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■「中央調査報(No.524)」より

 ■ ケータイメールな人間関係
                ~文化庁「国語に関する世論調査」の結果を中心に~


 携帯電話機の売切制度が始まったのは1994年のことだが、今や路上や電車の中で携帯電話で話したりメールをやりとりする姿は日常の光景となった。利用者は生活や仕事の必需品として便利さや楽しさを享受している反面、「出会い系」メールの鬱陶しさや「携帯電話」「メル友」がらみの犯罪も発生している。本稿では、文化庁が平成13年1月に実施した「国語に関する世論調査」(1)の結果を中心に、携帯電話・Eメールの利用に関する意識やそこで特徴的な人間関係について、関連する調査結果を概観する。

1.若者で高利用率、携帯電話でのEメールも多い
 文化庁調査は16歳以上の個人を対象としたものだが、調査結果によると「携帯電話(PHSを含む)を利用している」と答えた人の割合は回答者全体の半数近く(46.9%)、Eメールの利用率は25.8%と約4人に1人の割合となっている(表1)
表1

 携帯電話、Eメールとも、男性の方が利用率は高いが、10代では女性の方が高い。20代以下では男女を問わず大多数が携帯電話を所有しているが、年代が上がるにつれて利用率は急激に下がる。特に女性で下がり幅が大きく、30~50代での男女差の大きさが目立つ。
 携帯電話には通話だけでなくEメールの機能もある。Eメール利用者の利用機器は、若い年代ほど携帯電話・PHSを使う割合が高い(図1)。20~40代では携帯電話とパソコンの併用も多いが、高年代ほどパソコンでの割合が高くなる。
図1


2.若者は用件なくても「だらだら」おしゃべり
 携帯電話で話す内容、話し方に関する文化庁調査の結果をみると(図2)、「はっきりした用件のあるときに掛ける」は、全年代で9割以上を占めるが、「要点を簡潔に話す」は30代以上に比べて20代以下でかなり少ない。反対に「特に用件のないおしゃべり」「だらだら話す」は20代以下で多く、30代以上との利用方法の違いが目立つ。高年層では目的を持った短く簡潔な利用を善とする意識が強いのと対照的に、20代以下では用件がなくてもだらだらとおしゃべりをしており、話すこと自体が目的となっている様子がうかがえる。
携帯電話は、比較的限られた人しか番号を知らず、画面に相手の電話番号や名前が表示されるため、いきなり用件に入ることが多い(例「今、大丈夫?」「ごめん、遅れる!」など)。こうした「呼び掛けや自己紹介を省略」は、比較的年代差なく3~4割みられる。これは、家族の間のちょっとした連絡などによるものかもしれない。
図2


3.若者はEメールでも「だらだら」「親しく」
文化庁調査ではEメールの(文章)表現についてもたずねている(表2)。文章の書き方については、「話すような言葉で書く人がいておかしい」より「話すように書けるので思ったことが言いやすい」と思う人の方が圧倒的に多い。文章は「簡潔なやりとりになる」が多く、「だらだら長い文章」は少数派である。Eメールの言葉づかいは「なれなれしくなる人がいて不愉快」と感じる人は少なく、半数以上は「相手と親しくなれる」とポジティブに評価している。顔文字についても「ふざけた感じがして失礼だ」は1割程度で、半数以上は「親しみを感じる」と答えている。男性や中高年では仕事が目的になることが多いためか、いくぶんドライな利用をうかがわせるが、それでも「話し言葉」や「顔文字」に否定的印象を持つ人は少数派である。若年層では携帯電話と同様、「だらだら長い文章」が他年代と比較して多いほか、「親しくなれる」「思ったことが言いやすい」など、相手と気持ちを共有できることへの評価が高くなっている。
表2

4.普段も会う相手と気持ちの共有
 文化庁調査は言葉の使用との関連を主眼にしているので、携帯電話・Eメールの目的や用件・相手などについてはふれていない。1999年に首都圏で行われた調査(2)によれば、若年層に多い携帯電話の利用目的・用件は、「その時あった出来事や気持ちの伝達」「遊びの誘い」「おしゃべり」などである(表3)

