中央調査報

トップページ  >  中央調査報   >  「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)2018」からわかる若年・壮年者の暮らしむき、介護、社会ネットワークの実態(後編)
■「中央調査報(No.744)」より

 ■ 「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査(JLPS)2018」からわかる
 若年・壮年者の暮らしむき、介護、社会ネットワークの実態(後編)


石田  浩(東京大学社会科学研究所)
大久保将貴(東京大学社会科学研究所)
石田 賢示(東京大学社会科学研究所)


要 約
 東京大学社会科学研究所では、同じ対象者を継続的に追跡する「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査」を2007年から毎年実施している。2018年に実施した調査を用いた基礎的な分析を、(1)世代間の暮らしむきの変化、(2)介護が就業と健康に与える影響、(3)社会ネットワーク規模の変化、という3つのトピックに関して行った。知見は次の通りである。第1のテーマでは、暮らしむきが世代間で変化しているのかに着目した。親世代との比較では、暮らしむきは「より豊か」「同じ」「より貧しい」の回答がほぼ3等分している。子ども世代との比較では、「自分と同じくらい」の回答がほぼ半分を占めており、残りは「自分よりも豊か」と「自分よりも貧しい」がほぼ半々となっている。暮らしむきの世代間比較に影響を与える要因としては、回答者の現在の経済環境とともに、15歳時点での出身家庭の豊かさが重要な参照基準となっているようである。第2に介護に関する分析では、介護をしている人の割合は調査年(年齢)を経るごとに増加している。女性については、配偶者の有無によって介護をしている人の割合に大きな差はない一方で、配偶者のいない男性は、配偶者のいる男性に比べて、介護をしている人の割合が高い。介護と就業の関連については、女性のみ、介護に直面すると就業を中断する傾向があることがわかった。介護と健康の関連については、女性においてのみ介護はメンタルヘルスに負の影響を与えている。第3のテーマである社会ネットワークの分析では、2009年から2018年にかけ、対面で会話をする人、電話・携帯で会話をする人の数や分布にはほとんど変化がなかった。一方、メールをする人の数はこの9年間で微増していた。全体的には変化が小さかったが、個人内での変化については人数が増加した人も減少した人もいる。人数の増減の背景要因を探ると、就業していなかったり子どもがいなかったりするとネットワークの縮小につながることが明らかとなった。一方、仕事以外でのインターネット利用はネットワーク規模には関連していなかった。また、家族・親族、友人・知人、そしてそれらの関係を通じて紹介してもらえる人々がどのような職業についているかに関する質問を用いた分析もおこなった。とりわけ専門的、管理的職業の知り合いがいるかに着目すると、対象者本人の社会的、経済的状況だけでなく、15歳時の父親の職業という出身背景要因も影響することがわかった。これらのつながりの有無が対象者の現在の仕事環境とも一部関連しているという結果も得られた。1
【注:当稿は9月号前編、10月号後編として2カ月に分けて紹介する】

1
本稿は、東京大学社会科学研究所パネル調査プロジェクト・ディスカッションペーパーシリーズ No .112 「パネル調査から見る暮らしむき、社会ネットワーク、介護:「働き方とライフスタイルの変化に関する全国調査2018」の結果から」(2019 年6月)を修正し、執筆したものである。本稿は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金基盤研究(S)(18103003, 22223005)、特別推進研究(25000001, 18H05204)の助成を受けて行った研究成果の一部である。東京大学社会科学研究所パネル調査の実施にあたっては社会科学研究所研究資金、(株)アウトソーシングからの奨学寄付金を受けた。調査は一般社団法人中央調査社に委託して実施した。パネル調査データの使用にあたっては社会科学研究所パネル調査運営委員会の許可を受けた。


