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■「中央調査報(No.707)」より

 ■  「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)2015」から見る
 非認知的スキル、仕事の負担、結婚に影響する意識、資産の不平等(前編)


石田  浩(東京大学社会科学研究所)
有田  伸(東京大学社会科学研究所)
藤原  翔(東京大学社会科学研究所)
小川 和孝(東京大学社会科学研究所)


 本稿は、東京大学社会科学研究所が2007年から毎年実施している「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(Japanese Life Course Panel Surveys)」の2015年調査から、非認知的スキルと社会経済的達成、雇用形態と仕事の負担、未婚と関連する意識、資産の不平等という4つのテーマを分析した。知見は次のとおりである。第1に、勤勉性、まじめさ、忍耐力という非認知的スキルは、個人の所得にプラスの効果を持っており、特に男性において大きい。非認知的スキルは高い学歴につながることによって、高い所得をもたらしている。第2に、正規・非正規雇用者間の報酬格差は、「突然の残業や休日出勤の有無」を理由として説明されることがある。しかし、両者におけるこの差は男女ともに実際はそれほど大きくない。第3に、2007年時点に持っていた結婚や家族に関する意識が、その後に結婚を促進するか阻害するかに影響している。男女ともに、「結婚している方が幸せ」と思っていた人々は、その後に結婚をしやすくなっている。第4に、人々が保有する資産の総額には、大きなばらつきがみられ、「1000万円以上3000万円未満」の人々がもっとも多い。また、親から相続・贈与を受けるかどうかや持ち家の獲得など、資産形成は世帯形成との密接な関連がみられる。1
 【注:当稿は9月号前編、10月号後編として2カ月に分けて紹介する】

1 本稿は、東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクト・ディスカッションペーパーシリーズ No.94「パネル調査から見る非認知的スキル、仕事の負担、結婚に影響する意識、資産の不平等―「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)2015」の結果から―」(2016 年4 月)を修正し、執筆したものである。本稿は科学研究費補助金基盤研究(S)(18103003, 22223005) の助成を受けて行った研究成果の一部である。東京大学社会科学研究所パネル調査の実施にあたっては社会科学研究所研究資金、(株)アウトソーシングからの奨学寄付金を受けた。パネル調査データの使用にあたっては社会科学研究所パネル調査企画委員会の許可を受けた。


1.はじめに
 東京大学社会科学研究所は、「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」(Japanese Life Course Panel Survey - JLPS)を2007年から継続して実施している。調査の対象となっているのは、2007年に20歳から34歳の若年と35歳から40歳の壮年の2つのグループである。2007年以降これらの回答者を毎年1回追跡して調査している。従業先・職業・役職などの働き方、交際・結婚・出産などの家族形成、起床・就寝時間などの生活時間、健康状態、投票や政治に関する意見や態度などについての質問を毎年尋ねているので、1年間の変化を跡付けることができる。
 2007年の第1回調査(1月から4月)では、若年者3367名、壮年者1433名から回答を得ることができた。その後毎年1月から3月に追跡調査を実施してきた。調査を継続していくと脱落のため回答者が少なくなっていくので、2011年にはサンプルを補充し、同年齢の24-38 歳(若年)と39-44 歳(壮年)の対象者、712名(若年)、251名(壮年)を追加し、その後追跡している。2015年1月から3月には、継続サンプルは第9回調査を、追加サンプルは第5回調査を実施した。継続サンプルについては、若年者1931名(アタック総数に対する回収率81%)、壮年者974名(同回収率88%)から回答を得た。追加サンプルについては、若年者459名(同回収率66%)、壮年者188名(同回収率75%)から回答を得た。継続サンプルは、調査票の郵送配布、中央調査社の調査員による訪問回収を基本としているが、追加サンプルは、郵送配布郵送回収のため、回収率が全般的に低くなっている。
 この報告では、2015年1月から3月に実施した継続と追加サンプルの調査を合体し、若年と壮年も断りがない限り一緒にして分析をした。(1) 非認知的スキルの経済的効用、 (2) 正規・非正規の雇用形態の違いと仕事の負担、 (3) 結婚・家族・ジェンダーに関する意識や未婚理由とその後の結婚行動の関連、 (4) 資産とその相続・贈与の不平等という4つのトピックについて分析している。

(石田浩)


