中央調査報

トップページ  >  中央調査報  >  以前の調査  >  耐久財の変容(インデックス調査でみる50年)
■「中央調査報(No.614)」より

■ 耐久財の変容(インデックス調査でみる50年)


 世帯インデックス調査は、中央調査社が創立直後から継続実施している自主企画調査である。1956年にBBR(ブランド・バロメーター・リポート)調査として開始しているが、二人以上普通世帯の3万件を対象に年2回、訪問留置方式で実施する調査設計に落ち着いたのは1959年からである。そこを起点とみれば今年でちょうど満50歳になる。
 この間、日本の社会は戦後の高成長期から成熟した高度消費社会に移行し、石油ショック後のスタグフレーションや円高ショックからバブル経済、その崩壊後の「失われた10年」を経て、深刻な少子高齢化・人口減少社会を迎えるに至っているが、こうした社会経済の変貌を映しながら、ほぼ半世紀にわたって耐久財消費の基本データを提供してきたことになる。主要な耐久財品目は銘柄・型別まで含めた保有・購入全般を調査し、その他できるだけ多くの各種品目について保有の有無を調査している。
 途中、1988年にサンプル数を3万から2万5千とし、調査票もイラストを入れるなど調査設計の変更を施した。さらに1995年には各年3月と9月に年2回実施していたものを3月のみ年1回に変更するとともに大都市圏の単身世帯調査(エリアサンプリング方式による1500対象完了)も加えることとし、このときに名称を「世帯インデックス調査」に変えている。また、2004年調査からは二人以上世帯調査も住宅地図から18000世帯を選ぶ方式に移行している。こうした設計変更を経ているものの精度の高い定量調査に必要とされる大規模サンプルは維持しているため、全国や地域ブロックベースでの時系列変化をたどるには十分である。今回、二人以上普通世帯の保有状況の推移について概観していくこととし、10年ごとの年代別にどのような品目がよく普及しているか、各年代の最初と最後を比較して伸び率が高く、かつ最終年に保有率が30%を超えているものをとりあげることにした。

注)各年の保有率として60~80年代は各年9月調査と翌年3月調査結果を単純平均した数値を、90年代以降は各年の3月調査の結果を用いている。88年の調査票変更により時系列上、不整合が生じた分については修正値を用いて考察した。



1.60年代(図1)
 直前の1959年(昭和34年)の主な耐久財保有率は、戦後最初の3種の神器といわれたもののうち、白黒テレビが25.5%、洗濯機が24.8%といずれも初期普及を抜け出そうする段階であった。冷蔵庫や掃除機についてはそれぞれ6.1%、3.7%と10%にも満たない水準でようやく登場したばかりのところである。電気炊飯器(19.6.%)、扇風機(21.0%)、電気こたつ(19.1.%)などはこれより高いがまだ3割に満たない保有率である。この時期に耐久財といえるもので保有率が高かったものとしては、自転車(76.0%)、ホームラジオ(85.6%)、ミシン(61.2%)、アイロン(74.8%)などホームラジオ以外は電気製品ではないものが中心で、従来から家庭にあるものだった。
 しかし高度成長経済が本格的に展開した60年代に、家庭用電化製品は急激に各家庭に浸透した。60年代の最終年である1969年の保有率は、白黒テレビ92.7%、洗濯機90.8%、冷蔵庫89.3%となりこれらについてはほぼ9割以上の家庭に浸透した。電気炊飯器は55.2%であるが、あとから登場したガス炊飯器を合わせると69年には98.1%と100%近くまで普及している。扇風機(83.4%)や電気こたつ(79.7%)も8割前後とあと一息のところである。掃除機はやや遅れて63.1%となお普及途上で、石油ストーブ(70.7%)も7割に達したところであるが、いずれも70年代半ばには保有率が9割を超えている。このほかにも伸び率が高いものは多く、グラフの13品目は69年の保有率が30%以上で、最初の59年に比べて3倍以上となったものである。(途中から調査開始のものを含む)


図1



2.70年代(図2)
 この時期3種の神器ともてはやされたのは「カー・クーラー・カラーテレビ」のいわゆる3Cである。69年に乗用車の保有率は21.3%、エアコン(クーラー専用を含む)は5.4%、カラーテレビは21.1%であったが、79年にはそれぞれ55.6%、40.6%、98.4%となっており、とりわけカラーテレビはきわめて急速に普及したことがわかる。ちなみにカラーテレビが品目として登場した1967年の保有率は3.3%、これが90%を超えたのは1975年の93.3%で8年あまりの短期間で瞬く間にほぼ全世帯への普及を終えたことになる。カラーテレビは白黒テレビの高機能タイプへの買い替えであるから、必ずしも新しい財の登場とはいえないのではないかという考え方もできるが、新しい機能によって次々に古いものが淘汰されたり、新たな機能が追加されて複合機能化したりして独立した商品ジャンルが生まれていく。当初のラジオとプレーヤーから、ステレオ(当初は「ラジオ組込み電蓄」)が登場、さらにFMチューナーなどがついてコンポステレオ化したり、テープレコーダー単体からラジオに搭載されてラジカセとしてひとつの独立した商品となったりしている。娯楽用機器や音響機器はとくにこうした傾向が顕著である。
 エアコンは70年代には初期普及段階であるが、きわめて高い伸び率を示し、79年に4割台にのせている。乗用車は高価格であり必ずしも必需品といえないためか、以後の普及スピードもそれほど急激ではなく、現在に至っても保有率は7割台である。70年代には、他にも様々な家庭用機器の生まれたことが注目される。伸び率の高い順は、トップのエアコン、2位のカラーテレビに次いで換気扇、ガス湯沸かし器、乗用車、電気毛布、ガスレンジ、ヘアドライヤー、ステンレス流し台、ガスレンジなどとなっている。とくに住宅関連の機器の普及が目立っているが、戦後生まれ世代が成人して新しい世帯を形成、大都市を中心に住宅事情の改善と洋式化がすすんだことを背景に、新しい生活スタイルに対応した設備機器が利用されていったことを反映している。こうした中で調査対象とする品目の数も増加の一途をたどり、69年には43品目だったものが79年には84品目にほぼ倍増している。
 グラフでは79年の保有率が30%以上で69年に比べて1.5倍以上となったものを示した。(以後の各年代も同様)


