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■「中央調査報(No.615)」より

 ■ 2009年の展望 ―日本の政治
        ― 政権かけ自・民が決戦へ ―

時事通信社 政治部次長  高橋 正光   

 2009年の日本の政治は、衆院選が最大の焦点だ。衆院議員の任期満了は9月10日。与党に逆風が 吹く中、自民、公明両党が過半数を確保して連立を継続するのか、あるいは民主党が第一党になり悲願 の政権交代を実現させるのか。政権をかけた「天下分け目の戦い」が刻一刻と近づいている。

◇ 実績積み、4月以降に判断―麻生首相
 退陣表明した福田康夫前首相の後継を決める 自民党総裁選に圧勝し、昨年9月に就任した麻生 太郎首相は、「総裁選勝利の勢いに乗り、臨時国 会での首相指名直後の衆院解散」との党内大方の 予想に反し、解散を見送った。米国発の世界的な 金融危機への対応など「政局より政策を優先する」 との理由からだったが、その後、日本国内の経済、 雇用情勢は急激に悪化。これに対し、首相が対策 をまとめながら、それらの具体化を図る08年度 第二次補正予算案の提出を先送りするなど対応が 後手に回ったことに加え、総額2兆円規模の定額 給付金の支給対象や一般財源化する道路特定財 源の使途など重要政策での発言のぶれが批判を 浴び、有権者の「麻生離れ」が一気に進んだ。  この結果、昨年12月の朝日、毎日、読売新聞 各社の世論調査での内閣支持率はいずれも20% 強に急落。時事通信調査では16.7%にまで落ち 込んだ。結局、首相は昨年11月から年末にかけ ての解散も見送り、通常国会で定額給付金や雇 用創出に向けた基金創設などを盛り込んだ2次補 正や、社会保障や景気・中小企業対策などのた めに一般歳出を大幅に増やした09年度予算を成 立させた上で、4月以降に衆院を解散するとの戦 略を定めた。「政権の実績」を積むことで逆風を 和らげ、解散の機をうかがうとの判断だ。首相 は1月4日の年頭の記者会見で「急ぐべきは景気 対策。まずは予算と関連法案を早期に成立させ ることが重要だ。それまで解散を考えることは ない」と述べ、09年度予算が成立するまで衆院 解散・総選挙を行う考えのないことを明言した。

◇ 解散求め徹底対決―民主
 これに対し、民主党は、即時の衆院解散を求め、 首相と徹底対決する方針。結果的に解散に追い 込めず、衆院選が遅れても、国民の批判は麻生 政権に向き、民主党には不利にはならないと見 る。小沢一郎代表は1月11日のNHKの番組で「本 来の政治の在り方として選挙をすべきだ」と求め る一方、解散が延びても「麻生首相への不信感 がどんどん募れば、われわれに有利だ」との認識 を披露した。1月18日の党大会では、麻生政権 を「政府、政党の体を成していない」と断じ、「権 力の終焉は近い」と、政権奪取への自信を示した。  首相は2次補正と09年度予算案の処理を急ぐ ため、国会法で1月中の召集が定められている 通常国会を早々と5日に召集。解散をにらんだ 与野党の攻防は既に始まっている。しかし、新 年を迎えても内閣支持率は低迷したままだ。時 事通信の1月調査は17.8%とわずかに上向いた だけ。次期衆院選比例代表の投票先を聞く質問 では、民主党37.1%、自民党21.7%とその差が 拡大した。こうした状況に、自民党内では「不人 気の麻生首相の下では衆院選は戦えない」(閣僚 経験者)といった危機感が広まりつつある。  政策面でも、公明党主導の定額給付金や経済 状況の好転を前提に11年度からの消費税増税を 明記した税制抜本改革の「中期プログラム」に対 する党内の不満は根強い。昨年から定額給付金や 公務員改革などで首相の姿勢を批判してきた渡辺 喜美元行政改革担当相は1月13日に自民党を離 党した。こうした状況に置かれた首相が、関連法 案を含め09年度予算の成立にこぎつけ、自身の 主導で解散に打って出るのはそう簡単ではない。  憲法の衆院優越の規定で、予算案は衆院を通 過すれば、参院が否決、あるいは採決しなくて も最終的には成立する。しかし、関連法案を成 立させるには、参院は野党が多数を占める現状 から衆院で3分の2以上の賛成で再可決すること が必要だ。自民党の衆院の勢力は303で、公明 党の31を合わせた与党の議席は334。欠員が1 で議長は採決に加わらないため、投票478人の 3分の2に達するには、319の賛成票が必要。単 純計算で仮に自民党内から16人が反対に回れば (賛成318、反対160)関連法案は再可決できな くなる。同様に、自民党から47人が棄権(賛成 287、反対144)しても再可決できない。  1月13日の衆院本会議での2次補正と関連法 案の採決では、細田博之幹事長ら執行部の締め 付けにもかかわらず、松浪健太氏が定額給付金 への反対を理由に棄権した。給付金に対する自 民党内の不満を裏付けた。

