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■「中央調査報(No.670)」より

 ■ 国民生活動向調査の変遷
~その意義と歴史、最近の調査結果から~


独立行政法人国民生活センター相談情報部相談第3課 課長補佐 仙北 由美


 1.はじめに
 国民生活センターは、法律(独立行政法人国民生活センター法)に基づいて設立された消費者庁所管の独立行政法人である。国民生活の安定及び向上への寄与という設立目的のもと、消費生活に関する相談事業をはじめ、全国の消費生活センター等に寄せられた消費生活情報の収集・分析と情報提供、重要消費者紛争の解決のための手続き(ADR)、商品テスト、雑誌・研究誌等の出版、消費者行政職員・消費生活相談員等を対象とした研修等の業務を行っている。
 「国民生活動向調査」は、1971年から継続して(2008~2010年は中断)、消費生活に関する意識や実態を把握し、消費者行政・消費者政策の基礎資料とすることを目的に実施してきた。2012年度に行った調査で第40回を数えるが、本調査の実施経緯や歴史について、詳細な記録やまとめはほとんど行われていない。そこで本稿では、調査の成り立ちやテーマを振り返り、本調査の意義や役割について整理し、今後の調査における課題を考えるきっかけとしたい。
 調査開始当時や初期の調査概要については、限られた資料や記録を頼りにした記述となっており、正確ではない部分もあるかもしれない点をご理解・ご容赦いただきたい。

 2.調査の目的・概要、調査対象等の変遷
 国民生活センターは、1970年10月、特殊法人としてスタートした。本調査は、前身の特殊法人国民生活研究所(1962年設立)が行ってきた生活意識の調査研究により継続的に蓄積されてきた知識を基礎に、新しく年次調査として構想しなおしたものと位置づけられ、主婦が日常生活に対して持っている満足度、不平・不満等についての実態を把握することを目的として、1971年に第1回調査が行われた。当時の報告書には、調査対象は「全国の市区町村(市部152、郡部56の合計208地点)に居住する世帯員2名以上の世帯」3,000との記載がある。回収率(85.3%)から面接調査と推測される。
 以来、調査対象、標本数、調査方法等の見直しを繰り返しながら実施されている。例えば、調査地域は、第15回(1984年)までは、全国の市部、市区町村、10万人あるいは5万人以上の都市、政令指定都市等と変更を重ね、第16回以降、ほぼ「政令指定都市および東京23区」に統一された。対象年齢も、59歳以下、69歳以下と揺れがみられたが、第22回以降は「20歳以上69歳以下」に統一されている。
 また、調査方法については、第21回(1990年)までは概ね面接調査法(年によっては、郵送法、訪問留置法も)、第22回以降は郵送法が用いられている。
 調査対象については、第39回(2011年)に大幅な見直しを行った。長年(第1~38回)、世帯人員2人以上の普通世帯の主婦(正確には「一家の中で家庭生活の切り盛りと管理に責任を持つ女性」と説明される)を対象に実施してきたが、近年、消費の多様化が進み、単身者世帯も一層増加するなど、2人以上世帯の女性のみを対象として消費者意識の動向を把握することは困難になりつつあった。そこで、第38回(2007年)の調査結果公表後、調査対象の見直しを行った。2011年に再開した第39回調査では、調査対象に男性と単身者世帯を含め、標本数を3,000から6,000に変更し、「政令指定都市および東京23区に居住する20歳以上69歳以下の男女6,000名」を対象とした調査として現在に至っている。
 なお、実際の調査は入札により外部機関に委託しており、これまで、一般社団法人中央調査社、一般社団法人新情報センター、株式会社サーベイリサーチセンター等のご協力をいただいた。

 3.調査テーマからみる本調査の役割
 本調査で取り上げてきたテーマは、その時の社会問題や消費者問題を反映したものである(表1)。ここでは、40回の調査テーマを振り返り、本調査の役割について整理する。