4.社会ネットワーク規模の変化とその背景
(1)社会的孤立と社会ネットワーク

 近年、社会的孤立が社会問題としてしばしば話題にのぼっている。社会的孤立の定義にはさまざまなものがありうるが、日常生活のなかで他者との接触機会がきわめて少ない状態を指すという点は共通している。社会的孤立とその影響については、特に高齢者を対象とする研究領域(老年学や疫学)において蓄積が厚く、高齢社会化に対する問題意識の強い日本もフィールドとして例外ではない(Fiori et al. 2008; Saito et al. 2012)。これらの研究では、家族や友人・知人、近隣住民などとの接触機会の多寡・増減がメンタルヘルスや健康状態などのウェルビーイングにどのような影響を与えているのかについて、国際比較やパネル調査データ分析による検証が重ねられている。
 上記の研究で明らかになってきたのは、さまざまな条件による影響の差こそあれ、社会的孤立がウェルビーイングに対して負の影響をもたらすという知見である。社会的孤立は社会経済的地位(SES)やライフコース上でのさまざまな出来事(ライフイベント)を通じて生じうることが知られている(Ajrouch et al. 2005; Kalmijn 2012)。SESの変化やライフイベントの発生に伴う個人の役割の獲得・喪失を背景として社会ネットワーク(日常的に接触機会のある人間関係)の規模が変化し、社会ネットワークから切り離されてしまった状態が社会的孤立であるといえるだろう。そして、社会的孤立は孤独感などさまざまなストレスを生み、個人の行動や心理的な状態に悪影響を及ぼすと考えられている(Coyle et al. 2012)。
 社会問題としての孤立は高齢者を対象として研究、議論されてきたが、孤立が生活状況とどのように関連しているのかという問題意識は、若年・壮年者のライフコースにおいても重要である。若年・壮年期には、キャリア移動、家族形成などをはじめとするライフイベントが生じる。ライフイベントのなかには、社会ネットワークの規模を拡げるものもあれば、縮小させるものもあると考えられる。たとえば、労働市場への参加機会と社会的孤立の関連に関心を持つ研究が存在し、無業状態であることと社会的孤立あるいは社会的なサポートの得にくさとのあいだに対応のあることが指摘されている(玄田 2014; 石田 2017)。また、就業、家族など社会ネットワークの基盤となる要因のあり方が多様になった社会状況下で(Brinton 2011)、社会ネットワーク形成の機会にも格差が生じている可能性がありうる。社会的孤立とネットワーク規模の小ささは必ずしも一対一の関係にはないが、社会ネットワークの縮小は社会的孤立の潜在的リスクを高める要因となっているとここでは想定する。
 東大社研パネルでは2009年の調査で社会ネットワーク規模に関する質問を設けていた。今回の2018年調査でも同様の質問を設け、二時点間で社会ネットワーク規模がどのように変化し、その変化の背景として何が考えられるのかを検証できるようになった。本節では、社会ネットワーク規模の変化の背景を探るとともに、同じく東大社研パネルで継続的に質問されているインターネット利用頻度とネットワーク構成の関連についても簡単に確認してみたい。

(2) 2009年から2018年にかけての社会ネットワーク規模の変化
 社会ネットワークの規模は、「あなたは、毎日平均して何人くらいの方と日常的に接触がありますか」という質問文で尋ねられている。この質問に対し、「A.直接会ってあいさつや会話をする人」(直接)、「B.電話・携帯により会話をする人」(電話・携帯)、「C.携帯・パソコン等によりメールをする人」(メール)の3種類の人数を対象者が回答する形式となっている。なお、この間のスマートフォン、タブレット型端末の普及2にともなうSNSやメッセージアプリの利用拡大を鑑み、2018年の調査では「メール」について「C.携帯・パソコン等によりメール(LINE等を含む)をする人」と項目を若干修正している。
 図10は、2009年と2018年のそれぞれについて、直接、電話・携帯、メールで日常的に接触する人数の分布を、箱ひげ図で表している。図中の箱の下辺は25パーセンタイル値、中の辺は50パーセンタイル値(中央値)、上辺は75パーセンタイル値を意味しており、箱の上下の縦線(ひげ)は外れ値を含まない最大値、最小値までの分布を示している。社会ネットワーク規模の分布はしばしば人数の多い部分に裾が長い形状となり、図10の集計結果も例外ではない。このような分布のもとでは平均値が外れ値の影響を大きく受けるため、四分位数などによる集計のほうが全体をより正確に表現できる。

図10 3種類の社会ネットワーク規模の箱ひげ図

 直接会ってあいさつや会話をする人の数の分布をみると、2009年と2018年のあいだでほとんど違いのないことが視覚的にも明らかである。中央値はいずれも10人であり、9年間で「直接」の規模は拡大も縮小もしていないことがわかる。また、25パーセンタイル値、75パーセンタイル値はそれぞれ5人、20人であり、こちらも2時点間で同じである。
 やや変化が見られるのは「電話・携帯」と「メール」である。2009年から2018年にかけて、「電話・携帯」の中央値が変化していない一方、「メール」の中央値は2人から3人に増加している。また、いずれの社会ネットワーク規模についても、分布自体は2時点間でやや拡がっているように見える。このことは、オンラインで維持される社会ネットワーク規模の個人差が大きくなっていることを意味している。
 これら3種類の社会ネットワーク規模のあいだでは、「直接」の規模が最も大きい。「電話・携帯」や「メール」について、人数の多い方向に分布が伸びていることは、2009年から2018年にかけてのネット社会化の進展を反映しているのかもしれない。しかし、社会ネットワークの絶対的水準という点からは、依然として対面(face to face)の人間関係が中心的位置を占めているといえるだろう。
 分布全体での2時点間の変化は図10で確認したとおりだが、JLPSはパネルデータであるため、同一個人についての2時点間の変化の分布を調べることもできる。それを示したものが表1である。それぞれの社会ネットワークについて、増加、減少を経験している者がほぼ半分ずついると読み取れる。「メール」については増加の方向に変化の分布が伸びているので、平均的には規模が拡大しているのだと解釈できる。
表1 2009年・2018年のあいだでの3種類の社会ネットワーク規模の変化(単位は人)