◇ 予算関連法案の採決がヤマ―国会
 解散をにらんだ今国会での与野党攻防で、最 初のヤマ場となりそうなのが、2月下旬ごろと想 定される09年度予算関連の税制改正法案の衆院 採決だ。「責任ある政治」を行うとする首相は、 経済の回復を条件に11年度からの消費税増税方 針を法案の付則に明記することは譲れないとし、 衆院選への影響を懸念する多数の自民党議員が 反発。最終的には、経済状況が好転していなけ れば、税率引き上げの時期を明示しない増税法 案を成立させ、その後、経済が回復した12年度 以降に増税時期などを定めた法案の成立を図る 「2段階方式」とする内容を付則に明記すること で決着した。しかし、党内にはこの問題で首相 への不信感が残っており、採決で同党内が反対 や棄権が出るかポイントだ。
 改正案は賛成多数で可決され、衆院を通過する 見通しだが、造反が大量に出て、賛成が3分の2 に達しなければ、参院での否決を経て、衆院で再 可決することは望めない。また、3分の2を超える 多数で衆院を通過できても、まだ予断は許さない。
 造反の規模によっては、党内の動揺が一気に 広がり、麻生政権が危機に陥るかもしれない。対 決姿勢の民主党が参院での採決に応じなければ、 憲法のみなし否決の規定を適用して衆院で再議 決できるまでに60日が必要。その間、内閣支持 率がさらに下がるようなことになれば、衆院選へ の危機感から、衆院通過時には賛成した議員が 今度は反対や棄権に回り、再可決できない事態 も否定できない。関連法案が成立しなければ、予 算は執行できず、首相は内閣総辞職か衆院を解 散して国民の信を問う以外に選択肢はなくなる。
 仮に首相が、関連法案の再可決にこぎつけて も、民主党が即時の衆院解散を求めて、徹底し て参院での採決を引き延ばせば、成立が4月下 旬以降にずれ込むことが予想される。首相は「考 えられない」と否定するものの、国民の信任を得 た政権が景気や雇用で強力な対策を早急に打つ べきだとの世論が高まり、予算と関連法案の成 立を条件に衆院を解散する「話し合い解散」の流 れになる可能性もある。

