中央調査報

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■「中央調査報(No.617)」より

 ■ 「高齢者日常生活継続調査」の概要

国際長寿センター  

1.調査の目的
 国際長寿センターは1990年に設立され、少子高齢化に伴う諸問題を学際的な視点で調査研究し、 広く啓発および政策提言を行う活動を続けている。
 本調査研究においては、高齢者の日常生活を丁寧に観察し、その経年変化を追跡することによって見 えてくる実像の分析から、後期高齢者の「自立を支えるもの」を明らかにすることを目指している。

2.調査方法
1)対象
 調査は、IADLが全項目において自立している首都圏在住の75歳から79歳の一人暮らしあるいは 夫婦世帯の在宅高齢者300名をスタート段階において対象としている。
2)期間
 2004年度から2008年度まで訪問面接法により年1回の調査を実施する。
3)調査・研究方法と調査項目
 高齢者の自立生活を促進させたり遅らせたりする要因は社会学的・心理学的・医学的等のさまざま な領域にまたがっている。本調査では以下の概念枠組みを視座とした。

図1

 調査項目の設定は以下のとおりである。
(1)行動 Behavior
①活動 activity:外出頻度、外出先、自動車や自転車の利用、家庭での役割等。
②意識 consciousness:生活満足度、介護保険の利用、活動への意欲等。
(2)個人要因 Person
①健康 health:入院および通院、疾患、転倒の有無、主観的健康感、健康習慣等。
②経済 economy:最長職と従事年数、年収、最終学歴、生活資金源等。
③家族 family:別居子、孫との交流に関する設問等。
(3)環境要因 Environment
①住居 residence:居住形態、寝室と居間の状況、住宅改修の有無等。
②地域 locality:地域への愛着、生活の便、交流、ソーシャル・サポート等。
③情報 information:医療福祉に関する情報の収集、困った時の連絡先等。
(4)活動水準の指標 Index
①IADL:Lawtonの自己評価版を本委員会で翻訳し一部改変したものを用いた。
②ADL:LawtonのADL評価項目を参考に日本人の生活習慣に合うよう翻訳したものを用いた。

3.これまでの調査結果から
 調査対象はあらかじめ「男性一人暮らし」「男性夫婦二人暮らし」「女性一人暮らし」「女性夫婦二人 暮らし」の4つの「暮らし方タイプ」グループに分け、生活の中の変化量を把握していくこととしている。 以下では、第1回から第4回までの継続調査を踏まえ、途中経過の報告ではあるがその中で明らかにな りつつある結果のうちからいくつかを示すこととする。

1)暮らし方の変化(N=222)
表1

 スタート段階では300名の対象者であったが、死亡(4.3%)等の理由により継続的対象者は減少して いる。暮らし方に変化がなかったのは「男性一人暮らし」82.6%、「男性夫婦二人暮らし」89.2%、「女性 一人暮らし」89.7%、「女性夫婦二人暮らし」77.1%で、「女性夫婦二人暮らし」配偶者に先立たれ、一人 暮らしになったと思われる人の比率が高い。

2)生活機能の変化
表2

 IADLについては、その時系列的な変化をみるために、「できる」と回答した人には100点、「手助け があればできる」には50点、「できない」には0点として、暮らし方別に経年的な変化を得点の平均値 で表して有意な経年変化の有無を見た。結果は、いずれの指標ともに「男性夫婦二人暮らし」で機能の 低下がみられる。上の表は「電車・バスなどを使っての一人の外出」の例である。

3)外出頻度
表3

 外出の頻度を、「ほとんど毎日外出」5点、「週に4~5日外出」4点、「週に2~ 3日外出」3点、「週 に1日あるいは数回」2点、「ほとんど毎日外出しない」1点として算出すると、「男性夫婦二人暮らし」と「女 性夫婦二人暮らし」で外出得点が有意に低下してきていた。配偶者との共同生活では、寄り添う相手の いることや役割分担ができることなどにより、身体機能にあわせて、必然的に外出の頻度が減少する ものと考えられる。以上では「夫婦二人暮らし」のみ例示した。

4)過去1年間の通院の経験
表4

 過去1年間の通院の経験についてみると、「男性夫婦二人暮らし」と「女性一人暮らし」で通院経験が 有意に増加していた。表では割愛しているが通院した疾病をみると、男女ともに高血圧がもっとも多く、 がん、前立腺肥大、糖尿病は「男性夫婦二人暮らし」で多かった。白内障・緑内障は女性で多く、骨粗 鬆症や骨折が女性で多いのは当然のことであり、これに関係して腰痛・関節痛も女性で多かった。通 院頻度は「女性一人暮らし」でもっとも多く、「男性一人暮らし」でもっとも少なかった。概して、女性 の方が医療機関に通院する率が高く、とくに一人暮らしの女性では多いことを示していた。

5)気持ちの変化
表5

 「最近小さな事を気にする」では、「男性一人暮らし」で有意に得点が減少し、くよくよする人が減って いた。一方、「男性夫婦二人暮らし」で、有意に得点が増加し、くよくよする人が増えていた。「人生に 満足している」では、「男性夫婦二人暮らし」で有意に得点が減少し、人生の満足度が低下してきていた。

6)収入
表6

 年収120万円以下の低所得者は「女性一人暮らし」で多い。年収500万円以上の所得の高い人は「男 性夫婦二人暮らし」で多かった。

7)まとめ
 簡単に4つの暮らし方の特徴を整理してみると以下のようにまとめられる。
 二人暮らしの男性は年収は比較的高いが、やや病気がちであり、生活満足度も低めであり、機能低 下も来しやすい。そこには、配偶者を頼り切っている男の姿が映し出される。一方、一人暮らしの男 性は健康習慣にはあまり気配りせず、しかし気分的にはわりきっており、小さいことにくよくよせず、 就労収入を得ている人も多く、現役に近い生活者が多いためか元気さが見えてくる。一人暮らしの女 性では、収入はもっとも少なく、高血圧による通院は多いが、元気である。一人暮らしの女性にあまり 大きな変化は起こっていないことがわかる。夫婦二人暮らしであった女性では、配偶者の死亡による 一人暮らしや子や他との同居が増えてくる。

4.調査研究委員
(主査)橋本 泰子(大正大学・名誉教授)
(委員)浅海奈津美(北里大学・講師)
奥山 正司(東京経済大学・教授)
小田 泰宏(藍野大学・教授)
鈴木  晃(国立保健医療科学院・健康住宅室長)
辻 彼南雄(ライフケアシステム・メディカルディレクター)
中村  敬(大正大学・教授)
松田  修(東京学芸大学・准教授)