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■「中央調査報(No.673)」より

 ■ 未成年者の悪い生活習慣と悪い精神的健康状態には関係がある
     ~2004年度全国悉皆調査より~ 


厚生労働省国立保健医療科学院厚生労働省国立保健医療科学院健康危機管理研究部主任研究官 谷畑 健生


 1.はじめに
 未成年者の環境は健康を損なう行動(例えば喫煙・飲酒の使用、睡眠の問題)を行いやすく、未成年者の健康増進に向けるようなライフスタイルを確立する必要がある。未成年者の健康リスク活動の防止は非常に重要で有り、健康リスク活動防止を新たに開発する必要があると考えられる1。未成年者は、両親、学校および彼らを取り巻く社会によって、肉体的健康状態・精神的健康状態が変わりやすい。悪い習慣とは喫煙、飲酒および睡眠問題であり、肉体的健康状態・精神的健康状態の悪化であり、未成年者はそれら健康を害するような行動を取りやすいと同時に、早ければ早いほど未成年者の肉体的健康状態・精神的健康状態を元に戻すこともしやすいと考えられる。未成年者が悪い習慣・行動が常習化する前に、肉体的健康状態・精神的健康に良い習慣・行動を取り込む必要が未成年者の健康管理には重要であると考えられる2。未成年者が良い習慣を取り入れることは将来的に大人になったとき健康な肉体的健康状態および精神的健康状態を獲得する上で重要であり、またその時期でもある。
 未成年者研究では、肉体的健康状態・精神的健康状態とライフスタイルが注目されている。これまでの海外およびわが国の研究では未成年者の肉体的健康状態および精神的健康状態については特定の集団を対象としており、その集団の特性をぬぐい去ることは困難である。今回われわれは日本全国約10万人の中学校・高等学校の未成年者を対象にライフスタイルおよび精神的健康状態を研究し、特定の集団に偏らない調査研究を行った。
 そこで、未成年者の精神的健康状態を測定するために、12問の質問紙票(GHQ-12:the 12-Item General Health Questionnaire)を使用した3。この質問紙票では、12問の質問につき、1.普通より状態が悪い、2.状態が悪い、3.状態が良い、4.普通より状態が良い、の4つの回答を持つ。それぞれの質問の回答個数の合計によってGHQ-12は精神的健康状態を示す。このGHQ-12の質問回答で4つ以上回答すると、精神的健康状態が悪いと判断する。4つ未満は精神的健康状態が良いと判断する。
 これらの方法によって、本研究の目的は、未成年者の精神的健康状態とライフスタイルの関係を明らかにした。

 2.方法
 2004年の12月から2005年の1月まで全国の中学校11,200校から131校(1.2%抽出)、高等学校4,627校から109校(1.9%抽出)を行った4。私立学校は中学校で6.9%、高等学校で26.6%であった。
 質問紙には、ここ30日間未成年者は毎日朝食を取ったか、30日間に一回でも自分がアルコールを飲んだか、30日間に一回でも自分が喫煙したか、ここ30日間の自分の睡眠時間は何時間か、30日間の自分の睡眠の質(よく眠れているか、深く眠れているかの意味を含む)はどの様であったか5、未成年者がサークル活動をしているか、自分の困ったことや悩みを両親と相談したかなど未成年者のライフスタイル、睡眠状態について聞いた。さらに、ここ30日間の精神的健康状態を判断するGHQ-12についても質問した。また父親の飲酒習慣、母親の飲酒習慣、並びに父親の喫煙習慣、母親の喫煙習慣についても質問項目とした。
 未成年者からの無記名質問票の回収方法は、個人を特定出来なくするために、教師が名前・番号など印のついていない質問紙を渡し、未成年者らに記入してもらう。回答後、未成年者らにのり付きの名前・特定の番号のついていないさらの封筒を渡し、それに質問紙を封入し、まったく無記名な状態で教師が回収し、段ボール箱に入れ、厚生労働省国立保健科学院疫学部(当時)あてに郵送で送ってもらった(送料は厚生労働省厚生労働科学研究費より支払いをした)。調査票 の発送、回収、入力、数字出力は社団法人中央調査社(当時)が行った。

 3.統計解析
 この30日間に(a)朝食を取るか、(b) サークル活動をしたか、(c) 未成年者が悩み・問題を両親と相談したか、(d) 父親の喫煙・飲酒状況、(e)母親の喫煙・飲酒状況、(f)未成年者が30日間に少しでも酒を飲んだか(30日飲酒)、(g)未成年者が30日間に少しでも喫煙をしたか(30日喫煙)、(h)睡眠の質(よく眠れたかなど)、(i)睡眠時間、(j)GHQ-12、の10項目を表でまとめた。次いでそれぞれの項目をカイ二乗分析で各項目を分析し、F検定解析に適合した(F<0.4)すべての項目のうち関係性を観察する上でa multinomial logistic regression model analysisを行った。

