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■「中央調査報(No.605)」より

  2005年国勢調査結果の精度の検討


国士舘大学政経学部 山田 茂   



1.はじめに
 国勢調査の結果は、市区町村など小地域に関するものまで利用できるので、多方面において利用されている。 世論調査との関連では、対象者の層別抽出のために市区町村の人口規模・産業別就業率などが、また回収標本の偏りをチェックする目的で年齢別・性別比率が利用されることが多い。
 他方、1人暮らしの世帯の増加・不在時間の増大、個人情報の提供に対する対象者の意識の変化や個人情報を利用した犯罪による被害の拡大などから 大都市を中心とする地域において統計調査への協力が近年得にくくなっている。 調査票の配布・回収を担当する多数の調査員の確保難も、都市部を中心に実地調査を非常に困難にしている。 また、国勢調査の調査員は他の統計調査と比べて訓練度・業務に対する意欲が必ずしも高くないことも円滑な実施の制約となっている。 特に個人情報保護法がその年の4月に施行されて個人情報に対する関心が高まっていた2005年の国勢調査の実地調査の時期にはさまざまなトラブルの発生が、 全国の多くの地域において報じられた。
 そこで本稿では国勢調査による対象人口の把握度と得られた結果の精度について、2005年調査を中心に考察する。

 

2. 把握された人口総数の検討
 まず把握された年齢別性別人口の総数について「日本人」と「外国人」に分けて検討しよう。
 表1は、2005年10月1日現在で実施された国勢調査が把握した「日本人」人口を、その半年前と半年後の住民基本台帳人口の平均と対比したものである。 両者の比較から国勢調査の把握度の大まかな目安が得られると考えられる。


表1


 全年齢の合計では両者の差は1%程度(約124万人)しかないが、年齢別にみると様相は異なる。 男女とも若・中年層において国勢調査によって把握された「日本人」人口が住民基本台帳人口をかなり下回っており(差が最大の20代後半の男性では4.6%)、 高年層でも大小関係は逆であるが若干の差が認められる(差が最大の60代前半の女性では1.6%)。 男性の方が女性よりも全般に差は大きい。 また、地域レベルでは、東京都区部・横浜市・名古屋市などでは国勢調査の把握数の方が少ない。 逆にさいたま市・京都市・福岡市などにおいて国勢調査が把握した人口が住民基本台帳人口を上回っている。 これは「転入届」の提出遅れなどを反映したものであろう。
 つぎに、2005年国勢調査が把握した「外国人」の数を同年12月末現在の外国人登録統計と比較すると、国勢調査が合計で約46万人(約29%)少なく、 両統計の差は若年層では4 割に達している。 「外国人」が各年齢層に占める比率は小さいものの、両者の差は拡大傾向にある。
 このほか5年前の前回国勢調査の結果にその後の出生・死亡・出入国を加減して算出される2005年10月1日現在の「推計人口」と2005年国勢調査の結果を対比すると、 表1と同じように男女とも20 代を中心に前回調査と比べて把握減を示唆する結果となっている(差が最大の20代後半の男性では「推計人口」と比べて3.3%少ない)。
 以前の国勢調査では、1人暮らしが多くなる20代において前回の調査結果の対応する年齢層(親の世帯で把握されていた)と比べて把握数が減少し、 1人暮らしが減少する30代の把握数が前回の20代よりも増加するという現象が、特に男性においてみられた。 しかし、2005年調査では、20代の把握数の5年前と比べた減少はほぼ同様であったが、30代での回復はみられなかった。 これは、把握漏れが30代にも広がっているためであろう。




3. 調査結果の精度の検討
 つぎに集計結果における「不詳」「分類不能」 の発生数から回収された調査票における無記入 などの不完全記入の発生状況をみてみよう。


表2


 表2は、各項目における「不詳」などの発生 数の推移を示したものである。ほとんどの項目 において増加傾向が認められる。また、同じ年 次の結果の中でも調査項目によってかなりの差 がある。
 2005年調査の約2ヵ月半後に総務省統計局に よって実施された「世帯アンケート」によれば、 「答えたくない」事項として「勤め先の名称(「産 業」項目に相当)」「仕事の内容(「職業」項目に 相当)」を挙げる場合が多く、この2つの項目の ほか2000年調査では「教育程度」「家計収入の 種類」を「答えたくない」という回答が高率であっ た。これらの調査項目は抵抗感が特に強いとい える。
 表2のうち年齢項目の「不詳」の大半は、対 象世帯の不在・非協力のために調査票が回収で きなかったために性別の人数だけを調査員が近 隣から聞き取ったケースと推測される。この「年 齢不詳者」は、年齢別総数についての集計表以 外のほとんどの集計表から除外されている。 つぎに「不詳」「分類不能」がどのような地域・ 属性において発生しているかをみてみよう。表 3は、2005年調査における「不詳」などの発生 状況を地域別・属性別に示したものである。


