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■「中央調査報(No.610)」より

  「レジャー白書2008」に見るわが国の余暇の現状

社会経済生産本部 余暇創研  柳田 尚也  


 財団法人社会経済生産性本部 余暇創研では、「レジャー白書2008 ~『選択投資型余暇』の時代~」を7月にとりまとめた。本白書は、平成19年1年間のわが国における余暇の実態を、需要サイド・供給サイド双方の視点から総合的にとりまとめたものであり、今回で通算第32号目となる。以下では、本白書の内容をもとに、わが国余暇の現状と今後の方向性等について簡単ご紹介しよう。


1.日本人の余暇をめぐる環境
 まずはじめに日本人の余暇をめぐる環境がどのような状況にあるかを、時間面・経済面の基礎的なデータをもとに見てみよう。


時間的ゆとり -進まぬ正社員の時間的ゆとり回復
 平成19年の年間総実労働時間(規模30人以上)は1,850時間で、前年(平成18年)に対し8時間の増加となった(図表1)。しかしながら、正社員の総実労働時間は前年より10時間長い2,033時間と引き続き増加傾向にある。年次有給休暇の取得率もいぜん5割を切った状態で低迷している。短時間労働者比率が上昇する一方、リストラ等の“しわ寄せ”は正社員のゆとりを奪っている。一方、パートタイマーについてもサービス残業の増大が指摘されるなど、“時間的ゆとり”はますます圧迫されている。



図表1



経済的ゆとり -19年の個人消費は堅調
 次に経済的なゆとりについて「家計調査報告」(総務省)をもとに見てみよう。平成19年の全国・勤労者世帯の実収入は対前年比0.4%増(名目)の527,129円となり、可処分所得は横ばい(名目)の441,070円であった。一方消費支出は322,840円と前年(18年)より0.8%の増加となり、余暇と関係の深い「教養娯楽」も6.5%のプラスとなった。このように、19年の個人消費は前年に比べて比較的堅調で、余暇活動参加者の増加の要因にもなったようである。ただし20年に入ってからは、物価高等の影響もあり個人消費は落ち込んでいる。

2.平成19年の余暇活動
 -身近な行楽系・インドア系レジャーが好調-

 レジャー白書では、毎年「スポーツ」「趣味・創作」「娯楽」「観光・行楽」の4部門・計91種目の余暇活動について、国民の参加・活動実態を調べている。上でも見たように、個人消費が比較的堅調となる中、平成19年は前年の18年に比べて参加人口を伸ばす種目も多くみられた。
 91種目のうち参加人口の多い上位20種目は、わが国の余暇活動を代表するいわば「国民的レジャー」ともいうべきものである(図表2)。例年上位種目の変動は少なく、平成19年も「外食(日常的なものを除く)」「国内観光旅行(避暑、避寒、温泉など)」「ドライブ」の上位3位の順位に変動はなかった。しかしながら、前年4位に入り伸びが注目されていた「宝くじ」は、19年は第6位に低下、前年比370万人減と頭打ちとなった。


図表2



 上位20位の種目の中でとりわけ注目されたのが、「動物園、植物園、水族館、博物館」のいわゆる“ミュージアム”。前年比340万人の大幅増となった。単に近場の行楽施設であるだけでなく、「楽しさ」と「学び」をともに実現する「エデュティメント」の手法が本格的に導入され、動物園や水族館の展示方法は大きく変化。ファミリー層の支持を得ている。高い人気が続く職業体験テーマパーク「キッザニア」も、同じエデュテイメントの手法にもとづく施設づくりが功を奏している。
 また、“インドア系”のレジャーの代表格となっているのが「テレビゲーム」。任天堂WiiおよびDSの大ヒットは記憶に新しいところだが、参加人口は前年(18年)から70万人の増加となった。いっぽう、「園芸・庭いじり」「ジョギング・マラソン」などの種目では参加人口が減少。同じ家まわりのレジャーでも、屋内と屋外で明暗を分けた形となった。他にも「映画館」や「カラオケ」など近場の施設系のレジャーは好調であり、19年は総じて“身近な行楽系”で“インドア系”のレジャーが好調であったとまとめることができる。


3.余暇関連産業・市場の動向  -余暇市場は約75兆円-
 次に、供給サイドにおける余暇動向として、4部門77業種を対象とする1年間の余暇産業動向の調査結果、および余暇市場規模推計結果をご紹介しよう。
 平成19年の余暇市場規模は74兆5,370億円で、前年(平成18年)の79兆1,520億円から前年比5.8%の減少となった。要因としては市場規模の大きいパチンコの減少をはじめギャンブル系の減少によるところが大きく、ギャンブル系を除いた市場規模は横ばいであった。
 長期的に見ると、余暇市場は平成8年の90兆円台をピークに縮小傾向が続いており、今回は前年に引き続き70兆円台を記録。既存の余暇市場はこの10年で約10兆円減少したことになる。ただし、こうした既存市場の外側で、「ニュー・レジャー」といわれるような新たな余暇活動も次第に活発化してきている点にも注意が必要である。


図表3



 以下、4つの部門別に平成19年の余暇市場動向の概要を紹介する。

(1)スポーツ部門
 前年比0.5%のプラスとなった。
 用品市場では、ファッション性の高いランニング用品が売上げを大きく伸ばしている。スキー・スノーボード用品の需給ギャップは大幅調整され、登山用品もアウトドアテイストのファッションとしてウエア・シューズが伸びている。平成20年に入ってから、スピード社の水着「レーザー・レーサー」が北京オリンピックの着用水着問題に発展し、スポーツ用品の先進性を世界にアピールした。
 サービス市場では、やはりゴルフ場、ゴルフ練習場の久々の市場回復が大きな話題である。女性や子ども、外国人ゴルファーが増え、ファッション性も向上。若手のスター選手の登場もマスコミを賑わした。逆に、近年伸びていたフィットネスクラブの市場の伸びが止まった。小規模ジムが増加する一方で競合が激化し、会員数も停滞。スキー場は、落ち込みが止まらない中で再生ビジネスが花盛りである。


