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■「中央調査報(No.583)」より

 ■ 小・中・高校生の読書 
       -毎日新聞2005年「学校読書調査」から-

ジャーナリスト 越谷 和子    

 毎日新聞の「学校読書調査」の第1回が実施されたのは、学校図書館法が施行された1954年(昭和29年)であった。以後、この調査は絶えることなく続けられ、今回・2005年で第51回を迎えた。この長期にわたる調査結果を辿っていくと、小・中・高校生の読書の実態が明らかになってくるが、ここでは、2005年調査に焦点をあて、特徴的な点をいくつか述べたいと思う。


Ⅰ.書籍
1.1ヵ月間に読んだ本の冊数
 2005年調査の「あなたは5月1カ月間に、本を何冊ぐらい読みましたか(教科書・学習参考書・マンガ・雑誌や付録を除く)」の質問に、小学生(4~6年)の平均冊数は、前回調査(2004年)と同数の7.7冊だったが、中学生は0.4冊減の2.9冊、高校生は0.2冊減の1.6冊になった。これは今回、『世界の中心で、愛をさけぶ』(片山恭一著)などメガヒット作品がなかったためと考えられる。
 一方、5月1カ月間に本を1冊も読まなかった「不読者」は、小学生は前回より1ポイント減の6%だが、中学生は6ポイント増えて25%に、高校生も8ポイント増えて51%になった。


2.1カ月間に読んだ本
 では、5月1カ月間に読んだ本(教科書・学習参考書・マンガ・雑誌や付録を除く)は何だろう。
 
 <小学男子>
 小学4年男子は『かいけつゾロリたべられる』(原ゆたか作/絵)など「かいけつゾロリ」シリーズがよく読まれている。この本は、意地悪や悪いことをしては失敗を繰り返す「きつねのぞろり」の行動を描いたもので、小学4年男子はその奇想天外な行動に胸をわくわくさせているようだ。だが、小学5・6年になると、『三国志』『日本の歴史』など歴史ものに興味が移っていく。
 
 <小学女子>
 小学4年女子は4年男子と同様「かいけつゾロリ」シリーズをよく読んでいるが、5年になると『ハリー・ポッターと賢者の石』(J・K・ローリング著)などを読むようになり、小6女子もその延長線上にある。<中学男子> 中学1~3年男子の各1位は『三国志』で、これは作品の面白さに加え、ゲームソフトの原作としての興味も加わっているからではないか。
 
 <中学女子>
 中1女子の1位は『世界の中心で、愛を叫ぶ』で、3位に映画化作品、中村獅童・竹内結子主演の『いま、会いにゆきます』(市川拓司著)が入ってくる。しかし、中2女子は、1位に携帯電話の画面で読める『DeepLoveアユの物語』(Yoshi著)があがり、2位は『いま、会いにゆきます』。中3女子は、1位が『電車男』(中野独人著)、2位が『もっと、生きたい…』となる。
 
 <高校男子>
 高校1年男子の上位には『ハリー・ポッターと炎のゴブレット』、『キノの旅2』(時雨沢恵一著)などがあがっているが、高2になると、『電車男』『三国志』が上位を占め、高3では『GOTH』(乙一著)、『グッドラック』など映画やテレビの話題作が読まれるようになる。
 
 <高校女子>
 高校女子も高校男子と同様、映画化本やテレビドラマ化された本をよく読み、高1~3女子の上位には『いま、会いにゆきます』『電車男』『もっと、生きたい…』などが並んでいる。


3.小・中・高校生はどうすればもっと本を読むようになるか
 小・中・高校生がもっと本を読むようになるための方策は何だろうか。それを探るために、12の選択肢をあげて3つまで答えてもらった。

図1


 その結果、小学生は「内容をもっと面白くする」46%、「値段をもっと安くする」36%、「面白いタイトル(題名)にする」35%が上位3位になり、内容の面白さを最優先にしている。しかし、中学生は「値段をもっと安くする」55%、「内容をもっと面白くする」52%、「面白いタイトル(題名)にする」30%となり、自分のお小遣いで本を買うようになる中学生は値段の安さをトップに挙げている。 高校生も1位は「値段をもっと安くする」54%で、2位は「内容をもっと面白くする」48%だが、3位に「高校生に目立つような宣伝をする」27%が入ってくる。また、「漢字にふりがなをつけて読みやすいようにする」は、小学生は32%だが、中学生は13%、高校生は7%と減り、「難しい言葉には説明をつける」も小学生26%、中学生18%、高校生14%と、年齢があがるにつれて減っていく。
 最近の出版界では、妹尾河童著『少年H』の漢字すべてにルビをふった結果、ベストセラーになったという。また、高木敏子著『ガラスのうさぎ』は戦時用語を中心に注釈を充実させ『新版ガラスのうさぎ』フェア文庫として出版したところ、これも注目を集めているという。