表3


 大都市・若年層・単独世帯・男性において「不詳」 の発生率が全般に高いことがわかる。これらの 条件が重なる東京都心部では特に高率となって いる。たとえば、港区では「不詳」が「就業状態」項目において27%を占め、「配偶関係」で も13%に達している。大都市居住者・若年層な どにおいて「不詳」が高率となる傾向は、以前 の年次にもみられた。
 表3でみた「不詳」発生の原因と考えられる 対象世帯の非協力は大都市の集合住宅居住世帯 において顕著であるとの指摘が多い。そこで、 居住する住宅の属性別集計が利用できる世帯主 の「就業状態」項目の結果をみると、「不詳」の 比率はこのような属性の世帯において非常に高 くなっている。世帯主の「就業状態不詳」の比 率は、全国計では5.8%にすぎないが、東京都所 在の集合住宅では2割強に、そのうち20代の世 帯主では3割強に、さらに6階建て以上の集合 住宅の20代の世帯主では4割前後に達している。
 また、「配偶関係」項目では35歳を境に大幅 に「不詳率」が高くなっている。これは30代前 半までの対象者の「配偶関係」項目が無記入で あった場合に「未婚」を代入する処理 のためではないかと推測される。たと えば、全国の34歳の男性のうち「配 偶関係不詳者」は942人にすぎないが、 35歳の男性では38074人に急増し、同 じく34歳の女性では1983人であるが、 35歳では19966人と急増している。こ のような変動は、1歳ごとの増減がわ ずかな他の年齢層での変動とは異なっ ている。
 つぎに、実地調査が国勢調査と比べ て円滑に実施されたと考えられる他の 統計調査と結果を比較してみよう。表 4は、「不詳」などの発生数を、労働力 調査・国民生活基礎調査による結果と 対比したものである。国勢調査におけ る「不詳」の発生数が両調査と比べて 格段に多いことがわかる。


表4


 国勢調査の場合、実地調査の遂行を管理する 市区町村の職員は未経験者が多く人員も限られ ている。これに対して労働力調査では毎月、国 民生活基礎調査も毎年同一の方式によって実施 されており、実地調査の管理は都道府県の統計 主管課または保健所などが担当している。両調 査の対象世帯の数は、4000万世帯以上の国勢調 査と比べて非常に小規模であり(約4万世帯、 約5.6万世帯)、指導する職員・調査員の経験・ 訓練度の水準は比較的高いので、実地調査の管 理も容易と考えられる。なお、両調査の結果に は標本誤差が含まれているが、国勢調査との差 と比べれば非常に小さい。

4. 同一調査項目の結果の比較
 つぎに国勢調査の結果のうち「不詳」ではな かった部分について他の統計調査と比較してみ よう。
 まず「就業状態」の項目では「通学のかたわ らに仕事」および「通学」の国勢調査による把 握数は労働力調査よりもかなり少なく(両統計 の差は25%および7%)、国勢調査結果からの 若年層の脱落を反映していると考えられる。「就 業者」の把握数も20代から50代までの幅広い 年齢層で労働力調査を下回っている(差が最大 の20代後半の男性では11%)。
 「週間就業時間」の項目では男性の週30~39時間および同60時間以上の層で労働力調査 との差が15%前後に達している。女性では30~39時間の層の把握数が労働力調査よりも5~10%少ない。
 「従業上の地位」の項目では、自宅就業が多 い男性の自営業主と女性の家族従業者では国勢 調査による把握数が労働力調査を若干上回って いるが、「雇用者」・「役員」では男女とも国勢調 査が大幅に下回っている(差が最大の「役員」 では16%)。近隣住民を顧客としてふだん営業 している場合が多い自営業者には、近隣居住の 調査員に対して非協力が生じにくかったと考え られる。
 「職業」項目では大都市居住者に多い「専門的 技術的職業」「管理的職業」「事務」従事者にお いて国勢調査の把握数が労働力調査よりも少ない(差が最大の「専門的技術的職業」では122 万人)。

5. むすびにかえて
 以上の考察から2005年国勢調査の結果の利用 の際には、以前よりも格段の注意が必要といえ よう。特に大都市・若年層・単独世帯について の調査結果については「不詳」増加の影響が無 視できない水準に達していると考えられる。調 査結果にこのように問題が多い大都市地域に居 住する人口の比率は今後も増加することが予想 される。
 2010年に実施が予定されている次回国勢調査 については郵送回収法の導入などの調査方式の 変更が現在検討されており、注目される。
 本稿は、「第1次・第2次基本集計結果からみ た2005年国勢調査結果の精度の状況(1)」国 士舘大学政経学会『政経論叢』140 号(2007年 9月刊)・「同(2)」同142 号(2008年 3月刊) の内容を要約し、加筆したものである。
なお、本稿で取り上げた各統計の関連情報を 収録したページへのリンク集を筆者の個人サイト(http://home.t06.itscom.net/ecyamada/)に 設けているので、利用していただければ幸いで ある。