■ 「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)2017」から見えてくる 若年・壮年者の働き方、生活時間、世代間支援の実態(後編) 石田 浩(東京大学社会科学研究所) 要 約 2007年から2017年にかけて、帰宅時刻が平 均的に早まっていることが図12から読み取れる。 男性の場合は20時頃の帰宅が19時台に早まり、 女性は18時後半から18時頃への帰宅時刻になっ ている13。帰宅時刻の早まりは、結婚や出産な ど、家族形成にかかわるライフイベントが背景と なっていると思われる(詳細な分析結果は省略)。 JLPSは同一個人を対象とするパネル調査で あるため、同じ個人の帰宅時刻の変化を把握す ることも可能である。図13と図14は男女それ ぞれについて、ある時点tから2年後の時点t+2 にかけて、帰宅時刻がいつからいつへ変化し たのかを示すグラフである(横軸はケース数)。 2007年から2017年までの合計で最も多い帰 宅時刻は17-19時台であり、男女共通である。 また、「特に決まっていない」を除くと、次に多 いのは20-22時台である。働く人々の大半が、 この時間帯に帰宅しているということを意味し ている。したがって、これらの帰宅時刻区分か らの変化が、平均時刻の変化に大きく寄与して いるということになる。女性については13-16 時台に帰宅するケースが男性よりも多いが、こ れはパートや短時間勤務などを反映したものと いえるだろう。 男性では、17-19時台に帰宅していた2511 ケースのうち、408ケース(16%)が2年後に20 -22時台の帰宅となっている。一方、20-22 時台に帰宅していた2378ケースのうち440ケー ス(19%)が17-19時台の帰宅時刻に変化して いる。さらに遅い23-25時台(443ケース)に ついても、158ケース(36%)が20-22時台の 帰宅時刻に変化している。なかには帰宅時刻が 遅くなっているケースもあるが、帰宅時刻が早 くなっているケースのほうが多いため、平均時 刻の早まりにつながっているといえる。女性に ついても男性と類似の傾向がみられる。しかし、 時点tから時点t+2にかけて17-19時台に変化 する傾向は、男性よりも顕著かもしれない。 配偶者がいるケースについて、夫と妻の帰宅 時刻はどのような関係にあるのだろうか。図15 と図16は男性、女性サンプルそれぞれについ て集計をおこなった結果である(2007年から 2017年までのデータをすべてプールした集計結 果)。図15の「本人」は夫、「配偶者」は妻を、 図16の「本人」は妻、「配偶者」は夫を意味している。 男性サンプルで明らかなのは、夫(対象者本人) の帰宅時刻が遅いほど妻(対象者の配偶者)の無 業率が高いということである。妻が無業の場合 には夫に稼得役割の期待がかかるため、残業代 などを収入に織り込む必要の生じることが、帰 宅時刻が遅くなることの背景の一つであろう。 女性サンプルについては、妻(対象者本人)の 帰宅時刻が遅いほど夫の帰宅時刻も遅いという 傾向がみられる。また、いずれの妻の帰宅時刻 でも、夫の帰宅時刻が20時以降であるケースが 大半を占めていることも特徴的である。 (3) 友人や家族と関わる頻度と帰宅時刻の関係 ここまでの分析で、男女ともに帰宅時刻が平 均して数十分程度早くなっていること、17-19 時台の帰宅が多くの有業者にあてはまっている ことが明らかとなった。ここからは、友人・恋 人との交際や家族との関わりの頻度の変化が、 帰宅時刻の変化と関係しているのかについて分 析をおこなう。 JLPSでは、普段の生活でどのような活動を おこなっているのかを尋ねている。そのうち、「友 人・恋人(配偶者を除く)と食事・会話」、「夫婦 で一緒に食事をする」「夫婦で話をする」(有配 偶者のみに質問)、「子どもと遊ぶ」(子どものい る対象者のみに質問、2014年以降)の頻度を、 友人や家族との関わりの指標として用いる。表2 は、それぞれの平均値と標準偏差を男女別に示 したものである。 表2に示した変数を従属変数とする固定効果 モデルの推定結果を表3に示した。固定効果モ デルを用いることで、帰宅時刻が変化したとき に友人・家族との関わりの頻度が変化している のかを直接検証することができる。表3の注に記 載したとおり、帰宅時刻や従属変数に関連する と思われる他の要因についても、独立変数とし てモデルに含めている(推定結果は省略)。 全体的に男性のほうが、自身の帰宅時刻の変 化に伴い友人や家族との関わりの頻度も変化し やすいといえる。労働時間や通勤時間の影響を コントロールした後でも、17-19時台の帰宅 に比べ、より遅い時間帯に帰宅するようになる 場合、友人や家族と関わる頻度が減少している。 