図2



3.80年代(図3)
 70年代における二度の石油ショックとインフレを経て80年代には成長率が低下、消費の成熟化、高度化の時代に入った。基礎的耐久財もほぼいきわたり高機能、新機能商品の登場と普及が焦点になっていった。典型的なのはVTRで、79年の保有率1.8%が89年には73.0%まで上昇、92年に8割を超えている。ホットプレート、電子レンジの新型電気調理器具とエアコンもこの時期に70%前後の普及水準に達した。電気ストーブと洗面化粧台は、約半数の家庭が保有するようになり、電気カーペットと電気コーヒーメーカーは40%前後の普及率となった。伸び率ではVTRがとびぬけて高く、ホットプレートと電子レンジ、電気カーペットがこれに次いでいる。
 80年代でも引き続いて調査対象品目が増加し、79年の約85品目が89年には125品目となっている。VTRや電子レンジなどもその一種であるが、80年代の後半あたりから新しいエレクトロニクス技術が家庭用消費財に応用されるようになり、多種多様な商品が登場し始めたことが影響している。89年の保有率で主なものを拾うと、ビデオカメラ(5.4%)、ビデオディスク(10.1%)、ワープロ(22.2%)、パソコン(11.1%)、カラオケ専用機(15.3%)、電磁調理器(9.5%)、電動もちつき機(32.1%)などがある。温水洗浄便座(8.7%)や空気清浄機(6.5%)などの新しい住宅関連機器も出回り始めている。


図3



4.90年代(図4)
 90年代は携帯電話の急速な普及がみられ、91年の1.9%から99年には62.7%に急上昇していることが目立つ。洗面化粧台と電気カーペット、ジャー式ポットは少しずつではあるが着実に上昇し99年には7割前後に達している。それ以外では衛星放送受信装置(2.5%→36.2%)、ファクシミリ(2.9%→30.6%)、温水洗浄便座(7.2%→37.6%)などの伸びが高く、パソコン(10.8%→30.2%)も一定のペースで順調に保有率を伸ばした。しかしこれらの機器も最終年の保有率は30~50%程度にとどまっている。ニーズの限定されるデジタル血圧計、ふとん乾燥機、また、パソコンとの競合でやがて消滅していくワープロなど、期間半ばで停滞傾向を示しているものもあり総じて緩慢な動きとなっているが、バブル崩壊後の長期にわたる消費低迷が影響しているのかもしれない。


図4



5.2000年代(図5)
 21世紀に入ってからの8年で最も特徴的なのは、携帯電話が90年代にひきつづき順調に普及し、2007年に9割を超えほぼ飽和点に達したこと、また、パソコン、デジタルカメラといった電子機器が本格的に家庭へ入ってきたことである。パソコンとデジタルカメラは08年で保有率7割の水準まできており、パソコンはやや伸び悩んでいるが、デジタルカメラはさらに伸びていく気配である。ファクシミリは5割を超え、カーナビも高い伸び率をみせ4割程度の保有率となっている。
 このほかには温水洗浄便座と体脂肪計の健康関連機器が着実に保有率を伸ばしている。
 しかし、全体としてとりあげる基準を満たす品目は他の年代に比べてかなり少ないことも目立っている。


図5



終わりに
 約50年間にわたる耐久財の保有状況の動きをみてきたが、いうまでもなく普及水準や伸び率だけで語れることは多くはない。技術革新により古いものから新しいものへ絶えず変化していく中で、高機能化、大型化、複数保有(パーソナル化)などが進展し世帯の消費構造は時代がすすむにつれ深みを増している。例えば冷蔵庫では1990年に350l超の比較的大きい容量のものを保有している世帯の割合は19.3%であったのに対し、2000年は53.5%、直近の2008年は66.7%を占めるに至っている。テレビの大型化も薄型テレビの登場でさらに促進され、地上波のデジタル化と相俟って新たな世代交代の時期を迎えている。
 品目の数に着目すると、1990年調査で対象としていた品目は細かいものまで含めて121品目であったが、2008年調査では170品目までに増加している。このうち保有率が50%以上の品目の数は39品目から45品目に増加している。(図)
 一方、世帯の特性のうち家族人数についてみると、家族2人の世帯の比率は90年に19.6%とほぼ2割であったが、08年には31.6%と3割を超えるなど、単身世帯の増加とあわせて器としての世帯の大きさは小さくなる方向へ変化していく傾向にある。高齢化もすすみ、世帯主年齢が60歳以上の世帯は90年の19.0%から08年の37.4%に増加している。こうした社会の構造変化が今後の耐久財の消費動向にどのように影響してくるのか注目されるところである。

(開発部長 村尾 望)