2.非認知的スキルと社会・経済的達成
 IQ、計算力、論理力といった認知的スキルが、個人の社会・経済的な成功と関連していることは、すでに広く知られている。しかし、最近の研究では、勤勉性、忍耐力、従順さ、などの非認知的な特性についても、社会・経済的な達成と関連のあることが報告されている(Bowles, Gintis, and Osborne 2001; Heckman and Rubinstein 2001; Heckman, Stixrud, and Urzua 2006; Jencks 1979)。そこで、2015年の調査では、非認知的特性を測定する調査項目を取り入れた。下記の項目である。
 あなたが中学生の頃、次のようなことは、どのくらいあてはまりましたか。
  A. 少し体調が悪かったり、休んでよい理由があっても、できるだけ毎日学校に通うよう努力した
  B. 学校で、自分が好きではない勉強にも全力で取り組んだ
  C . なかなか成果が出なくてもあきらめずに、しっかり勉強を続けた

 それぞれの項目について、「1. あてはまる」「2.どちらかといえばあてはまる」「3. どちらかといえばあてはまらない」「4. あてはまらない」の4段階で回答してもらった。Aを「勤勉性」、Bを「まじめさ」、Cを「忍耐力」と呼ぶことにする。これらの非認知的スキルは、中学生の頃の特性だが、その後のライフイベントにより変化することはないことを仮定している(Cobb - Clark and Schurer 2012)。

(1) 非認知的スキルと所得の関連
 非認知的スキルは、人々の所得とどの程度関連しているのだろうか。非認知的スキルの度合い別に個人の平均年間所得を計算すると、図1のようになる。今回測定したすべての非認知的な特性が、所得と関連していることがわかる。「勤勉性」では、最も高いグループ(「1. あてはまる」)と最も低いグループ(「4. あてはまらない」)の違いは、65万円、「まじめさ」では73万円、「忍耐力」では75万円の差がついている。

図1 非認知的スキル別の平均所得(単位:万円)

(2) 非認知的スキルと所得の関連の男女差
 図2図3は男女別に、非認知的スキルと所得の関連を見たものである。非認知的スキルによる所得の違いは、男性の方が女性よりも明らかに大きいことがわかる。非認知的スキルの「最も高いグループ(「1. あてはまる」)と最も低いグループ(「4. あてはまらない」)の違いは、「勤勉性」では、男性136万円に対して女性25万円、「まじめさ」では、男性198万円に対して女性44万円、「忍耐力」では、男性189万円に対して女性54万円、の差がついている。この男女差が生じるひとつの理由は、女性で働く人の半分弱がパート・アルバイト・派遣などの非正規雇用に従事しており、非認知的スキルによる違いが直接所得に反映されないような雇用形態にあることによる。しかし、正規雇用の女性就業者に限ってみても、非認知的な特性の差による所得格差は若干大きくなるが、男性に見られるほどの格差はない。このことは、評価・査定が反映されにくい仕事(「一般職」と呼ばれる仕事)に女性が多く従事していること、雇用主による非認知的スキルに対する評価が、男性と女性では異なることを示唆している可能性がある。つまり非認知的スキルと所得の関連は、非認知的スキルが高ければそれが所得にストレートに反映されるのではなく、仕事の特性や制度の違い、上司や雇用主による評価などが影響を与えている可能性がある。

図2 非認知的スキル別の平均所得(男性・単位:万円)

図3 非認知的スキル別の平均所得(女性・単位:万円)

(3) 非認知的スキルと所得の関連は何により説明されるのか
 非認知的スキルにより生じる所得の違いは、生れ落ちた家庭環境と本人が達成した学歴の違いにより説明されるのかを検証する。非認知的スキルが高い人は、より恵まれた家庭環境に育ってきた傾向があり、非認知的スキルの所得への効果は、恵まれた家庭環境により説明される可能性がある。さらに非認知的スキルが高い人は、より高い学歴レベルを達成する傾向があり、高い学歴は高所得と結びついている。このため達成した学歴を統制すると、非認知的スキルによる違いは減少する可能性がある。
 非認知的スキルを測定する「A勤勉性」「Bまじめさ」「C忍耐力」それぞれの質問について4段階の回答を、「1. あてはまる」「2. どちらかといえばあてはまる」と回答した人を非認知的スキルの高いひと、「3. どちらかといえばあてはまらない」「4. あてはまらない」とした人を非認知的スキルの低いひとと区別した。この2つのグループの間の所得の違いを他の変数をコントロールしたときにどのように変化するかを調べたのが図4から図6である。
図4 変数の統制の有無による勤勉性の所得への効果(単位:万円)

図5 変数の統制の有無によるまじめさの所得への効果(単位:万円)

図6 変数の統制の有無による忍耐力の所得への効果(単位:万円)

