中央調査報

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■「中央調査報(No.649)」より

 ■ 中高生の喫煙状況と2010年のタバコの値上げの影響

尾崎 米厚(鳥取大学医学部環境予防医学分野)
大井田 隆(日本大学医学部公衆衛生学)
兼板 佳孝(日本大学医学部公衆衛生学)
宗澤 岳史(日本大学医学部公衆衛生学)
池田 真紀(日本大学医学部公衆衛生学)
神田 秀幸(福島県立医科大学衛生学・予防医学)
簑輪 眞澄(簔輪疫学研究所)
鈴木 健二(鈴木メンタルクリニック)
樋口  進(久里浜アルコール症センター)


はじめに
 未成年者の喫煙は、将来の成人の健康問題につながる重要な、健康関連要因である。国としてその問題を継続的にモニタリングすることは必須である。わが国では、いままでに1996,2000,2004,2007、2008年と中高生を対象にした全国調査が行われてきた。今回、2010年度調査として、わが国の中高生の喫煙及び飲酒行動の実態と関連要因を明らかにし、対策の評価と推進方策を検討することを目的に全校調査を実施した。今回の調査結果は、厚生労働省が推進する健康日本21の最終評価の評価指標として活用される。
 また、2010年10月1日より、タバコ税の税率の引き上げ(1本当たり3.5円)に伴いメーカーの上乗せ分を含め一箱20本当たり110円から120円程度の価格の上昇がもたらされた。世界的には、未成年者の喫煙を防止するのに最も効果的な方法は、価格の値上げだといわれるが、わが国でその効果がどの程度現れたかを検討することも目的とする。
 本研究は、平成20年度および平成22年度の厚生労働科学研究費補助金(循環器疾患等生活習慣病対策総合研究事業):未成年者の喫煙・飲酒状況に関する実態調査研究 (研究代表者 大井田隆(日本大学医学部公衆衛生学分野 教授)の「未成年者の喫煙・飲酒状況に関する実態調査研究」によるものである。

対象と方法
 全国学校総覧を用いて全国の中学校より131校、高等学校より113校を無作為抽出し、対象校に調査票を送付した。調査内容(2008年、2010年)は、喫煙・飲酒行動、ニコチン依存度、喫煙・飲酒行動の要因などで両年とも同じ調査項目であった。2008年および2010年調査は9月に対象校を抽出し、10月初旬に調査の依頼、調査票送付をした。学校における調査の実施期間は、11-12月であったが、一部1-2月に実施したところもあった。これらは、10月の値上げ後少なくとも1-2か月経過した後といえる。2010年の対象中学校の131校、高等学校113校のうち調査に2011年3月末までに回答し、入力した中学校は89校(68%)、高等学校は81校(72%)であり、計98,867名の回答があった(表1)。現在喫煙率の定義は、この30日間に1日でも喫煙したものの割合とした。毎日喫煙率は、この30日間に30日喫煙したものの割合とした。調査票の配布、回収および回収されたデータの入力等は、中央調査社により行われた。

表1


調査結果及び考察
 中高生の喫煙率(経験率、現在喫煙率、毎日喫煙率)は男女とも調査のたびに、概ね減少してきた(図1)。また、飲酒率(経験率、月飲酒率、週飲酒率)も男女とも調査のたびに、概ね減少してきた(図2)。ただし、飲酒経験率は、近年男子より女子が高くなっていることは大きな問題として注目に値する。

図1


図2


 中高生の喫煙率が減少し続けていることは、将来のわが国の成人の喫煙率抑制につながり、喫煙に起因する疾病量の減少をもたらすことが期待され、良い傾向である。健康日本21の最終評価においても改善傾向が顕著な優秀な指標の一つに数えられている。
 2010年調査では、喫煙経験率、現在喫煙率、毎日喫煙率は、中学男子で10.2%、2.5%、0.7%、中学女子で、7.2%、1.5%、0.3%となった。高校男子では、19.5%、7.1%、3.5%となり、高校女子では、12.5%。3.5%、1.4%となった。女子より男子で喫煙率は高いが、その差は縮まりつつある。また、2000年以降顕著となった喫煙率の減少傾向は、今回も今までと同じような傾向で継続した。すなわち、今回の値上げの直後において今までの減少傾向をさらに加速させる減少までは確認されなかった。2007年の全国調査において、中高生の現在喫煙者に一箱が320円(当時一箱300円として)または600円になったらどうするかを尋ねたとき、喫煙を止めると回答した割合は、320円では、男子6.7%、女子5.6%、600円で、男子27.4%、女子20.8%であった(中央調査社報613号)ことを考えると、価格の上昇で止めると思う割合よりは実際に上昇したときに止める割合は少ないのかもしれない。また、調査時期が値上げの時期から近すぎた可能性もあり今後もモニタリングしていく必要がある。

