青田刈り」が34.2%と上回る。「汚名挽回」と「汚名返上」でも本来の言い方である「汚名返上」が38.3%で、「汚名挽回」が44.1%と上回る。
 「伝家の宝刀」と「天下の宝刀」については本来の言い方である「伝家の宝刀」が41.0%と「天下の宝刀」25.4%を上回る。
 慣用句に言い方については、共通して、若い世代では「どちらも使わない」と回答した割合が高くなっている。
 中高年では、どちらか一方を答えた人の割合が高いものの、本来の言い方ではない誤用とされる言い方を回答した人の割合が高くなっている。


7.言葉の意味
 3つの言葉についてその意味を尋ねた。
 「他山の石」については、「他人の誤った言行も自分の行いの参考となる」という本来の意味で使っていると回答した人が26.8%で、「他人の良い言行は自分の行いの手本となる」(18.1%)と回答した人の割合より高くなっている。また、「分からない」(27.2%)、「どちらの意味でも使わない」(22.4%)が2割を超えた。
 「枯れ木も山のにぎわい」については、「つまらないものでもないよりはまし」という本来の意味で使っていると回答した人が38.6%で、「人が集まればにぎやかになる」と回答した人も35.5%と同水準になっている。
 「世間ずれ」については、「世間を渡ってきてずる賢くなっている」という本来の意味で使っていると回答した人が51.4%と5割を超え、「世の中の考えから外れている」(32.4%)と回答した人の割合を上回る。
 言葉の意味については、概ね、年代の高い層ほど本来の意味を答えた人の割合が高くなっている。


8.言い方の使用頻度
 最近の会話で時々聞かれる「わたし的には・・・」など6つの例を挙げて、そのような言い方をするかどうか尋ねた。(図4)。
 「よくある」と「ときどきある」を合わせた「ある(計)」の割合を見ると、いいか悪いかの判断がつかないときに使う「微妙(びみょう)」は57.8%と6割近くに及ぶが、それ以外の5つの言い方はいずれも1割台にとどまる。平成11年度調査と比べると、「わたしはそう思います」を「わたし的にはそう思います」と言う人が8.5%から15.6%へ倍近くに増加している。
 これらの言い方は、いずれも、年代の低い層ほど使用すると答えた人の割合が高く、若年層を中心に浸透している言い方であるが、「微妙(びみょう)」は男女とも40代以下の年代で6割を超え、50代でもほぼ半数と広く浸透しつつある。「“微妙”は価値判断を避ける若者言葉だが、本来の意味と近いため、4、50代でも高い数字となったのではないか」と文化庁は見解を示した。また、「とてもすばらしい(良い、おいしい、かっこいい等も含む)」という意味で使う「やばい」や面倒臭いことや不快感・嫌悪感を表すときに使う「うざい」は10代では7割前後を占めるなど若年層ほど顕著に高くなっている(表1)。

図4・表1