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■「中央調査報(No.587)」より

 ■ 目立つ慣用句の誤用、部下に対して「お疲れ様」?
       -文化庁の「国語に関する世論調査」結果から  


 「怒り心頭」は「達する」ではなく「発する」と正しく使う人はごく少数派。部下に対してのねぎらいの言葉は「ご苦労様」より「お疲れ様」が多数派。可能の助動詞「られる」の「ら」を抜く、いわゆる「ら抜き言葉」は10代でかなり浸透している。
 日本語をテーマとしたクイズ番組や、幼児向け教育番組が登場するなど、国民の日本語に対する関心が大変高いことが伺えるが、それとは裏腹に、慣用句や成語の誤用や、文法の乱れが目立つようになってきているという実態が明らかとなった。文化庁が7月に発表した「平成17年度 国語に関する世論調査」の結果から、現在の日本人の日本語の使用状況を検証してみる。

 国語に関する世論調査は、文化庁が、1995年度(平成7年度)より毎年、今後の国語施策の参考とするため、現代の日本人の国語意識の変化を調べることを目的として行っている。今回は、敬語に関する意識や慣用句の使い方などについて調べた。
 調査は、2006年2月14日~3月14日にかけて、全国16歳以上の男女3,652人を対象に、調査員による面接聴取法によって行われ(実施:社団法人中央調査社)、2,107人から回答を得た。


1.敬語の使い方と使用に対する意識
 日常生活でどの程度敬語を使っているかを尋ねた。「いつも使っている」(17.3%)と「ある程度使っている」(56.6%)を合わせた“使っている”層は73.9%と、7割を超える。一方、「使っていない」(3.0%)と「余り使っていない」(22.9%)を合わせた“使っていない”層は25.9%となっている(図1)。

図1


 敬語を使うことに関しての考えについて、社会生活を営む上ではどうか、また、自分自身の個人的な考えとしてはどうかを尋ねた。その結果、社会生活を営む上でも、自分自身の個人的な考えとしても「必要だから使いたい」を選択した人が最も多い(社会生活を営む上で:72.1%、自分自身の個人的な考えとして:58.9%)。その後に「使わざるを得ないので使いたい」「出来る限り使いたくない」が続いている(図2)。

図2


 このように、敬語は多くの人に、比較的積極的に使われているにもかかわらず、敬語について難しいと感じることがあるかを尋ねると、「よくある」(23.6%)と「少しある」(43.9%)を合わせた“ある”層は67.6%と6割台後半を占めている。一方、「全くない」(7.1%)と「余りない」(24.2%)を合わせた“ない”層は31.3%であり、敬語について難しいと感じている人がかなり多いことがわかる(図3)。

図3


 さらに、「あり」層に対して、何が難しいと感じるかを尋ねた(複数回答可)ところ、「相手や場面に応じた敬語の使い方」が78.4%で最も高く、次いで「手紙などを書くときの敬語の使い方」が38.3%、「敬語について理解したり、覚えたりすること」が14.2%と続いている。


2.「お疲れ様」と「ご苦労様」
 会社で仕事を一緒にした人たちに対して、仕事が終わったときに何という言葉を掛けるかを、自分より職階が上の人の場合と下の人の場合について尋ねた。
 まず、自分より職階が上の人に対しては「お疲れ様(でした)」を使う人の割合が69.2%と、7割近くに達している。以下、「御苦労様(でした)」(15.1%)、「ありがとう(ございました)」(11.0%)、「どうも」(0.9%)「何も言わない」(0.6%)と続く。
 性別に見ると、「お疲れ様(でした)」は、女性の方が高く(男性67.2%、女性71.1%)、「御苦労様(でした)」は、男性の方が高く(男性17.7%、女性12.8%)なっている。
 年齢別に見ると、「お疲れ様(でした)」の割合が高いのは、20~40代である。これらの年代では、「お疲れ様(でした)」は8割前後、「御苦労様(でした)」は、1割前後となっている。一方、16~19歳と60歳以上では「お疲れ様(でした)」は6割前後とやや低く、「御苦労様(でした)」が2割とやや高い(表1)。