 それでは、それぞれの社会ネットワークの規模が拡大、あるいは縮小する人の背景についてみてゆこう。図11から図13は、先にみた「直接」「電話・携帯」「メール」の社会ネットワーク規模の増減を従属変数とする中央値回帰分析の結果である。この方法を用いたのは、表1には含まれていない外れ値を含めて適切に背景要因とネットワーク規模の増減の関連を明らかにするためである。図中のマーカーは独立変数の推定値、エラーバーは推定値の95%信頼区間を示しており、これがゼロにかかっていない場合、5%水準で統計的に有意な係数であると判断して解釈を進める。なお、09年の3種のネットワーク規模は、平均への回帰効果を統制するために独立変数として用いているため、特に解釈しない。
図11 「直接会ってあいさつや会話をする人」の変化に関する中央値回帰分析の結果

図12 「電話・携帯により会話をする人」の変化に関する中央値回帰分析の結果

図13 「携帯・パソコン等によりメールをする人」の変化に関する中央値回帰分析の結果

 まず「直接会ってあいさつや会話をする人」の変化に関する分析結果をみてみよう。2009年時点で相対的に高い年齢層であると規模が縮小しており(「23-30歳」と比較して)、男性と比べて女性において規模が拡大している。最終学歴については、高校と比べて大学・大学院である場合、規模が拡大している。これらの結果は、国内外における社会ネットワーク規模に関する先行研究の知見とも整合的である(石黒 2011; Andersson 2018)。就業状態については、09年から18年にかけて2時点とも有業であった場合に対する他の場合における中央値の増減を示している。これをみると、就業状態のいずれのパターンも規模を縮小する方向に作用しているが、係数の絶対値は「有業→無業」「無業→無業」でより大きい。このことは、9年間で仕事を失う、あるいは無業の状態が継続することで社会ネットワークが縮小する傾向を意味している。他には、09年から18年にかけて子どもがいなくなることで、ネットワークの規模が縮小する結果が得られた(「子どもなし→子どもなし」と比較して)。一方、「子どもあり→子どもあり」では規模が拡大しており、子どもを介した人間関係が対面的な社会ネットワークにとって重要な位置を占めていることがわかる。他の独立変数については、5%水準では有意な係数を示さなかった。
 「電話・携帯により会話をする人」の変化については、女性のほうが男性よりも規模を縮小させやすい。就業状態の変化については「直接」の結果とほぼ同様に、無業への移行や無業の継続がネットワークを縮小させる結果となっている。子どもの有無の変化についても、09年から18年にかけて子どもがいなくなることで、ネットワークが縮小する傾向となっている。他の種類のネットワークとの違いは、健康状態の主観的評価が改善している場合、「電話・携帯」の社会ネットワークの規模が拡大することである。なぜこの種類のネットワークでのみ確認されたのかは不明だが、健康状態の悪化によって社交の機会が減じる可能性は十分に考えられるため、それほど不自然な結果ではないだろう。その他の独立変数は、5%水準で統計的に有意ではない。
 そして「携帯・パソコン等によりメールする人」の変化については、09年時点での年齢層が40歳超である場合に規模が縮小する結果となった。就業状態の変化との関連については、他の2種類の社会ネットワークと同様の結果を示している。子どもの有無の変化については「子どもあり→子どもあり」の場合のみが統計的にプラスに有意な結果を示しているが、先述の通り子どもの存在が社会ネットワーク拡大の背景となっているという解釈とは矛盾しない。居住形態については、09年から18年にかけて持家を保有することになったことで、「メール」型の社会ネットワークが拡大するという結果となった。その他の変数については、5%水準で統計的に有意ではなかった。