◇ 先送りなら公明反発
 首相は、民主党の攻勢をしのぎ、党内の造反 を抑えて09年度予算と関連法案を成立させれば、 その段階で直ちに衆院を解散するのか、さらに 先送りするのか判断する意向だ。首相は1月10 日の内閣記者会とのインタビューで、予算成立 後の解散について聞かれ「経済対策の効果があ るか否かが一番問題になる。ある程度効果に目 安をつけないと無責任になる」と指摘、経済状況 によっては追加の経済対策を盛り込んだ09年度 補正予算の編成の可能性に言及している。もっ とも、首相がさらに解散を遅らせるには、一定 の求心力を保っていることが前提となりそうだ。
 「批判を浴びようとも、麻生首相よりはましだ」 (閣僚経験者)。予算という「重石」がとれれば、「新 たな顔」で衆院選を戦うことを前提に、自民党総 裁選の前倒しを求める声が一気に広がる可能性 がある。首相の総裁任期は9月末までだが、党 則には「党所属国会議員と都道府県連代表各1名 の総数の過半数の要求があった場合は、総裁選 挙を行う」(6条4項)との規定があり、首相が抵 抗しようにも限界がある。
 また、解散のさらなる先送りには、公明党が 激しく反発するのは必至だ。7月12日が東京都 議の投開票日。同党は都議選を国政選挙並みに 重視し、毎回、支持母体の創価学会が組織を挙 げて支持拡大に努めており、衆院選との間隔を できるだけ長く確保したいという事情がある。 昨年秋に首相に執拗に解散を迫ったのも、都議 選への準備期間を考えてのことで、組織力が分 散する衆院選と都議選との「同日選挙は絶対に認 められない」(党幹部)との立場だ。予算関連法 案の成立を待って首相が直ちに解散することを 強く望んでおり、「解散がさらに遅れるようなら、 衆院選で自民党候補の支援などとても手が回ら なくなる」(関係者)という声が漏れている。
 そもそも、06年秋にそれぞれ太田昭宏代表、 原田稔会長という新体制になった公明党と創価 学会にとって、07年7月の参院選に続き、衆院 選や都議選でも負けることになれば、組織が持た ない。支持者の間では、昨年秋の解散を拒否さ れた上、自身の発言のぶれなどで内閣支持率を 急落させた首相への不満がうっ積している。1月 18日の自民党大会に来賓として招かれた大田氏 は「わが党も自民党も勝利し、与党で過半数を制 することができるよう頑張る決意だ」とあいさつ したが、解散がさらに先送りとなれば、公明・学 会の自民党候補への支援が鈍るのは間違いない。
 衆院選が都議選より後になる場合は、事実上 の任期満了選挙となる。7月8―10日にイタリ アのマンダレーナ島で主要国首脳会議(サミッ ト)が予定されており、首相がサミットで自身の 指導力をアピールし、直ちに解散となれば、8月 選挙となる。公職選挙法は、任期満了による衆 院選挙は、満了日前の30日以内に行うと定めて いるが、解散による選挙は、解散後40日以内と 定めており、任期満了日まで国会を開き続けて 解散すれば、10月18日まで投開票を遅らせる ことができる。理論上、これが最も遅いケースだ。

◇ 政界再編は必至
 参院では現在、与党、民主党とも過半数になく、 次期衆院選で自公連立の継続、民主党による政 権交代のいずれの結果が出ようとも、安定した 政権運営は困難なのが実情だ。このため、政界 では、衆院選後の政界再編は避けられないとの 見方が支配的だ。
 参院の現状を踏まえ、小沢氏は衆院で単独過 半数を獲得しても、「今までの協力態勢を続けて いきたい」と社民党や国民新党との連立政権を目 指す考えを明らかにしている。民主、社民両党 は安全保障分野を中心に政策面で大きな開きが あるが、民主党自体がそもそも、元自民党から 旧社会党出身者までいる「寄り合い所帯」。小沢 氏を中心に結束を保っているのも、「政権交代」 が現実味を帯びているからで、いざ政権の座に つけば、様ざまな政策調整で波風が立つのは容 易に想定できる。また、1993年8月の非自民の 細川連立政権発足後の状況から見ても、野党に 転落した自民党から、新党結成を含め集団、個 別の離党者が続出することも予想される。
 一方、自公が連立を維持すれば、参院での過 半数回復を目指し、民主党の切り崩しに動くのは 必至。これだけの追い風が吹く中、政権を獲得で きなければ、民主党内が流動化するのは避けられ ない。自・民による「大連立」、民主党の一部や国 民新党、改革クラブが連立に加わる「中連立」、来 年夏の参院選まではこれまでと同様に政策ごとに 民主党に協力を求めていく形などが想定される。
 このほか、「働く貧困」の問題を一貫して取り 上げてきた共産党は若者を中心に党員数を増や しており、衆院選で、与党、民主、社民、国民 新の野党3党とも過半数を得られず、共産党が キャスチングボートを握るケースもあり得る。 さらには、前回衆院選で落選した無所属の郵政 反対組を支援する平沼赳夫元経済産業相らのグ ループが一定の議席を確保する可能性もある。 各党の議席バランスや自民、民主両党内でどう いうグループが勢力を増減させたかなどによっ ても、政権の枠組みや再編の動きに影響が出る のは確実で、まったく予想外の事態が起きない とは言えない。先行きが見通せない中、さまざ まな可能性を秘めながら、09年の国内政治が展 開されることになる。