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■「中央調査報(No.580)」より

 ■ 中高生の飲酒行動に関する最新の動向

鳥取大学医学部環境予防医学分野 尾崎米厚    


 昨今、タバコ対策は世界的な潮流の中、ずいぶん進展してきたが、アルコール対策は様々な理由から、芳しい進展があったとは言い難い。アルコールは、身体的健康被害のみならず、依存症を代表とした、精神的健康被害、ひいては、交通事故、暴力事件、児童虐待、ドメスティックバイオレンス、急性中毒等々、様々な社会問題と密接な関連があり、社会的影響は計り知れない。しかし、疫学的には、少量の飲酒には虚血性心疾患等の疾病予防効果があることもわかっており、国民へのメッセージの発し方も難しい。
 未成年者の飲酒は、喫煙とともに青少年の健康関連行動においては、最も重要でかつ頻度の高いものである。未成年飲酒禁止法があるにもかかわらず、わが国の中高生の多くの者が既に飲酒を開始していることが明らかになっている。また、飲酒行動が低年齢で開始されるほど、将来の依存症の成立を容易にし、健康被害も大きいといわれており、中高生からの飲酒教育が重要であることは論を待たない。

表1



1.中高生の飲酒及び喫煙行動に関する全国調査の実施

 我々は、厚生労働省の研究班として、1996年、2000年、2004年度の計3回、中高生の飲酒及び喫煙行動に関する全国調査を実施してきた。いずれも中央調査社の全面的協力のもとで、全国を代表するような、大規模調査が実施することができた。今回、急激な飲酒者率、喫煙者率の減少を確認したので、考えられる理由を含めて報告する。
 3回の全国調査の概要は以下の通りである。いずれも、全国の中学校、高等学校から学校総覧を用いて対象学校を無作為に抽出した(1996年と2000年は地域ブロックを層とした層別無作為抽出、2004年は単純無作為抽出)。抽出した学校の在校生徒全員を対象に調査を実施したので、調査対象者の抽出方法は1996年、2000年は層別一段クラスター抽出、2004年は一段クラスター抽出法となる。


(1)月飲酒者率

 中高生の飲酒者率を最もよく表現している指標は、月飲酒者率(この30日間に1日でも飲酒した者の割合)であるが、中学1年男子の月飲酒者率は1996年で、26.0%、2000年で、24.5%、2004年で16.5%であった。高校3年男子では、それぞれ、54.9%、53.4%、41.5%であった。中学1年女子では、それぞれ22.2%、22.8%、17.4%であり、高校3年女子では、それぞれ43.4%、45.2%、37.4%であった。男女、どの学年でも2004年に飲酒者率の減少が認められた。男子では、2000年調査で中学を中心として飲酒経験率が低下していたが、月飲酒者率には大きな変化が認められていなかったが、2004年調査で大きく低下した(図1)。
 女子では、1996年に比較して2000年調査で中学を中心に飲酒経験率は下がっていたが、月飲酒者率は多くの学年でむしろ増加していた。しかし、2004年にはいずれの学年も大きく減少した(図2)。

図1・図2


 このように、今までに例を見ないような飲酒者率の減少が今回確認された。そのほかの調査項目をみると、飲酒者率より喫煙者率の減少が顕著であり、朝食を毎日食べない者の割合など、その他の生活習慣、学校生活関連項目の変化は小さかった。したがって、今回わが国の中高生において、喫煙者率、飲酒者率のみにおいて、選択的な大きな変化が起こったわけである。 飲酒者率の減少は喜ばしい結果であるが、その減少理由を明らかにしておかないと、この減少傾向をさらに加速させたり、再度上昇することを防止したりできない。特に、他の要因の副産物としての飲酒者率の減少である可能性もあるため、注意深く解析をする必要がある。


(2)飲酒者率の減少の理由(仮説)