 話す相手は、(財)マルチメディア振興センターが行った調査(3)によると、利用者全体では「同居家族」が最も多く、家族の間の連絡などに活用されていることがうかがえるが、20代以下では「同居家族」より「会う友人」の方が多く、「対面でも会うし、さらに携帯電話でもよく話す」友達付き合いの特徴がみられる(表4)
(表3)
表4
 また、携帯電話でのメールのやりとり内容は(3)(4)、最多の「出来事や気持ちの伝達」のほか「用件のないメッセージ」など、緊急性の薄い用件が上位にあがっている(表5)。ちょっとした気持ちや用件を伝えたい時、電話では相手に迷惑かもしれないが、Eメールでならその心配はない。こうした用途と特性が、文化庁調査でみたような「気持ちが伝えやすい」「親しくなれる」など、相手と気楽に気持ちを共有できることへの評価の高さに通底している。

5.携帯電話やEメールを介する関係

 友達付き合いが多くを占める20代以下の携帯電話・Eメール利用には、「いつでもどこでもつながれる状態にありたい」が「お互いに迷惑はかけたくない」という、矛盾する2つの気持がうかがえる。携帯電話・Eメールは、1)直接相手につながる(=互いの家族や周囲に知られない)、2)時間や場所を選ばない(発信者・受信者とも自分の都合で時間や場所をコントロールでき、相手に返事をしない選択もできる)ことで、前述した2つの矛盾する気持をうまく満たしてくれている。
 若者の人間関係について、大人の側から「表層的」とする見方は少なくない。確かに携帯電話やEメールでのおしゃべりに「深さ」は似つかわしくないが、ふだんも会っている相手と携帯電話でも話し、Eメールで気分(これも用件のうち)を伝え合うという、複数のメディアで構築される人間関係は一言に浅いとも言い切れないのではないか。付き合いの深い人とは徹底的にコミュニケーションをとるが、携帯電話に番号登録されていない人とは全く話さない。話したくない相手にはアドレスも教えなかったり、居留守も装える。そんな「深い/浅い」「オン/オフ」が極端にはっきりした、「選択的」な人間関係なのである(5)
 近年、全面的な人付き合いを好まなくなってきているのは若者に限らない、全年代的な傾向であるという(6)。今後は、従来の「会社」「親族」「近所」といった人間関係の内側やその外側で、携帯電話・Eメールなどの新しいコミュニケーションツールによる「選択的」な人間関係がさらに形成されていくのではないだろうか。

(調査部 田渕晴子)


(参考・引用文献)
(1)文化庁(2001)「国語に関する世論調査」
引用の調査は平成13年1月全国の16歳以上男女個人3,000人対象に実施、面接聴取法(有効回収数2,152、回収率73.1%)
(2)三上俊治(2000)「携帯電話の利用行動とマナー」廣井脩・船津衛編『情報通信と社会心理』北樹出版
引用の調査は、1999年1月、(財)マルチメディア振興センターの委託で三上俊治・吉井博明・中村功が実施。首都圏30km圏内居住の15~59歳の男女個人、留置法(有効回収数1,000、回収率65.8%)
(3)(財)マルチメディア振興センター(2000)「インターネット、携帯電話・PHSの高度利用に関する調査研究」
引用の調査は、2000年3月実施、訪問留置法(「2000年日本人の情報行動調査」の回答者より携帯電話・PHS利用者を無作為抽出、413人回収)
(4)中村功(2000)「携帯電話を利用した若者の言語行動と仲間意識」『日本語学』10月号
(5)松田美佐(2000)「若者の友人関係と携帯電話利用-関係希薄化論から選択的関係論へ-」『社会情報学研究』第4号
(6)秋山登代子(1998)「生活目標・生き方」NHK放送文化研究所編『現代日本人の意識構造第4版』NHKブックス