■ 定点調査から見えてくる家族の変化
第一生命経済研究所 松田 茂樹
第一生命経済研究所では、人々の生活実態と意識の時系列変化を把握することを目的として、
1995年から2005年まで2年に1度の頻度で、全国調査を実施している。
調査対象は、全国から無作為抽出した満18~69歳の男女個人3,000人(2003年のみ2,000人)である。
2005年調査の有効回収数(率)は、2,128人(70.9%)である。
調査項目は家族、就労、消費、生活設計等多岐にわたる。
本稿では、その中から、家族生活とその意識の変化を述べる。
1.夫婦関係 -過去10年間で夫婦関係に大きな変化はみられない
過去10年間の夫婦関係の変化をみたものが図1である。
2005年調査の結果をみると、「経済的に配偶者を頼りにしている(女性回答)」(84.8%)、「配偶者とは困ったときに相談しあっている」(81.3%)、
「配偶者とはよく会話をしている」(76.8%)などとなっている。
10年間の変化をみると、項目の多くで大きな変化はみられない。
具体的には、「配偶者とは困ったときに相談しあっている」「配偶者とはよく会話をしている」と答えた割合は、過去5回の調査でほとんど変わっていない。
「経済的に配偶者を頼りにしている」「夫も家事を分担している」については、95年調査と05年調査の値はほぼ同程度である。
「配偶者と余暇や休日を一緒に楽しむことが多い」という項目は、95年以降03年までは一貫して増加したが、05年には再び低下して、95年調査の水準に戻っている。
注目されるのは、女性の社会進出が進みつつあるといわれるものの、夫を経済的に頼りにしている妻は8割以上だが、妻を経済的に頼りにする夫は5割程度であるという男女差が、
過去10年で変わっていない点である。
夫の家事分担も変わっていない。
すなわち、夫は仕事をし、妻は家事をするという役割分業のままである。

2.親子関係 -10年前に比べて子どもとの余暇活動は増加
次に、親と高校生以下の子どもとの関係の調査結果が図2である。
父母とも95年調査から01年調査にかけて、子どもとの会話、余暇活動、相談は総じて増加しているが、03年調査以降は低下している。
95年調査と05年調査を比較すると、父親の会話の頻度や相談事は低下した。母親については、会話の程度は若干高いが、相談事の水準は10年前と変わらない。
10年間における親子関係で注目される変化は、親子の余暇活動が増えたことである。
会話、相談、余暇の変化は、全てが増加もしくは減少したというものではない。
総じてみれば、親子関係は、疎遠になってもいないが、緊密になってもいないといえる。

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現在のメンバーは、海野の他、長谷川計二(関西学院大学総合政策学部)、篠木幹子(岩手県立大学総合政策学部)、小松洋(松山大学人文学部)、
土場学(東京工業大学大学院社会理工学研究科)、阿部晃士(岩手県立大学総合政策学部)、村瀬洋一(立教大学社会学部)、中野康人(関西学院大学社会学部)、
中原洪二郎(奈良大学社会学部)、工藤 匠(東北大学大学院文学研究科大学院生)である。
研究会の活動については、以下のウェブ・サイトを参照。
(http://www.sal.tohoku.ac.jp/behavsci/frame-j.html内)
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この調査は、科学研究費(基盤研究A)の援助を受けて実施した。なお、本稿は記者発表資料(2006年2月)に基づいている。
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このような変則的な調査対象者指定を行うことによって、家庭ごみの排出量が世帯員数に比例すると仮定したときに、世帯の抽出確率がごみの排出量に比例したものとなる。
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この調査の質問の多くは評定型の4選択肢である。図中『そう思う』という表現があるが、これは、4選択肢の中の「そう思う」と「どちらかといえばそう思う」を合併したものを意味している。
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3.子どもの教育意識 -将来の進路や教育に対する経済的負担などの悩みは高まる
子どもの教育に関する不安についてみると、全般的に子どもの教育等の悩みは年々高まる傾向にある(図3)。
2005年調査で最も多くあげられた悩みは、「将来の進路」(48.0%)である。
「将来の進路」をあげた割合は、95年調査では39.5%であったが、10年間で8.5ポイント高まった。
次に多い悩みは「健康」の33.3%であり、これも10年間に約10ポイント高まっている。
「教育に対する経済的負担」をあげた割合も大きく増加している。
10年前の95年時点はバブル経済崩壊後の景気低迷が一旦持ち直した時期であり、その後さらなる不況が続くことになった。
また、教育環境についてみると、4年制大学への進学率が高まった。
大学卒業まで親が子どもの教育費をまかなうことが多いため、大学進学率の上昇は、その分、親の教育費負担を増やしたといえる。
さらに、近年は学力低下に対する不安から、小中学校の時期から塾や私立学校へ通う生徒も増える傾向があり、これも親の経済的負担になっている。
これらが総合して、教育に対する経済的負担感を高めているとみられる。