 飲酒者率の減少の理由には現時点でもいくつかの仮説が考えられる。


1)
親や周囲の者の飲酒者率の減少により、中高生への影響が軽減された

2)
中高生の友人とのネットワークが縮小して、ピアプレッシャーにより飲酒を勧められなくなった

3)
昨今の喫煙対策の推進で喫煙者率が低下し、その最も大きな関連要因である飲酒者率も引っ張られて下がった

4)
学校(アルコール教育)や自治体での対策(健やか親子21、健康日本21地方計画等)の影響で下がった

5)
経済的理由(携帯電話代がかさむなど)で下がった 等である。

 1)については、中高別、性別に周囲の者(父、母、兄、姉、友人)の飲酒状況(生徒による回答)を分析したところ、友人の飲酒も当然全体の飲酒者率の減少とともに減少していたが、それ以外に父、兄の飲酒者率が減少していた。それとは対照的に母の飲酒者率が上昇しており、女性の飲酒問題にも関連して興味深い結果であった。 したがって、この男性家族の影響の減少が中高生の飲酒者率の減少にいくらかは寄与しているものと考えられた。これは、男子のほうでより大きな飲酒者率の減少が認められたことと関係があるかもしれない。すなわち、中高生の飲酒は同性の家族の影響をより強く受けているかもしれない。
 2)については、友人の飲酒状況を尋ねた質問の選択肢にあった「友だちがいない」という回答をした者の割合で検討した。「友だちがいない」と回答した者の割合は高くはないが、1996,2000年に比べ、2004年で増加していた。男子では、それまで2-4%であったのが、4-6%に、女子では1-2%であったのが、2-3%に上昇していた。未成年者の飲酒の開始には同年代の友人によるピアプレッシャーが一役買っているといわれており、影響を与えうる友人が減っていれば、飲酒経験者率ひいては、月飲酒者率も減少するのかもしれない。
 3)については、飲酒と喫煙の相互の関連を検討した。すると、喫煙者の飲酒者率が非喫煙者の飲酒者率に比較して、極めて高いことが明らかになった。したがって、喫煙者率を減少させただけで、飲酒者率も減少する可能性が示唆される。二つの要因の関連は強いので、この要因の寄与が最も大きいのではないかと考えられる。 しかも、非喫煙者の飲酒者率は1996,2000,2004年と減少傾向にあるのに、喫煙者の飲酒者率は減少傾向を示さなかった。したがって、喫煙の有無別に見た飲酒者率の格差がより拡大してきたといえる。したがって、健康にリスクのある生活習慣をいくつも持っているグループと生活習慣が好ましいグループに2極分化してきた可能性がある。格差社会の進行に関連して、興味深い結果である。
 4)については、学校ごとの月飲酒者率の標準偏差を検討した。もしも、特定の学校のアルコール教育等の対策が進展して、その結果飲酒者率が下がったのであれば、学校ごとの飲酒者率の差が大きくなって、ばらつきの指標である標準偏差が大きくなると考えたからである。しかし、一定の結果が得られなかったので、ばらつきは大きくなったとはいえないようである。この点についてはさらなる検討が必要である。
 5)については、現状のデータでは検討できない。2005年調査(2000年調査の回答校へ再度調査を依頼した調査が現在進行中である)の結果を待つ必要がある。

 このように、いくつかの要因が減少に寄与していると思われるが、今後、ますます検討を深めていきたい。


2.未成年者の飲酒行動に影響を与えうる社会環境

 わが国の未成年者の飲酒行動に影響を与えうる社会環境についての分析も研究班で実施中である。わが国のアルコール教育の実態が、2002年度調査でされている。酒類のテレビCMは大量に放映され、あらゆる時間帯に放映されていること、青少年がよく読む雑誌に酒の製品広告があり、その数量は減少しているが、懸賞広告が増えていること、漫画コミック誌の飲酒シーンを分析中であること、等が明らかになっている。
 また、学校や自治体での対策を把握するために、過去それぞれ1回、全国調査が実施されているが、その結果をみるとアルコール教育についての課題を垣間見ることができる。すなわち、学校での健康教育のうちアルコール教育が最も軽視されており、その内容、教育方法も以前からあまり変わっておらず、研修、外部専門家の活用、教育の評価などもあまりなされていない。また、市町村が学校でのアルコール教育を支援することもほとんど無いこともあきらかになっている。
 根拠に基づく医療(EBM)で有名な、コクランデータベースによれば、アルコール教育の評価に関連したものとして、問題飲酒(alcohol misuse)の予防についてのレビューがあり、若者の問題飲酒の予防介入の短期(1年まで)、中期的(1-3年)効果の証拠は認められなかったと報告している。長期効果(3年以上)を検討した研究では、ライフスキル訓練(Life Skills Training)の効果はあまりなく、 家族強化プログラム(Strengthening Families Program)という家族ベースの介入プログラムに効果がある可能性が示された。また、地域ぐるみの介入(Community Intervention)は、まだ十分な効果が証明されていないが、今後取り組まれるべきであろう。このように、世界でもアルコール教育に関するエビデンスは弱く、今後の研究の結果に期待するところが大きい。


3.未成年者飲酒防止教育の考え方

 これらの知見を総括すると、アルコール教育は以下の点を重視すべきであろう。



発達段階をふまえた指導の必要性:児童生徒の学年、学校の種別にあわせた指導。思春期の行動や考え方の特徴にも配慮した内容。


目標の設定:一次予防(飲酒経験を防ぐ)ことを目標にする。そのために、必要な能力、資質である、自己尊重、自分及び他人の健康を求める気持ち、自己決定などを身につける。


到達目標:問題飲酒の健康影響のみならず、社会的影響、社会的対策も理解する。問題飲酒の重要性を気づき、関心を持ち、それを解決しようとする気持ちを育てる。飲酒をしないという意思決定のための能力を身につけ、自らの生活をコントロールできる能力を育てる。地域や、社会生活において問題飲酒防止のための活動ができる。行動科学的介入方法の工夫:知識伝授型のみならず、小グループ活動、課題解決型学習、ケーススタディ、ロールプレイ、調べ学習等を通して、自己尊重の育成、意思決定、行動選択の訓練などを盛り込む。グループワーク、ワークシート、実験、アルコールパッチテスト、ディベート、フィールドスタディ等の参加型、体験型の教育を盛り込む。


評価:実態調査、前後比較、コントロール群の設定等介入の効果を評価できるようにする。


連携:学校の健康教育の目標、方法、内容評価等について、学校関係者、関係機関、専門家等が年間計画を話し合って協働して、取り組む。単発ではなく、連続的、発展的なチームティーチングによる関わりをする。


地域社会、大人社会の取り組みと連動させる(未成年者への販売禁止、大人の飲酒場面にこどもを巻き込まない、大人も酒を止める努力を示す)。

 今後は、未成年者の飲酒行動に関する全国世論調査を定期的に実施し、その動向と関連要因を明らかにし、わが国においてもアルコール教育に関する介入研究の蓄積を行う必要があると考える。