 4.結果
 今回2004年の調査のうち、中学校で131校のうち92校(70.2%)が、高等学校で109校のうち87校(79.8%)が回答した。封筒の数(未成年者の数)103,650着。有効回答割合は中学校で60.7%、高等学校で67.7%、平均で64.8%であった。数としては85,158人であった。有効回答率は82.2%と高値であった。調査の正当性Cronbach’s alphaは0.895の高値であった。
 精神的健康状態は女子未成年者が男子未成年者より悪かった。中学生に比べ高等学校生の精神的健康状態が悪かった。朝食をとる者は高等学校生に多く、中学生は少なかった。また、朝食を毎日とる高等学校生の精神的健康状態が良かった。サークル活動に参加している者は中学生に比べて高等学校生に多く、未成年者ともサークル活動に参加している者の精神的健康状態が良かった。未成年者が親に悩みを相談する割合は6割に近く、相談する未成年者の方が精神的健康状態は良かった。
 中学生で父親に喫煙習慣があると答えている者では、精神的健康状態が悪いは4割、高等学校生で父親に喫煙習慣があると答えている者では、精神的健康状態が悪いは3割であった。母親でも同様の結果で、中学生で母親に喫煙習慣があると答えている者で、精神的健康状態が悪いは4割、高等学校生で喫煙習慣があると答えている者では、精神的健康状態が悪いは3割であった。
 中学生で父親に飲酒習慣があると答えている者では、精神的健康状態が悪いは4割、高等学校生で父親に飲酒習慣があると答えている者では、精神的健康状態が悪いは3割であった。母親でも同様の結果で、中学生で母親に飲酒習慣があると答えている者で、精神的健康状態が悪いは4割、高等学校生で飲酒習慣があると答えている者では、精神的健康状態が悪いは3割であった。
 未成年者自身についてであるが、30日以内に中学生で酒を飲んだと答えている者(30日飲酒)のうち、精神的健康状態が悪いは35%、高等学校生で酒を飲んだと答えている者(30日飲酒)では、精神的健康状態が悪いは32%であった。
 次に睡眠の質についてであるが、自分の「睡眠の質がよい」と答えている者で、中学生の精神的健康状態がよいは72%であったが、高等学校生の精神的健康状態がよいは63%と、高等学校生のほうが低くなっている。
 睡眠時間を中学生についてみてみると、睡眠時間5時間から6時間、6時間から7時間はいずれも71%となっている。5時間未満では精神的健康状態がよいは65%であるが、8時間から9時間で51%、9時間以上では42%と、睡眠時間少なくなるよりも多くなるほうが精神的健康状態が悪いことが分かった。

表1 中高生 85,158人のうちのGHQ-12による精神的状態・社会適応状況 点数 among 85,158。日本全国、2004年。


 次に、表1で示された項目と関連性を測定した。これは方法で示したa multinomial logistic regression model analysisによって、その関連性を計測した。
 男女、中学校および高等学校の学年を交絡因子と考え表2を得た。このことから表2の解釈では、解析数字の中で男女、中学校および高等学校の学年は各因子を調整し表中には現れない。表2にあるように、精神的健康状態を表すGHQ-12と未成年者のライフスタイルと、父母の喫煙との関連を見た。

表2 GHQ-12についてのA multivariate odds ratioと95%信頼区間 for GHQ-12の関連 全日本、2004年。


 朝食を毎日食べる者に比べて殆ど食べない者は精神的健康状態がオッズ比1.55倍と悪い(以下オッズ比略)。サークル活動に入っている者に比べて入っていない者は精神的健康状態が1.45倍悪い。未成年者が親に悩みなどを相談する者に比べて相談しない者の精神的健康状態が1.59倍悪い。1. 父親が喫煙する習慣がある、2.母親が喫煙する習慣がある、の2項目については父母に喫煙習慣があるという因子が未成年者に与える関連性は弱い(父1.09倍、母1.26倍)。また、30日以内に未成年者が酒を飲んだ(30日飲酒)については、飲酒者は非飲酒者に比べて未成年者の精神的健康状態と関連性はあるが、弱い。30日以内に未成年者がたばこを吸った者(30日喫煙)についての関連性は1.50倍と強い。
 睡眠の質(よく眠れているか、深く眠れているかの意味を含む)についてであるが、この因子は未成年者の精神的健康状態と極めて強い関連が有り、睡眠の質が良い者に比べて質が悪い者は約2.8倍の精神的健康状態と関連がある。睡眠時間は8-9時間を1倍(基準)とすると、5時間未満(1.36倍)、5時間から6時間(1.85倍)、6時間から7時間(1.85倍)、7時間から8時間(1.35倍)、9時間以上(1.90倍)といずれも精神的健康状態に関連があった。