帰宅時刻と交際が弾力的な関係にあるというこ とは、男性は早い帰宅によって社会ネットワーク を維持するための時間資源を得られていると考 えられる。13-16時台の帰宅で夫婦での食事や 会話の頻度が大きく減少しているが、これは三 交代制などの働き方により、夫婦で顔を合わせ る時間が少ないことに起因すると想像される14。 一方、女性の分析結果からは、自分自身の帰 宅時刻よりも配偶者(夫)の帰宅時刻のほうが交 際活動と関連しているようにみえる。統計的に は10%の有意水準となるが、「友人・恋人と会 話」に対する配偶者の23-25時台帰宅の係数は プラスに有意である。これは、夫が17-19時 台から23-25時台の帰宅時刻に変化した場合、 友人との会話頻度が月あたり平均で1.26日増加 することを意味している。有配偶女性にとって は、夫の遅い帰宅で夫婦間コミュニケーション の頻度が減少する一方で、「亭主元気で留守が良 い」という面もあるのかもしれない。 変化するケースの多い17-19時台と20-22 時台のあいだに焦点をあてて、表2の分析結果 をグラフにしたものが図17である。この図は、 帰宅時刻の変化の意味が男女で異なることを視 覚的に示したものである。棒グラフが下向きに 伸びている場合、帰宅時刻が遅くなることで頻 度が減少していることを意味し、上向きの場合 は増加していることを意味している。 有業の男性にとって、自分の早い帰宅が時間 資源の獲得につながっている可能性があると先 に述べた。言い換えれば、友人や家族とコミュ ニケーションをとることは、時間があればでき る余暇活動であり、早めの帰宅によって余暇時 間を獲得できている可能性がある。 一方、有業の女性にとっては、早めの帰宅が 必ずしも友人や家族と過ごす機会の確保にはつ ながっていない。有業男性とのあいだでのこの ような違いの背景の一つは、帰宅後の女性の生 活行動に求められるだろう。配偶者の有無にか かわらず、女性は男性よりも家計生産活動の頻 度が多い(詳細な結果は省略)。女性の帰宅後の 時間の多くが家事・育児に充てられる結果、帰 宅時刻にかかわらず余暇時間の確保が難しいと いう事情があるのだと思われる。 配偶者のいる有業女性の場合、生活時間に影 響を与えるのは配偶者(夫)の帰宅時刻のようで ある。夫の帰宅が遅くなる場合、夕食を別々に とることになりやすい。また、妻の側も次の日 の仕事に備えて遅くまで起きているわけにはい かず、会話の機会もとりにくくなるのだろう。 以上の分析結果から得られる示唆は、早帰り が社会的な活動の面でもたらすものがそれなり に大きいことである。有業男性が少し早めに帰 宅することは、友人・恋人との交際や、家族と のコミュニケーションの機会を確保することに ある程度貢献している。有業女性についても、 配偶者(夫)がいる場合は、夫が早めに帰宅する ことで夫婦間のコミュニケーションの頻度が増 加していることから、男性側の帰宅時刻の変化 が間接的に影響を及ぼしているといえるだろう。 早帰りを実現する上で、仕事量が減らないこと や残業代などの収入の減少は確かに課題である。 しかし、これらを理由にして早帰りを一面的に 批判するのは必ずしも得策ではない。むしろ、 早帰りを受け入れられるような業務量、収入そ の他の待遇の調整を、生活時間の問題と同時に 検討してゆくことが求められる。 13雇用形態などを考慮していない平均であることには注意が必要である。 14就寝時刻や家を出る時刻などから推測した。 [引用文献] ○藤野善久・堀江正知・寶珠山務・筒井隆夫・田中 弥生,2006,「労働時間と精神的負担との関連に ついての体系的文献レビュー」『産業衛生学雑誌』 48(4): 87-97. ○ Ishida, Hiroshi, 2013, “Inequality in Workplace Conditions and Health Outcomes.” Industrial Health, 51(5): 501-513. (石田賢示)