(3)小括
 社会ネットワークの変化の背景について、3種類のネットワークのあいだで共通するのは就業状態の変化と子どもの有無の変化であった。この点は、労働市場への参加や、子どもを介した地域社会等への参加が、若年・壮年者のネットワーク形成機会の基盤となっている可能性を示唆している。特に、仕事や子どもを持つようになることではなく、それらを持たなくなる(≒失う)ことの影響であることは、パネル調査データを用いるからこそ得られた知見だといえる。就業機会については、いずれの種類のネットワークに関する分析でも、再度労働市場に参加することで社会ネットワーク規模が回復するという結果は得られなかった。子どもの有無については、子どものいる状態の継続により確かに社会ネットワーク規模は拡大する。しかし、中央値の増減幅という点からは、子どもがいない状態になる場合のほうが規模に対する絶対的影響が大きいことも確認できている。ライフイベントが社会ネットワーク規模に与える影響の非対称性については、今後詳細な検討を重ねる余地が残っているといえるだろう。
 一方、仕事以外でのインターネット利用頻度の変化については、いずれの種類のネットワークに対しても統計的に有意な効果を持っていなかった。昨今、日本だけでなく多くの社会で「ネット社会化」「デジタル社会化」が生じていると言われることも多くなってきた。しかしながら、少なくとも日常的な接触を持つ社会ネットワークの規模に対しては、プライベートでのインターネット利用増加による影響が限定的であると解釈できる3。2009年から2018年はインターネットの利用環境が大きく進展した期間だといえるが、社会ネットワーク形成という面に限定すると、新たな人間関係の形成機会を創出しているとはいえない。ただし、ここでの分析結果はインターネット利用頻度というきわめて大雑把な測定の仕方にもとづくものである。利用するサービス、機能の違いにより社会ネットワーク規模に及ぼす影響が異なるか否かについては、今後検討する余地が残っている。

2総務省の「通信利用動向調査」の結果によれば、スマートフォン、タブレット型端末の保有率は2010年末でそれぞれ9.7%、7.2%であるのに対し、2016年末には71.8%、34.4%に増加している。
3仕事以外でのインターネット利用平均日数をJLPSデータから計算すると、2009年で15日であるのに対し、2018年には23日である。

参考文献
○Ajrouch, K. J., A. Y. Blandon, and T. C. Antonucci, 2005, “Social Networks among Men and Women: The Effects of Age and Socioeconomic Status,” Journals of Gerontology: SOCIAL SCIENCES 60B (6): S311.S317.
○Andersson, Matthew A., 2018, “Higher Education, Bigger Networks? Differences by Family Socioeconomic Background and Network Measures,” Socius : Sociological Research for a Dynamic World 4:237802311879721.
○Brinton, Mary C., 2011, Lost in Transition: Youth, Work, and Instability in Postindustrial Japan, Cambridge: Cambridge University Press.
○Coyle, Caitlin E. and Elizabeth Dugan, 2012,“Social Isolation, Loneliness and Health among Older Adults,” Journal of Aging and Health 24(8): 1346.63.
○Fiori, Katherine L., Toni C. Antonucci, and Hiroko Akiyama, 2008, “Profiles of Social Relations among Older Adults: A Cross-Cultural Approach,” Ageing and Society 28(2): 203.31.
○玄田有史, 2014, 『孤立無業(SNEP)』日本経済新聞出版社.
○石田賢示, 2017,「 社会的孤立と無業の悪循環」石田浩編『教育とキャリア』勁草書房, 194-216.
○石黒格, 2011,「 分位点回帰分析を用いた知人数の分析―分布の差異を予測する」『理論と方法』26(2): 389-403.
○Kalmijn, Matthijs, 2012, “Longitudinal Analyses of the Effects of Age, Marriage, and Parenthood on Social Contacts and Support,” Advances in Life Course Research 17(4): 177-90.
○Saito, Masashige, Naoki Kondo, Katsunori Kondo, Toshiyuki Ojima, and Hiroshi Hirai, 2012, “Gender Differences on the Impacts of Social Exclusion on Mortality among Older Japanese: AGES Cohort Study,” Social Science and Medicine 75(5): 940-45.

(石田 賢示)


