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■「中央調査報(No.575)」より

 ■ (世論調査分析)日本人の「好きな国・嫌いな国」

外交知識普及会常務理事  室谷 克実


 「あなたの好きな国を、リストの中から3つまで挙げてください。では、嫌いな国は」-時事通信社の「好きな国/嫌いな国」の調査が始まったのは1960年6月だ。71年の4、5、7月を除いて、毎月上旬、全国の成人男女2000人を対象に面接聴取法で実施している。
 当初の選択肢は、米国、ソ連(後にロシアに変更)、英国、仏国、西独(後にドイツに変更)、スイス、インド、中国、韓国の9カ国。75年5月からは北朝鮮が追加され現在は10カ国になっている。以下、46年間延べ537ヵ月分の調査結果の概要をお伝えする。


■「米国大好き」の中にあった60年安保
 第1回調査は、「60年安保」の最中だった。「日米安保反対」を叫ぶデモ隊が連日、国会を取り巻き、世情騒然たる状況下だったが、「好きな国」として米国を挙げた比率(以下、「好米派」とする)は47.4%。対象9カ国の中で最高値だった。一方、嫌米派は5.9%に過ぎなかった。
 いわゆる「進歩的文化人」が論壇を闊歩した時代だが、好ソ派は僅か3.3%。逆に嫌ソ派は50.4%に達し9カ国中で最高だった。メディアの上で、「街頭の多数派」(声高な少数)と、「茶の間の多数派」(沈黙の多数)の位置付けが、これほど錯誤されたことも珍しいのではないか。
 第1回調査での「好きな国」ベスト3は米国に続いて英国39.7%、スイス31.9%、「嫌いな国」ワースト3はソ連以下、韓国46.6%、中国34.9%だった。


■象徴的な「転落」のパターン
 調査は「なぜ好き(嫌い)か」の理由は聞いていない。しかし常識的には、身近にいる外国人の言動や、その国に行った時の印象もあろうが、その国に関して回答者の脳裏に蓄積された歴史、メディアにより伝えられた直前に起こったニュースが「好き」「嫌い」を判断させるファクターになっていると思われる。
 どの国に対する「好き/嫌い」も毎月、変動している。小刻みに動きながら、長いスパンで見ると大きな波動になっているのが一般的だ。
 大きく数値が動いた場合は、その直前に必ず何らかの事件がある。ただ、「好き」が大幅に増えた例は国交回復時の中国ぐらいしかない。大幅に動くのは、「嫌い」の増加であり、その場合はほとんどが「好き」の減少を伴う。
 典型と言うよりは劇的な例は仏国の核実験予告だ。
 第1回調査から95年6月までの平均値は好仏派26.0%、嫌仏派1.6%。90年代前半は国際舞台での独特の動きが評価されたためか、95年6月の好仏派は調査開始以来の最高値37.8%を記録していた。
 ところが同月フランス政府が南太平洋での核実験を予告した途端、下のグラフで示す展開となった。9月には好嫌差マイナス16.3ポイント、即ち「日本人の嫌いな国」に転じてしまった。
 好仏派が30%台に回復するのは、一連の核実験の終了から、ほぼ1年経た97年4月だった。98年のインドの核実験でも、調査結果には仏国と同様の動きが見られた。


フランスの好嫌推移

■大儀なき戦争に敏感な世論
 以下、国別に概観する(なお、データが膨大なため数表は以下に簡略化してある)。

 ◆米国
 好米派の最高値は64年1月の51.9%。これは「好きな国」として挙げられた各国の数値の中でも最高値に当たる。振り返れば、テレビがほとんどの家庭に普及し、西部劇と米国ホームドラマが全盛だった時期だ。米国の対日文化戦略がうまくいっていた頃ともいえよう。
 第1回調査から今年8月までの好嫌差の平均値は31.0%で、スイスに次いで2位だ。即ち、スイスを「嫌いな国」として挙げる比率は平均0.3%だが、嫌米派は平均6.3%と無視できない数値を保っている。
 2000年以降の調査を見ると、嫌米派の比率は共産党、社民党支持者で特に高かった。民主党との合併前の自由党でも高い比率を示す月があった。
 ニクソン・ショックに代表される米国の経済措置は、あまり大きな変動要因にはなってこなかった。しかし46年間の毎月調査を見れば、まさに山あり谷ありだ。
 例えば、ベトナム戦争で北爆を開始して以来、米国の好嫌差は低下を続け、73年6月には好米派16.2%、嫌米派14.9%、好嫌差は1.3%まで接近した。しかし、ベトナム戦争の終結を機に次第に回復。その後、9.11同時テロ事件を経て03年3月までは概ね好調だったが、それ以降は好米派の減少傾向が見られる。これはイラクでの戦争のためだろう。

