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■「中央調査報(No.603)」より

  2008年の展望-日本の政治
           -再編含み、解散時期が焦点-

時事通信社 政治部次長  棚木 真也   

 2008年の日本政治は政界再編含みの展開となりそうだ。年内にも想定される衆院解散・総選挙の時期が、当面最大の焦点となる。参院と同様に、民主党が第1党に躍進すれば、自民、公明両党の連立政権に終止符が打たれ、政権交代が実現。民主党中心の政権が誕生する可能性が高い。一方、自公が過半数を維持した場合は、衆参の「ねじれ」解消に向け、自民党が大連立などを仕掛けるとみられる。


◇ 解散はサミット以降?
 「政治の場面では難行苦行の年だと思う。昨年以上に苦労するかもしれない」。福田康夫首相は7日、経済団のパーティーでこう語った。翌8日には時事通信社など主催の新年互礼会でも「楽な状況ではないので、日々一生懸命尽くしていくしかないと覚悟を決めている」と述べ、政権担当への決意を強調した。
 一方、民主党の小沢一郎代表は元日、東京都内の私邸で開いた新年会で、「衆院解散・総選挙は年内に間違いなく行われる」との見方を示した。その上で「今度の衆院選は最終の決戦だ。(党全体が)火の玉になり、何が何でも(野党で)過半数を制する」と、衆院選を勝利し、政権交代を実現させる意欲を示した。
 戦後、子(ね)年に首相が交代しなかった例は中曽根氏だけ。プロ野球の中日が優勝した翌年には政変がある、というジンクスもある。昨年、中日は日本シリーズで53年ぶりに優勝したこともあってか、今年は「政界の激動」を予測する声が支配的だ。
 首相は衆院解散の時期について「(2008年度)予算案をまず通さなければならない。その上、夏にサミット(主要国首脳会議)もある。議長国の責任を十分果たさなければならない」と、7月の北海道洞爺湖サミット以降に先送りする意向を示している。
 参院で与野党が逆転する中、次期衆院選でも与党が過半数を割り込む事態になれば、政権交代が現実のものとなる。仮に過半数を確保できたとしても、現在の3分の2以上の圧倒的多数の議席が大幅に減るのは間違いなく、参院で否決された重要法案を衆院で再可決することもできなくなる。年金記録漏れ問題や防衛省汚職事件などで内閣支持率が低落しているだけに、首相が早期解散に消極的というのは無理からぬことだ。
 公明党も「秋以降が望ましい」(太田昭宏代表)との立場だ。昨年は参院選で後退した上、春には統一地方選も行われたため、支持母体の創価学会に早期解散・総選挙を避けたいとの意向があるとされる。一方、2009年には東京都議会議員選挙が控えている。同党は都議選を重視し、総力戦を展開する方針で、同年の総選挙には否定的とされる。このため、衆院解散は2008年中に行われるとの見方が強い。

◇ 乗り切れるか「3月決戦」
  最大の問題は、通常国会を乗り切れるかどうかだ。焦点は、揮発油(ガソリン)税の暫定税率維持を含む租税特別措置法改正案の処理で、勝負どころは3月下旬。この時期は、該当者不明の5000万件の年金記録の照合期限でもあり、与野党は「3月決戦」に向けて、激しい攻防を展開する見通しだ。
 同改正案の成立が4月以降にずれ込むと、暫定税率が一時的に廃止され、原油高で高騰したガソリン価格が1リットル当たり約25円値下がりする計算となる。その後、再び価格が上がる事態になれば世論の与党批判は避けられないとみられ、政府・与党は同改正案の年度内成立に全力を挙げる方針だ。一方、民主党は暫定税率の廃止を主張して与党と対決する。
 同改正案を成立させるには、衆院で3分の2以上による再可決が不可欠となる公算だ。これに対し、民主党は福田康夫首相に対する問責決議案を提出して可決。衆院解散・総選挙に追い込む戦略を描いている。問責には法的効力はないものの、国民世論が解散要求に傾けば、首相も抗し切れなくなることもあり得る。
 このため、与党は世論対策に万全を期す方針。暫定税率の期限が切れ、本来の税率に戻ると、国・地方合わせて年間2兆7千億円の歳入不足が生じる。この点を説明し、暫定税率維持に国民の理解を得たい考えだ。民主党内には、暫定税率廃止に反対する勢力があり、採決に際し同党から造反者が出る可能性もある。与党はこうした民主党の弱点を突き、揺さぶる構えだ。
 内閣支持率が極端に下がれば、首相退陣というケースも全くは否定できなくなる。その場合は、自民党総裁選が行われ、後継総裁を選出することになる。麻生太郎前幹事長や谷垣禎一政調会長が浮上しそうだ。