表1 「国民生活動向調査」調査テーマ


 まず、初期の調査内容を概観する。70年代半ばまでは、調査項目は「買物」「生活(満足度、物価等)」「商品・サービス、アフターサービス、広告・宣伝の不満・被害の実態」といった日々の消費生活に関する基本事項に加え、社会保障制度、割賦販売、通信販売といった消費生活の変化に対応して関心が高まってきた事柄や、オイルショックの影響によるモノ不足、インフレを背景とした物価上昇への自衛策、ユニットプライシング(単位価格表示制度)、公共料金、福祉、消費者運動への参加といったテーマが取り上げられた。
 なお、1972年には「不満の構造分析」として、生活意識の測定にとどまらず、具体的な生活場面における不満・苦情、満足度や対応(行動)を詳細に調査することにより、不満の因子分析、クラスター分析等を行っている(東京都区内在住の59歳以下の主婦で自宅に電話を保有している者300名を対象に、電話調査で行われた)。
 70年代半ば以降は、生活に関する調査部分を「商品・サービスに関する不満や被害」に絞り、さらに国民生活センターの周知度といった項目を加えて「時系列項目」と位置づけるようになった。一方、その時々の社会問題となっている事象については「特定テーマ」として設定し、概ねこれら2つの部分で構成される現在の調査形式が定着した。
 次に、時系列項目と特定テーマについて概観する。
 (1) 時系列項目
 上述の通り、時系列項目は消費生活の基本事項に関する調査であるが、設問は、特に初期の調査では見直しが頻繁に行われており、当時の試行錯誤の様子がうかがえる。
 例えば、不満・被害の実態については、第3回で初めて「商品・サービス、アフター・サービス等」について取り上げた後、第10回までは上記に加え、広告・宣伝、訪問販売、通信販売等、第11~15回は、商品・サービスに絞った上で、その中の食料品、医療サービス等いくつかの項目について不満・被害の様子を詳しく尋ねている。第16回以降は、中断(第19回)もあったが、概ね、現在の「商品・サービスに対する不満・被害、対応状況等」について尋ねる内容となっている。
 ここで、時系列項目の調査結果の一部を紹介する。いずれも、母数は第38回(2007年)までの調査対象である主婦(20歳以上69歳以下の世帯人員2人以上の世帯の女性)である。
 「この1年間に購入した商品や利用したサービスについて、何か不満を持ったり、経済的または身体的被害を受けたことがある」という割合は(図2)、商品・サービス全体で2007年(第38回)が43.4%、2011年(第39回)が34.3%、2012年(第40回)が39.0%となっている。さらに、不満や被害を受けたことがあると答えた人に対し、その苦情をどこかに「相談したり伝えたりしたか」と尋ねる問では(図3)、「相談した」割合は、2004~2007年は50~56%程度の間で推移、2011年が60.6%、2012年が62.9%となっている。

図2 商品・サービスへの不満や被害(複数回答)


図3 苦情を相談したり伝えたりしたか(複数回答)


 (2) 特定テーマ
 特徴的なテーマを中心に、年代を追って概観する。
 70年代の第10回は、国際児童年(1979年)にちなみ「子供の生活」というテーマで、母親の意識を調査している。高校生以下の子どもをとりまく社会環境の問題点としては「受験地獄など教育問題」46.3%、「交通事故」38.4%、「青少年の非行化の問題」35.0%等といった結果となっており、その他、子どもに対する心配・不安、テレビ、塾やけいこ事、遊び等について尋ねている。
 80年代は、消費生活の多様化が進み、やがてバブル経済へと突入していく。この時期には、老後や健康、医療といった社会問題や店舗外取引、引越しサービス、家事関連サービス等、普及が進む新しい商品・サービスに関する調査が行われた。
 そして90年代は、環境問題、社会参加活動、プライバシー問題等のほか、商品の安全性、クレジット契約、表示等、消費者問題に関するテーマが多くなり、2001年以降は消費生活相談の多い分野を取り上げることが多くなった。
 以上のように、特定テーマからみると、本調査の果たしてきた役割は、(1)その時々の消費者の意識・行動の把握、(2)消費者行政・消費者政策、生活者のための施策に資すること、(3)消費者問題の背景・要因を探ることにあると整理できる。
 (2)、(3)に関するテーマの代表例としては、第37回の「訪問販売と電話による勧誘-不招請勧誘」が挙げられる。「不招請勧誘」とは消費者が希望していない・招いていないにもかかわらず不意に来る勧誘のことで、当時、訪問販売や電話勧誘販売に関する消費者からの相談が多数寄せられ、金融商品について不招請勧誘の規制の検討が消費者政策の重点項目のひとつに挙げられていた。そこで、訪問販売と電話による勧誘に関する消費者の経験や意識について調査を行った。
 本調査の結果は、地方自治体が策定する各種の行政計画の基礎資料として活用されたり、国の審議会資料、白書等にも引用されており、特に90年代以降は、(1)を基本としつつも、徐々に(2)、(3)の役割に対する要請が大きくなっている。