 ◆ロシア
 大都市に次々と革新首長が誕生し、ベ平連が東京・新宿の地下街を占拠した68年1月、好ソ派(94年3月から「ロシア」に)は6.0%に達したが、それが46年余の最高値だ。当時は歌声喫茶が各地にあった。そこでは何故かロシア民謡が盛んに歌われた。情報筋は今、「その裏にはKBGの対日情報心理戦があった」と述べている。
 79年12月、アフガンに軍事介入すると、80年1月からは嫌ソ派が40%台から50%台に跳ね上がった。日本の世論は戦争に敏感だ。大義のない側にはマイナス・ベクトルが働く(例外は米国のグラナダ侵攻ぐらい)。
 サハリン上空での大韓航空機撃墜事件の直後の83年9月には、嫌ソ派は18.9%跳ね上がり68.2%(嫌ソの最高値)に達した。
 ソ連・ロシアは北朝鮮とともに好嫌差がプラスになったことが一度もない国だ。しかしソ連邦崩壊後は、好ロ派が増えることはないものの、嫌ロ派は極めてゆっくりとしたペースで減少を続け、05年4月には初めて10%台に入った。ソ連の裏切り参戦を知る世代が減少していることも、その要因と思われるが、ここ2、3年、60歳以上より50歳代の方に嫌ソ派の比率が高い。

 ◆英国
 好英派の最高値は38.8%(01年7月)、嫌英派の最高値は4.4%(82年6月)、好嫌差の平均値は26.2%。概ね安定した動きだが、82年6月は好英派が14.7%まで激減した。アルゼンチンを相手にしたフォークランド戦争だ。この場合は、大義がどちらにあるかは別として、日本人には「弱い者いじめ」と受け取られたのだろう。
 ダイアナさんの離婚、交通事故死の時期に目立った変動はない。

 ◆仏国
 ポイントは前述したが、調査開始から今年8月までの平均値は好仏派27.3%、嫌仏派2.0%だ。好仏派が減少すると、好スイス派が上昇するケースが時に見られる。

 ◆ドイツ
 92年9月までは西ドイツを調査の選択肢としていた。西ドイツ時代の平均値は好独派14.5%、嫌独派3.5%。統一後は好独派19.7%、嫌独派3.6%。統一後の方が日本人はやや好感を持っている。

 ◆スイス
 日本では殆どニュースになることがない国だ。平均値は好スイス派37.7%で米国に次ぎ2位だが、嫌スイス派は0%の月すらあるほどで、好嫌差ではトップ。「永世中立国」のイメージがもたらす結果だろう。

 ◆インド
 そもそもインドが選択肢に入ったのは、戦後のインドが米ソどちらの陣営にも属さない「非同盟諸国会議」のリーダーだったからだ。安保騒動最中の第1回調査で好印(インド)派が15.8%もいたことは注目に値する。
 好印派は60年代を通じて10%台だったが、度重なる印パ戦争、核実験の度に状況は悪化。45年間をトータルすると、好嫌差はマイナス0.1%だ。

 ◆中国
 72年7月まで好嫌差マイナスを続けてきたが、同8月からプラスに転じた。田中角栄首相の訪中を前にした劇的転換だった。その後、プラス幅が増加し85年7月には好中派が24.7%(最高値)まで達したが、89年6月の天安門事件を境に再びマイナスに転じた。
 中国人留学生や不法滞在者などによる凶悪犯罪の続発が影響しない筈はない。今年3月の過激な反日デモで嫌中派が急増した。

 ◆韓国
 88年ソウル五輪を前に、一部のマスコミは韓国ブームを演出したが、実際には537カ月の調査のうち好嫌差がプラスになったことは3回だけだ。初めは日韓共催によるサッカーワールドカップの直後。そして今年の1、3月。これは「韓流」の累積的効果だろう。
 しかし、3月からの政権主導による反日運動で再びマイナスに。第1回調査から振り返れば好韓派が次第に増えてきているが、好嫌差の平均値はマイナス17.9%だ。