4.小・中・高校生が学校図書館に求めるもの
 では、どうすれば小・中・高校生はもっと学校図書館を利用するようになるのだろうか。11の選択肢をあげ、その中から3つまであげてもらった。
 その結果、小学生の1位は「面白い本を揃える」49%だが、中・高校生の1位は「最新のCDやビデオ・DVDを利用できるようにする」で、中学生は56%、高校生は53%。これは、彼らがCDやビデオ・DVDなどに関心を持ちはじめ、学校図書館にもこれを置いてもらいたいという要望のあらわれだろう。また、「自由に使えるコンピューターを増やす」は、小学生30%、中学生37%、高校生30%で、学校図書館でコンピューターを使いたいといという要望も小学生から高校生までかなり強い。
 一方、「コンピューターで貸し出しや検索ができるようにする」は小学生23%、中学生16%、高校生14%で、年齢があがるにつれて減っていく。これは、年齢とともにコンピューターによる貸し出しは自分たち利用者にとっては便利でなく、図書館の担当者にとって便利な機能であるという考えが増えるからだろう。


Ⅱ.雑誌
1.雑誌の読書量
 5月1カ月間に読んだ雑誌の平均冊数は、小学生(4~6年)は前回2004年調査より0.5冊増えて4.7冊になったが、中学生は0.2冊減って3.8冊に、高校生も0.4冊減って2.9冊になり、中・高校生は過去最低の雑誌読書率を更新している。
 この、中・高校生の雑誌読書量の減少について、読書指導に熱心な教師たちは、①マンガ雑誌に大ヒットの連載マンガが少なくなった②不況によるお小遣いの減少や携帯電話代の負担などで、雑誌に支出する金額が減った③時間つぶしとして携帯電話や小型ゲーム機の役割が大きくなり、雑誌の役割が減少した④情報の収集手段として、パソコン(インターネット)や携帯電話が発達し、パソコンなどの方が負担も少なく、欲しい情報が入手できるようになったなどと分析している。
 一方、5月1カ月間に雑誌を1冊も読まなかった雑誌「不読者」は、小学生24%、中学生29%、高校生32%で、年齢が上がるにつれて増えていく。


2.ふだん読んでいる雑誌
 <小学男子>
 小学男子(4~6年)がふだん読んでいる雑誌のベスト3は、『月刊コロコロコミック』『週刊少年ジャンプ』『週刊少年サンデー』で、『月刊コロコロコミック』は4~5年男子の圧倒的1位である。
 
 <中学男子>
 中学男子の各学年の1位は『週刊少年ジャンプ』だが、これに部活動などに役立つ『月刊バスケットボール』、コンピューターゲーム系の『週刊ファミ通』などが続いている。また、ファッション誌『StreetJack』などにも人気がある。
 
 <高校男子>
 高校男子のベスト3は『週刊少年ジャンプ』『週刊少年サンデー』『週刊少年マガジン』で、このほかファッション誌『StreetJack』などが読まれている。しかし、ファッション誌は一時ほどのブームではなく、雑誌からファッション情報を得ようとする男子が減っているように思われる。
 
 <小学女子>
 小学4~5年女子のベスト3は『ちゃお』『なかよし』『りぼん』だが、6年になると『なかよし』が4位に下がり、かわりにファッション誌『ピチレモン』が入ってくる。このほか、小6女子はファッション誌『melon』などを読み、ベスト20中ファッション誌が3分の1を占める。
 
 <中学女子>
 中学1年女子のトップはアイドル系の『Myojo』で、中2女子も『Myojo』が2位、中3年女子もこれが3位になっている。これは、最近若いアイドルが人気を占めていることの反映ではないだろうか。また、『SEVENTEEN』などファッション誌もよく読まれ、中3女子ではベスト20中約4割がファッション誌で占められている。
 
 <高校女子>
 高校女子も『SEVENTEEN』や『non・no』などファッション誌をよく読み、高3女子ではベスト20中、約7割がファッション誌で占められ、アイドル系の『Myojo』などは次第に読まれなくなっていく。


Ⅲ.昔話
 かつては子どもたちによく読まれた昔話。では、現在の小・中・高校生は昔話の内容をどの程度知っているのだろうか。それを探るために日本のおとぎ話や民話の中から「ももたろう」「つるのおんがえし」「うらしまたろう」の3話、外国の名作の中から「赤ずきん」「三びきのこぶた」「アリとキリギリス」の3話、合計6話を選び、それぞれについてどの程度その話を知っているかを聞いた。また、昔話の認知経路についても質問した。