表1


 次に、自分より職階が下の人に対しては「お疲れ様(でした)」を使う人の割合が53.4%と半数強を占め、次いで「御苦労様(でした)」が36.1%となっている。以下、「ありがとう(ございました)」(5.0%)、「どうも」(2.8%)、「何も言わない」(0.5%)と続く。
 性別に見ると、「お疲れ様(でした)」は女性の方が高く(男性48.5%、女性57.9%)、「御苦労様(でした)」は男性の方が高く(男性40.5%、女性32.0%)なっている。
 年齢別に見ると、若年層ほど「お疲れ様(でした)」の割合が高く、「御苦労様(でした)」の割合が低くなっている。20歳台以下では、「お疲れ様(でした)」は6割台半ば、「御苦労様(でした)」は2割台前半となっている。60歳以上では、「お疲れ様(でした)」の割合と「御苦労様(でした)」の割合がともに4割強と、ほぼ同程度となっている(表2)。

表2


 ビジネスマナー本などでは、ねぎらいの言葉は、上司に対しては「お疲れ様(でした)」、部下に対しては「御苦労様(でした)」を使い、上司に対して「御苦労様」を使うことは、失礼だとされているが、10代や60歳以上においては、上司に「御苦労様(でした)」の割合が比較的高かった。また、「お疲れ様」を、部下にも使っている人が半数以上を占め、「御苦労様」を上回っていた。身分や立場に関わらず、ねぎらいの言葉には「お疲れ様」を使う人が多いという実態が明らかとなった。


3.「やる」/「あげる」と「ら抜き言葉」について
 「やる」と「あげる」と、いわゆる「ら抜き言葉」の使用状況を調べるために、それぞれ二つの言い方を対比して挙げ、普通使う表現はどちらかを尋ねた。
 「植木に水をやる」と「植木に水をあげる」では、「水をやる」を使うと答えた人が67.6%で、「水をあげる」の25.0%を、43ポイント上回っている。
 「うちの子におもちゃを買ってやりたい」と「うちの子におもちゃを買ってあげたい」では、「買ってやりたい」が42.8%、「買ってあげたい」が49.5%で、「買ってあげたい」が7ポイント上回っている。
 「相手チームにはもう1点もやれない」と「相手チームにはもう1点もあげられない」では、「もう1点もやれない」を使うと答えた人が76.4%で、「もう1点もあげられない」の17.5%を59ポイント上回っている。
 これら、「やる」と「あげる」について年齢別に見ると、全般的に高年層において「やる」を使う人の割合が高く、若年層において「あげる」を使う人の割合が高くなっている(表3)。

表3


 「こんなにたくさんは食べられない」と「こんなにたくさんは食べれない」では、「食べられない」が66.7%を占め、「食べれない」の26.6%を40ポイント上回っている。
 「朝5時に来られますか」と「朝5時に来れますか」では、「朝5時に来られますか」が52.7%で、「朝5時に来れますか」の35.4%を17ポイント上回っている。
 「彼が来るなんて考えられない」と「彼が来るなんて考えれない」では、「考えられない」が89.3%と9割近くにのぼり、「考えれない」は5.7%とごく少数にとどまっている。
 これら、「ら抜き言葉」について年齢別に見ると、若年層ほど「ら」を抜いた表現を使う人の割合が高くなっている。特に10代においては、「食べられない/食べれない」と「来られますか/来れますか」で、ともに「ら」を抜いた表現が、「ら」を抜かない表現の割合を上回っていることから、ら抜き言葉がかなり浸透しているといえる(表4)。