(2)趣味・創作部門
 前年比2.2%のマイナスとなった。
 デジタルカメラの販売台数は過去最高を記録し、特に一眼レフタイプが大きく伸びた。ファンは若年層や女性に広がっている。大画面の液晶テレビは、フルハイビジョン対応が主流となり、販売台数を伸ばした。ブルーレイディスクが新世代光ディスクの規格戦争を制し、一躍VTR市場の主役に躍り出た。音楽ソフトは、CDはマイナス成長を続けているが、音楽配信が急成長しており、全体としては拡大基調にある。中高年層向けのベスト・カバーアルバム等がよく売れている。
 映画は、大ヒット作に恵まれず、売上げは低下。シネコン急増に歯止めがかからず、供給過剰に陥っている。鑑賞レジャーのチケット販売は、ポップス、クラッシックのコンサートが好調であったが、演劇は伸び悩んだ。


(3)娯楽部門
 前年比8.5%の大幅マイナスとなった。
 特に市場規模の大きいパチンコ市場が近年に ない大きな落ち込みをみせたが、これはパチスロ 5 号機への完全移行にともない、射幸性の高い人 気パチスロ機の設置台数が大幅に減少したことに よる。低射幸性への転換をはかろうと、“1 円パ チンコ” の急速な普及も見られた。
 テレビゲームは、次世代機「Wii」が大人気となり、業界地図を大きく塗り替えた。「ニンテンドーDS」もソフト・ハードとも好調であり、全世代で楽しめるソフトが充実。一方ゲームセンターは、カードゲームの勢いが沈静化し、全体的な売上げは減少した。
 公営ギャンブルでは地方競馬、競艇、オートレースが一時的に下げ止まったが、ファンの高齢化が進んでいる。スポーツ振興くじtoto(トト)は、「BIG」「mini BIG」が好評で、売上高を大きく伸ばした。外食は概ね横ばいを維持。大手は売上げを伸ばしているが、増収減益の傾向にある。カラオケボックス(ルーム)は、施設の淘汰が進む中で飲食の拡充や複合化・高級化などの新たな路線を模索する動きが続いている。


(4)観光・行楽部門
 前年比1.0%のプラスであった。
 遊園地・テーマパークは、ほぼ横ばい。追加投資を怠らない施設は着実に入場者数を増やしており、新規開業も徐々に増えてきた。「東京ディズニーリゾート」は過去最高を記録した前年からの反動で入場者数を落としたが、平成20年はホテルと劇場の開業など話題に事欠かない。「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン」は映画にこだわらない新規スリルライドやショーの導入で入場者数を増やした。
 旅行業は、国内旅行は微減であり、海外旅行も落ちているが、燃料サーチャージの上昇で見かけ上プラスとなった。ホテルは、外資系の高級ホテルが続々と進出、宿泊特化型ホテルも急増し、業績は堅調である。一方、旅館経営は依然として厳しい。倒産事例は数多く、旅館再生ビジネスが花盛りといった様相である。会員制リゾートクラブは、会員権販売も施設利用も好調である。乗用車と自動二輪車は、海外市場が大きく伸びているのに対し、国内市場の低迷が続いている。メーカー各社の業績は好調であるが、ディーラーは激しい販売競争が続いている。


4.「ニュー・レジャー」の市場規模は約10兆円
 余暇の既存市場がなかなか回復しない反面、既存レジャー市場の範疇外にある「ニュー・レジャー」が無視できない大きさになってきている。今回の白書では、「携帯電話の余暇利用」「温浴施設」など、この10年で伸びてきている「ニュー・レジャー」25種目について参加実態の調査を行うとともに、これをベースに市場規模を推計した。同様の調査は2000年、2002年にも行っており、今回(2007年)は第3回目となる。

ニュー・レジャー市場は“約10兆円”
 結果、ニュー・レジャー市場規模の総額は10兆4,340 億円となった。“約10兆円”というのは、十分な規模感を有する数字である。調査対象種目が異なるためもちろん単純比較はできないが、その時々で注目されるニュー・レジャーの規模としてみれば、前々回調査時の“約4兆円”、前回の“約5兆円”と比べても今回の結果はかなり大きく、ニュー・レジャーの活性化や市場の拡大を感じとることができる。最も大きな市場規模を有するのは「携帯電話でのやりとり(仕事を除く)」の約2.5兆円であり、以下1兆円クラスの市場規模を有する種目は「複合ショッピングセンター」(約1.3兆円)、「車やバイクの洗車、手入れ、改造など」(約1.2兆円)、「インターネットの余暇利用」(約1.1兆円)、および「ペット(遊ぶ・世話する)」(約1兆円)などの種目がある。さらに、実際の「参加率」ではなく「参加希望率」をもとに今後の“伸びしろ”を含む「潜在市場規模」は“約12兆円”という結果であった。ニュー・レジャー諸種目の市場は、今後さまざまな盛衰を経つつも、将来的にはさらに拡大していく可能性がある。



図表4



 なお、本レポートでは紹介できなかったが、「レジャー白書2008」ではこの他にも過去10年間のトレンドから余暇需要構造の変動を分析した特別レポートを掲載している。あわせてご参照いただければ幸いである。