5 . 社会ネットワークの職業構成と働き方への影響
(1)「誰を知っているか」という視点からのアプローチ

 ここまで、どのような要因が知り合いの数の増 減と関連しているのかを検討してきた。一方、社 会ネットワークを通して人々の生活について考え る場合には、「どれくらいの知り合いがいるか」と いう規模の側面とは異なる視点もある。その一つ が「誰を知っているか」という、ネットワークを構 成する他者の異質性に注目する視点である。
 先にみた社会ネットワークの規模は、ある個 人が周囲の人々とつながる機会の程度として解 釈することが可能である。そのように考えれば、 社会ネットワーク規模の小ささは社会的孤立リ スクの高さをあらわす一つの指標だとみなすこ とができる。孤立に焦点を当てて何らかの社会 問題について議論するならば、規模に注目する ことが有用だろう。
 しかし、人々の社会ネットワークの構造を規 模の次元に縮約することで見えなくなる情報も ある。それは「誰とつながっているかという」側 面である。規模への着目は、社会ネットワーク を構成する他者の違いをひとまず等閑視するこ とを同時に意味する。社会ネットワークの何に 注目すべきなのかは課題・目的の中身によるた め、そのことがただちに問題となるわけではな い。しかし、どのような人々により人間関係が 構成されているのかが関心事の一つであるなら ば、知り合いの多寡の情報では不十分である。  誰を知っているかが重要である身近な例の一 つは「コネ入社」と呼ばれる就職の仕方であろう。 「コネ入社」は親類その他の縁故の紹介により職 を見つけることを意味しており、求職活動の手 段としても一般的である4。「コネ」がしばしば批 判されるのは学校卒業後の新卒就職の場面にお いてであり、親類や直接・間接の知り合いの口 添え・紹介を通じて就職することは不公平だと 言われることがある。その是非はさておき、知 り合いの誰しもが「コネ」として影響力を発揮す るわけではない。縁故による口添え・紹介が有 効であるのは、その人物が何らかの社会的な影 響力を持っているためである。権力や社会的信 用度の高さなど影響力が何に由来するのかはさ まざまであると思われるが、その「コネ」が容易 に無視できない存在であることはおそらく確か であろう。
 「コネ入社」のような例でなくとも、個々人の生 活にとって社会的な影響力を持つ人々とのつな がりは資源となる。各種の援助・支援のみならず、 日常的な会話などでやり取りされる情報のなか には希少性、価値の両方が高いものもあるだろ う。誰を知っているかによってこうした種々の資 源の量、獲得の早さが変わり、格差の発生とも 関わりが生じてくると考えられるのである。  以上の問題意識は日本社会だけでなく、中 国や欧米を対象とした研究でも存在する (Moerbeek and Flap 2008; Mc Donald et al. 2009; Bian 2019)。日本社会を対象とした 研究としては、入職経路としての社会ネットワー クの効果に注目した研究はいくつか存在するが (石田 2009)、社会ネットワーク内部の職業構 成に焦点をあてたものはほとんどない5。また、 社会ネットワークが何らかの効果を持つか否か を検証する場合、つながりを持てていることが 重要なのか、それともつながりを持てるような 性格その他の個人の特性が重要なのかがしばし ば問題となる(Mouw 2003)。前者に関心を置 く場合には後者の影響を区別できた方が望まし く、パネル調査データを用いた分析は有効な手 段の一つである。
 JLPSでは2005年と2018年に、「家族・親族」、 「友人・知人」、「直接の知り合いではないが、家 族・親族や友人を通して紹介してもらえる人」(2 ステップの関係)がどのような職業についている かを尋ねている。このような質問形式のことを 「ポジション・ジェネレータ」と呼ぶ。2005年の 調査では15の職業名を挙げ、2018年には7つ 追加して22の職業名をリストしており、対象者 はそれぞれの間柄のなかであてはまる職業を複 数選択する。2時点のあいだで共通して尋ねられ ている15項目についてはパネルデータ分析が可 能であり、社会ネットワークの職業構成と人々 の働き方の関連について、より精確な知見を得 ることができる。

(2)社会ネットワークの職業構成とその変化
 はじめに、対象者の社会ネットワークのなか でどのような人が何の職業に、どの程度の割合 でついているのかを確認しよう。図14はその結 果である。「家族・親族に」で割合の大きな職業 を左から順に並べ、「友人・知人に」と「紹介して もらえる人に」の割合を合わせて掲載している。 なお、以下では「直接の知り合いではないが、家 族・親族や友人を通して紹介してもらえる人」を 端的に「2ステップの関係」と記す。

図 14 各間柄のネットワークを構成する職業の比率(2018年の結果)

 家族・親族では農家が最も多く、民間企業の 事務員・営業員、看護師、地方公務員がそれに 続く。農家の割合の大きさについては、親や祖 父母の世代では農業を営む家族・親族が多いこ とが理由として考えられる。また、上位に位置 する職業は全体として就業者数の多いものが多 く、国勢調査の職業小分類別の就業者分布とも 整合的である6
 家族・親族のネットワークと比べると、友人・ 知人のネットワークにおける職業構成は異なる ようである。就業者数の多い職業が上位に挙が るのは家族・親族と変わらないが、医師や弁護 士、コンピュータプログラマーや新聞記者といっ た専門的・技術的職業や社長、役員、議員など の管理的職業の割合は家族・親族よりも大きく なる。
 2ステップの関係では職業構成がさらに多様 化する。家族・親族や友人・知人は対象者が直 接接触可能なネットワークだが、それが難しい 職業を2ステップのネットワークがカバーしてい るといえるだろう。言い換えると、社会的な影 響力のある職業についている人とつながる場合、 その多くは2ステップの関係であるといえるのか もしれない。
 知り合いの職業に関する質問は2011年調査 でも尋ねられているので、対応する項目のあい だでどの職業の選択割合が拡大あるいは縮小し ているのかを確認することもできる。図15はそ の結果を表したもので、選択割合が増えている 場合は比が1倍よりも大きく、減っている場合は 1倍よりも小さくなる。割合の比をとっているの は図14でみた通り構成割合が職業間で大きく異 なるからであり、そもそも割合の小さな職業で は比率の差も小さいことが容易に想定できるた めである。
図 15 2011年・2018年のあいだでの割合の比(縦軸は対数目盛)