 一番左の1のバーが他の変数を何もコントロールしない総効果を示す。真ん中の2のバーは、年齢・年齢2乗、父学歴、母学歴、家庭の豊かさ、本の数といった家庭的背景変数をコントロールしたときの非認知的スキルの効果、最後の3のバーは、さらに学歴をコントロールしたときの非認知的スキルの効果を表す。
 男性では家庭環境の変数をコントロールすることで、非認知的スキルであるA勤勉性、Bまじめさ、C忍耐力の効果は、10-15%ほど減少する。女性については、家庭環境の変数をコントロールすることで、非認知的スキルの効果は4-13%ほど減少する。男女ともに非認知的スキルの効果は、概ね生れ落ちた家庭環境からは独立していると考えることができる。
 真ん中の2のバーと最後の3のバーを比較すると、学歴をコントロールすることにより、非認知的スキルの効果は男性の場合3割(A勤勉性)から5割(Bまじめさ、C忍耐力)ほど減少する。女性の場合には、その効果はA勤勉性で4割、Bまじめさでは8割、C忍耐力では5割ほど減少する。この結果は、非認知的スキルが所得に効果があるのは、非認知的スキルが学歴達成に影響を与え、より良い学歴がより高い所得と関連しているからであることを示している。特に女性のまじめさは、学歴取得を通して高い所得へと繋がっている。
 しかし、男性の場合には非認知的スキルによる違いは学歴をコントロールしても依然として統計的に有意であり、実質的にも大きい。つまり同じ学歴レベルの男性の間でも、非認知的スキルの大小により所得に有意な違いが生じることがわかる。さらに男女ともに、学歴と非認知的スキルの交互作用は確認されず、学歴レベルによって非認知的スキルの効果に違いがあるわけではない。どの学歴レベルの人にとっても非認知的スキルは、所得を上昇させる効果がありそうである。

[引用文献]
 Bowles, Samuel, Herbert Gintis, and Melissa Osborne. 2001. “Incentive-Enhancing Preferences: Personality, Behavior, and Earnings.” American Economic Review 91(2): 155-158.
 Cobb-Clark, Deborah A. and Stefanie Schurer. 2012. “The Stability of Big-Five Personality Traits.” Economic Letters 115(1): 11-15.
 Heckman, James J. and Yona Rubinstein. 2001. “The Importance of Noncognitive Skills: Lessons from the GED testing program.” American Economic Review 91(2): 145-149.
 Heckman, James J., Jora Stixrud, and Sergio Urzua. 2006. "The Effects of Cognitive and Noncognitive Abilities on Labor Market Outcomes and Social Behavior." Journal of Labor Economics 24(3): 411-482.

(石田浩)


3.雇用形態と仕事の負担:正社員ほど突然の残業・休日出勤が多いのか?
 日本では近年、非正規雇用の増加が社会問題となっている。正規雇用と非正規雇用の間には、雇用の安定性の格差だけでなく、賃金水準などの報酬面でも大きな格差が存在していることが、日本の非正規雇用問題をより深刻なものとしている理由の1つと考えられる。
 このような正規/非正規雇用間の報酬格差の一部は、「正規の従業員には突然の残業などが命じられ、それに従うことが期待されるが、非正規の従業員はそれを免除される2」という位置付けの相違に基づいているといえるだろう。非正規の従業員は仕事の負担がより軽く、勤務時間の融通も利きやすいことなどが、正規の従業員と比較しての報酬水準の低さを理由付ける根拠の1つとなっていると考えられるのである(有田 2016)。
 では調査データを通じても、そのような負担の相違は確認できるのであろうか。すなわち、実際に正規の従業員ほど「突然の残業」などが命じられることが多く、非正規雇用はそれが少ない、という顕著な違いが存在しているのであろうか。JLPSの2015年調査には、就業者の勤務の時間やその負担を調べるため、「始業・就業時間が毎日一定している」「始業・就業時間が日によって違う」「裁量労働である」「夜勤・当直・宿直がある」「突然の残業がある」「突然の休日出勤がある」という選択肢のうちあてはまるものをすべて選ぶ、という質問がふくまれている。このうち、勤務時間面での負担や義務にかかわる項目として「突然の残業がある」と「突然の休日出勤がある」に焦点をあて、雇用形態別、あるいは性別・職業別にこれらの項目への回答をみていこう3

 図7は、すべての就業者4に関して、突然の残業、あるいは突然の休日出勤があると答えた比率を性別に示したものである。これによれば、男性では、就業者の33.1%が突然の残業が、また21.6%が突然の休日出勤があると答えている。女性の場合は概して男性よりその比率が低いものの、それでもそれぞれ22.8%、8.3%の対象者が突然の残業、あるいは休日出勤があると答えている。

図7 突然の残業・休日出勤がある比率(性別)