 4.最近の調査結果より
 第39回については2011年3月、調査票が完成し発送準備に入っていたところ、同11日に発生した東日本大震災の影響により、調査票の発送を延期し、被災地である仙台市を調査対象から除くこととなった。特定テーマとして、食品や製品の安全、回収告知(社告、リコール)等の調査を予定していたが、急遽、震災関連の項目(震災に関連した悪質勧誘や消費者トラブルの経験、震災後の対応)を追加した新たな調査票を作成し、5月に発送した。
 第40回では、インターネットの人口普及率の急増とともに、インターネットに関する消費者トラブルが増加していることに鑑み、特定テーマを「くらしの中のインターネット」とした。また、第39回で調査した「震災後の対応」について、引き続き調査した。
 ここでは、第39回および第40回の調査結果から、特徴的なものを紹介したい(調査時期は、第39回:2011年5~6月、第40回:2012年9~10月)。

図4 東日本大震災後に「行っていること、心がけていること」(前回調査との比較)(複数回答)


図5 東日本大震災の前と後で、普段の生活における意識・行動はどのように変化したか


 震災直後に比べ「被災地支援」は半減
 東日本大震災後に「行っていること、心がけていること」(複数回答)について、震災直後(第39回)と、約1年半後(第40回)とを比較した。
 第40回では、震災後「行っていること、心がけていること」があるという割合は89.4%で、第39回の94.7%と比べ5ポイント減となり、「節電・省エネ」「防災用品・非常持出し品の準備」等への取り組みが低下していることがわかった(図4)。特に、「被災地支援」は17.2%で、第39回(41.7%)の2分の1以下の割合となり、震災や災害への備えに対する人々の関心が薄れつつある様子がうかがえた。
 震災後、エネルギー問題への関心が高まる
 第40回では、震災の前と後で、普段の生活における意識や行動がどのように変化したか、10の項目について、「震災前もその後もしている」「震災後にするようになった」「震災前はしていたが、その後はしていない」「震災前もその後もしていない」の4段階で尋ねた(図5)
 「震災後にするようになった」という回答の割合が高い項目は、多い順に、「(8)エネルギー問題に関心を持つ」56.1%、「(7)電気、水道などの供給や料金の仕組みに関心を持つ」38.1%、「(9)自分の消費行動次第で、将来の社会や地球環境をよくすることができると意識して行動する」33.3%となっており、これらの項目は、「震災後にするようになった」という割合が、「震災前もその後もしている」を上回った。この結果には、震災の影響による電力供給の不足やその後の利用料金の値上げを経験したこと、あるいは、震災を契機とした「エシカル消費」(倫理的な消費)の意識の高まりが表れている。

 5.おわりに-今後の調査にむけて
 本調査のテーマの中には、数年~10年以上の時を経て繰り返し取り上げられている分野もある。消費者の意識や行動の変化を把握するためには、それらの結果を比較することも有益と考えられる。残念ながら、本稿では、調査設計等を含め充分に紹介することはできなかったが、今後の本調査の方向性や課題を探るために、機会があれば詳細に調べてみたい。
 2013年8月現在、第41回調査の準備作業中であるが、最近は高齢者の消費者トラブルも多くなっていることから、調査対象に70歳代を加え、「20歳以上79歳以下の男女6,000名」とする予定である。また、「震災後の対応」についても引き続き調査する予定である。
 本調査が、様々な研究や消費者行政・消費者政策に役立つことを願う。


 〈参考文献〉
 国民生活センター「国民生活動向調査」 第1回~第40回 報告書
 国民生活センター「国民生活動向調査結果報告書-不満の構造分析-」(1973年1月)
 国民生活センター二十年史編纂委員会『国民生活センター二十年史』(1990年3月)
 国民生活センター 創立40周年記念事業事務局『40周年記念誌-2000~2009年度の歩み-』(2010年)
 渡辺多加子、金子美佐子、吉田明子「『国民生活研究』の沿革・総目次(第1巻~第51巻)、国民生活動向調査特定テーマ、くらしの主な出来事等」国民生活研究51巻4号(2012年)72~138頁