 家族・親族では縮小している職業が多いもの の、全体としての変化は小さいといえる。それ に対し、友人・知人では選択割合が大きくなっ ている職業が多く、そのほとんどは管理的職業 ないし専門的職業である。時間の経過にともな い社会ネットワークの職業構成が高度化してい るという解釈が考えられ、対象者とその友人・ 知人の昇進等による職業的な成熟を反映したも のと思われる。
 一方、2ステップの関係では縮小している職業 が多く、その縮小の程度は大きい。社会ネット ワークのうち対面的な関係に注目した前節の図 12では年齢層が高いほど規模が小さいという結 果があり、図15の縮小傾向については加齢によ る交際範囲の縮小を反映したものであると解釈 できる。また、逆に図15の結果から社会ネット ワークの規模について考察すると、規模の増減 は直接の友人・知人か否かの境界上に位置づけ られるような他者、すなわち社会ネットワーク 論の言葉を借りれば「弱い紐帯」(Granovetter 1973)のなかで生じているといえるだろう。た だし、全体的な縮小のなかで大企業の社長・役 員は1.34倍に拡大しており、社会的に有力な紐 帯の獲得が2ステップの関係のなかで生じてい る可能性が、図14と同様に図15でも確認できる。

(3)専門的・管理的職業についている他者の有無が仕事環境に及ぼす影響
 社会ネットワークの職業構成に関する記述的 な分布についてここまで確認したが、その性質 によって人々の働き方は異なるのだろうか。先 に挙げたような海外の先行研究では、社会ネッ トワークを通じた情報や支援の獲得により好条 件の仕事を得ることにつながるという。その場 面が転職時であるのか否かなど考慮すべき点は あるが、ここでは簡単に職場の環境に着目して みたい。仕事の紹介といった転職時の支援のみ ならず、ふだんの仕事においても有益なつなが りから得られる情報や援助によって、より働き やすい状況が生じると考えることもできる。
 JLPSでは毎年仕事の環境について対象に尋 ねており、ここでは「今後1年間に失業(倒産を 含む)をする可能性がある」(失業リスク)、「自 分の仕事のペースを、自分で決めたり変えたり することができる」と「職場の仕事のやり方を、 自分で決めたり変えたりすることができる」の合 計(仕事の自律性)、「教育訓練を受ける機会があ る」と「仕事を通じて職業能力を高める機会があ る」の合計(訓練機会)、そして「仕事の内容が面 白い」(仕事の楽しさ)の4種類について検討する。 それぞれの事項が自分の仕事によりあてはまる ほど高い値をとるように変数を作成したうえで、 個人間平均モデル(Between Effect Model)、 固定効果モデル(Fixed Effect Model)を用い て分析をおこなった。
 ここで注目するのは、対象者のネットワーク 上に専門的、管理的職業についている他者がい るかである。これらの職業についている人々の 持つ社会的信用、影響力、あるいは有益な情報 が仕事上の有益な資源として機能するならば、 上記の4種類のアウトカムに対してポジティブな 影響を及ぼすと想定できる。ここでは2011年、 2018年の両方で尋ねられている項目を用い、看 護師、コンピュータプログラマー、医師、中学 校・高校教員、新聞記者、弁護士のいずれかを 選択している場合「専門的職業についている他 者」に知り合いがあるとみなし、大企業の社長・ 役員、議員、中小企業の社長のいずれかを選択 している場合「管理的職業についている他者」に 知り合いがいるとみなす。以上の分類方針は、 日本標準職業分類やSSM職業分類に依拠してい る。JLPSのポジション・ジェネレータが専門的、 管理的職業を網羅しているわけではないという 点は分析上の限界の一つだが、資源としての社 会ネットワークの特性をある程度は把握できて いると考え、分析と議論を進める。
 仕事環境に関する分析に先立ち、どのような 人々が専門的、あるいは管理的職業についてい る他者とつながっているのかについて確認してお く。2011年、2018年データの両方を用い、変 量効果ロジットモデルにより属性とつながりの有 無の関連をみたものが表2である。以下、5%水 準で有意な係数であったものを中心に説明する。  個別の属性変数の結果を検討する前に、表 2のロジスティックICCについて触れてお く。ICCとは級内相関係数(Intra - class Correlation Coefficient)の略である。具体 的には、同一対象者について時点間でアウトカ ムの値がどの程度類似しているのかをここでは 示している。専門、管理それぞれについて家族・ 親族と友人・知人のロジスティックICCは0.5 を超えている。他方、2ステップの関係について はいずれも0.4弱である。数値の絶対的な解釈 にあまり意味はないが、家族・親族や友人・知 人と比べて2ステップの関係が調査時点を通じ て相対的に変わりやすいことを意味している。