 ◆北朝鮮
 75年5月から選択肢に追加されたが、「嫌いな国トップ」のデビュー。以来、好嫌差が1度もプラスになったことがない。嫌朝派はラングーン爆弾テロ事件、大韓航空機爆破事件、核開発疑惑、拉致事件の公然化、日本の頭越しミサイル発射、偽遺骨…と事件の度に、踊り場から次のステージに上がるように大幅増加している。
 今年5月の嫌朝派は82.6%(調査開始以来の各国通算で最低値)、好嫌差はマイナス82.5%(同最低値)を記録した。因みに、この月の調査で「嫌いな国あり」だった回答者は86.1%。「嫌いな国」の各国合計値は179.0%だった。


表1

■「支持政党別」で見ると多数の突出値が
 98年4月調査からは、居住地区(政令市、市、町村)、男女、10歳単位の年齢階層、職種、学歴、さらには支持政党とのクロス分析データが蓄積されている。
 あまりにも膨大なデータであり、ここでは01年1月と、05年6月の中国と韓国についてのみ比較した。
 01年1月の好中派は12.4%。クロス分析で突出した値が出たのは公明党支持者の23.0%と社民党支持者の17.1%だ。同月の嫌中派は15.9%だが、自由業・管理職では26.8%だった(自由業・管理職の回答は、しばしば「先行指標」となる)。また、民主党支持者でも25.0%だった。逆に社民党支持者では8.6%の低率だった。
 05年6月は、反日デモも一段落していたが、好中派は5年半前の3分の1以下の4.0%に激減。そのクロス分析では社民党支持者の13.3%と共産党支持者の12.5%が突出している。
 同月の嫌中派は、98年4月のほぼ3倍の43.6%に拡大。農林漁業従事者では51.4%、自民党支持者では57.4%、民主党支持者では55.4%が嫌中だった。また高学歴層ほど嫌中の比率が高かった。
 一方、韓国の01年1月は好韓派が5.5%。クロス分析で突出値が出たのは公明党支持者16.4%、共産党支持者9.8%、20歳代8.1%。
 この時の嫌韓派は16.0%。民主党支持者では26.4%、労務職では20.9%だった。
 05年6月の好韓派は4.8%だが、公明党支持者に限定すると13.0%の高率だった。「中年」「女性」に好韓派が特に高いというデータは、過去1年半ほど見ても出てこない。
 同月の嫌韓派は23.5%。老高若低の傾向があり、自民党支持者では32.4%の半面、社民党支持者では13.3%と低かった。
 どこの国が好きか嫌いかは、やはり政党の対外路線と密接に絡んでいるのだろう。


好嫌合計(年平均値)の推移


■「嫌」合計値が増加する不気味
 前述の通り、この調査は好嫌国を3カ国まで挙げてもらっている。従って、回答者全員が3カ国を挙げれば、好○派、嫌○派とも毎月の合計値は300%になる。しかし実際には「なし」回答がある。1カ国しか挙げない人もいる。好○派合計の通算平均は166.8%であり、「好きな国なし」の平均は31.9%だ。「好きな国あり」の回答者は平均2.4カ国程度挙げた計算になる。
 嫌○派合計の通算平均は129.3%。「嫌いな国なし」のそれは38.8%だ。
 通算平均で言えば、そういうことだが、これらの数値も波打っている。山あり谷ありと言うよりは、高潮の観測曲線のように変動している。
 70年代前半は好○派、嫌○派とも合計値が少なく、「好きな国なし」「嫌いな国なし」の回答率が高かった。この時代の日本人は精神的に満ち足りていたのだろうか。それとも無気力だったのだろうか。
 04年後半からは、いわば“北朝鮮効果”で、嫌○派の合計が急上昇し、05年5月には179.0%と過去最高値を記録した。
 北朝鮮、中国、韓国を「嫌いな国」として挙げた比率の合計は、ここ1年間に限定すると130.5%。日本人の「嫌○派」合計の8割に当たる。
 調査開始以来、好○派合計値が嫌○派合計値を下回った月は1度もないが、05年4月には、その差が9.2%まで接近した。嫌○派合計値が好○派合計値を上回る時、日本社会のトータルな心理状態は変わるのか、どうか。この調査のウォッチを続けたい。