1.昔話の認知度
 (1)「ももたろう」
 桃から生まれたももたろうが、犬、猿、きじ、と力を合わせて鬼退治をする話で童謡にもなっている。この有名な話はさすがに多くの小・中・高校生が知っていて、「知っている」(「よく知っている」と「少しだけ知っている」の計、以下同じ)は、小・中・高校生とも各約98%に達している。また、小・中・高、男女別にみてもほとんど差がなく、「ももたろう」はだれもが知っている民話といえよう。
 
 (2)「つるのおんがえし」
 もとの話は「鶴女房」で、全国各地で話が少しずつ違うが、似たような話が伝わっている。また、小・中学の教材になっていたこともあり、木下順二の戯曲『夕鶴』でも有名である。
 この「つるのおんがえし」の話を「知っている」は、小学生89%、中学生93%、高校生96%で、この話もよく知られている。男女別にみると、小・中・高とも女子の方がよく知っていて、小学生は男子85%に対し女子94%、中学生も男子91%対女子95%、高校生も男子95%対女子98%である。
 
 (3)「うらしまたろう」
 もとは『御おとぎそうし伽草紙』に載っていた話で、童謡にもなっている。
 釣りに出たうらしまたろうが大きな亀を助けたお礼に竜宮に招待され、3年の楽しい時を過ごした。その後、もとの河岸に戻ったうらしまたろうが、お土産にもらった玉手箱をあけると、中から白い煙が立ちのぼり、たちまち白髪のおじいさんになってしまったという話。
 この話を「知っている」は小学生91%、中学生95%、高校生は98%で、この話も大多数の児童・生徒が知っている。
 
 (4)「赤ずきん」
 もとは民話であったが、C.ペローによって作品として発表され、グリム童話集に収められると、世界的に有名になった。
 この「赤ずきん」の話を「知っている」は、小学生92%、中学生92%、高校生96%で圧倒的多数の児童・生徒が知っている。男女別にみると、女子に「知っている」が多く、小学生では男子86%に対し女子は97%、中学生も、男子87%対女子97%、高校生も男子93%対女子は99%で、アニメ化されていないこの作品は、アニメ好きの男子の認知度がやや低いようである。
 
 (5)「三びきのこぶた」
 ジェイコブズ.J.(ジョゼフ)が集めたイギリス民話で、NHK番組「おかあさんといっしょ」の人形劇「ブーフーウー」の原型でもある。
 この話を「知っている」は、小・中・高校生とも多く、各約97%に及んでいる。男女別にみてもほとんど差がない。この話は三びきのこぶたとおおかみとのやりとりが面白く、ストーリーも明快である。そのため、幼稚園や保育園などでのお話し会や読み聞かせ、児童劇などでの人気が高く、それが多くの子どもたちの認知度の高さになっているようだ。
 
 (6)「アリとキリギリス」
 勤勉の大切さを説くイソップ童話の「アリとキリギリス」の話を「知っている」は、小学生64%、中学生64%、高校生81%で、他の作品に比べて認知度がやや低い。その理由として、この寓ぐうわ話は説教性が強く、子どもたちや読み聞かせをする大人に敬遠されているのではないかとみる専門家もいる。


2.昔話の認知経路
 では、小・中・高校生はこれら昔話の内容をどのようにして知ったのだろうか。5つの選択肢をあげ、いくつでもあげてもらった。
 その結果、「幼稚園・保育園や学校で本を読んでもらったり、話してもらったりして知った」は、小学生54%、中学生61%、高校生69%。次いで「自分で読んで知った」は、小学生は62%だが、中学生は53%、高校生は45%と下がる。また、「家で本を読んでもらったり、話してもらったりして知った」は、小学生43%に対し中学生は49%、高校生は58%と、年齢が上がるにつれて増える。
 この、認知経路の結果について、読書指導に熱心な小学校教諭は「小学生は本を読んでもらったり、話してもらうよりは、自分で本を読んで知る傾向が強いことがわかった。これは、近年の小学校における読書指導のあらわれと推測できる」と話している。


調査の方法
 学校読書調査は、毎日新聞社が全国学校図書館協議会(全国SLA)の協力を得て行った。調査を行う学校は、小・中学校は全国を大・中・小都市と郡部の4地域に分け、地域ごとに在籍する児童・生徒の比率に応じ抽出した。高校は全日制過程を9学科に分類し、各学科ごとに在籍生徒数の比率に応じ、それぞれ抽出した。次いで、その学校の各学年(小学校は4~6年)から1学級ずつ、調査対象のクラスを選んだ。
 調査は2005年6月第1週または第2週にクラスごとの集団質問紙法で、教諭が説明しながら、回答を記入する逐次法で実施した。
 調査対象の児童・生徒数は、小学生37校3,461人、中学生41校4,067人、高校生37校3,991人で、計115校、1万1,519人である。