 対象者の調査時点現職の雇用形態については、 本人が経営者や自営業(家族従業者や内職も含 む)である場合、正規雇用者と比べて専門、管理 的職業についている他者と知り合いとなりやす い。非正規雇用の場合、2ステップの関係にある 専門的職業の他者とはつながりにくい。
 対象者の調査時点現職の職業については、い わゆるブルーカラーもしくはグレーカラーと呼 ばれる、生産現場・技能職、サービス的職業や 農業についている場合、専門的、管理的職業の 他者とはつながりにくいという結果であった。 この点は、社会ネットワークにも一定の職業的 階層性がみられることを示唆しているといえる だろう。従業先規模については、雇用形態や職 業ほど系統だった知見が得られなかった。
 調査時点の家族、世帯状況については、配偶 者がいる場合に家族・親族ネットワーク中に専 門的、管理的職業についている者とつながりや すいという結果を得た。一部内縁関係の対象者 もいるとは思われるが、有配偶者の大多数が結 婚をしている者であることをふまえると、結婚 による親族ネットワークの拡大にともない多様 な関係を持つ蓋然性も高まると解釈できる。子 どもや持ち家、居住地の都市規模については明 確な関連がみられなかった。
 その他、背景変数としての本人学歴と対象者 の15歳時点での父親の職業も、専門的、管理的 職業についている他者とのつながりの持ちやす さと関連している。15歳時父職はSSM総合8分 類(原・盛山 1999: xix)に無業と父不在を加え て操作化している。
 学歴は専門的職業の他者とのつながりと関連 しており、学歴が高ければつながりを持つ可能 性も高くなる。15歳時父職については、専門的 職業の他者については専門、大企業ホワイトカ ラー、自営ホワイトカラー出身者でつながりを 持つ可能性が高く、社会ネットワークという関 係的な資産の世代間継承が生じているといえる だろう。一方、管理的職業の他者とのつながり については、一貫した結果が得られるのは大企 業ホワイトカラー、自営ホワイトカラー、およ び自営ブルーカラー出身者である。大企業ある いは自営セクターにいた父親が蓄積してきたビ ジネス上の社会ネットワークが子に継承されて いるのだと思われる。管理的職業の他者につい ては、専門階層出身者で有意な係数が示されな いのは、本人の調査時点現職と同様に職業的な 階層性が社会ネットワークにあることを意味し ているのだろう。
 それでは、それぞれの間柄で専門的、管理的 職業についている他者とのつながりを有してい ることが、対象者本人の現在の仕事環境と関連 しているのかを検討したい。表3は個人間平均 モデル(BEモデル)、固定効果モデル(FEモデル) の結果を示したものである。BEモデルは先行研 究と同様のクロスセクションデータ分析であり、 F Eモデルは時点間で変わらない個人特性をコン トロールしたパネルデータ分析である。
 BEモデルでは、仕事の自律性、訓練機会、仕 事の楽しさについて、プラスに有意な効果が得 られている。専門、管理や間柄の別による細か な違いは表3を参照されたいが、クロスセクショ ンデータ分析のアプローチをとれば、全体とし て有益なつながりがよりよい条件の環境の実現 と関連しているようにみえる。
表3 仕事環境に関する分析結果失

 しかし、BEモデルでは統制できない時間不変 の個人間の異質性の影響を除いたFEモデルで は、BEモデルで有意な係数はすべて有意ではな い。この結果は、BEモデルでみられた社会ネッ トワークと仕事環境の関連が、有益なつながり と働きやすい環境の双方に影響する共通の観察 されない要因による擬似的な効果であったとい うことを意味している。
 ただし、BEモデルでは有意ではなかったネッ トワーク変数がFEモデルでは有意な係数を示し ており、これらのつながりが資源としてまった く意味をなさないとも言い切れないようである。 専門的職業についている2ステップの他者が存 在している場合、失業リスクが低いという結果 である。また、管理的職業の他者との2ステップ の関係は、訓練機会がより豊富にするという結 果となった。これらの結果は暫定的なものであ るため深入りした解釈は難しいが、いずれの結 果も2ステップの関係に由来する点は興味深い。 失業リスクの低減につながるような就業機会の 情報や紹介、あるいは自身のスキルアップにつ ながるような情報や機会をもたらしてくれるの が2ステップの関係であるとするならば、日本社 会ではあてはまらないとされてきた「弱い紐帯の 強さ」(Granovetter 1973)が今回のパネルデー タ分析では観察されたということになる7