5 .親から子への支援、子から親への支援 図19は、親からの支援の有無を従属変数とす るロジスティック回帰分析の結果を示したもの である。それぞれの独立変数の推定値と95%の 信頼区間を示してある。信頼区間がゼロに接し ていない推定値が有意なものである。性別と年 齢の効果に加え、婚姻関係、回答者の学歴、出 身家庭の豊かさが有意な影響を与えている。既 婚者・離死別者は未婚者に比べ親からの支援を 受けやすく、回答者が高等教育を受けていると 受けていない場合に比べ支援を受けやすい。さ らに回答者が15歳頃の家庭が豊かであると、貧 しい家庭に比べて親から支援を受けやすい。 図20は、親への支援の有無を従属変数とする ロジスティック回帰分析の結果を示したもので ある。親への支援については、女性の方が男性 よりも親への支援をしやすく、年齢が高い方が 支援しやすい。しかし、親からの支援とは対照 的に、学歴や出身家庭の豊かさによって親への 支援に違いはみられない。 (2) 親からの支援と親への支援の内容 次に親からの支援の内容について詳細に検討 してみる。図21は年齢グループ別に親からの支 援内容の違いをみたものである。30歳代の若年 グループでは、日常の家事支援、子どもの世話、 仕送りが他の年齢グループと比べて相対的に高 い。これは、若年グループでは未婚者の比率が 高く、未婚者の支援内容は日常家事支援と仕送 りに特化していることによる。40歳代グループ では、子どもに関する支援(子どもの世話、出産 祝い、教育資金)が高いことがわかる。 図22は、対象者が15歳の時の家庭の豊かさ 別に親からの支援内容を示したものであり、親世 代の経済的資源の影響を表していると考えてよ いであろう。仕送りと住宅資金以外の支援内容 については、一様に家庭の経済状況が豊かであ ればあるほど、親からの支援を受ける比率が高 いことがわかる。特に日常家事と子どもの世話に ついては、親の経済的豊かさによる格差が大き い。仕送りについては、親世代が貧しい場合には、 子どもへの支援比率が一番高く、子ども世代が 経済的に困窮している可能性を示唆している。 最後に、対象者から親世代への支援の内容に ついて検討する。図23は、年齢グループ別に親 への支援内容の詳細を示したものである。買い 物や家事といった日常生活の支援は、どの年齢 層でも比較的高く、回答者の年齢による違いは みられない。お中元などの季節の贈り物は、年 齢が高くなるにつれて送る比率が上昇している。 通院・病気の世話は、45-50歳層で最も高く、 これは親の年齢も高いことが主要な要因である と考えられる。入院費用や家の改修費用への援 助は、どの年齢層でもほとんどみられない。 親への支援内容は、親世代の経済的な資源で はそれほど明確な違いがみられないが、調査回 答者である子世代の経済的状況により支援内容 に多少の違いがみられる。図24は、調査対象者 に対して「現在のお宅の暮らしむきは、この中の どれにあたるでしょうか」という質問をしたとき の回答別に親への支援の内容を示したものであ る。買い物、家事といった日常生活への支援は、 「やや貧しい」と回答した層で一番比率が高い。 これに対してお中元などの季節の贈り物、仕送 りといった経済的な支援は、最も豊かな層での 比率が高い。子どもの経済状況に応じて、出来 る形の支援を提供している可能性がある。入院・ 老人ホームなどへの入所費用の援助は、最も貧 しい層で相対的に比率が高いが、その比率は 3.4%に過ぎない。この点は、親世代が貧しいた めに、子ども世代が貧しくとも支援が必要であっ たためかもしれない。通院や病気のときの世話 については、子ども世代の経済状況では差がで ていない。総じて言うと、子どもの経済状況に より親への支援が大きく異なる傾向はあまり見 られない。 以上の分析結果をまとめると、若年・壮年男 性では、6割強が親からの支援を受けており、女 性では7割が支援を受けている。親への支援に ついても男性の5割強、女性の6割強が支援を 提供している。女性の方が男性よりも支援を受 けやすく、支援を行いやすい。年齢別にみると、 30歳代の若年層の方が親からの支援を受けやす いが、親への支援は年齢別に違いはみられない。 ただ通院や病気の世話は、親の年齢が高いと考 えられる40歳代壮年層で高い。親から支援を受 ける確率は、出身家庭の経済的豊かさ、子ども 世代の学歴と関連があるが、親への支援はこれ らの要因と明確な関連はみられない。 15この1年間に支援を受けたり行った経験がない人の中には、両親・義理の両親がすでに死別している人 も極小数だが含まれている可能性がある。 [引用文献] ○国立社会保障人口問題研究所,2001,『世帯内 単身者に関する実態調査』国立社会保障人口問 題研究所. ○宮本みち子・岩上真珠・山田昌弘,1997,『未 婚化社会の親子関係』有斐閣. ○田中慶子・嶋崎尚子,2016,「中期親子関係の 良好度」稲葉昭英・保田時男・田渕六郎・田中 重人編『日本の家族1999-2009 全国家族 調査[NFRJ]による計量社会学』東京大学出 版会. ○山田昌弘,1999,『パラサイト・シングルの時 代』筑摩書房. ○保田時男,2017,「成人した子どもと親との関 係」永田夏未・松本洋人編『入門 家族社会学』 新泉社. (石田浩)
6 .おわりに (石田浩) |