◇ 大連立構想の再燃も
  2007年12月29日時点で、次期総選挙に向けて、小選挙区と比例代表合わせて764人が立候補を準備している。衆院定数は480。次期総選挙で公明党が30議席、共産、社民、国民新党などが30議席獲得すると仮定すると、残り360を自民、民主両党で奪い合うことになる。
 自公が、前回の郵政選挙で獲得した3分の2以上の議席を確保することは困難な情勢だ。民主党が議席を伸ばすのは必至とみられる。その中で自公が過半数を確保できれば、自公政権は継続する。ただ、衆参のねじれ状況は変わらないため、自民党は政治の安定を目指し、まず民主党との大連立を模索することになろう。
 民主党の小沢一郎代表は昨年11月、首相との党首会談で、いったんは大連立で合意した。民主党の役員会で反対され撤回し、現在は否定している。ただ、その後も「民主党が(政権に)加わることにより、自民党政権に絶対にできないことが実現できるとしたら、国民は喜ぶ。支援がより集まると、今もわたし自身はそう思っている」と発言している。
 総選挙で「自公政権の継続」という民意が示された場合、ねじれ解消を目指す動きが強まるのは必至とみられる。大連立構想が再燃する余地もある。ただ、政府・与党内にも「あと一歩で政権を奪取できるかもしれないという状況下で、民主党が大連立に応じるだろうか」(政府筋)と疑問視する声も聞かれる。
 また、公明党は、大連立によって影響力が大きく低下するのは必至とあって、同党内には警戒感が強い。浜四津敏子代表代行は、民主党分裂による「中連立」を期待している。


◇ 民主党中心の政権誕生も
 自公が過半数割れすれば、民主党中心の政権が誕生する可能性が出てくる。同党が単独過半数を得られなくても、衆院で第1党になるとみられるためだ。小沢氏は第1党になれば、野党全体では「ほぼ過半数」と指摘し、「野党政権ということですっきりする」と語る。また、「(300小選挙区で)最低150議席取れば第1党になれる。150以上の小選挙区で勝つことを絶対の目標にしたい」と強調している。
 民主党中心の政権となる場合、首相候補が焦点となる。小沢氏が就任するのが常識的だが、場合によっては菅直人代表代行や鳩山由紀夫幹事長が浮上するとの見方もある。小沢氏の健康問題がその理由だ。
 小沢氏は自民党竹下派の会長代行だった1991年6月、緊急入院し、「狭心症」と診断された。政府・与党に「衆院本会議への欠席が目立つ」と批判されたのに対し、記者会見で「食事をしてすぐに仕事に取り掛からないよう医師から忠告されたため」と釈明したこともある。
 場合によっては、自民党の切り崩しを狙って、同党議員を首相候補として擁立することも考えられる。自社さ連立の村山政権発足の際、小沢氏は対抗して自民党の海部俊樹元首相を担いだことがある。
 「野党になれば自民党はもろい」(自民党ベテラン議員)。民主第1党という事態になれば、自民党から離党者が出て、崩れ始めると予測する向きは多い。また、公明党の動向に関しては「民主党とすぐに連立を組むことはないと思うが、自民党とともに冷や飯を食う、ということにはならないだろう」(同)との見方が出ている。当面は「是々非々」で臨み、いずれかの時点で政権に参加する可能性が指摘されている。
 「健全な保守」による新党結成に向け、想を練る平沼赳夫元経済産業相の動向からも目が離せない。平沼氏には、自公も民主党も過半数を確保できないケースを想定し、総選挙後、第3極として政局への影響力を行使したいとの思惑があるとみられる。無所属の立場で、民主党若手との交流を深める一方、自民党の中川昭一元政調会長が発足させた「真・保守政策研究会」で最高顧問に就任した。
 総選挙後は、その結果にかかわらず、再編含みの展開となりそうだ。第1党の座を確保した方が主導権を握る。それだけに政府・与党は衆院解散に向け、万全の態勢を敷く考えだ。首相は「福田カラー」を鮮明にするため、内閣改造のタイミングも計る。2008年度予算案や関連法案処理後や通常国会閉幕後、サミット後などの時期が検討されそうだ。

◇ サミットで外交得点狙う
 外交面では、7月の洞爺湖サミットの準備や日朝関係の打開など懸案が山積している。サミットでは地球温暖化防止に向け、G8をどこまで束ねられるか。首相の力量が問われる。
 昨年12月にインドネシア・バリで開かれた国連気候変動枠組み条約第13回締約国会議(COP3)で、「ポスト京都議定書」に向けたロードマップ(行程表)策定をめぐり、欧州連合(EU)が数値目標設定を主張。米国は反対し、対立した。サミットまでに、EUと米国の溝をいかに解消するかが課題だ。
 首相が衆院解散をサミット以降にしたいとの意向を示すのは、サミットで外交得点を稼ぎ、有利な状況をつくる狙いもある。
 また、日中関係では、春に胡錦濤国家主席が訪日する。首相としては両国の「戦略的互恵関係」を深め、得点を上げたい考えだ。胡主席来日までに、東シナ海ガス田問題を決着できるかが焦点となる。
 こう着している北朝鮮との関係を打開することも大きなテーマだ。米国による北朝鮮のテロ支援国家指定解除問題は、日本にとって引き続き懸念材料だ。「非核化で成果が上がれば、拉致問題が進展しなくても米国は解除に踏み切る」(外務省筋)との見方は消えない。拉致問題での進展を図るため、対話重視の姿勢を示す首相だが、視界は開けていない。
 自民党の山崎拓前副総裁は「北朝鮮の核放棄のために一肌も二肌も脱ぎたい」と語っている。対話重視の福田首相を評価し、自ら北朝鮮に乗り込むタイミングを探る。日本の安全保障の観点から早期の日朝国交正常化を図るべきだというのが山崎氏の主張だ。
 山崎氏は自民党外交調査会長を務めており、同調査会の下に朝鮮半島問題小委員会を設置した。自ら最高顧問に就任するとともに、委員長には首相に近い衛藤征士郎元防衛庁長官を充てた。日朝関係の打開を目指す姿勢を鮮明にすることで、北朝鮮の軟化を期待している。