(4)小括
 社会ネットワークをその規模ではなく構成の 面からとらえることで、どのようなつながりが 人々の社会的、経済的な生活のなかで有益なの かを調べることができる。言い換えれば、現代 の日本社会においても「コネ」のような関係によ る格差が存在するのかを検証できる。本節はそ のような関心にもとづき、2時点のパネルデータ を用いて専門的、管理的職業についている他者 とのつながりが人々の働き方とどのように関連 するのかを検討してきた。
 社会ネットワークの職業構成は間柄によって 異なり、希少性の高い職業ほど非親族ないし間 接的な関係によって構成されるようになる。ま た、専門的、管理的職業の他者に絞り込んで分 析をすると、対象者本人や出身背景によるネッ トワークの階層性がみられた。
 一方、これらの職業についている他者とのつ ながりによる働き方への影響は、全体としては みられない。一見有利な状況を生み出すように 見える「コネ」の効用は、観察されない別種の個 人間の異質性によってもたらされている可能性 が高い。そのような異質性が何であるのかを探 ることは今後の課題の一つになりうる。一方、 個人間の異質性を統制すると2ステップの関係 が失業リスクを低減させ、訓練機会を広げる兆 しもみられた。ただし、この結果をもって、家族・ 親や親しい友人を中心とする「強い紐帯」から、 パーソナル・ネットワークの周縁部分をなす「弱 い紐帯」へとネットワーク資源の重心が移ったと 論じるにはまだ早すぎる。さまざまなアウトカ ムや分析方法の試行錯誤を通じて、より正確な 議論をしなければならない。いずれにせよ、社 会ネットワークの質という面から人々のキャリ アやライフコースについて検討する余地が大き いことを、本節ではある程度示せたのではない かと思われる。

42017年の雇用動向調査(厚生労働省)では、全体で21.3%の入職者が「縁故」によるものと回答しており、「広告」の33.5%に次ぐ規模である。
5たとえば安田(1998)などは数少ない例の一つである。
6平成27年国勢調査の抽出詳細集計から確認できる。
7入職経路に注目した研究ではあるが、転職者を対象とした分析でも弱い紐帯が戦略的資源となりつつある可能性を指摘するものがある(渡辺 2008)。

参考文献
○Bian, Yanjie, 2019, Guanxi: How China Works , Cambridge: Polity Press.
○Granovetter, Mark S., 1973, “The Strength of Weak Ties,” American Journal of Sociology, 78(6):1360.80.
○石田光規, 2009, 「転職におけるネットワーク の効果――地位達成とセーフティネット」『社 会学評論』60(2):279.96.
○原純輔・盛山和夫, 1999,『社会階層――豊か さの中の不平等』東京大学出版会.
○McDonald, Steve, Nan Lin, and Dan Ao, 2009, “Networks of Opportunity: Gender, Race, and Job Leads,” Social Problems , 56(3):385.402.
○Moerbeek, Hester and Henk Flap, 2008, “Social Resources and Their Effect on Occupational Attainment through the Life Course,” Nan Lin and Bonnie H. Erickson (Eds), Social Capital: An International Research Program , Oxford: Oxford University Press, 133-56.
○Mouw, Ted, 2003, “Social Capital and Finding a Job: Do Contacts Matter?” American Sociological Review , 68(6):868.98.
○渡辺深, 2008, 「転職者のジョブ・マッチング 過程」渡辺深編『新しい経済社会学――日本 の経済現象の社会学的分析』上智大学出版, 154-184.
○安田雪, 1998,「 職業アスピレーション――教 育かネットワークか」岩本健良編『1995 年 SSM 調査シリーズ9 教育機会の構造』1995 年SSM 調査研究会, 95-123.

(石田 賢示)


6 .まとめ
 本稿は、「働き方とライフスタイルの変化に関 する全国調査」を素材として、(1)世代間の暮ら しむきの変化、(2)介護が就業と健康に与える影 響、 (3)社会ネットワーク規模の変化、という3 つのトピックについての基礎的な分析を行った。 2007年から開始した本調査は2018年で12回を 迎え、比較的長期に調査データが蓄積されてき たと言える。これにより毎回は質問されていな いが不定期に繰り返された質問(例えば本稿で 扱った社会的ネットワークの質問)が存在し、そ れらを用いて個人の変化を追えることが可能と なった。個人間の違いだけでなく、個人内の変 動を補足できることがパネル調査の強みであり、 不定期であっても同じ質問項目を繰り返すこと のメリットは大きい。今後もこのメリットを最 大限に生かした調査を設計し、若年・壮年者の 変化の動態を跡付けていきたい。

(石田 浩)