 次に、対象を被雇用者に限定し、雇用形態別に結果を示したものが図8図9である。まず男性について示した図8をみると、突然の残業があると答えた比率は、正社員・正職員では35.2%であるのに対し、パート・アルバイト・契約・臨時・嘱託(以下「パート等」)では29.0%、派遣社員では31.6%とそれより若干低い。突然の残業があると答えた比率は、確かに正社員の方がやや高いものの、その違いは際立って大きなものとはいえないだろう。一方、突然の休日出勤の有無についてみると、こちらは正社員とその他の従業員の間にもう少し大きな差があらわれており、正社員の比率が22.2%であるのに対し、パート等は14.0%、派遣社員は5.3%と低い。
 次に女性について示した図9をみると、突然の残業があると答えた比率は、正社員が28.8%であるのに対して、パート等は18.3%、派遣社員は21.6%と、男性の場合よりも大きな差が生じている。これに対して「突然の休日出勤」はいずれも1割弱となっており、雇用形態による差がほとんどない。このように、女性の場合は「突然の休日出勤」よりも、「突然の残業」の有無に関して、正規と非正規の従業員の間に差が生じているといえる。
図8 雇用形態別にみる突然の残業・休日出勤(男性)

図9 雇用形態別にみる突然の残業・休日出勤(女性)

 ただし、以上のような正規と非正規の従業員の間の相違は、「もともとパートやアルバイトは、突然の残業・休日出勤が多い職種で多く用いられている」というように、雇用形態間での職種構成の違いを要因として生じている可能性も否定できない。このような可能性を考慮し、職種別に正社員とパート等の突然の残業/休日出勤比率を示したのが、表1である5。この表をみると、突然の残業や休日出勤があると答える比率は確かに職種間で異なっており、男性の場合は生産技能・運輸・保安職6で、女性の場合はさらに販売・サービス職でも、これらの比率が高いことがわかる。

表1 職種別・雇用形態別にみる突然の残業/休日出勤の有無

 しかしこの表から同時に読み取れるのは、正社員とパート等の間の突然の残業/休日出勤比率の差の大きさも、職種毎にかなり異なっているという事実である。男性の場合、専門技術・管理・事務職では、突然の残業、休日出勤の比率とも、正社員とパート等の間に10ポイント以上の開きがある。これに対し、販売・サービス職では両者の開きがほとんどみられず、販売・サービス職ではパートやアルバイトなど非正規の従業員であっても、突然の残業や休日出勤が命じられ、実際に応じている就業者の比率は正社員とほとんど変わらないことになる。一方女性の場合は、同じ販売・サービス職でも、突然の残業があるとする比率は、正社員とパート等の間で10数ポイントの開きがあり、また突然の休日出勤の比率も9ポイントほど開きがある7
 以上をまとめれば、突然の残業、あるいは突然の休日出勤があるとする比率は、確かに正規の従業員と非正規の従業員の間で一定の差があるものの、その差は際立って大きなものではないといえるだろう。また職種別に検討すると、男性の場合、販売・サービス職など、比較的非正規雇用が多い職種において、正規と非正規の従業員の間の差が小さいようにみえる。これらの職種においては、非正規の従業員の仕事の負担・義務が正規の従業員のそれとかなり似通っており、両者間の報酬格差を理由付ける根拠の1つと考えられる「正規の従業員には突然の残業命令に従うことが期待されるが、非正規の従業員はそれから免除される」という位置づけの相違は、かならずしも現実を適切に反映したものではなくなってしまっているのかもしれない。今後は、個別の企業の事例研究などを通じて、以上の知見の妥当性をさらに詳細に検討していく必要があるものと考えられる。
 【以下、10月号に続く】

2 さらに勤務地転換(転勤)や職種転換などを含めて、日本の正社員は「包括的な人事権」に服することが期待されているとされる(労働政策研究・研修機構 2013)。
3 項目の中には「始業・就業時間が毎日一定している」「始業・就業時間が日によって違う」という、必ずどちらか一方は選択されるべき正反対の内容のものが含まれていることを利用し、あてはまる項目が1つもないケース(60ケース)は無回答と判断して、分析から除外した。
4 ただし分析の性格上、「裁量労働である」と答えたケースは分析対象から外した。これは以降の分析に関しても同様である。
5 十分なサンプル数が得られない派遣社員は結果表から除き、直接雇用の非正規従業員(パート等)と正社員の値のみを示している。
6 農林漁業や「その他」も含む。
7 もちろん、一部のカテゴリーはサンプル数が十分に多くないことから、以上の結論も暫定的なものとなる。

[引用文献]
 有田伸,2016,『就業機会と報酬格差の社会学――非正規雇用・社会階層の日韓比較』東京大学出版会.
 労働政策研究・研修機構、2013,『「多様な正社員」の人事管理――企業ヒアリング調査から』労働政策研究・研修機構.

(有田伸)