表4


4.慣用句の使い方
 慣用句の使い方を調べるために、二つの言い方を挙げ、どちらの言い方を使うか尋ねた。
 まず、「周囲に明るくにこやかな態度」を意味する言葉として、「あいそ(う)を振りまく」と「あいきょうを振りまく」のどちらを使うかを尋ねた。本来の言い方とされる「あいきょうを振りまく」が43.9%と、4割前半にとどまり、誤用である「あいそ(う)を振りまく」は48.3%と5割近くにのぼっている。年齢別に見ると、誤用が最も多いのは16~19歳の59.8%、次いで40代が50.7%、20代が49.0%である。
 「激しく怒ること」を意味する言葉として、「怒り心頭に達する」「怒り心頭に発する」のどちらを使うかを尋ねた。本来の言い方とされる「怒り心頭に発する」は、14.0%、誤用である「怒り心頭に達する」は74.2%と、7割台半ばを占める。「心頭」の「頭」は「そのあたり」という意味であるが、文字通り「あたま」だと捉え、「頭にくる」という言葉にひっぱられたのではないかと文化庁は分析している。年齢別に見ると、誤用が最も多いのは20代の83.8%、次いで30代と40代が80.5%、50代が77.5%である。
 「我慢できない思い」を意味する言葉として「肝に据えかねる」「腹に据えかねる」のどちらを使うかを尋ねた。本来の言い方とされる「腹に据えかねる」が74.4%、誤用である「肝に据えかねる」は18.2%である。年齢別に見ると、誤用が最も多いのは16~19歳の27.6%、次いで40代が22.2%、30代が21.7%である。
 「はっきりと言わないあいまいな言い方」を意味する言葉として「口を濁す」「言葉を濁す」のどちらを使うかを尋ねた。本来の言い方とされる「言葉を濁す」が66.9%、誤用である「口を濁す」が27.6%である。本来の言い方が、半数を超えてはいるが、誤用が2割台後半と、決して少なくない結果となっている。年齢別に見ると、誤用が最も多いのは16~19歳の31.0%、次いで50代が30.9%、40代が29.2%である(図5、表5)。
 全体的に、10代において誤用の割合が高かったが、必ずしも若年層にばかり誤用を使う人が多いというわけではなく、慣用句によっては、30~50代においても多いことが明らかとなった。

図5


表5


5.重複表現と成語の誤用
 言葉の意味が重複する言い方や本来の言い方とは異なるが最近耳にする言い方の例を五つ挙げて、その言い方が気になるかどうかを尋ねた。
 「うそをついてあとで後悔した」という表現は、「後悔」が後になって悔やむという意味であるため「あとで後悔」は意味が重複している。気になるかどうかを尋ねた結果、「気になる」が41.2%であるのに対し、「気にならない」が54.4%と過半数を占めている。年齢別に見ると、「気になる」の割合は、16~19歳で17.2%と最も低く、年齢が上がるに連れ、高くなっている。唯一、60歳以上では「気になる」の割合が「気にならない」の割合を上回っている。
 「早起きして行ったのに、順番を一番最後にされた」という表現は、「最後」が一番終わりという意味であるため「一番最後」は意味が重複している。気になるかどうか尋ねた結果、「気になる」が44.9%であるのに対し、「気にならない」が50.5%と約半数となっている。年齢別に見ると、「気になる」の割合は、20代で最も低く、16~19歳と30代でほぼ同水準だが、ほぼ年齢が上がるに連れ、高くなっている。50代以上では「気になる」の割合が「気にならない」の割合を上回っている。
 「今年の元旦(がんたん)の夜は、みんなで初もうでに行こうよ」という表現は「元旦」という言葉が、本来「元日の朝」を表すことばであるため、「元旦の夜」は矛盾した言い方である。気になるかどうか尋ねた結果、「気になる」が53.2%と過半数を占め、「気にならない」の40.8%を上回っている。年齢別に見ると、「気になる」の割合は、どの年代においても5割台前半から半ばと同水準で、「気になる」の割合が「気にならない」の割合を上回っている。
 「その方法は、従来から行われていたやり方だ」は、「従来」という言葉が「以前から」という意味であるため、「従来から」は意味が重複している。気になるかどうか尋ねた結果、「気になる」が19.6%で、「気にならない」が74.4%と7割台半ばを占めている。年齢別に見ると、「気になる」の割合は、どの年代においても1割台後半から2割台前半と同水準である。「気にならない」の割合は、30代で最も高く、8割を上回っている。
 「美術館建設の候補地として、この村に白羽の矢が当たった」は、「白羽の矢が立つ」というのが本来の言い方であるため、「白羽の矢が当たる」は誤用である。気になるかどうか尋ねた結果、「気になる」が58.3%と過半数を占め、「気にならない」の35.3%を上回っている。年齢別に見ると、「気になる」の割合は、30代が65.5%と最も高く、16~19歳が48.3%と最も低くなっている(図6、表6)。

図6


表6


 言葉は、その社会を如実に表すものであるため、時代の変化とともにその表現や使い方は変化するものであろう。一方で言葉は、先人の知恵であり、その国の文化のひとつであるといえる。時代に応じた言葉を使いながらも、言葉本来の意味を知り、正しい日本語を認識することが大切ではないだろうか。

(調査部 安藤 奈々恵)