 5.考察
 この研究は(a)無作為抽出で有り、教師の介入無く、未成年者の質問票への自由記載である。(b)この調査人数は全国未成年者のから85,158人を抽出し、非常に多人数である。(c)またこの質問紙の回収率のうち、本研究に対する有効回答率は82.2%と高値であり、統計的解析では正確なデータを得ることが出来き、研究を進める上で信用に足るほど高かった。
 間違いやすいことではあるが、GHQ-12は4以上の者を特定の精神疾患を鑑別するための尺度ではなく、精神的健康状態の悪さを指摘するものである。例えば鬱病である、統合失調症等であると言うことは指摘できない。元気がない、意欲の低下、身体的疲労、ストレス状態にある、不安、抑鬱状態(これは鬱病だけを指摘しているのではない)である等を指摘するものである。しかし、精神的健康状態の悪さを指摘することによって、どの様に精神的に悪いのか、どの様な精神的疾患なのかという次のステップの調査を行う根拠となる。またGHQ-12は女子未成年者が悪い値を示すことが指摘されており6、われわれの研究でも同様な傾向があった。
 海外において全国レベルの調査ではないが、このGHQ-12を用いて、アメリカ6・スイス7で同様な研究がなされおり、未成年者に精神的健康問題があることを指摘している。アジアにおいてはわれわれのこの未成年者のライフスタイルと精神的健康状態の大規模調査を行った研究は初めての研究である。これまで1996年、2000年、今回の2004年、緊急調査の2007年、2008年、2012年と行われた。
 今回の研究では、未成年者のライフスタイルと彼らの精神的健康状態の関連を明らかにすることが出来た。両親の喫煙習慣が未成年者の喫煙習慣に関連していることが今回の研究で分かった。これは重要なことで有り、喫煙習慣のある未成年者に禁煙指導をいくらしても、両親が喫煙する限り、効果が十分に現れないことを示唆している。
 朝食を毎日食べる、サークル活動を行っている、未成年者自身の悩みを親に相談するというライフスタイルが、それらをしない者より精神的健康状態が良いということが明らかになった。これは当たり前ではあるが家庭における日常的習慣、未成年者自身の日常的習慣が基礎となりうるべきである。
 本研究から全国の未成年者から睡眠の質が悪い、朝食を毎日食べない、睡眠時間を9時間以上取っている者がいるなどと、精神的健康状態の悪さと関係が強いという結果を得た。アメリカの調査研究では、女性6万人の調査では睡眠の質が悪い、長い睡眠時間に精神的健康問題である抑鬱症が多いことが指摘している。このことはわが国の未成年者らにも睡眠の問題から、精神的健康状態に問題を持つものが多いということが思われる。
 この研究の問題点は、第一に悉皆調査であること。第二には飲酒喫煙は18歳未満は法律で禁止されていることから、今回の調査でどこまで対象となった学校長・教師、生徒たちが真剣にこの質問に向き合ったかが分からないということが問題である。これはどういうことかというと、未成年者が喫煙・飲酒をすることは法律で禁止していて、文部科学省のガイドラインに沿って学校でもそのような指導している。しかし本調査によって実は喫煙・飲酒者が居るとなると、学校における喫煙・飲酒問題が解決されていないというパラドックスに陥る。このため、本調査を学校で行うことをはばかると判断した学校長も少なくないと考えられる。
 しかしながら、われわれは未成年者らに精神的健康状態が悪い者が多いこと、睡眠に問題があること、家庭内で良いライフスタイルが十分に取れていないことを明らかにした。この研究は断面調査ではあるが、これまでのように4年に1度未成年者への調査研究を継続することによって、これまで明らかにならなかったわが国の未成年者の喫煙・飲酒問題および精神的健康状態を研究することが可能になる。これら研究結果は学校保健、地域保健とともに未成年者の肉体的健康・精神的健康への対応を考えるにはふさわしい喫緊の課題となるといえよう。

 【この研究は厚生労働科学研究費補助金によって行われた。倫理審査は国立保健医療科学院2003年 No.23によって承認されている。】

 参照論文
 1. Qidwai W, Ishaque S, Shah S, Rahim M. Adolescent lifestyle and behaviour: a survey from a developing country. PLoS One. 2010;5:e12914.
 2. Brener ND, Kann L, Kinchen SA, Grunbaum JA, Whalen L, Eaton D, et al. Methodology of the youth risk behavior surveillance system. MMWR Recomm Rep. 2004; 53:1-13.
 3. Radovanovic Z, Eric L. Validity of the General Health Questionnaire in a Yogoslav student population. Psychol Med. 1983; 13:205-7.
 4. Cochran. Single-stage cluster sampling:clusters of unequal sizes. Sampling techniques (3rd edn) New York: Wiley, 1977. 1977.
 5. Osaki Y, Tanihata T, Ohida T, Minowa M, Wada K, Suzuki K, et al. Adolescent smoking behaviour and cigarette brand preference in Japan. Tob Control. 2006; 15:172-80..
 6. Marinoni A, Degrate A, Villani S, Gerzeli S. Psychological distress and its correlates in secondary school students in Pavia, Italy. Eur J Epidemiol. 1997; 13:779-86.
 7. Stanton CA, Papandonatos G, Lloyd-Richardson EE, Niaura R. Consistency of selfreported smoking over a 6-year interval from adolescence to young adulthood. Addiction. 2007; 102:1831-9.