4.夫婦関係、親子関係に関する規範意識 -保守化と革新化が混在
続いて、意識面の変化を示す。まず、家族に関する様々な考え方に対して、賛成する割合を時系列で示したものが図4である。
男性についてみると、「夫も家事を分担すべきである」という考え方に対して賛成する割合は増加傾向にあるが、それ以外については賛成する割合はほとんど変わっておらず、
意識の変化は少ない。
一方、女性についてみると、「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきである」以外については、賛成する割合が年々増加する傾向にあり、意識の変化が大きい。
ただし、こうした女性の意識変化は、これまで考えられてきた<保守⇔革新>という基準では捉えられない。
「仕事を持つ妻は、家事・育児に多少手が回らなくてもかまわない」「夫も家事を分担すべきである」という意識の高まりは、伝統的な家族役割からみれば<革新的>ではあるが、
「子どものためなら、親は自分のことを犠牲にすべきだ」「自分個人の用事よりも、家族の用事を優先させるべきだ」「夫は、家庭よりもまずは仕事を優先すべきだ」という意識の高まりは、
むしろ<保守的>な方向への変化ともいえる。

5.家族形態に対する規範意識 -男性では多様な家族形態に対する許容意識が年々低下
次に、多様な家族形態を許容する意識の結果が図5である。
男性の場合、事実婚、夫婦別姓、結婚しても子どもを持たないこと、離婚のいずれについても、許容する意識がほぼ調査するごとに低下する傾向がみられる。
最も変化が大きいのは離婚についての許容意識であり、99年調査の85.8%から05年調査の78.8%へと7ポイントも低下している。
女性の場合、99年調査から03年調査までは、全ての家族形態について許容意識が高まる傾向がみられた。
しかし、03年調査と05年調査を比較すると、許容意識の高まりは一段落している。
以上に示した男女の意識変化からは、全体的に<標準的な>家族形態を良しとする意識が高まりつつあることがうかがえる。

6.結語 -時系列調査からみえきた家族の安定性
過去10年間で、家族をとりまく環境は大きく変化した。男性の雇用は不安定になり、失業率も高まった。女性の社会進出はすすんだ。
しかしながら、社会環境の変化に比べて、家族関係は大きく変化していないことが、本調査結果からうかがえる。
男性の雇用不安と女性の社会進出という動きが重なれば、夫は仕事をし、妻は家事・育児に専念する伝統的な家族関係を維持することは難しくなる。
ところが、依然として、男女の役割関係に大きな変化はみられない。妻が夫を経済的に頼りにする割合は相変わらず高く、夫が妻を経済的に頼りにする割合は低い。
夫の家事分担割合も増えてはいない。すなわち、夫が仕事をし、妻が家庭を支えるという伝統的な家族関係は、依然として維持されている。
家族に関する規範意識についてみると、「夫は仕事、妻は家庭」という意識や「夫は家庭よりも仕事優先」の意識が高まる傾向がみられる。
これらの意識は、特に若年女性において高まっている(図割愛)。
様々な家族形態を許容する意識も、男性では低下している。
すなわち、家族をめぐる意識からも、「家族の変容」という方向をみることはできない。
家族は、社会環境に合わせてつくられるものである。
しかしながら、先述したように、男性と女性をとりまく就労環境が大きく変化したにもかかわらず、夫は仕事をし、妻は家事・育児に専念するという家族関係には大きな変化はみられない。
10年という長さは決して短いものではないが、この程度の時間では、家族は大きく変容するものではないということを、本調査結果は示している。
本調査結果の詳細は、加藤寛監修・第一生命経済研究所著『ライフデザイン白書2006-07―景気回復がもたらしたライフデザインの変化』矢野恒太記念会で紹介している。
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