以前は喫煙していたが禁煙した率と禁煙した理由
 今回の調査で禁煙した率は全体の4.6%であるが、2010年10月1日(タバコの値段が上がる)より以前に禁煙した人の比率3.9%、10月1日以降に禁煙した人0.7%であった。それぞれのなかでタバコをやめた理由を「お金の節約、タバコの値段が高い」と回答した比率はその2群間では10月1日以降群では39.7%と10月1日以前群12.1%に比べて高かった(図3)。したがって、全体の喫煙率に反映するほどではないが、少数の値上げによる禁煙者はいると考えられる。


図3

毎日喫煙者の1日平均本数
 2008年と2010年の毎日喫煙者の1日の平均喫煙本数は21本以上が20.5%から17.5%に、反対に1-5本は17.5%が20.3%になった。2008年と2010年では統計学的に有意に差が認められる。経年的な変化を詳細にみる必要があるが、今回の値上げで少し喫煙本数が減った可能性が示唆される。

タバコが買いにくくなった理由
 月喫煙者でタバコを買いにくくなった理由として「タバコの値段が高くなった」と回答した人が2008年:21.6%、2010年:56.2%であり(図4)、同様に毎日喫煙では2008年:23.4%、2010年:65.8%とタバコの値上げによる影響が考えられる。

図4

 このようにタバコ税の値上げに伴うタバコ価格の上昇は中高生の「タバコが高くなり買いにくくなった」という認識を増やし、喫煙量を減らし、喫煙率を少し減少させた効果があったと推定された。先進諸国でも、タバコの価格の上昇は喫煙率の低下効果はあると報告されている。成人では、禁煙者が増え、したがって喫煙率が下がるとされる。当初はニコチン依存度が高い人では喫煙率が下がりにくいが時間がたってくると下がってくるようである。ただし、この効果は低・中所得諸国で顕著であり、高所得国では影響は小さいとの報告もある。また、年齢が若い層では、価格の上昇により敏感に反応する(喫煙しなくなる)と報告されている。このようにみると、先進諸国でもタバコ価格の上昇は未成年者の喫煙率を下げる効果が大きいと期待されるが、今回の調査結果はそれほどでもなかった。これは、調査の時期が値上げから1-2か月後だった影響もありうるので、今後も継続的にモニタリング調査をしていく必要がある。

タスポを使ったタバコの入手
 月喫煙でタスポを使ってタバコを入手した人が2008年:29.2%、2010年:45.5%となり、同様に毎日喫煙では2008年:41.7%、2010年:63.3%になった。タスポの入手方法をみると月喫煙、毎日喫煙とも「家族以外から借りた」比率が高く、それ以外の理由も2010年の方が2008年よりも高かった。未成年者の喫煙防止対策の一環として、2008年7月より「taspo(タスポ)」対応の「ICカード方式成人識別たばこ自動販売機」を全国で稼働開始したが、その効果が薄くなっていると考えられる。

毎日喫煙者におけるタスポの使用有無と1日平均喫煙本数
 2010年調査において、毎日喫煙者のタスポ使用の有無別の1日の平均喫煙本数を見ると、1日の本数とタスポ使用には関連性があると考えられる(タスポ使用者の本数が多い)。

まとめ
 2008年、2010年の調査によって、2010年10月のタバコの値上げが中高生の喫煙行動を抑制する方向に影響を及ぼしたことが推測された。しかし、その効果の大きさは大きなものでなかったかもしれない。一方、2008年7月より未成年者の喫煙防止対策の一環として導入されたタスポがその機能を失いつつあることが示唆された。タバコ税のさらなる値上げを含めた、今後の未成年者の喫煙防止対策の強化が望まれる。